ジチタイワークス

再エネ特措法とは?改正のポイントやFIT&FIP制度の違いについてわかりやすく解説

再エネ特措法は平成23年に制定された法令だ。再生可能エネルギー発電事業者への支援を行うことで、国全体で再生可能エネルギー市場を活発にしていく目的がある。

令和6年に改正され、再エネ事業者による説明会の実施やポスティングなどによる事前周知が義務化された。自治体も再エネ特措法とは何かを正しく理解し、日本のエネルギー政策や再生可能エネルギー市場への理解を深めたい。

本記事では、再エネ特措法の概要や、この法律が生まれた背景、法改正のポイント、独自の条例を整備した自治体の取り組みについて詳しく解説する。

【目次】
 • 再エネ特措法は再生可能エネルギーの利用を促進するための法律

 • 再エネ特措法はなぜ必要?
 • 改正再エネ特措法の改正ポイントとは?
 • 再エネ発電設備と地域との共生のために制定された自治体の独自条例
 • 地球環境のための再エネ特措法をきちんと理解し、地域の事業者と住民を見守ろう

※掲載情報は公開日時点のものです。

再エネ特措法は再生可能エネルギーの利用を促進するための法律

再エネ特措法は正式名称を「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法」という。再生エネルギーの普及を目的とした法律で、平成23年に制定された。再生可能エネルギー発電事業者への支援と、国民全体で再生可能エネルギー普及にかかる費用負担を行うためのルールを定めている。 

FIT制度、もしくは固定価格買取制度とも呼ばれる

FIT制度、もしくは固定価格買取制度とも呼ばれる

出典:資源エネルギー庁ウェブサイト(https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/surcharge.html

再エネ特措法では、再生可能エネルギーによって発電された電力を一定期間国が決まった価格で買い取る仕組みを定めた。この制度は「FIT制度」あるいは「固定価格買取制度」と呼ばれている。石油や石炭など従来のエネルギー源と比べて、現状では再生可能エネルギーはコストが割高なため、国が保証した価格で買い取ることで、事業者が再生可能エネルギーの導入にかけたコストを財政的に支える目的がある。

再エネ特措法の財源は「再生可能エネルギー発電促進賦課金」

再エネ特措法の財源は「再生可能エネルギー発電促進賦課金」

FIT制度の財源となっているのが「再生可能エネルギー発電促進賦課金」だ。この再エネ賦課金は、電気料金の一部として電気の使用量に応じて利用者が負担している。

再エネ賦課金の価格は再エネ電力の買い取り価格とリンクしており、その価格は再エネ特措法で定められた算定方法にのっとり毎年度変動する。 再生可能エネルギー発電施設の導入拡大に伴って、再エネ電力の買い取り単価も毎年上昇。令和5年度に一旦価格が下がったが、その後は高止まりを続けている状況だ。FIT制度が始まった平成24年度は0.22円/kWhだった再エネ電力の買い取り単価は令和6年度の現在では3.49円/kWhと、約15倍の価格になっている(※1)。

※1出典:参考資料:東京電力ホールディングス「再生可能エネルギー発電促進賦課金単価」

再エネを「電力市場」に統合するためのFIP制度の導入

再生エネルギーで発電した電力を、一般的なほかの電力と同じ市場に統合することを目的に、令和4年に「FIP制度」がスタートした。「フィードインプレミアム(Feed-in Premium)」の略称で、売電価格に一定のプレミアム(補助金)を上乗せする仕組みになっている。

価格が一定のFIT制度と市場価格に連動するFIP制度

価格が一定のFIT制度と市場価格に連動するFIP制度

画像クリックで拡大

出典:資源エネルギー庁「FIP制度の詳細設計とアグリゲーションビジネスの更なる活性化」

FIT制度は固定価格で国が電力を買い取る制度のことだ。電気使用者のニーズや競争によって価格が決まる電力市場からは切り離されており、いつ発電しても同じ価格で買い取ってもらえるため、再エネ発電事業者は市場の需要と供給のバランスを意識する必要がなかった。

それに対してFIP制度は、国が定めた「基準価格」と電力市場価格に連動する「参照価格」の差を「プレミアム」として電力事業者が受け取る仕組みになっている。

今後再エネを主力エネルギーとしていくために

FIP制度の導入により、再エネ発電事業者は電気を売った価格にプレミアム(補助金)が上乗せされた合計分が収入となる。

売電するタイミングによって利益を拡大することもできるため、今後は需要と供給のバランスを考えた発電が広がることが期待されている。今後、再エネ発電事業者が市場に合わせた発電を行っていくことで、蓄電池の積極的な活用や発電予測精度の向上などの取り組みが進み、火力発電などのほかの電気事業と同じく自立したエネルギー源として事業を成熟させる狙いもある。

FIP制度で国民の負担を減らせることを期待

FIT制度の導入で始まり、増加を続けた再エネ賦課金が国民の大きな負担となっていた。FIP制度がスタートしたことで、今後は電気の市場価格が再エネ事業者の発電した電力にも反映されることになる。電気市場の中で再エネ事業者間の競争を促し、コストの低減や国民負担の抑制につながると期待されている。

再エネ特措法はなぜ必要?

再エネ特措法はなぜ必要とされているのだろうか。法律が整備された背景について解説する。

地球環境改善への指標を実現するため

地球環境改善への指標を実現するため

世界では気候変動に対応するため、温室効果ガス削減への取り組みが各国で進められている。

日本でも令和2年、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにするカーボンニュートラルの実現を目指す宣言を出した。 大量の温室効果ガスを排出する化石燃料の使用を減らし、再生可能エネルギーへの転換をすべく、令和3年10月に「第6次エネルギー基本計画」を策定。その中で、すべての電源のうち、再生可能エネルギーによる発電量の割合を36~38%程度にすることを目標に掲げた。地域と共生しながら再生可能エネルギーへの転換を進めていくため、さまざまなルールを定める再エネ特措法が整備された。 

こちらの記事もオススメ!
 カーボンニュートラルの取り組みとは?地域の特性を活かした国や自治体の事例を紹介

日本の再生エネルギー普及率は、海外と比較して低い

日本の再生エネルギー普及率は、海外と比較して低い

画像クリックで拡大

出典:資源エネルギー庁「今後の再生可能エネルギー政策について」 p6

FIT制度の導入により、日本のエネルギー源における再生可能エネルギーの占める割合は増えている。平成23年度には10.4%だった発電電力量の構成比が、令和4年度には21.7%まで拡大した(※2)。

再生可能エネルギーの普及自体は進んでいるものの、他の先進国と比べると依然として天然ガスや石炭への依存が大きい状況は続いている。今後、さらに再生可能エネルギーの普及を進め、石油燃料からの転換を推進していくことが日本の課題でもある。 

※2出典:資源エネルギー庁「今後の再生可能エネルギー政策について」 p4

再生エネルギー発電設備の高い建設コストを回収するため

再生可能エネルギーは設備の導入や発電に比較的高いコストがかかるため、国民全体で広くそのコストを負担することで、導入の拡大を図る必要があった。一定期間にわたってほかの電力より高値での買い取りを保証することで、事業者にとって収益の見込みが立てやすい状況を作り出したのが、再エネ特措法である。

改正再エネ特措法の改正ポイントとは?

FIT制度が導入されて以降、再生エネルギーの利用は拡大してきた。その一方で、安全面、防災面、景観や環境への影響、太陽光パネルの将来的な廃棄方法など、新たな課題も浮き彫りになっている。再エネ事業に新規参入する事業者に対して、地域の懸念が高まっていることを受け、令和6年に再エネ特措法が改正された。 ここからは、改正のポイントを見ていこう。

太陽光発電パネルの増設・更新に関するルール

太陽光発電パネルの増設・更新に関するルール
太陽光パネルの増設や更新に関するルールが更新され、新たに増設する太陽光パネルの廃棄に必要な費用を積み立てることが義務化された。改正法では、太陽光パネルの廃棄費用の積み立てが行われない際は、変更認定を行わないとしている。 

FITまたはFIP認定要件として、地域住民に対し説明会の実施が必要に

FITまたはFIP認定要件として、地域住民に対し説明会の実施が必要に

FITまたはFIPの認定要件として、地域住民に対する説明会の実施や事前周知が義務化された。

大規模電源や周辺地域に影響を及ぼす可能性が高いエリアで、新たに再エネ発電事業を始める事業者は、地域住民を対象にした説明会を実施する必要がある。小規模電源の場合は、ポスティングなどで事前周知措置を行うこととしている。すでに認定を受けている事業者も、計画を変更する際には同様の措置が必要になった。 

違反事業者へのFIT/FIP交付金の一時停止

改正法では違反事業者へのペナルティも設定された。関係法令や認定計画・認定基準に違反している場合は、FIT/FIP交付金を一時停止する制度「積立命令」が発令される。また、違反が解消されず認定が取り消された場合は、一時停止した交付金を徴収する「返還命令」も設定されている。 

委託先事業者に対する監督義務

認定事業者が再エネ発電事業を委託するケースでは、委託先事業者の監督義務が設けられた。発電事業の一部、または全部を他社に委託・再委託する場合は、認定事業者が必要かつ適切な監督を行う義務が生じる。 

再エネのポテンシャルを活かす系統強化

再生エネルギーの利用促進に関わる送電網・配電網の設備資金に「系統交付金」が創設された。

電力系統の工事費用は、これまで各地域の送配電事業者が負担していたが、法改正により、工事に着手した段階で交付金が支給される。 

再エネ発電設備と地域との共生のために制定された自治体の独自条例

地元の理解を得ないまま再エネ発電事業が進むのではという懸念や、地域の自然を保護する目的から、再生エネ発電事業に関して独自条例を制定する自治体が増えている。再エネ発電設備を設置する場所に対して抑制区域や禁止区域を設けたり、住民説明会を義務化するといった内容のものだ。ここからは、独自条例を設けた自治体を紹介する。

再エネ発電設備と地域との共生のために制定された自治体の独自条例

【埼玉県川島町】環境保全が目的!事業者に対するルールを制定

埼玉県川島町では環境保全を目的とした独自条例「川島町太陽光発電設備の設置及び管理等に関する条例」を制定している。

川島町全体を抑制区域に指定し、太陽光発電設備を設置する前に住民に向けた説明会の実施や、見やすい場所への標識の掲示行政からの指導や助言の受け入れなどを事業者に対して条例で義務付けている。 

【愛知県岡崎市】再エネ発電事業者と住民の共生を目指す

愛知県岡崎市は「岡崎市周辺環境に影響を及ぼすおそれのある特定事業の手続及び実施に関する条例」を制定している。

再エネ発電事業を始める際、原則3回までの周辺住民を対象とした説明会の開催や、市長との事前協議が必要だ。周辺住民とのコミュニケーションを促し、再エネ発電事業者と地域住民との共生を目指す。 

【長野県上田市】住民の理解を得られるよう事業計画や標識を義務付け

長野県上田市では「上田市太陽光発電設備の適正な設置に関する条例」を制定している。

再エネ発電事業を行う際には、地域住民に対して事前に事業計画を公開するほか、市との事前協議の前に標識を設置することを事業者に義務付けている。 

地球環境のための再エネ特措法をきちんと理解し、地域の事業者と住民を見守ろう

地球環境のための再エネ特措法をきちんと理解し、地域の事業者と住民を見守ろう

再生エネルギーを使った発電事業は、石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料に依存する日本のエネルギー事情を改善し、地球環境にも対応していくために必要とされている。

再エネ特措法により再エネ発電事業が拡大したものの、それに伴い地域住民との摩擦が生じるなど様々な問題が浮き彫りとなった。改正法により、ルール違反を行った事業者にはペナルティが与えられるようになり、地域との共生も重要なテーマに位置付けられた。

自治体側も再エネ特措法への理解を深め、よりよい形で再生エネルギーを活用できるよう住民と事業者を見守っていきたい。
 

このページをシェアする
  1. TOP
  2. 再エネ特措法とは?改正のポイントやFIT&FIP制度の違いについてわかりやすく解説