【連載】第2回 心当たりありませんか?公務員の残念な文章10選
公務員として文書作成は避けて通れない重要な業務だ。しかし、日々の業務に追われながら、誤解を招かない明瞭かつ正確な文書を作成することは容易ではなく、悪戦苦闘している人も少なくないだろう。
また、文章上のちょっとしたミスが重大な問題に発展しかねないリスクもあり、それがプレッシャーとなっている人もいるのではないだろうか。
そこで本企画では、約40年、公務員として様々な文章を書きながら、行政現場で職員の文章指導を行ってきた工藤 勝己(くどう かつみ)さんに、そんな悩みを軽減するための方法や文章スキルを向上させるための具体的方策を紹介していただく。
※掲載情報は公開日時点のものです。
解説するのはこの方
工藤 勝己(くどう かつみ)さん
文章よくなる株式会社 代表取締役
1985年 運輸省(現・国土交通省)入省、1989年 葛飾区入庁、東京都庁派遣、特別区人事委員会事務局主査、区画整理課長、道路建設課長、道路管理課長、都市整備部参事、総務部参事、総合庁舎整備担当部長などを歴任し、「日本全国に文章美人を増やしたい!」と意思を固めて早期退職。2024年4月 文章よくなる株式会社を設立。
現在は、実務研修「文章の磨き方」を全国展開する傍ら、昇任試験論文セミナー「合格論文の工藤塾」、昇任試験面接セミナー「面接突破の工藤塾」を開講している。
技術士(建設部門・総合技術監理部門)、土地区画整理士。
「ここぞ!」という場面で、文章が書けなくて困っている人。皆さんのまわりにもいませんか?
文章スキルを大いに駆使すべき重要な局面で、悪戦苦闘しながら残念な文章を書いている人を、私はこの目で何人も見てきました。それは、本人だけでなく組織にとっても悲劇。
公務員人生のあらゆるシチュエーションで「書けない人」は損をしているのです。
しかし、文章力を向上させるための研修を実施している自治体はごくわずか。これまでに蓄えてきた知識だけを頼りに、「自己流」の文章でその場を乗り切っていくしかないのが現状です。決裁過程でダメ出しをするのが得意な上司はいても、どこをどう直せばいいのかを詳しく丁寧に教えてくれることはありません。
そんな中、お利口さんの顔をして救世主のように行政現場にあらわれたのが、チャットGPTです。業務で活用する場面も増えてきたのではないでしょうか。
しかし、チャットGPTは、膨大なインターネット上のデータをもとに、キーワードとの関連性や共通の特徴などから最大公約数的な単語を探り出し、それを機械的につなぎ合わせて文章を作成しています。人間の心情に心を寄せながら自らが言葉を紡いでいるわけではありません。したがって、妄信するのはご法度。住民目線の文章に仕上げようとするなら、人間が大きく手を加える必要があります。
AI全盛の今こそ、行政職員の文章力が試されているといっても過言ではないのです。
文章を書く際に犯しがちな「個人のミス」はささいであっても、やがてそれは「組織の恥」へと発展し、行政の信頼性や安定性を損なっていきます。文章は「生き物」なので、ひとたび自己主張を始めると、もはや誰もそれをコントロールすることができなくなってしまいます。
日常業務で犯しがちな文章上のミスをランキング形式で紹介する「公務員の残念な文章10選」。今回は7位から4位のご紹介です。
これらのミスに細心の注意を払い、ぜひ「書ける人」になっていただきたいと思います。
第7位 ここが残念!「品詞がバラバラ」
誰もがご存知の「品詞」という言葉。改めて辞書を引いてみると、次のように書いています。
[単語を文法上の性質によって分類したもの。例、名詞・動詞・形容詞。]
実は、文章を書く際に言葉を並列する機会は、とても多くありますが、この品詞がそろっていない文章をよく見かけます。例えば、次のような事例です。
Before
・地域防災計画に掲げた減災目標を達成するため、国の補助制度の活用、仮設トイレ用マンホールを設置する、防災活動拠点を整備する取り組みなどを進めています。
この事例は、減災目標を達成するために実施している三つの取り組みを例示していますが、「名詞」「動詞」「名詞化された動詞」の順に並んでおり、品詞がバラバラな状態です。
推敲過程で、品詞の種類がそろっているか確認する手間を惜しむと、このような残念な文章になってしまいます。
それでは、改善事例を見てみましょう。
After1
・地域防災計画に掲げた減災目標を達成するため、国の補助制度の活用、仮設トイレ用マンホールの設置、防災活動拠点の整備などの取り組みを進めています。
このように、並列する品詞の種類を「名詞」に統一すると分かりやすくなります。
さらに、並列する言葉のレベルも合わせる必要があります。
「国の補助制度の活用」は全ての取り組みに当てはまる包括的な事項なので、整備メニューと同列で表記すべきではありません。
「品詞の種類」を揃える際に「言葉のレベル」も合わせるようにすると、正しく伝わる分かりやすい表現になります。
After2
・地域防災計画に掲げた減災目標を達成するため、国の補助制度の活用により防災活動拠点の整備を進めています。
例えば、仮設トイレ用マンホールや防災井戸の設置、防災倉庫の整備などの取り組みを行っています。
このように、「国の補助制度」が最上段にあって、その下に「防災活動拠点の整備」があり、さらにその下に「仮設トイレ用マンホールの設置」「防災井戸の設置」「防災倉庫の整備」など複数の整備メニューがあるという具合に、事業内容を階層的に捉えた表現にすべきでしょう。
手間を惜しむための手間を惜しむな。
これは、効率よく仕事をこなすための鉄則ですが、文章を推敲する際にも当てはまります。推敲は文章に魂を吹き込む大切な作業なので、その手間を惜しまないようにしたいものです。
第6位 ここが残念!「言葉足らず」
書き手が詳しい内容を理解できているからといって、読み手の理解力も同じレベルにあるとは限りません。
このため、しっかりと丁寧に説明する癖をつけないと誤解の余地が生じてしまい、読み手である住民から「説明不足」「言葉足らず」という厳しい目を向けられることになります。
事例を見てみましょう。
Before
・障害のある方を支援するため、AIを活用した就職の斡旋や障害者通所施設の工賃向上などを図ります。
この事例は、「なぜ支援するのか」という「目的」の詳しい説明がなく、「手段」だけを書いた自己満足の表現になっています。
誠に残念なことですが、このような「言葉足らず」の文章は、様々な行政計画で散見されます。それでは、どのように表現すればよかったのでしょうか?
改善事例を見てみましょう。
After
・障害のある方の就労意欲を向上させて経済的な自立を支援するため、AIを活用した就職の斡旋や障害者通所施設の工賃向上などを図ります。
適切な言い回しが思い浮かばないからといってお茶を濁すような文章を書くのではなく、「目的」と「手段」を明確に記載して、常に説明義務を果たすように心がけたいものです。
第5位 ここが残念!「登場人物があやふや」
主語を省略しても内容を理解することができるのは、日本語の特長でもあります。しかし、「主語は誰?」と考えながら読まないと解釈できないケースもあり、読み手にムダな神経を使わせることになってしまいます。
例えば、次のような事例があります。
Before
・認知症などにより徘徊のおそれがある方に、24時間対応のコールセンターの電話番号を記載した安心シールを配付し、保護されたときに、安心シールを手掛かりにご家族等へ連絡することで早期の帰宅につなげます。
この文章は、コロコロと変わる主語が全て省略されています。したがって、想像力を働かせながら読む必要があり、読み手に余計なストレスを与えてしまいます。
登場人物を整理してみると、安心シールを配布するのは「市」であり、保護されたのは「徘徊した人」です。また、保護して家族に連絡するのは「警察や市など」、早期の帰宅につなげるのも「市」です。
これだけ多くの登場人物がいるにも関わらず、それらが全て省略されているのです。文章を書いている本人は事業の内容まで熟知しているかもしれませんが、事業のことを全く知らない読み手に対する配慮を欠いてしまうのは、避けなければなりません。
それでは、どのように書けばよかったのでしょうか?
After
・認知症などにより徘徊のおそれがある方に、24時間対応のコールセンターの電話番号を記載した安心シールを市が配付します。
これにより、徘徊した人が保護されたときに、警察や市などが安心シールを手掛かりにご家族等へ連絡することが可能となり、市はこの取り組みによって早期の帰宅につなげていきます。
少しくどい文章になるのを厭(いと)わず、「誰が?」「誰が?」と自らに問いかけながら丁寧に書く習慣をつけて、登場人物があやふやな残念な文章から一日も早く脱却していただきたいと思います。
第4位 ここが残念!「読点が怪しい」
「読点の打ち方に迷いがある人はいますか?」。研修の講師として登壇した際、受講者に問いかけると、なんと7割近くの人の手が挙がります。
詳しく聞いてみると、読点を打ちすぎる人がいれば読点をほとんど打たない人もいて、その内訳はほぼ半々。読点の打ち方に対する迷いが多くの人にあり、強い苦手意識を抱いていることが分かります。
研修では、読点が全くない文章に読点を打つ演習を行っていますが、そこで改めて読点の重要性を認識することになるようです。
次の事例は、読点が全くない文章に、ある人が読点を打ったものです。
Before
・目まぐるしい時代の変化の波に、立ちすくむのではなく、急激な変化にも対応できる、広い視野と柔軟な思考を、培うことが大切である。
これは読点を多用する癖がある人の事例であり、読む際に息継ぎをするタイミングで読点を打つ傾向にあるようです。しかし、読み手のために打ったはずの読点が、逆に読み手の理解を阻害してしまっては本末転倒です。多くの人が勘違いしていますが、読点は息継ぎのためにあるわけではありません。読点の打ち方について、ここで再確認しておきましょう。
(1)長い主語の後に打つ
(2)意味の切れ目に打つ
(3)複数の解釈を生む元凶となっている箇所に打つ
このような一定のルールがあるにも関わらず、ルールを無視してなんとなく読点を打っているから、文章を書くたびに苦手意識が強くなってしまいます。
それでは、Before事例の読点を取捨選択して、正しく伝わる分かりやすい文章に改善してみましょう。
After
・目まぐるしい時代の変化の波に立ちすくむのではなく、急激な変化にも対応できる広い視野と柔軟な思考を培うことが大切である。
Before事例では4か所に読点を打っていましたが、After事例のように実は1か所だけでよかったということが分かります。
一つの塊となって意味を形成する表現が長くなるのを嫌って、意味の切れ目でもない箇所に安易に読点を打ってしまうと、読み手の理解を阻害することになりかねません。読点の多用は禁物なのです。
いかがでしょうか?日常業務で犯しがちな文章上のミスに、心当たりはありませんか?
今回は、ここが残念!第7位から第4位までをご紹介しました。
行政職員の仕事の醍醐味は、「合意形成」にあるといっても過言ではありません。それには常に困難が付きまといますが、文章の威力は絶大です。合意形成の壁にぶつかったときに、今まで口頭で済ませてきたことをあえて文章化してみるのは妙案かもしれません。
口頭では伝わりづらかった事業の目的やまちの将来像などが、文章を書くことによって住民に理解してもらえることがあります。賛成か反対かで住民の意向が二分されるような事業は、固定観念が働いているケースが多いため特に効果的です。
志を立てるのに遅すぎることなどありません。思い立ったが吉日。正しく伝わるわかりやすい文章を書くスキルを身に付けて、ぜひ仕事の成果を存分に味わっていただきたいと思います。
工藤 勝己(くどう かつみ)さんの著書
「一発OK!誰もが納得!公務員の伝わる文章教室」
(学陽書房)
「住民・上司・議会に響く!公務員の心をつかむ文章講座」
(学陽書房)
その他『一発で受かる!最短で書ける!昇任試験 合格論文の極意』『一発で受かる!昇任試験 面接合格完全攻略』(いずれも学陽書房)がある。