デジタル技術を活用して観光サービスの課題を解決し、質の向上を目指すのが「観光DX」だ。デジタル庁の発足に伴い、重点を置かれている観光DXだが、注目されるようになったのはなぜだろうか。また、必要とされる背景も確認しておきたいところだ。
この記事では、観光DXが注目される理由や目指すもの、そして導入時の注意点について解説する。観光に力を入れる自治体、DXを地域活性化に活かしたい自治体の方はぜひ参考にしてほしい。
【目次】
• 観光DXとはどんなもの?
• 観光DXが必要とされる背景とは
• 観光DXが目指すものとは
• 観光DXを進める際に注意しておきたいこと
• バーチャル観光やアプリ開発など、観光DXを自治体が取り入れた事例を紹介
• メリットと課題を明確にし、観光DXを推進しよう
※掲載情報は公開日時点のものです。
観光DXとはどんなもの?
「観光DX」とは、デジタル技術やICTなどの最新技術を用いて観光分野のDX化を推進し、既存の観光サービスの課題解決や質の向上を図るというものである。
観光DXでは、業務のデジタル化による効率化だけではなく、収集したデータの分析を行い、観光の価値向上、および新たなビジネスモデルの創出までを目指している。
なお、令和3年9月のデジタル庁発足に伴い、政府は令和3年度予算で「国内外の観光客を引きつける滞在コンテンツの造成」という取り組みを掲げ、一般財源から8億円を計上している。国としても、観光DXは最も力を入れたい分野の一つなのだ。
観光DXが必要とされる背景とは
今の日本で観光DXが必要とされる背景を探っていこう。
【背景その1】見込まれるインバウンド需要
少子高齢化の進行で人口減少が進む日本では、国内外との交流が生み出される「観光」は地方創生のためにも必要不可欠なものとされている。これからも増加が見込まれるインバウンド需要を見越して、日本や各地方の魅力を伝えることは、消費拡大や再来訪の促進につながる可能性が高いと考えられる。
【背景その2】観光産業の遅れたDX事情
総務省の「我が国におけるデジタル化の取組状況」によると、宿泊業・飲食サービス業で「DXに取り組んでいる」と回答した割合は16.4%だった。全業界の平均22.8%と比較すると、低い割合に留まっている。(※1)
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※1出典 総務省ホームページ「我が国におけるデジタル化の取組状況」
観光産業の収益性や生産性の向上を目指すのであれば、効率的に仕事を進められるようになるDXは必要不可欠といってもよいだろう。
【背景その3】新型コロナウイルスが与えた深刻な影響
平成31年に発生し 、世界中で大流行した「新型コロナウイルス」は、人々の生活を大きく変化させた。さらに、密集場所に行かない、間近で会話をしないなどの「3密回避」の定着、宿泊施設では画面越しの対話などの非接触サービスが拡充されるなど、多くの人が観光や旅に求める価値観まで変化させている。
このように、従来型のおもてなしだけではないサービスが観光業界に求められるようになった。これからは、非接触サービスの拡充だけでなく、キャッシュレスなど観光客の利便性を担保しながら日本や各地方に魅力を感じてもらえるよう、デジタルツールを活用した観光促進事業も求められている。
観光DXが目指すものとは
観光DXで目指しているものとは何なのだろうか。具体的に見ていこう。
旅行者の利便性向上・周遊促進
旅行者の利便性向上や周遊の促進に観光DXは大きな役割を果たすだろう。例えば、外国人観光客は現金よりもキャッシュレス決済の方に慣れている人が多い。受け入れる側も、現金決済以外にキャッシュレス決済の選択肢を作っておくと、現地での消費促進につながるはずだ。
また、日本語が分からない観光客の場合、公共交通機関が使えない、目的地までの行き方が分からないといった不便を感じることが多い。このような人たちがスムーズに移動できるよう、スマートフォンアプリを活用するという方法もある。
近年問題となっているオーバーツーリズム問題も、観光DXで観光客の分散や、多彩な観光ルートの提示などの対策を取ることによって解決に導きたい。
観光産業の生産性向上
DXを進めることで、観光地を訪れる人の属性や行った場所の情報を集められる。この情報の分析で、観光客のニーズに合わせて観光地の充実度をアップさせることもできるだろう。
また、オンラインで地方の魅力を発信できれば、魅力を感じてくれた人が実際に足を運ぶという効果も生まれやすい。
人的ミス・トラブルの防止
DXにより、観光地のチケットやクーポンもデータで一元管理でき、紛失防止もできる。さらに、オンライン決済が利用できると、金銭トラブル発生リスクも軽減できるだろう。
また、問題が減ることで、トラブル処理に従事していた人材を有効活用できるようになり、サービスのさらなる充実も可能になる。
観光DXを進める際に注意しておきたいこと
観光DXはメリットばかりではない。以下の注意点をしっかりと理解しておこう。
【注意点その1】IT人材の不足
観光DXの促進には、DXに詳しい人材の確保や育成が必要だ。また、観光客の動向についてのビッグデータの収集や管理など、高度なデジタル技術も要する。
IT人材は、観光業だけでなく各業界で人材不足である。その中で、人材の採用、育成、そして定着をどのようにして進めていくかは大きな課題といえる。
【注意点その2】セキュリティへの十分な配慮
観光DXでは観光客の行動についてビッグデータで分析を行うが、観光客の個人情報を取り扱う際は細心の注意が必要だ。DXに関する知識も重要だが、セキュリティ関連に明るい人材の育成にも力を入れておきたい。
バーチャル観光やアプリ開発など、観光DXを自治体が取り入れた事例を紹介
これから観光DXに取り組みたい自治体のために、すでに取り入れている自治体の例を紹介する。
【広島県尾道市、 愛媛県今治市、上島町】レンタサイクルを基軸としたしまなみ海道活性化事業
しまなみ地域では自転車で各地を回る観光「サイクルツーリズム」に力を入れている。そこで、持続的な観光需要の創出を目指し、「レンタサイクル利用者のためのスマートフォンアプリの構築運用」といった取り組みを行っている。
この取り組みでは、アプリを通じ、地域の情報発信、およびレンタサイクル予約システム、デジタル決済の提供を行う。また、走行経路(GPSログ)や訪問地点のデータの収集も可能になった。旅行者の動向を把握することで、消費拡大につながる計画も立てやすくなっている。
【長野県箕輪町】VRを利用したバーチャル観光
長野県箕輪町では、VRを利用したバーチャル観光を行っている。迫力のある360度VR動画や静止画ツアーでは、町内の観光地を紹介し、地域の魅力発信、観光客の来訪のきっかけづくりに役立てている。
さらに、VRは観光だけでなく、地元学生の学びのきっかけにもなっている。
【東京都島しょ地域】プレミアム付き宿泊旅行商品券「しまぽ通貨」
東京の島しょ地域(大島、利島、新島、式根島、神津島、三宅島、御蔵島、八丈島、青ヶ島、父島、母島の11島)への旅行者誘致の取り組みとして、東京都が販売しているのがプレミアム付き宿泊旅行商品券「しまぽ通貨」だ。
旅行者は1セット10,000円分のしまぽ通貨を東京都の助成により7,000円で購入することができ、3,000円分は宿泊施設で、7,000円分は全ての加盟店で利用できるという仕組み。加盟店も多く、飲食店やお土産店、レンタカーやレンタサイクル、体験型アクティビティなど様々なところで使用することができる。
メリットと課題を明確にし、観光DXを推進しよう
観光DXは観光業の発展のためには必要不可欠だ。特にインバウンドで訪日客が増えている現在、日本国内での移動や金銭の支払いに伴う利便性は重視されるだろう。アプリ等の活用でスムーズな移動や買い物が実現できれば、観光消費の拡大や再訪日につながることも期待できる。
また、ビッグデータの分析で、関心が高い場所や品物の把握も可能だ。観光地の充実のためにもぜひマーケティングの視点を取り入れて活用したい。
ただし観光DXの推進には、導入コストや人材の採用・育成等の課題も多い。まずは、具体的な目標や課題を把握し、その上でできることを考えてみよう。