ジチタイワークス

埼玉県春日部市,岡山県倉敷市,岐阜県飛騨市,長崎県南島原市

体験内容を磨きつづけ、修学旅行で5割以上が再訪。ふるさと納税の活用も。

ふるさと納税の体験型返礼品を活用した観光施策

水産資源が豊富な有明海に面し、農業産出額は県内2位を誇る南島原市。農林漁業体験民泊事業を展開し、最大で年間1万人以上を受け入れた。現在はふるさと納税の返礼品としても活用し、地域の魅力を広く知らせている。

※下記はジチタイワークスVol.34(2024年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

左:南島原市
地域振興部 商工観光課 副参事
吉岡 宏真(よしおか ひろまさ)さん

右:南島原ひまわり観光協会
マネージャー
山口 瞬(やまぐち しゅん)さん

滞在型観光にかじを切るため、家業が体験できる民泊を企画。

世界文化遺産の原城跡や、特産品の手延そうめんで知られる同市。しかし、市内には宿泊施設が少なく、かつては通過型観光が主流だった。そこで同市は、基幹産業である農林水産業を活かした“民泊”で宿泊客を迎え入れることで、滞在型への転換を目指したという。

平成20年に「南島原ひまわり観光協会」を設立し、翌年から「農林漁業体験民泊事業」を開始。この事業で大切にしているのは、受け入れ先の家業や暮らしを“ありのまま”に体験すること。運営を担う同協会の山口さんは、「例えば農家なら、収穫だけではなく農作物をコンテナに積んでトラックに運ぶ作業も体験してもらいます。そしてその農家に宿泊し、家族のように過ごすのです」と語る。

この方法なら体験用施設をつくる費用は不要だが、住民の協力が不可欠だ。「最初は観光客を受け入れてくれそうな住民のところに通い、粘り強く説明を重ねました。事業開始後は受け入れた住民に体験談を語ってもらう場を設けたり、紹介を得たりして、受け入れ登録家庭を増やしてきました」。市と協会の地道な活動により、当初は6軒だった登録家庭は、140軒まで増えたという。

農業・漁業を中心とした家業の体験だけでなく、地域の日常的な暮らしの場面をともにすることが、特別な経験となる。

時代やニーズの変化に寄り添い、アレルギー対策にも力を注ぐ。

「経験を重ねながら、コンテンツの改良を図ってきました」と吉岡さん。修学旅行が体験型にシフトしているのをいち早くキャッチし、温かく迎え入れようと始めたのが、“入村式”と“離村式”だ。「入村式では学生と受け入れ家庭がお互いに緊張した面持ちで握手をしますが、離村式では涙を流して別れを惜しむ人も多いんです。手紙のやりとりが続いているという話も聞きます」と山口さん。学校関係者の間で“心の交流ができる”という評判が広がり、長崎市の平和学習と同市の民泊を組み合わせることで、県を代表するコンテンツになっていったそうだ。「ピーク時には年間1万人以上を受け入れ、半数がリピート校となっていました」。

子どもの食物アレルギーへの対策も強化。「重度のアレルギーについては、調味料の成分まで記載したメニュー表をつくり、事前に確認をとっています。受け入れ家庭向けに衛生講習会を毎年実施することで、知識やノウハウも蓄積されているようです」。

ふるさと納税制度も活用して、地域の魅力をさらに広めたい。

順調だった同事業だが、コロナ禍の自粛期間中は修学旅行も軒並み中止となり、打撃を受けたという。改めて認知度を上げるために始めたのが、ふるさと納税の体験型返礼品としての活用だ。「人目につく機会が増えればと考えました。都市部から地方を応援してもらう制度ですから、両者の交流ができる当市の民泊は、ぴったりだと考えたのです」。注文が入ったら、希望する体験をヒアリングし、受け入れ家庭と日程調整をして実施する流れだという。

こうした体験型の返礼品は、「自分たちがもっている“強み”が活きるものを選ぶことが大切です」と吉岡さん。「これまで磨き上げてきたことで体験内容は充実していますが、さらに親子向けなど、新たな顧客層のプログラムも造成中です。打ち出し方をさらに練っていきたいですね」。山口さんも「住民の高齢化という問題もあるので、受け入れ家庭の新規開拓にも力を入れていきます。これからも民泊事業を通して、地域を盛り上げていきたいですね」と抱負を語ってくれた。

ほかにも!ふるさと納税の“体験型返礼品”

埼玉県春日部市
日本が世界に誇る“防災地下神殿”を返礼品に活用して市の魅力をPR。

周辺河川の増水時に水を取り込み、江戸川に排水することで水害を防ぐ「首都圏外郭放水路」。施設の役割を伝えようと以前から見学ツアーを行っていた事業者に、市から声をかけて令和4年12月から体験型返礼品としても活用している。現在は4コースを展開中。令和5年度末時点で、100件を超える寄附につながっているそうだ。


 

岐阜県飛騨市
ひと味違うまち歩きガイドとして“おっちゃんレンタル”が話題に!

日本一“ふるさと納税をしてよかった”と思ってもらえる自治体を目指し、令和元年から“おっちゃんレンタル”をスタートした同市。地域のおっちゃんが、知る人ぞ知る魅力を紹介してくれたり、ローカルな店に案内してくれたりする。挑戦マインドを大切にする同市の、ユニークな返礼品。現在は2人のおっちゃんガイドが活躍中だという。


 

岡山県倉敷市
消防署の仕事を体験できるツアーで県外から親子連れの観光客が来訪。

令和6年1月より消防署体験を返礼品として展開している同市。はしご車搭乗や放水など、4つの体験から3つを選べる充実ぶりだ。ふるさと納税を所管する税制課と、消防総務課が連携してプログラムを開発。7月までの約半年間で寄附は6件、その全てが県外からの寄附だったそう。観光を兼ねて親子連れが訪れているようだ。


 

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