ライフスタイルが多様化する現代において、「経済的自立」と「早期退職」を意味する「FIRE(Financial Independence, Retire Early)」という言葉が注目を集めている。
FIREは元々、欧米を中心に広がった概念で、資産運用などで経済的に自立し、早期にリタイアすることを指す。
定年まで働き続けることが当然視されてきた日本社会でも、FIREは新たな選択肢として認識されつつある。
公務員の間でも早期退職を希望する人が増加しており、この傾向は無視できないものとなっている。
しかし早期リタイアにはデメリットもあるため、慎重な検討が必要だ。この記事では、公務員が早期退職する際の退職金制度について詳しく解説する。人生100年時代といわれる今、豊かな人生を送るために参考にしてほしい。
【目次】
• 公務員の早期退職制度(応募認定退職)とは?
• そもそも公務員の退職金はいくら?
• 早期退職のメリット
• 早期退職のデメリット
• 定年退職後の公務員の声を聞いてみよう
• 人生100年時代!定年延長or早期退職あなたはどちら派?
※掲載情報は公開日時点のものです。
公務員の早期退職制度(応募認定退職)とは?
一般企業と同じように、公務員にも早期退職制度(応募認定退職)が存在する。詳しく見ていこう。
公務員にも早期退職募集制度が存在する
公務員の早期退職制度は、定年前に退職する意思を持つ職員を対象に、各大臣など(地方公務員の場合は任命権者)が募集を行い、応募者が認定を受けて退職する。
内閣官房のサイトでは平成25年11月から応募認定退職が可能になったことが告知されている。
この制度の特徴は、自己都合退職よりも退職金が多く支給される点にある。具体的には、基本給の割り増しが行われ、支給割合も高くなる。
例えば、勤続年数が30年の場合、自己都合退職での支給割合は「34.7355」である一方、応募認定退職の場合は「40.80375」となる。(※1)
早期退職制度を利用することで、経済的に有利な条件で退職することが可能だ。
早期退職募集制度の手続きは?
早期退職募集制度の手続きは以下の通り。
1.【応募】募集実施要項を確認して応募する
2.【認定】各大臣などが応募者に対して原則認定する
3.【通知】各大臣などが応募者に対し認定通知書あるいは不認定通知書を交付する
4.【退職】各大臣などが指定した日に退職する
5.【退職金の支給】退職手当の支給を受ける
早期退職募集制度の利用状況
令和4年度の地方公務員の離職者は139,159人のうち、早期退職募集制度による退職者は3,653人(2.6%)であった。(※2)
年齢別では、57歳から59歳にかけて割合が高くなっており、59歳が17.9%と最も高い。
定年を前にした50代後半から早期退職を希望する人が多くなっていることが分かる。
そもそも公務員の退職金はいくら?
公務員の退職金は、国家公務員の場合「国家公務員退職手当法」に、地方公務員の場合は各自治体の条例によって定められている。
国家公務員の退職金の平均支給額は以下のとおり。
国家公務員の退職金の平均支給額
勤続年数10~14年:約330万円
勤続年数15~19年:約615万円
勤続年数20~24年:約1,114万円
勤続年数25~29年:約1,634万円
勤続年数30~34年:約2,046万円
勤続年数35~39年:約2,369万円 (※3)
このように、勤続年数による差が顕著だ。勤続20年を経過すると、平均支給額が1,000万円を超える。
定年で退職した場合
国家公務員の退職金は、基本給と勤続年数、退職理由によって計算される。
例えば、国家公務員が定年退職する場合、基本給に一定の倍率をかけた額が支給される。令和5年12月に内閣官房内閣人事局が発表した「退職手当の支給状況」によると、常勤職員が定年まで勤めた場合の退職金平均額は約2,112万円である。 これは、長年勤続したことに対する報酬として大きな金額となっている。
地方公務員の場合も、退職金の支給は国家公務員に準じるため金額はほぼ変わらない。国家公務員と同様に、定年退職まで勤めた場合の退職金は2,100万円程度であることが多いようだ。
ただし、地方公務員の退職金の金額は一般職や教職員、警察など職業によっても多少変わってくる。
自己都合で退職した場合
自己都合退職の場合、定年退職の場合に比べて退職金は大幅に減少する。1,000万円を超えるのは、勤続年数25年を超えてからだ。
【自己都合による平均退職金支給額】
勤続年数10~14年:約277万円
勤続年数15~19年:約526万円
勤続年数20~24年:約933万円
勤続年数25~29年:約1,368万円
勤続年数30~34年:約1,675万円
勤続年数35~39年:約1,951万円 (※4)
早期退職制度で退職した場合
早期退職制度に応募し認定を受けた場合の退職金は、勤続年数10〜14年から1,000万円を超え、自己都合で退職する場合の同じ勤続年数の約277万円と比べると実に3倍以上の額となる。
【応募認定退職の退職金平均支給額】
勤続年数10~14年:約1,019万円
勤続年数15~19年:約1,291万円
勤続年数20~24年:約1,732万円
勤続年数25~29年:約2,112万円
勤続年数30~34年:約2,647万円
勤続年数35~39年:約2,713万円 (※5)
※3・4・5出典 内閣官房「退職手当の支給状況」
このように、早期退職する意思がある場合は、早期退職制度を利用すれば有利な条件で退職することが可能となる。
だが、本当に早期退職があなたの人生にとってベストなのだろうか? ここで、早期退職のメリットとデメリットを確認してみよう。
早期退職のメリット
【メリット1】人より早く自由な時間を得られる
定年後の楽しみとして趣味に時間を充てたいと考えている人は少なくないだろう。
早期退職のメリットの一つは、定年まで勤め上げた人よりも早く自由な時間を得られることだ。現役時代には仕事に追われ、趣味のための時間がなかなか確保できないものだが、早期退職すれば体力的にも精神的にも余裕のあるうちに、自分の興味や情熱を追求する時間に充てることができる。
仕事のスケジュールに縛られることなく、長期の海外旅行を楽しむことも可能だ。絵画、音楽、スポーツ、ガーデニングなど、これまで取れなかった時間を自分の好きなことに惜しみなく使うことができる。さらに、ボランティアや地域の活動などにも積極的に参加すれば、新たな社会的つながりを築き、より深く地域に関わることができるだろう。
【メリット2】自己都合退職よりも退職金が多い
早期退職制度を利用することで、自己都合退職よりも多くの退職金を受け取ることができる。定年退職まで勤めた場合と比べれば総収入は減るかもしれないが、自由な時間により大きな価値を感じるのであれば、早期退職も十分に価値のある選択肢となる。
早期退職のデメリット
早期退職には多くのメリットがある一方で、もちろんデメリットも存在する。デメリットについて詳しく見ていこう。
【デメリット1】毎月の給与がなくなる
毎月の給与がなくなることは大きなデメリットとなる。特に住宅ローンの返済や子どもの教育費など、大きな支出が控えている場合、この影響は無視できない。投資や副業など、新たな収入源の確保も検討しておきたい。
【デメリット2】年金の支給額が減る
早期退職のもう一つのデメリットは、将来の年金支給額が減少する可能性が高いことだ。
年金は、20~60歳までの間に支払った保険料に応じて支給される「老齢基礎年金」と、厚生年金の被保険者期間が1か月以上あれば上乗せで支給される「老齢厚生年金」の2種類がある。
老齢厚生年金は被保険者期間の月数と退職前の給料をもとに支払われるため、早期退職後に無職になった場合は、年金支給額が減ってしまう。早期退職しても国民年金は60歳まで加入する義務があるため、収入が減少またはなくなった状態でも、引き続き保険料を支払う必要がある。これは退職後の家計に大きな負担となり得るだろう。
【デメリット3】カードなどの審査に通りづらくなる
クレジットカードや住宅・車などのローンは勤務先や現在の収入をもとに審査されるため、早期退職後は審査が通りづらくなる可能性がある。カードやローンを利用する考えがある場合は、退職前に審査を通しておくことが望ましい。
【デメリット4】生活に張りがなくなる場合も
早期退職後、仕事が急になくなると、生活に張りがなくなることがある。特に、やりたいことが明確でない場合は、退職後の生活が退屈に感じられるだろう。退職後の生活を充実させるためには、趣味やボランティア活動など、新たな目標や計画を立てておきたい。
早期退職には多くのメリットがある一方で、経済的な不安や生活の変化によるデメリットも存在する。
早期退職を考える際にはデメリットを十分に理解し、退職後の生活について計画しておこう。次に、定年退職者の生活について調査したデータを紹介する。退職後の現実について理解を深めてほしい。
定年退職後の公務員の声を聞いてみよう
令和5年に実施した「退職公務員生活状況調査報告書(人事院給与局)」によると、「定年後も働きたい」と答えた退職公務員は83.3%にのぼる。働きたい理由は「生活維持のため」が85.7%と最も高い。調査時点での就労率は87.6%となっており、多くの公務員が収入確保のため、定年後も積極的に働いていることが分かる。
就労者の79.2%が国の再任用職員として働いており、「65歳まで働きたい」と「65歳以降も働きたい」人を合わせると8割を超えている。
退職前に知っておけばよかったこととして「年金・保険」と答えた人が51.6%、「資産運用」と答えた人が44.6%であった。特に資産運用に関する回答は前回の調査から10%近く増加しており、退職後の経済的な安定を図るために資産運用の関心が高まっていることが読み取れる。(※6)
以上のように、公務員の定年退職者の多くは再任用などで意欲的に働き続けており、安定した収入と資産運用でゆとりある生活を希望していることが分かる。早期退職を希望する人は、まだまだ少数派といえるだろう。
人生100年時代!定年延長or早期退職あなたはどちら派?
定年延長と早期退職のどちらを選ぶかは、自分のライフスタイルや価値観、健康状態や経済状況によって異なる。
定年延長は安定した収入を長く得られる一方で、自由な時間の制約がある。早期退職は自由な時間を早く得られる一方で、経済的な不安や生活の変化によるリスクがある。
人生100年時代を豊かに生きるためには、定年延長・早期退職のメリットとデメリットを十分に理解し、将来のライフプランをしっかりと考えることが重要だ。自分のライフスタイルに合った働き方や退職後の生活設計を実現するために、この記事を参考にして定年延長と早期退職の両方の選択肢を慎重に検討してほしい。
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