老朽化が進む水道管を効率的に点検する3つの技術
漏水の原因となる水道管の老朽化が、全国の自治体で問題になっている。生活に欠かせない水道インフラを守るため、新たな取り組みに乗り出した豊田市。そのけん引役である上下水企画課の岡田さんに話を聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.34(2024年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
愛知県豊田市
上下水道局
上下水企画課
デジタル化推進業務担当主幹
岡田 俊樹(おかだ としき)さん
調査員が徒歩で行う地道な漏水調査は、将来的に継続が困難な方法だった。
漏水対策は多くの自治体にとって喫緊の課題といえるだろう。老朽化した水道管は漏水による大規模断水などのリスクをはらんでおり、住民サービスの質を担保するためには定期的な点検や更新などが必要となる。同市も例外ではなく、市内を通る水道管の総延長3,685㎞のうち、法定耐用年数である40年を超えた管路は全体の約18%、およそ662kmにも及ぶ。2026年以降は年間約100kmずつ増えていく見込みだという。
「水道管の漏水調査はとても地道な作業です。音を増幅する聴診器のような“漏水探知機”を調査員が装着し、音を聞きながら水道管が通る道路を、徒歩で少しずつ移動して丁寧にチェックしていきます。そのため、1日で調査できる範囲は調査員2人で5kmほど。法定耐用年数を超えた水道管を全て入れ替えるには150年かかるという試算もあります。熟練した調査員が高齢化し、人材も不足している今、漏水調査の効率化や省人化が必要と考えていました」と岡田さん。属人的な漏水探知機による調査以外の方法を検討することは自然な流れだったといえよう。「住民にとって、蛇口をひねればいつでもきれいな水が出ることは当たり前です。“10年後には職員が半分になる”といわれる中、当たり前に水を提供していくために、足りなくなっていく熟練調査員の穴を埋める方法を探していました」。
▲漏水探知機を使った調査は人の耳を頼りに地道に行われる。
最新技術を積極的に活用することで、調査コストを約10分の1まで削減する。
令和2年5月、最新技術の活用も視野に入れていた岡田さんは、海外で開発された技術が漏水の特定に活用できることを知り、すぐにリサーチして日本にある代理店に架電。それから3カ月後となる同年8月に導入したのが、人工衛星を用いて漏水可能性のあるエリアを特定する“漏水エリア特定診断”だった。
「衛星から電磁波を放射し、漏水の可能性があるエリアを直径約200m単位で検知する技術です。地下で反射して返ってきた水の成分データから、その水が水道水か非水道水かを識別することで漏水の可能性を特定します。この技術によって、エリアを絞り込んだ上での漏水調査が可能になり、調査距離を10分の1程度まで削減できました。これはコストの削減に直結し、調査費用も約10分の1に。さらに従来の手法では5年ほどかかる調査期間を約7カ月に短縮でき、効率化を図ることができています」。
老朽化した水道管を全て更新する、あるいは調査するには、多くの人手と費用を要する。最新技術を用いて優先的に調査するエリアを絞り込むことで、今後さらに深刻化するであろう人手不足の中でも、重要なライフラインを守りつづける体制を構築したいと考えている。
最善の道を見つけ出すべく課題に忠実に向き合っていく。
同市では、前述した技術のほかにAIによる水道管の“劣化予測診断”も導入している。過去の漏水箇所や配管データなど水道事業体が保有する様々なデータからAIが将来的な劣化度を予測。AIの精度を上げるため、現場の状況に詳しい熟練職員の経験則やノウハウ(暗黙知)を定量化し、最終的な管路更新の優先順位付けに反映した。同時期に劣化予測診断を導入したガス会社と、劣化リスクの高い箇所から同調施工することにより、舗装復旧費を660万円ほど削減できたという。
また、令和4年度には漏水のリスクを判定する“漏水リスク評価”の実証実験を行った。この技術では、現在の漏水リスクを5段階で判定。衛星が観測した地表面温度や気候情報などの水道管にストレスを与える要因と水道管路のデータを組み合わせ、約100m四方を一つのエリアとして漏水リスク評価を行う。「先ほどの漏水エリア特定診断と同じく、簡単にいうと広範から対象を絞り込むスクリーニングです。漏水の可能性が高いエリアをどれだけ正確に割り出せるか、調査をどれだけ効率化できるかを検証しました」。この実証実験では調査距離を約30分の1に削減できたという。いくつもの最新技術を活用した、これらの取り組みは国にも大きく評価された。
岡田さんは、日頃から“何から始めたらいいのか”“何を導入すればいいのか”ではなく、“何が課題なのか”を起点に対策方法や、それに活用できる技術の模索を行っているという。「当市の取り組みはAIや衛星を活用しているという点に着目されがちなのですが、これらはあくまで必要な対策を講じるための手段です。これからも、よりよい技術が生まれ、それを活用できるのであれば積極的に導入を検討したいと考え、情報収集を続けています」と語ってくれた。
従来のやり方にとらわれない姿勢が、水道をはじめとするインフラを未来につなぐためのヒントになるかもしれない。