業務効率化や住民サービスの向上などを目指し、各地の自治体が生成AIの導入を進めている。積極的な運用により、複数業務で大幅な工数削減を実現する自治体がある一方、“導入に向けた検討が進んでおらず課題が不明”など、どこか他人事のように感じる理由によって、生成AI導入に踏み切れない自治体も少なくないことが総務省のアンケートにて明らかとなった。
そうした中で、令和5年12月から生成AIを本格導入した滋賀県は、職員の多くが“自分事”として、AI活用に向き合う機運の醸成を進めている。一連の取り組みについて、山形さんと中森さんの話を聞いた。
※掲載情報は公開日時点のものです
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滋賀県 総合企画部 DX推進課
課長補佐兼係長 山形 和幸(やまがた かずゆき)さん
主査 中森 大和(なかもり ひろかず)さん
生成AIへの関心度の高さから、わずか2日で試用上限に達する。
総務省が令和6年7月に公表したアンケート集計によると、令和5年度までにAIを導入した団体は、都道府県および指定都市で100%に達したものの、そのほかの市区町村では約50%であることが分かった。
未導入自治体のうち約72%が、「実証中、導入予定、導入検討中」と回答しているが、「導入予定もなく検討もしていない」「検討や実証実験を実施したものの導入には至っていない」など、AI利活用に関して関心が薄い回答が約27%(479団体)を占めていた。
自治体職員数が減少を続ける中で、AI導入をはじめとするDX推進は、行政サービスの質的低下を防ぐ上で非常に有効な手段と考えられている。それでも、情報管理や著作権リスクに関する不安感、AI技術を理解する難しさなどから、二の足を踏む自治体が少なくないことも事実だ。
「本県の場合もAI導入前までは、何の業務でどの程度の効果が得られるのか見通しが立てにくく、その分、予算も取りにくい状況でした」と、中森さん。「とはいえ、2040年までには行政職員が半減すると予測される中で、行政サービスを維持するには、AI活用は必須の課題。そこで、総務省調査をはじめ様々な情報をもとに、各自治体におけるAI導入の実情を調査し、“導入できない理由”を解消するための検討を開始しました」。
まず、日常業務でのAI活用環境を整備するため、令和5年度にワークショップを実施。「これは、以前からの反省を踏まえたものでもあります。活用法を考える前にデジタルツールを入れてしまうと、業務が忙しいこともあって、なかなかツール活用にたり至らなかったのです。そこで、自分たちの困り事を持ち寄るよう複数原課の業務担当者に声をかけ、デジタルツールだけに限らない業務課題の解決策を模索しました」。
この取り組みの結果、「メールマガジン作成」「不登校リスクが高い児童の予測」「税の差し押さえ(財産回収の見込み予測)」など、AIを使った複数のアイデアが出された。同年8月からは、生成AIツールの試行利用を開始。9月末までの2カ月間、企画案の立案やアイデア出し、説明文・挨拶文などの草案作成、Excel関数やVBAの作成など、様々な業務に活用してみた。
その後、同ツールを利用した職員620人を対象にアンケートを実施。1人当たり年間33時間の業務時間短縮が可能で、「新しいアイデアや観点を得ることができた」との回答も119件あったことから、AI導入の有用性を確認できたという。
有効回答のうち計216件が「1回利用しただけ」「1回も利用していない」だったため、一部の地元メディアが「利用は低調」と報じたが、「職員の注目度が高かったため、トライアルで使える文字数を2日間で消費してしまいました。これはDX推進課としても想定外で、利用が低調だったのではなく、上限に達したので使えなかったというのが実態です」。
実際、「利用したくない、分からない」と回答した職員の多くは、その理由として「利用制限がすぐにかかり、十分な活用ができなかった。制限を気にすることがなくなれば、もっと業務に活用したい」と記述していたことから、同年12月、同ツールを本格導入。令和6年1月から、前年のワークショップで出されたアイデアの具体的な検証を開始した。
※総務省 情報流通行政局地域通信振興課 自治行政局行政経営支援室「自治体におけるAI・RPA活用促進」より
生成AIを業務実装するための共同実証を開始。
同県が導入したのは、文章作成などを得意とするタイプの生成AI。そのため、「ワークショップで出されたアイデアのうち、メルマガの定期発行やイベント告知などに関しては、大幅に効率化できると予想していました」と、山形さん。
一方、不登校リスクや税金滞納者から回収できる財産の見込み予測などの場合、自治体独自のデータをAIに機械学習させる必要がある。「そこで、AI技術全般の検証環境を提供できる会社を、プロポーザル方式で募集。『エッジテクノロジー』の提案を採用し、AIを業務活用するための共同実証を1月から開始しました」。
同社は、AIソリューションサービスの提供などを行うITサービス企業であり、「アマゾン ウェブ サービス (AWS)」のビジネスパートナーでもある。「実証を通じ、ノーコードで機械学習モデルを作成できる、AWSの「Amazon SageMaker」が有効であることが確認できたので、導入を決めました」。
同様に、チャットボットには、庁内のデータや情報にもとづいて、質問への回答・要約・コンテンツの生成ができる「Amazon Q」、アプリケーション開発には、複数の生成AIモデルを利用できる「Amazon Bedrock」と、用途に応じて最適と思われるAWSのサービスを選択した。
「AWSのサービスを選ぶ決め手となったのは、まず、サービス自体が進化するマネージドサービスであった点、特に生成AIのサービスはアップデートが早く、数カ月前にできなかったことがあっという間にできるようになっていたりします」、「最新の機能を利用し、業務課題を解決できるか素早く検証するには、AWSのようなクラウドサービスの利用が欠かせませんでした」。「また、具体的にどの業務でどの程度使うのかが不明だったので、従量課金制である点も利用しやすさにつながりました」。
●ノーコード機械学習「Amazon SageMaker」
●AIチャットボット「Amazon Q」
●生成AIサービス「Amazon Bedrock」
その後、令和6年8月に2度目のワークショップを実施したが、その時点では職員自らがAI導入テーマを検討し、“より使いやすくしよう”という動きになっていた。「課内で受信した大量のメールを、担当者ごとに振り分ける作業を自動化できないか」など、日常業務に即したアイデアが複数出されたという。
より正確な情報や回答を得るために。
共同実証の開始段階からDX推進課が目指していたのは、職員だけでAIを業務実装できる状態。「“自分事”としてAI活用に取り組む姿勢を、全庁的に広げることを目標にしました」。実証開始後も、職員とエッジテクノロジーとがスムーズにコミュニケーションを図れるよう、同課が橋渡しとしての役割を果たした。
AIに自治体独自のデータを読み込ませ、意図した通りの回答を得るためには、“欠損値処理”や“ダミー数変への変換”などの加工を行う必要がある。「実証開始当初、データの前処理は当課が担当しましたが、AWSのサービスは処理の手間が少なかったので面倒に感じたことはありません。本番運用後は現場職員に任せたいと考えているので、そのための仕組みを提供しようと考えています」。
現在、令和5年度分アイデアについては検証が完了し、6年度分アイデアの検証を進めている最中だという。その中で、例えば前述のメルマガに関しては、フォーマットにデータを落とし込むことでAIによる文章作成が可能だが、入力データに誤りがないかどうかを確認するのは職員が行った方が確実……など、活用にあたってのポイントが明確になってきた。
導入効果についても、面倒な文章作成をAIに任せることで、年間20時間ほどの時間短縮が可能と予測している。
「昨年度分の検証を通じて、色々なノウハウを蓄積できました。令和6年8月のワークショップでは、それらノウハウをもとに面白いテーマが複数出されました」。検証中のアイデアに関しても、メールの自動振り分けは、誰がどのような業務を担当しているかをAIに学習させた上でメールのタイトルを読み込ませ、RPAで転送操作を行うという、おおよその筋道が見えてきたという。
マインドセット研修で“自分事”の意識を高める。
生成AI導入済みの自治体の多くが、会議用文書や契約書のドラフト(草案)づくりにAIを活用し、効率化を図っている。
滋賀県も、業務関連メールなどの文章ドラフトを自動作成するための検証を実施。メールタイトルやキャッチコピーの精度、必要項目の有無、文字数制限などの生成AIモデル間検証を行った。また、生成AIと検索とを組み合わせるRAG(検索拡張生成)の手法で庁内データを読み込ませ、AIの回答精度を上げるための検証も行っているという。
共同実証開始からわずか数カ月で、これだけ中身の濃い検証が実施できたのは、同県が3年前から取り組んできたDX人材育成が“下地”になっている。「DX全般を自分事として考えられるよう、幹部職員を含む全職員を対象に、階層別のマインドセット研修を実施してきました」。
まずは自身の業務における、小さな困り事から解決するという研修のあり方が、AI導入に向けた共同実証にも活かされているのは間違いないだろう。
▲ DX人材育成研修の様子
階層ごとの研修を継続的に実施していることで、トップダウンとボトムアップの両方向から積極的な意見が出されるのも、同県の特徴といえる。
研修実施時には外部講師を招いているが、「丸投げするのではなく、この階層の職員にはこういう内容を、今回の研修ではこの資料を、といった具合に、極めて具体的に要望を出すようにしています」、「特に管理職に対しては、下からの意見や要望にしっかり耳を傾けた上で方向性をしっかり決め、意見を出した職員の心理的安全性を確保するような研修をお願いしています」。
ワークショップは今後も継続実施する予定で、さらにAI活用マインドを庁内全体に横展開するため、問い合わせ業務など各課に共通する課題にも取り組んでいく予定だという。
「例えば、給与の手当や旅費など、職員が申請する手間を省けるようなAI活用法をテーマとして取り上げる予定です。先進事例をつくって“これは便利だ”と感じる職員を増やせば、全庁的にAI活用が広がっていくのではないでしょうか」。
ただし、現場職員だけでAIを使いこなせるようにするには、課題も残っている。「生成AIを学習させるためには、データクレンジングが非常に重要です。AI活用の範囲を広げていくためには、使いこなすための知識の周知から始めなければいけません。外部サービスを利用するわけですから、情報漏えいを不安視している職員もいます。AI活用ガイドラインの整備も、今後の重要テーマといえます」。
いずれにせよ、AI活用を“自分事化”するためには、同県が行っているような“下地づくり”が重要なのは間違いないだろう。そうした地道な下地づくりが、やがて職員の働きがいにつながり、それが県民サービスの向上につながるのだと、山形さんと中森さんは強調する。
AWSのサービスが選ばれるポイント
導入から運用、システムアップデートと必要に応じたコンサルティングまでを一貫して任せられる。また、提供するサービスの種類も豊富なので、業務上のニーズに合わせて組み合わせが可能であることが強み。
滋賀県における生成AI活用のススメ
⑴ “自分事化”のための下地づくりが重要
3年前から開始した全職員向けDX人材育成事業で、階層ごとのマインドセット研修を実施。小さなことから始める習慣を身につけてもらった。
⑵ ワークショップで自発的なアイデアを募る
ワークショップでは、自身の業務における困り事を持ち寄って解決法を模索する。自分事だけに、現実的なアイデアが多数出てくる。
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