相談窓口から家の終活支援まで幅広い空き家予防策
人気住宅街として知られながら、空き家の数が全国最多※の世田谷区。理由は、不動産売買が進む一方で、新しい空き家が増加しているから。そこで、未然防止の対策へ切り替え、取り組みを進めているという。
※ 総務省「平成30年住宅・土地統計調査」より
※下記はジチタイワークスVol.33(2024年8月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
世田谷区
防災街づくり担当部 建築安全課
空家・老朽建築物対策担当 係長
千葉 妙子(ちば たえこ)さん
価値が高くても放置される空き家の対策方針を転換。
同区は住宅需要が高く、空き家になっても売り出せば早期に買い手が付くケースが多いという。それにもかかわらず、多くの空き家がある現状について、千葉さんはこう振り返る。「令和3年に当区で行った調査では、当時の5年前に把握した空き家の8割は、すでに売却や利活用されていることが分かりました。ところが空き家の総数はあまり減っていなかった。つまり減少数と同程度の新しい空き家が発生していたのです」。
土地の資産価値が高くても放置され、空き家になっているのだという。その理由については、「家を相続した家族が親の家財を整理することに戸惑ったり、数千万から数億円になる不動産売却の決断を重荷に感じたりすることが多いようです」と分析する。
従来は、空き家所有者へ対策を促してきたが、現地調査や所有者探しには手間がかかる。さらに、相続や売却は家族間の問題であるため、行政が踏み込めず、1件解決するのに数年かかることも珍しくないという。一度空き家になってしまうと解決には時間を要し、高齢化が進むにつれて空き家数も増え続ける。そこで取り組みの方針を転換。「既存の空き家への“対症療法”が中心でしたが、“予防”に力を入れるべきだと気づいたのです」。ここから同区の取り組みは大きく変わったのだという。
高齢者を中心に啓発を図り、空き家問題を“自分事”化へ。
まずは、民間企業と連携し、何でも相談できる空き家専門窓口を開設。相談先が分からない人に向けて、足を運ぶハードルを下げ、住んでいる間に相談してもらうねらいがあるという。また、福祉部門にも協力を仰ぎ、民生委員を通じて、窓口を周知するチラシを配布。さらに、高齢者と信頼関係を築けた段階で、遺言書の作成や遺産分割協議などと併せて、家の今後について考えてもらうような声かけや支援も実施している。令和5年12月には、芸能人のトークショーを含む、民間団体などの空き家無料相談会を実施し、今後の住まいについて気軽に考えてもらう機会をつくった。
そうした取り組みの効果は徐々にあらわれてきている。「以前は、当課への問い合わせのほとんどが近隣空き家の苦情でした。最近は『子どもに迷惑をかけたくないので家のことを相談したい』といった高齢者からの連絡が増えています」と手応えを感じているそうだ。「今後も外部の力を借りながら、空き家を“自分事”として考えてもらえるように取り組んでいきます。空き家というと、暗いイメージがありますが、次世代に何を残したいのかという視点で、前向きに考えられるような工夫をしていく予定です」。