老朽化による維持管理費を抑える橋梁マネジメント
全国にある橋梁は、その9割以上※を自治体が管理しており、維持管理の問題は重要性を増している。ほかに先駆けてこの問題に取り組む富山市に、橋梁マネジメントの手法について話を聞いた。
※国土交通省道路局「2024年8月 道路メンテナンス年報」より
※下記はジチタイワークスVol.34(2024年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
左から
富山県富山市
建設部 道路構造保全対策課
課長代理 萩澤 勝(はぎさわ まさる)さん
副主幹 大懸 重樹(おおがけ しげき)さん
主査 湯野 和樹(ゆの かずき)さん
適正に管理するため、独自の施策でインフラの老朽化問題に向き合う。
2つの一級河川が流れる同市には約2,300の橋梁があり、同規模の自治体と比較しても膨大な数を管理している。しかし、橋梁数が多いにもかかわらず、日常的な点検と修繕を主とする従来の維持管理にとどまっていたという。「従来は、点検や住民からの通報で老朽化が進行していると判断できれば、その都度、修繕などを実施していました。全ての橋梁で一律の維持管理を行い、優先度や重要度などは特に考慮していなかったのです」と湯野さんは話す。そこから一転して、平成28年3月から「橋梁トリアージ」と呼ばれる独自の手法を導入。持続可能な維持管理を目指しはじめた。
「きっかけは、平成24年に橋梁専門の係を設置したことです。トンネルの崩落事故があり、全国的に道路構造物の安全性が見直されるタイミングとも重なりました。同時期に就任した副市長がこの分野への造詣が深く、当市が管理する膨大な数の橋梁を今後も維持するため、管理体制の見直しが必要だということが明確になったのです」。
これに伴い、橋梁分野の維持管理における実務経験者を専門職員として採用。「富山市橋梁マネジメント基本計画」の策定へと動くことになる。他自治体でも注目されているこの手法は、基本計画に位置付けられた施策の一つだという。
メリハリのある対応を実施することで、一つでも多くの橋梁を未来に残す。
「橋梁トリアージでは、全ての橋梁に管理区分を設定し、その区分に応じた管理水準で措置を行います。管理区分が高い重要な橋梁は、積極的に対策しますが、必要性が低下した橋梁は集約化・撤去を検討します」と萩澤さん。人口減少が進む中、膨大な数のインフラを維持管理するために必要な予算や人員が減少することは明らかだ。さらに高度経済成長期に整備されたものが、一斉に老朽化することが予測され、これまで通り全ての橋梁を一律に管理するのは難しい。
「トリアージは医療用語で、災害で多数の傷病者が発生した際、傷病者の緊急度や重症度に応じて治療優先度を決めるという意味です。橋梁の維持管理を取り巻く状況が危機的であることを理解してもらうため、あえて強い言葉を使いました」と振り返る。優先順位は同市の“コンパクトなまちづくり”という政策をベースに設定。公共交通軸を形成する道路にかかる橋梁であるかなどの“社会的な性質”と、橋梁の健全性や構造の特殊性・維持管理性などの“技術的な性質”を総合的に評価する。根拠にもとづき、全ての橋梁に措置の優先順位を付けているのだという。
同市では、選択と集中によるメリハリのある橋梁マネジメントを実施することで、今後50年間で必要となるコストを約730億円縮減できると見込んでいるそうだ。「管理にメリハリをつけることで、損傷が大きく、重要性の高いものに重点的にリソースを投入できます。このことが橋全体の機能を維持し、将来世代に一つでも多くの重要な橋梁を引き継ぐことにつながるのです」。
▲公共交通軸を形成する重要な橋梁。これらの対策を積極的に行う。
存在して当たり前のインフラを、維持しつづけることの難しさ。
取り組みが評価される一方で、課題も残る。インフラの維持管理においてネックとなる、住民との合意形成だ。
「橋梁トリアージにもとづいた維持管理と聞くと、撤去を推進しているように感じられるかもしれませんが、決してそうではありません。重要な橋梁をできるだけ守るため、やむを得ず撤去になる場合もありますが、現状は健全な橋梁が圧倒的に多いです」と大懸さん。実際に同市がこの手法を取り入れてから約7年間で、撤去した橋は1件、横断歩道橋が2件だという。撤去の判断は思ったより少ない印象を受けるのではないだろうか。社会状況や周辺環境は目まぐるしく変わるため、老朽化の状況も踏まえて5年に1度、優先順位の見直しや対策の方向性の判断が求められる。
「老朽化が進めば少しずつ撤去を検討する橋梁は増加するはずです。このような判断となった場合でも、住民との合意が得られて初めて実行されます。生活に直結することなので住民理解を得ることは容易ではなく、根気強い対話が必要です。しかし、全てのインフラにいえることですが、現状のまま維持しつづけることは困難。存在することが前提、あって当たり前という認識を少しでも変えてもらえればと思います」。
同市では今後も選択と集中によるメリハリのある管理を推進し、早期の予防保全型メンテナンスへの移行を目指す。新技術の活用で業務の効率化や高度化にも取り組んでいきたい考えだ。
予算情報
令和6年度当初予算 約16億円
上記のうち約8.8億円は道路メンテナンス事業補助制度を活用