PFI手法を用いた総合公園の管理・運営
川崎市では、民間の力を活用するPFI 手法を取り入れ、令和5年3月から30年の計画で、等々力(とどろき)緑地の再編整備・運営等事業を実施している。新しい仕組みを導入した経緯や成果について聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.33(2024年8月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[PR]株式会社東急コミュニティー
神奈川県川崎市
建設緑政局
富士見・等々力再編整備室
室長 磯部 由喜子(いそべ ゆきこ)さん
課長 荒木 信博(あらき のぶひろ)さん
PFI事業スキームで官民連携による公園の再編整備と運営を実現。
等々力緑地は、同市のほぼ中央に位置する総合公園。開園から60年以上にわたり、広く住民に親しまれてきた。多数のスポーツ施設があり、Jリーグ「川崎フロンターレ」の本拠地にもなっている。
「民間の活力を導入する契機となったのは、平成29年の都市公園法の改正や、公園の再編整備において国内初となる“PFI法に基づく民間提案”を受けたことなどです」と話す磯部さん。官民連携を検討する中、令和元年の台風で施設に浸水被害が発生したこともあり、“安全・安心で、さらに魅力あふれる公園づくり”に向けての動きが加速したという。「等々力緑地はスポーツ施設が充実し、豊かな自然に恵まれた環境です。この魅力を活かしてプロチームと連携したまちづくりにも取り組み、住民が楽しめる公園を目指しました」と語る。
同市では、令和4年2月に「等々力緑地再編整備実施計画」を改訂し、再編整備と管理運営を含めた一連の事業を官民連携により進めることに。「東急」を代表とする企業グループが落札し、事業を遂行する特別目的会社(SPC※)「川崎とどろきパーク」を新設。事業全体を統括し、市との協議や業務の手配などを行う。また、SPCからの委託を受け、東急コミュニティー」が緑地全体の維持管理を担っている。
※SPC=Special Purpose Company(ある特別な事業を行うために設立された事業会社)
再編整備後の主な施設
●球技専用スタジアム
●とどろきアリーナ
●陸上競技場
●等々力球場
●テニスコート
●芝生広場
●ランニングコース
●スポーツセンター・プール
●第1・第2サッカー場
●運動広場・多目的広場
●ストリートスポーツ広場
民間の意見を広く取り入れ約30億円の財政負担削減へ。
等々力緑地の事業では、民間の資金を活用して公共施設を整備・運営するPFI手法が採られている。来年度からは、新設や改修を含む、ほぼ全ての施設の再整備が行われていく計画だ。駐車場、建て替え予定のアリーナと球技専用に改築予定のスタジアムは、運営権を民間に設定するコンセッション方式を採用。「スタジアムは試合以外の日が空いてしまうため、イベント開催に充てるなど民間のノウハウを有効活用できると思い、この方式を選びました。また、指定管理者が飲食や物販などの自主事業もできるため、収益に結び付くと考えています」と荒木さん。同市が従来型の手法で事業を実施する場合と比べ、財政負担を30億円ほど削減できると試算しており、これは事業全体の約11%にあたるという。
事業計画の策定にあたっては、マーケットサウンディング調査を行い、19団体にヒアリングした同市。「採算性が確保されなければ、民間事業者には手を挙げてもらえません。事業手法や施設の管理運営など、専門家の多様な意見を参考にしました」。住民からもパブリックコメントを募集し、スタジアムの観戦環境、植栽管理、子どもの遊び場などの要望が400件以上寄せられたそうだ。事業計画には様々な意見が反映されている。
民間運営でにぎわいが生まれ緑地全体の利便性が向上。
事業開始から1年以上が経ち、等々力緑地では民間の運営によって新たなにぎわいが生まれている。スポーツ競技以外にも、かけっこ教室やラグビー教室など、プロチームと連携した住民向けの体験教室が開かれるようになった。ほかにも、ドッグフェスや、スポーツ施設を活用したウエディングフォト、ナイトヨガなど多彩なイベントが行われ、利用者の幅が広がっている。「体験教室は皆さんから好評で、まちづくりの一環として今後も力を入れていきたいです。イベント開催時の周囲への配慮に関しても、SPCが近隣の町会とコミュニケーションを取るなど、良好な関係を構築してくれています」と磯部さん。一括運営となったことで、広報から出演者の調整、警備まで一貫して行われ、円滑なイベント運営につながっているという。
また、等々力緑地全体のホームページができたことで、施設ごとにバラついていた情報発信がまとめてできるように。「問い合わせ窓口も一本化されたので、住民も利用しやすくなったと思います。落とし物の対応や、施設を横断した情報提供もしやすくなりました」。
専門的かつ細やかな管理で住民から喜びの声が届く。
維持管理の面でも変化が見られるという。スタッフが緑地内に常駐するようになり、日常的に清掃が行われ、植栽の管理も行き届くようになった。近隣住民からは“管理する事業者の顔が見えるようになった”と好評だそう。「公園全体がきれいになりましたね。夜間も警備員が巡回しているので、防犯の面でも安心感があります。設備の破損や、利用者のマナー違反にも早く気づけるので助かっています」。また、広範囲にわたる樹木の手入れなどについては、近隣の町会と意見交換を行いながら作業内容やスケジュールを決め、ホームページで予定を公開しているそう。民間運営の強みを活かし、地域とつながったよりきめ細かな維持管理が進められている。
スポーツ施設の維持管理では、安全で快適に競技ができるようスポーツ種目に応じた専門知識が必要とされる。例えばサッカーとラグビーでは芝の荒れ方が違うため、競技スタイルを踏まえた適切なメンテナンスが必要だ。「管理が行き届いているので、等々力の芝は選手からもサポーターからも評判がいいんですよ」と、荒木さんがうれしそうに話す。
目指す将来像を明確にして誰もが心地いい公園をつくる。
スポーツ施設の官民連携事業は国も推進しており、スポーツによる地域活性化が期待されている。「連携事業を進める上で大事なのは、行政が公園全体の将来像をしっかりもち、民間提案に求める水準を明確に打ち出すこと。これが事業の基盤となり、全体に大きく影響します。そして、事前に専門家や住民から多様な意見を聞き、近隣住民やスポーツ団体に十分な説明をすることです」と磯部さんは話す。事業開始後は、行政が運営状況を把握し、SPCに適切な指導や助言、調整をしていくことも重要だという。
等々力緑地はスポーツ施設を中心としながらも、公園という大きな枠組みがある。「スポーツ施設を使う人だけではなく、普段公園を利用する人も気持ちよく過ごせるように、緑地全体の理想を大切にしています」。今後は、サッカーを間近で観戦できるゼロタッチ席を設けたり、カフェをオープンしたり、楽しめるプランを次々と実現していく予定だそう。
住民目線を大事にしたビジョンを掲げ、目指すべき姿を明確に打ち出して、民間との協力関係を構築してきた同市。これからも円滑な連携を図り、スポーツと自然が融合する等々力緑地を拠点に、まちの未来をつくっていくだろう。
東急コミュニティーのスポーツ施設におけるノウハウと実績
等々力緑地における維持管理ノウハウ
スポーツ施設管理受託実績
下記スタジアム以外にも、アリーナや体育館の実績も豊富!
エスコンフィールド HOKKAIDO
所在地:北海道北広島市(きたひろしまし)
日本初の開閉式屋根付き天然芝球場の運営管理を実施。球場を中核として、ホテル・温浴施設・レストランなどを備えるスポーツ・エンターテインメント施設「北海道ボールパークFビレッジ」全体の維持管理を行っている。
小笠山総合運動公園(エコパスタジアム)
所在地:静岡県袋井市(ふくろいし)
「小笠山総合運動公園」の指定管理者として、約5万人が収容できる多目的競技場を管理。多様な維持管理に加え、「ラグビーワールドカップ2019™日本大会」やアーティストのコンサートなど、大型イベントを裏で支える。
東急コミュニティーの対応領域の広さと実績
経験を活かした広い守備範囲と顧客視点に立ったサポート力
管理業に対する社会のニーズに応え、広く事業を展開している同社。等々力緑地では、運営企業や様々な関係者と連携し、スポーツ施設を含む緑地全体の維持管理を担っている。経験にもとづく豊富なノウハウがあり、臨機応変さや、類似施設から得た引き出しの多さ、提案力が強み。等々力緑地では多様なイベントが開催されるため、関係者も多く通常の役割分担ではカバーし切れない“業務の隙間”ができやすい。利用者の満足を第一に考え、時には維持管理の領域を超えてサポート。隙間ができない対応を大切にしている。
セミナー情報
「スポーツ施設を核とした公園再編整備・運営における官民連携の実例とポイント」
令和6年8月29日(木)14:00~16:00
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PPP/PFIの活用や、スポーツ施設の官民連携に関する情報に加えて、「等々力緑地再編整備・運営等事業」に関する川崎市の事業検討プロセスや民間事業者の取り組みなどを紹介。
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