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行政DXのメリットと課題とは?“2025年の崖”を乗り越えて自治体業務の効率化を目指そう

デジタルトランスフォーメーション(DX)は様々な分野で進められているが、行政分野でのDXはまだ発展途上である。

行政DXは、住民にとって便利なサービスを提供し、役所の業務を効率化するための取り組みだが、「2025年の崖」と呼ばれる大きな課題が目前に迫っている。

この記事では、行政DXの課題や各自治体の取り組み事例を紹介する。自治体が「2025年の崖」を乗り越え、持続可能な行政運営をどのように実現していけばいいのかを背景や現状を確認しながら考えよう。

【目次】
 • 行政DXをめぐる政府の動き

 • 行政DXの具体的な取り組みとは
 • 行政DXで実現できるメリットは?
 • 行政DXの課題を確認しよう
 • 行政DXの導入事例を見てみよう
 • 住民にも自治体にもメリットがある行政DXを一歩ずつ進めていこう

※掲載情報は公開日時点のものです。

行政DXをめぐる政府の動き

政府は行政DXを推進するため、様々な政策と組織改革を進めてきた。順を追って見ていこう。

平成30年 経済産業省が「DXレポート」発表

平成30年、経済産業省は「DXレポート 」を発表し(※1)、令和7年までに基幹システムの更新が遅れることで「2025年の崖」と呼ばれる問題が生じると指摘した。

この問題の背景には、企業のシステムが事業部門ごとに独立して構築されているために、全社的なデータ活用が進まないことや、システムが過度にカスタマイズされて複雑化していることが挙げられる。

さらに、システムのブラックボックス化により、対応の遅れが発生しやすい状況も見受けられる。

DX改革が進まない場合、最大12兆円/年の経済損失が予測されている。このような状況を踏まえ、政府は急速にDX推進に向けた方針を打ち出す必要に迫られている。

※1出典 経済産業省「DXレポート」

令和2年「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」 決定

令和2年7月に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」は、デジタル技術を活用し、全ての人が豊かな生活を享受できる社会を目指すものである。

その核心には「誰一人取り残さない社会の実現」が掲げられており、行政手続きのオンライン化やデータ連携により、住民サービスの利便性向上や業務の効率化が進められている。この基本方針は、行政DX推進の基盤となり、自治体にデジタル化の重要性が強く求められるようになった。

令和3年 デジタル庁発足

令和3年9月1日、デジタル庁が発足した。デジタル庁は、行政機関や地方自治体のデジタル化を一元的に推進する役割を担っている。
また、地方の活性化を目指す「デジタル田園都市国家構想」 も進められており、特に地方自治体におけるデジタル技術の活用が急務となっている。

デジタル田園都市国家構想の取り組みイメージ全体像

デジタル田園都市国家構想の取り組みイメージ全体像

画像出典:「デジタル田園都市国家構想」(デジタル庁)(https://www.digital.go.jp/policies/digital_garden_city_nation

令和6年6月「デジタル社会の実現に向けた重点計画 」が閣議決定

この計画は、行政サービスのデジタル化を大きなテーマとし、市区町村の役割が特に重要視されている。具体的には、行政手続きのオンライン化や自治体の情報システムの標準化・共通化を進め、どの自治体でも同様のサービスが提供できることを目指している。また、デジタル技術を活用した地域の活性化や新たな価値創出も重視されており、自治体がDXを進めるための指針となっている。

行政DXの具体的な取り組みとは

行政DXの目的は、業務の効率化と住民サービスの向上にある。そのためには、デジタル技術を活用し、データ連携や業務全体の見直しを進めることが求められる。以下に、具体的な取り組みを紹介する。

自治体フロントヤード改革の推進

自治体フロントヤード改革の推進

フロントヤード改革とは、住民が利用する窓口業務を効率化する取り組みである。
これまで住民は役所に足を運び書類を記入・提出していたが、オンライン手続きの導入により、これが不要となり、複数の窓口をまわる手間も軽減されている。

自治体の情報システムの標準化・共通化

各自治体は、住民記録システムなどの情報システムを独自にカスタマイズしてきたため、制度改正やシステム改修の際に個別対応が必要となるケースが多かった。これを解消するために、情報システムの標準化・共通化が進められている。

標準化により、自治体間でのデータ共有や連携が容易になり、引っ越し時の住所変更などもスムーズに処理できるようになる。また、運用コストの削減や災害時のリアルタイムなデータ連携も可能になる。

公金収納におけるeLTAXの活用 

eLTAX(地方税共通納税システム)は、税金や公共料金をインターネットで納付できるシステムで、住民は自宅や職場から地方税の申告・納付が可能となり、窓口に行く必要がなくなった。

このシステムは自治体にもメリットが大きく、納税情報がリアルタイムで集約されるため、税収管理が効率化し、入金確認の時間短縮や事務作業の軽減が期待されている。

マイナンバーカードの普及促進・利用の推進 

マイナンバーカードは「デジタル社会のパスポート」として位置づけられている。マイナンバーカードによって、住民は確定申告の電子申請や健康保険証の利用、各種証明書の取得など、様々な行政サービスをオンラインで受けられるようになり、役所に行かずに手続きが完了する。

マイナンバーカードの普及は、行政にとっても業務効率化やコスト削減に貢献する。紙の書類が不要になり、デジタル化によって業務の迅速化やエラーの減少が期待され、住民データの一元管理により手続きの重複が解消される。

セキュリティ対策の徹底

セキュリティ対策の徹底

行政DXの進展に伴い、サイバー攻撃や個人情報の漏洩リスクが高まっており、自治体にとってセキュリティ対策は急務となっている。

政府は「行政機関情報セキュリティポリシーガイドライン 」を策定し、自治体にも厳格なセキュリティ対策を求めている。具体的には、多層防御や侵入検知システムの導入、職員のセキュリティ教育強化が進められている。また、サイバー攻撃への迅速な対応や被害の最小化を図る体制づくりも重要なポイントである。

自治体のAI・RPAの利用推進

各自治体では、住民からの問い合わせ対応や会議録の自動作成、多言語翻訳など、様々な場面でAIやRPAが活用されるようになった。
例えば、チャットボットが24時間対応し、職員の負担を軽減しているほか、音声認識技術により議事録の自動作成が可能になり、業務効率が向上している。また、多言語翻訳ツールを活用すれば外国人住民とのコミュニケーションも容易になる。

AIやRPAの活用が進めば、職員はルーティン業務から解放され、より重要な政策立案や住民サービスの向上に集中できる。

テレワークの推進

テレワークの推進

新型コロナウイルスの感染拡大により、自治体でもテレワークの導入が急速に進められた。LGWAN(総合行政ネットワーク)に対応したソフトウェアツールを導入することで、自宅でも安全に業務ができる体制が整いつつある。これにより、出勤せずにオンラインで会議や資料作成、住民対応が可能となっている自治体もある。

テレワークの導入は、職員の働き方改革にもつながり、ワークライフバランスの向上や業務効率化が期待されている。今後、地方自治体がさらにテレワークを推進し、柔軟な働き方を実現することが課題である。

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行政DXで実現できるメリットは?

行政DXは、住民サービスの向上と業務の効率化を実現し、自治体と住民双方に多くのメリットをもたらす。以下にその代表的なメリットを紹介する。

住民の利便性向上

住民の利便性向上

行政手続きのオンライン化により、住民は自宅や勤務先から24時間いつでも手続きを行うことができ、役所に出向く必要がなくなる。住民票や戸籍謄本の発行、各種申請もオンラインで完了できるため、行政側にも窓口での業務削減などのメリットが大きい。

行政サービスの業務効率化

紙媒体で保管されていた個人情報をデータ化し、一元管理することで、手続きがスムーズになる。それだけでなく、紙の書類や管理の手作業を減らすことができ、業務効率が向上する。申請書類の紛失リスクも軽減されるだろう。

データ活用による新たな価値の創出

行政が蓄積するデータを活用することで、これまでにはなかったサービスの提供が期待されている。例えば、住民ニーズに応じた個別サービスや、災害時の迅速な支援などだ。

オープンデータの活用も、地域の経済成長に貢献する可能性がある。交通データや医療データを活用したスマートシティの構築や、観光業振興に役立つ施策の提案などが挙げられる。こうしたデータ活用は、行政サービスのさらなる向上に寄与するだけでなく、地域経済の発展にも大きな影響を与えるだろう。

行政DXの課題を確認しよう

行政DXの推進には多くのメリットがある一方で、現実には様々な課題が存在する。特に小規模な自治体では、リソースや体制の不足が問題となっている。ここでは、行政DXが直面している主な課題について見ていこう。

DX人材(デジタル人材)や予算が不足している

DX人材(デジタル人材)や予算が不足している

行政DXの推進において、デジタル人材の不足が最も大きな課題の一つである。ITスキルを持つ専門人材が不足し、既存職員にその役割を担わせている自治体が多い。小規模自治体では人材を確保する予算も限られており、DXの進展が遅れる傾向がある。また、予算不足により、新たなシステム導入や運用に必要なコストを確保できず、進捗が滞るケースも多い。

既存の業務で手一杯

日常業務に追われている自治体では、DX推進に向けた時間やリソースを確保するのが難しい。特に小規模自治体では、職員の業務負担が大きく、DXの導入が新たな負担となることもある。業務プロセスの見直しが必要だが、そのためのリソースをどのように確保するかが課題となっている。

紙を使う文化が根強く残っている

紙を使う文化が根強く残っている

日本の行政には依然として「紙文化」が根強く残っており、申請書類は紙での提出が基本となっている。電子データよりも紙の方が安心できるという意識が強く、これがデジタル化への移行を妨げる要因となっている。そのため、自治体内での意識改革が求められている。

デジタル活用に関する世代間の格差が大きい

自治体職員や住民の間では、デジタル技術に対する世代間の格差が顕著である。特に高齢者層はデジタルツールの利用に抵抗を抱きやすく、オンライン手続きを避ける傾向が見られる。その結果、若年層に比べて利用率が低く、DX推進の課題の一つとなっている。

デジタルデバイド対策の必要性

DXが進むことで、デジタルデバイド(情報格差)も社会問題化している。特に高齢者や一部の障害者など、デジタル技術の利用が難しい住民にとって、行政サービスのデジタル化が進むことで逆にサービスを受けにくくなるリスクがある。自治体は、デジタルサポートセンターや講習会の開催など、支援体制を強化して、全ての住民が行政DXの恩恵を受けられるようにする必要がある。

行政DXの導入事例を見てみよう

行政DXは、すでに全国各地の自治体で進められている。ここでは、住民サービスの向上や業務効率化を実現した具体的な事例を紹介する。

【北海道北見市】業務の効率化による書かない窓口、ワンストップ窓口の実現

北海道北見市では窓口業務の効率化を進め、「書かないワンストップ窓口」を実現した。

これまで手書きで記入し、窓口に提出していた申請書類をデジタル化し、職員の聞き取りだけで、システムから書類が自動で印刷される仕組みだ。

住民は内容を確認して署名するだけで済む。

例えば引っ越し時には、住所変更や子どもの転校手続きなどのために複数の窓口をまわる必要があったが、ワンストップ窓口により1カ所で手続きが完了する。

住民の利便性が向上し、職員の負担も軽減されている。

【宮崎県都城市】LINEでの問い合わせ対応

【宮崎県都城市】LINEでの問い合わせ対応

宮崎県都城市では、LINEを活用した住民からの問い合わせ対応を進めている。公式LINEに登録すると、リッチメニューからイベント情報や防災情報、ごみの出し方などを簡単に確認できる。

また、これまで電話で対応していた移住相談も、LINEチャットでの受け付けを開始した。電話対応では、不在時や折り返しが必要な場面が多く不便だったが、LINEチャットを使うことで、スムーズなコミュニケーションが可能になった。

その結果、移住希望者が気軽に問い合わせでき、移住検討度の向上に寄与しているという。

【東京都板橋区】粗大ごみ収集の申込手続きをオンライン化 

東京都板橋区では、粗大ごみ収集の申込手続きをオンライン化している。住民はチャットボットを通じて料金や収集日、分別方法などを確認でき、インターネット上で申し込みを完了させることが可能になった。

これにより、粗大ごみに関する問い合わせが大幅に減少し、職員の業務負担も軽減されている。

住民にも自治体にもメリットがある行政DXを一歩ずつ進めていこう

行政DXは、住民サービスの向上や行政の効率化を目指す重要な取り組みだ。

行政DXの推進により、住民の利便性向上や業務負担の軽減といったメリットが期待できる一方で、デジタルデバイドや紙文化の残存といった課題も多い。

これらの課題には、段階的な対策が求められる。本記事で紹介した自治体の先進事例を参考にしながら、具体的な対策を立てて、行政DXを一歩ずつ推進していこう。

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