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山梨県小菅村

公開日:2024-10-15

村をまるごと感じられる宿泊体験が、リピーターや関係人口を生む。

観光・商工
読了まで:4分
村をまるごと感じられる宿泊体験が、リピーターや関係人口を生む。

村全体を一つのホテルに見立て村民が温かくおもてなし

多摩川源流部に位置し、森林が総面積の約95%を占める小菅村。のどかな村だが、観光客を呼び込むため一念発起。古民家を客室に、村人をコンシェルジュに見立て、村全体で観光客の誘致に挑んでいる。

※下記はジチタイワークスVol.34(2024年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

小菅村
源流振興課 課長
望月 徹男(もちづき てつお)さん

村のシンボルである古民家を人が集う場所へと再生したい。

かつては養蚕や農林業で栄えた同村だが、高齢化が進み、人口は約620人にまで減少。観光業では、後継者不足に加え、東京都心から日帰り圏内であるため宿泊客も少なく、廃業する旅館が後を絶たなかったという。そんな中、観光資源として注目したのが空き家だった。「村には100軒を超える空き家があり、どうにかして活用できないかと考えていました。とはいえ民俗資料館や美術館に改修しても、人が集まらなければ維持していくことはできません。持続可能で、村の魅力を感じられる新しい活用方法を模索していました」と望月さんは振り返る。

今回の取り組みのパートナーとなったのが、「道の駅こすげ」のプロデュースを手がけたコンサルティング会社「さとゆめ」と、古民家ホテルの経営ノウハウをもつ「ノオト」。三者で協議する中で浮上したのが“村まるごとホテル”というコンセプトだ。「手付かずの美しい自然や温泉があり、人々の温かさも魅力です。それなら村全体をホテルと捉え、村民のおもてなしも含めた宿泊体験をしていただきたいと考えたのです」。

宿泊施設の有力候補となったのは、築150年を超える豪農の邸宅「細川邸」、通称「大家(おおや)」だ。「建物が大きく重厚で庭も美しく、何より村民にとって心のよりどころのような存在です。このまま空き家となって廃れていくのを待つのではなく、村のシンボルとして、また人々が集う場所にしたいと考えました」。

▲希望者には、村民が案内人となって散策ツアーを実施。接客のマニュアルはなく、それぞれが得意分野を話すことで、村の自然や暮らし、文化などの魅力を伝えている。

建設や運営は民間のプロに任せ行政だからこそのサポートを。

思いを形にするため大事にしたのが、村民や地元の観光事業者との合意形成だ。「まずは大家の所有者や、村の核となる人たちの所に何度も通い、事業の目的を伝えました。住民説明会でも、大家を守っていくための取り組みであることを繰り返し伝えたため、特に反対意見はなかったように思います。また、既存の民宿やキャンプ場と差別化するため高級路線で行くと決めたことで、事業者の理解も得ることができました」。

こうして令和元年に「ニッポニア 小菅源流の村」の大家棟が開業。趣を残しながらモダンな雰囲気に仕上げた宿泊施設だ。建設や運営を担うのは、さとゆめを筆頭とする民間企業3社が共同出資して設立した「エッジ」。改修費用は、補助金を活用しつつ同社が負担したため、村では行政だからこそできるサポートを心がけたという。「古い家ですから設計図が残っておらず、改修過程で困る場面が多々ありました。地元大工と話し合いを重ねることで、“現場合わせ”で乗り切ることができました」。

大家棟に続いて開業したのが、崖のそばにぽつんとたたずむ2つのコテージ「崖の家」だ。「こんな場所に本当に宿泊したい人がいるのかと不安視する声もありました。しかし、見渡す限り木々に囲まれている、この景観にこそ価値があるというアドバイスをもらい、私たちとしても改めて村の魅力を知ることになりました」。
 

高価格帯でも宿泊客は多く、外国からの連泊客も増えた。

ホテルのスタッフは、全員が村民で構成されている。「宿泊客が、ホテルの運営企業のスタッフとだけ接して完結するのではなく、村の暮らしや村民にも触れ合えるホテルにしたいと思っていました。そこで、村民に運営に関わってもらいたいと協力を呼びかけたんです」。宿泊客の送迎や、空間を飾る生け花の準備、散策の案内などを全て村民が担い、料理に使われる野菜やキノコ、川魚などの食材も地元で育ったものを振る舞う。

まさに村全体がホテルとなった同村。のどかな暮らしを体験できると人気が高く、リピーターも多い。インバウンドへのPRをしていないにもかかわらず、以前は見かけなかった外国人観光客が増え、連泊も多いという。「村民にまた会いたいという気持ちが、リピートにつながっているのではないでしょうか。運営企業も頑張ってくれているので、行政は基本的に介入せず、困ったときに相談してもらえる関係づくりを心がけています」。

また、同村では、関係人口づくりとして“小菅村に関わってくれる人”を対象とした「1/2村民」を増やすことにも注力している。「宿泊をきっかけに関心をもち、応援してくれる人が増えました。メディアに取り上げられる機会も多く、結果として地域ブランディングにもつながっているのを実感し、うれしく思っています」と、望月さんは笑顔を見せる。“大家を守る”という共通の思いを軸に進めてきた同村の取り組みは、今後も広がりを見せそうだ。

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