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地域包括ケアシステムとは?高齢者が住まいで過ごせるような地域の連携方法、背景を解説

地域包括ケアシステムとは、医療や介護が必要な高齢者が可能な限り住み慣れた地域で暮らせるよう、病院や介護サービス事業者などが協力してサポートする地域のシステムのことだ。

高齢化の状況や高齢者をサポートする社会資源の状況は各地で違うため、その地域の実情に応じた取り組みを進めることが重要になる。

地域包括ケアシステムの主体となる市町村もこのシステムについて正しく理解し、よりよい運営を目指したい。本記事では地域包括システムの概要や、このシステムが求められる背景のほか、実際の取り組みや事例について詳しく解説する。

【目次】
 • 地域包括ケアシステムっていったい何?

 • 地域包括ケアシステムが求められる背景とは
 • 地域包括ケアシステムの実際の取り組みとは
 • 地域包括ケアシステム実現に向けた取り組み事例
 • 増加する日本の高齢者が自分らしく過ごせるシステムを構築しよう

※掲載情報は公開日時点のものです。

地域包括ケアシステムっていったい何?

地域包括ケアシステムは高齢により病気になったり介護が必要になったりした場合も、可能な限りそれまで生活してきた場所で暮らし続けるためのシステムだ。

市町村は地域包括ケアシステムの主体として、生活圏内の限られた地域の中において高齢者が自立して生活できるよう、サポートする役割を担う。

地域包括ケアシステムっていったい何?

地域包括ケアシステムの柱は医療、介護、予防、生活支援、住まいの5つで、これらを包括的に確保することが市町村に求められている。こうした社会資源の充実度や高齢化の状況は地域によって差があるため、地域の実情に応じて取り組みを進めることが重要だ。

目指しているのはこんな地域

地域包括ケアシステムが目指す地域とはどのようなものだろうか。具体的に見ていこう。

自宅で訪問診療などが受けられる

病院を退院した後も訪問診療、訪問看護、リハビリなどを、医師や看護師から引き続き自宅で受けることができる。

自宅で訪問診療などが受けられる

デイサービスなどに加え、日常生活に必要なサービスも受けられる

デイサービスなど介護保険によるサービスに加えて、配食、見守り、買い物支援といった日常生活に必要な支援を受けることができる。

デイサービスなどに加え、日常生活に必要なサービスも受けられる

地域の体操や趣味の場所に通うことができる

地域の体操教室や趣味の集いを行う場に通うことができ、高齢になっても人との交流や生きがいを持ちながら暮らすことができる。

生活に必要なサービスが切れ目なく提供される

生活に必要なサービスが状況に応じてコーディネートされ、切れ目なく提供される。

おおむね30分以内に上の4つのサービスが受けられる

中学校の校区を基本としたエリアごとに上記の4つのサービスが整備され、おおむね30分以内の移動区域内でサービスを受けることができる。

始まりは広島県の病院の「寝たきりゼロ」プロジェクト

地域包括ケアシステムの原点となったのは、広島県尾道市の公立みつぎ総合病院(旧・御調国民健康保険病院)が始めた「寝たきりゼロ作戦」である。

昭和41年、同院に着任した外科医の山口医師は、手術後に退院した患者が半年から1年後に要介護状態になって再入院するケースが後を絶たない問題を解決しようと、昭和49年から患者の自宅に出向く「出前医療」を開始した。

始まりは広島県の病院の「寝たきりゼロ」プロジェクト

その後、当時はバラバラに行われていた病院からの「出前医療」と、役場からの保健師訪問を一体化して病院がどちらも行う体制を築き、寝たきり老人を3分の1に減少させた。

医療と保健福祉を連携させたこの取り組みが全国に広がり、現在の地域包括ケアシステムが生まれた。 

地域包括ケアシステムが求められる背景とは

なぜ地域包括ケアシステムが必要とされているのだろうか。背景について見ていこう。 

働き手の減少+ケアを必要とする人の増加

日本の人口は減少局面にあり、政府の推計では2070年には総人口が9,000万人を割り込み、高齢化率は39%の水準に達すると見込まれている(※1)。

人口減少と高齢化が同時に進むことで、これまで介護やケアを担ってきた介護従事者や要介護者の家族が高齢化する上に、若い世代の介護従事者の減少も避けられない課題となる。

こうした状況を乗り切るために、できる限り高齢者に元気で居続けてもらうことと、元気な高齢者がケアが必要な高齢者を支える仕組みを整備する必要があった。

※1出典 厚生労働省「我が国の人口について」

高齢者のみの世帯が増加している

高齢者のみの世帯が増加している

高齢者のみで暮らす世帯は、今後増えていくと見込まれている。

内閣府が発表した「令和5年版高齢社会白書」によると、令和3年時点で全世帯のうち49.7%が65歳以上の高齢者がいる世帯で、そのうち夫婦のみの世帯と単独世帯がそれぞれ約3割を占めている(※2)。 日常生活を支える若い世代の家族と暮らす人が昔と比べて減ったため、それを補うために行政が主導して生活支援や介護サービスを受けられる仕組みを整備する必要があった。

※2出典 内閣府「令和5年版高齢社会白書」第1章 高齢化の状況

自宅での介護を希望する人が増えている

病院や介護施設ではなく、自宅で介護を受けたいと希望する人が増えている。「平成30年度版高齢者白書」では、自分の介護が必要になった場合にどこでどのような介護を受けたいか、全国の40歳以上の男女を対象にアンケート調査を行っている。その結果、73.5%の人が自宅で介護を受けたいと回答している(※3)。 

※3出典 内閣府「平成30年版高齢社会白書」第1章 高齢化の状況

社会保障を持続可能なものとするために

日本の社会保障給付費は年々増加を続けており、令和6年度の予算ベースでは137.8兆円となっている。

今後も高齢化が進むにつれて社会保障給付費は増加を続けると見込まれ、若い世代の負担も増えていく。一方で、高齢者を支える若い世代の働き手は減る一方だ。また、病院に入院する人を収容するための病床数も、増え続ける高齢者全員分を確保することは現実的に難しい。

日本の社会保障を持続可能なものとするためにも、寝たきりになる人を可能な限り減らし、在宅で療養生活を送る人たちを支援する仕組みづくりが必要だ。

地域包括ケアシステムの実際の取り組みとは

地域包括ケアシステムによって何が行われているのだろうか。実際の取り組みを見ていこう。

ヘルパーやボランティアによる「生活支援」

ヘルパーやボランティアによる「生活支援」

高齢になると身体の介護を必要としない人でも、家事を行うことが難しくなっていく。掃除や洗濯、調理、買い物、草むしりなどといった日常生活の支援を「生活支援」と呼び、ヘルパーやボランティアが高齢者の支援を行っている。地域のボランティア活動と連携を図るなど、地域の人材や社会資源を活用していくことが重要だ。

医療と介護の連携

日本人の平均寿命が延び高齢化も進んだことで、がんや生活習慣病など何らかの病気を抱えながら暮らす高齢者が増えている。病気を「治す医療」だけではなく、療養しながら生活する人たちを対象にした「治し、支える医療」を推進することも地域包括ケアシステムの重要な役割だ。

在宅医療の体制整備

病院ではなく住み慣れた場所で最期まで過ごすために、在宅医療が推進されている。在宅医療では医師が介護施設や自宅を訪問し、診察や処置を受けることができ、場合によっては看取りまでを自宅で行う。こうした在宅医療に取り組む医師を増やす取り組みが行われている。

在宅医療・介護連携の推進

在宅医療・介護連携の推進

自宅で療養生活を送る上で、在宅医療と介護サービスの連携が欠かせない。医師、歯科医師、薬剤師、看護師、リハビリ職、ヘルパーなど、医療や介護に関わる多職種が協働して、高齢者を支える体制づくりも行われている。

「通いの場」による社会参加増で介護を予防

筋力低下による身体の機能の衰えや、高齢者の孤立を防ぐことで介護予防につなげるための取り組みも行われている。体操教室やカルチャースクール、サロンなど住民が運営する「通いの場」を充実させ定期的に通ってもらうことで、高齢になっても人との交流を広げてもらおうというものだ。

 

「通いの場」による社会参加増で介護を予防

 

認知症サポーターや環境づくりによる認知症対策

認知症の患者数は年々増加を続け、厚生労働省研究班の調査では令和4年の時点で全国に443万人の患者がいるといわれている。認知症患者は今後も増える見通しで、2030年には推計523万人にのぼるとみられる。 

認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)とは

認知症になっても自分らしく暮らしてもらうため、厚生労働省が平成12年に公表したのが「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」だ。認知症についての啓発活動や、適切な医療・介護の提供、認知症の人を介護する人への支援など、高齢で認知症になってもより良く暮らせる環境づくりが推進されている。 

認知症サポーターとは

認知症に関する正しい知識と理解を持ち、地域や職場で認知症の方の手助けをできる範囲でする人として、「認知症サポーター講座」を受講した人を「認知症サポーター」に認定している。講座の実施主体は都道府県、市町村、職域団体が担い、認知症サポーターの養成を通じて認知症の人たちを支える地域づくりが進められている。

地域包括ケアシステム実現に向けた取り組み事例

地域包括ケアシステム構築に向けた各自治体での実際の取り組み事例を見ていこう。

【新潟県長岡市】小さなエリア内で完結できる一体型サービスを提供

新潟県長岡市では「小地域完結型」で一体的に介護サービスを提供できる地域包括ケアシステムを構築している。

JR長岡駅を中心とするエリアに、13カ所のサポートセンターを設置した。サポートセンターごとに、住まい・医療・介護・予防・生活支援などのサービスを組み合わせて、官民が共同でこれらのサービスを一体的に提供している。 

【鳥取県南部町】高齢者が地域の中で暮らせる住まい・居場所づくり

高齢者が地域の中で暮らせる住まい・居場所づくり

鳥取県南部町では地域住民が主体となり、高齢者が地域の中で暮らせる住まい・居場所づくりの取り組みがスタートした。

自治体はこの取り組みを支援する形で参加し、既存の民家や公的施設を改修して少ない年金で暮らす高齢者のための住宅を確保している。必要に応じて地域住民が見守り、食事の提供などの生活支援を行い、有料の介護サービスや訪問医療はスポット利用をすることで利用者負担を最小限にする仕組みだ。 

【熊本県上天草市】緊急通報システムを設置し介護ヘルパーの育成を開始

熊本県上天草市では、離島のために地理的条件が悪く在宅サービスが進んでいない湯島地区で、在宅生活の基盤づくりに取り組んでいる。湯島では高齢化率が50%と全国平均を大きく上回っているものの、離島のため十分な介護サービスがなく、島内に介護事業所が1つもない状況だった。

緊急通報システムを設置し介護ヘルパーの育成を開始

そこで島内で介護ヘルパーの育成を開始し、介護事業所が開設できるまでの期間は介護予防事業を提供。さらに、島内で暮らす高齢者31世帯に無償で緊急通報システムを設置し、相談窓口やボタンを押すだけで消防につながる仕組みを整えている。 

増加する日本の高齢者が自分らしく過ごせるシステムを構築しよう

地域包括ケアシステムは高齢になっても病気になっても、住み慣れた地域で暮らし続けるための「ご当地システム」だ。高齢化が進む今後の日本で医療や介護、生活支援を必要な人にタイムリーかつスムーズに届けるために、自治体が主体となって推進されている。

地域によって必要とされるサービスや社会資源が違うため、実情に応じたシステムの構築が重要になる。地域包括ケアシステムの意義を理解し、地域に合った適切な運用を目指したい。

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