空き家問題に向き合う現場職員の声
令和5年12月、「空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、空家特措法)」の一部改正法が施行された。そこで、これまで空き家問題に取り組んできた常総市の丸林さんと下関市の小田さんに現場のホンネを語り合ってもらった。
※下記はジチタイワークスVol.33(2024年8月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
左:茨城県常総市(じょうそうし)
都市建設部 都市計画課 空家対策係
主査兼係長 丸林 勝(まるばやし まさる)さん
2022年4月から空き家対策の担当部署に所属。今年から住宅政策係と空家対策係に分かれており、管理不全の対応をメインに担当している。
右:山口県下関市(しものせきし)
元・建設部 住宅政策課 主査・住宅政策係長
(現・保健部付・地方独立行政法人下関市立市民病院派遣)
小田 和也(おだ かずや)さん
2020年4月から4年間、係長として空き家対策を積極的に推進。他部署に異動後も、一市民としてプライベートで空き家の片付けなどに関わっている。
空き家問題の取り組みで大切にしていることは?
丸林 とにかく状況を見ないと始まらないと思い、できるだけ現場に足を運んでいます。適正管理の依頼についても、文書を送る前に所有者に会いに行き、こちらの要望を伝えつつ、相手の状況や思いを聞くようにしています。常総市の特定空家は令和6年4月時点で3戸あり、所有者に毎月電話をして、解体や売買に関する意向や進捗を確認。早期解決に向けて、何かあれば連絡してもらえるように関係性をつくる一方、役所の立場として“あなたを見ている”という姿勢で連絡を途切れさせないようにしています。
▲できるだけ現場に足を運んで対話し、自分の目で確認。
小田 私も、何より現場を大切に取り組んできました。ですが、中には“行政がやるべきは危険な空き家の措置や処分”という意見もあります。空き家の状態や周囲への影響によってはそのような対応も必要ですが、一方的に処分しても納得してもらえないばかりか、かかった費用を回収できないことも。所有者から事情を聞き、現状を伝えてどう動いてもらうかが大事です。下関市では、令和6年4月時点で特定空家が30数戸、管理が不適切な空き家が累積で約1,000戸あります。それでも、毎年100~200件ある通報のうち40%ほどは解決しているので、成果は見えにくいですが着実に動いています。
今回の法改正で注目している制度は?
丸林 これまでは適正管理に重きが置かれている印象でしたが、今回の法改正で、より明確に“活用”が示され、行政としてできることが増えたと感じています。特に「空家等管理活用支援法人」の指定制度により、専門知識が豊富で、熱意のある公益法人などに協力してもらえるのは心強いです。多くの市区町村で職員が不足しているので、住民にとっても相談窓口が増えるメリットがあり、空き家解消の一助になり得ると期待しています。また、「空き家対策総合支援事業」では、支援法人が行う事業に対して市区町村が支援する場合、国がその同額を補助する制度があります。最大1,000万円の補助が3カ年度にわたって可能です。
小田 お金の話でいうと特定空家の前段階として「管理不全空家」という区分が新設され、所有者が勧告を受けると固定資産税などの特例が受けられなくなります。税負担が増えることで、所有者を動かす効果もあるのではないでしょうか。ただ、管理不全空家の判断基準が個別具体的に示されておらず、多くの自治体で、どう定義するか悩んでいるようです。
今後に期待しつつも、課題がありそうな点は?
丸林 接道義務(幅員4m以上など)を満たしていない場合、基本的に建て替えができませんが「空家等活用促進区域」として定めれば、一定の条件を満たすと可能になります。ただ、区域の設定は自治体単独で進めることはできず、検討段階から特定行政庁と活用指針の策定を協議する必要があります。法改正を含め、お互いに理解を深めるために、丁寧に進めていかなければなりません。
小田 空き家の所有者が不明なケースでは、そもそも指導する相手がいないので、行政ができることにも限りがあり、解決にはとても苦労していました。そんな中、空き家対策として「財産管理人」を市区町村が選任請求できると明文化されたことは非常に意義があると感じています。一方で、制度活用のハードルが高く、全国的に見てもうまくいっている事例はまだまだ少ないようです。
これからの空き家対策は、どのように行うべき?
丸林 国から各自治体に、空家法の基本指針について意見照会があったとき、“共助”の視点を盛り込んでほしいと伝えていました。結局、反映はされませんでしたが、地域住民を巻き込むことが解決手段の一つになると明文化されれば、住民に地域の問題として捉えてもらえると考えたからです。空き家の問題は所有者の自助で解決すべきですが、それができず社会問題になり、何でも「役所が対応して」と言われるのが現状です。防災の共助と同じように、空き家も自治会や町内会で地域の問題として捉え、困っている隣人を支え合えるといいのではないでしょうか。
小田 同感です。空き家の管理責任は所有者にありますが、地域住民が問題意識をもち、地域で取り組んでいくことも大切だと思います。下関市では、令和5年度から3年計画で「DIYリフォーム人材育成」に取り組んでいます。建築士会と連携し、DIYの知識をはじめ、建物の見立てや活用の方法なども考えられる人材を育成。将来的には各地域で消防団のような空き家チームができ上がり、市と連携して空き家の活用や課題の解決に取り組んでもらえればと考えています。また、役所は縦割り組織になりがちですが、空き家に関してはまちづくりはもちろん、移住、農業、産業など様々な活用が考えられます。空き家の担当部署だけではなく、他部署とうまく連携しながら進めることも重要だと思います。
▲空き家DIYスクールにて板材の仕上げ塗装をする様子。