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【Day1 セミナーレポート】能登半島地震の現状と教訓~被災自治体・被災地応援職員からの共有~

令和6年1月1日に発生した能登半島地震。最大震度7を計測し、様々な“想定外”も重なったため、被災者支援は困難を極めました。現地はまだ復興の途上にありますが、そこでいくつかの課題も見えはじめています。

このセミナーでは、珠洲市の市民課長をはじめ、応援自治体の職員、防災ソリューションを提供する企業の担当者らが登壇し、災害対策の今後について意見を交わしました。当日の内容をダイジェストで紹介します。

Day2のレポートはこちら

概要

□タイトル:能登半島地震の現状と教訓 ~被災自治体・被災地応援職員からの共有~【Day1】
□実施日:2024年5月15日(水)
□参加対象:自治体職員
□開催形式:オンライン(Zoom)
□申込者数:455人
□プログラム:
 第1部:令和6年能登半島地震の災害対応の現場[インタビュー]
 第2部:応援に行って何を感じたか?~能登半島地震の災害対応の教訓~
 第3部:得られた教訓をこれからの防災にどのように生かしていくか[対談]
 第4部:マイナンバーカードで安否確認・避難所受付を効率化する「ポケットサイン防災」
 第5部:GPS人流データを用いた帰宅困難者対策支援
 第6部:風水害から市民の命を守る避難確保計画システムで「逃げ遅れゼロ 被災者ゼロ」を目指して


令和6年能登半島地震の災害対応の現場 [インタビュー]

第1部では、今回の震災で甚大な被害を受けた珠洲市の市民課長が登壇。防災のスペシャリストであり、災害対応の経験も豊富な岩国市の佐伯さんがインタビュアーを務め、報道からは見えてこない現場の状況や、様々な課題、献身的な活動を続けた職員の様子などについて聞いた。

【登壇者】

高田 吉明氏
石川県 珠洲市 市民課長

【インタビュアー】佐伯 欽三氏
山口県岩国市 周東総合支所 玖珂支所 地域振興班長

プロフィール

1990年に岩国市役所入庁。障害者福祉・社会教育・人権等の部署を経て現職。内閣府防災スペシャリスト養成研修、日本DMATロジスティック隊員養成研修を修了、元山口県災害ボランティア養成研修プログラム策定委員会委員など、様々な災害対応の活動にも取り組む。

 

【応援業務内容】

派遣先の自治体:輪島市
派遣期間:2月23日~2月28日
派遣先での業務内容:被害認定調査業務における調整区域の調整や調査班の疑義紹介対応等の運営班業務


限界寸前の状況の中で感じた応援自治体からのサポートの重み。

佐伯:能登半島では、近年大きな地震が相次いでおり、様々な負荷がかかっているところへこの震災が発生しました。こうした背景を踏まえ、珠洲市の高田さんから話を伺います。まず、復旧・復興の経過と現状を教えてください。

高田:市民課では罹災証明の受付・発行業務を進めています。現在も罹災証明関連で1日に20名程度の来庁があります。発災当初は避難所運営や物資の確保に多くの人員を割きました。ただ、市民課職員12名のうち、約半数が道路の損壊などで登庁できない状況でした。こうした中、1月9日から罹災証明の受付を始めたのですが、4日間で1,600件が殺到しました。

佐伯:1,600件というのはかなり大量ですが、そうした状況でどのようなことを感じられましたか。

高田:住民はこれまでの地震経験もあったので、とりあえず申請して調査してもらいたい、という気持ちだったと思います。当初はロビーで対応していたのですが、人があふれて、応援がないと不可能な状況でした。応援は、千葉市から5名、松江市から2名の7名体制。罹災証明を交付してからは22名体制です。4月以降は少し落ち着いたので8名体制になりました。

佐伯:大変な状況が垣間見えます。被災前に備えておくべきことや、体制について思ったことがあればお聞かせください。

高田:これだけの規模の震災があると、通常業務をこなしながら人員、会場選定、体制構築をするのは全て手探りでした。例えば、斎場が被災して稼動できなくなり、金沢の方で火葬をする、といったことも起きます。応援の方々には、「この人数でこれだけの業務をやっているのか」と言われました。

確かに大変さはあった。それでも災害の規模をイメージしてシミュレーションしておくべきだったとは思うのですが、今回の罹災証明の発行に関しては、新しいシステムを使ったこともあり、マニュアルの準備も間に合わなかったのが実情です。

また、我々も本当に手一杯で、応援職員の宿泊場所も手配できない状況でした。初めの頃は庁舎のロビーなどで寝泊まりしていただき、本当に悪い環境だったと思っています。

佐伯:私も阪神・淡路大震災で神戸、東日本大震災で石巻、今回は輪島と応援に入ったのですが、執務室の床で雑魚寝という風景はどこでも見られました。応援に入る職員にも覚悟が必要だと思います。高田さんから、被災地に入る応援職員にメッセージがあれば。

高田:被災自治体では目の前のことを処理するのに精いっぱいで、気力や体力がそがれ、中長期的な視点での業務が困難になります。私自身も自宅が全壊し、早くこの現実から抜け出したいという感覚が常にあって、精神状態は良くありませんでした。そんな中で応援職員が来てくれて、精神的に大きな助けになりました。今は「頑張ってやりきろう」という心境です。

2カ月連勤、ガソリンの枯渇…質疑応答から垣間見える極限状況。

佐伯:ここからは参加者からの質問です。まず受援体制について。「応援職員は寝食を自己完結型で来てもらう方がいいと思われますか」というものです。

高田:ボランティアの方などは自己完結型であれば、受援側としてはありがたいのですが、自治体の応援職員については、地域のことが分かるのは地元の自治体なので、受援者の側で配慮できることはすべきだと思います。

佐伯:続いて、勤務状況に関する質問です。「災害時のローテーション勤務などを検討していますが、発災後はどのくらい連続勤務しましたか」というものです。高田さん自身はどんな状況でしたか。

高田:管理者としてどうかとは思うのですが、発災から2カ月ほど休みなく働いていました。その代わり職員には休みをとってもらっていたので、当番的な感じで自分が出ていた部分もありました。軌道に乗るまでは仕方なかったと思っています。

佐伯:次に、「災害備蓄品で“これは”というものがあればご教示ください」という質問です。

高田:必要なものは多いのですが、水がまだ行き渡っていない。今でも通水は70%くらいで、こんなに出ないというのは想定外でした。また、ガソリンが非常に不足しました。給油所が開いていないので、通勤するためのガソリンもないのです。

佐伯:最後に、高田さんから何かひとことお願いします。

高田:本当に、応援の方々がいなければここまでできなかった。私自身、数年後に退職ですが、今回の地震を経験して、“被災者支援、恩返し”を今後のライフワークにしていきたいと思い立ちました。当面は支援をいただいた皆さんの顔を思い浮かべながら、目の前の震災業務をやり抜きたいと思っています。今後ともご支援をお願いします。

応援に行って何を感じたか?~能登半島地震の災害対応の教訓~

能登半島地震では、全国の自治体から集まった応援職員が被災地を支えた。自分がいつ受援者の側になるか分からない状況の中、自治体はどのような心構えをしておけばいいのか。珠洲市の応援に入った千葉市の職員が現地での活動を総括する。

【登壇者】中野 保 氏
千葉県 千葉市 総合政策局 危機管理部 危機管理課 課長

プロフィール

2000年入庁。防災対策課(2000年~2003年)、危機管理課(2017年~2020年)、花見川区地域振興課くらし安心室(2022年)、危機管理課(2023年~)で危機管理・防災対策に関する業務に従事。

 

【応援業務内容】

派遣先の自治体:珠洲市
派遣期間
 1月20日~1月29日
 3月21日~3月27日
 4月9日~4月15日
派遣先での業務内容:罹災証明書交付業務

 

松江市とタッグを組み、4月末まで続けた千葉市の支援活動内容。

当市では、地震発災後すぐに連絡体制を整え、1月3日に危機管理部の管理職が参集して協議。応援に向けての認識統一を図りました。翌4日には指定都市市長会による調整で、珠洲市への派遣が決定しました。

派遣職員については、毎年実施している被災地派遣の意向調査に基づいて選定。危機管理部の職員を総動員して周辺の宿泊施設に電話をかけ、珠洲市役所から80kmほど離れた志賀町のコテージを確保しました。移動手段は、石川県のバス協会から珠洲市のバス会社を紹介していただき、契約。そして1月6日の朝に、第1団の10人が千葉を出発しました。

当市は松江市と共に、罹災証明書関連業務を4月30日まで継続しました。上記が派遣期間と人数です。職員はおおむね1週間で入れ替えを行い、状況を見ながら人数を調整して、最大20名を派遣。最終的に窓口が落ち着いたということで6名になりました。千葉市と松江市でペアを組んで良かった点が、引き継ぎのタイミングをずらすことができ、当市で新しい職員が入ったら松江市の職員はすでに何日か経験しているので教えてもらう、という形でスムーズな引き継ぎができたことです。

ここからは、現地で具体的に感じたことを伝えます。まず職員の宿泊ですが、当初は志賀町のコテージを使用していましたが、半数は市役所の床に段ボールやマットを敷いて寝て、その後多くの職員は能登高校、のと海洋ふれあいセンターと移動。徐々に珠洲市役所へ近づき、移動負担も軽減されていきました。特に能登高校、のと海洋ふれあいセンターでは、テントや簡易ベッド、食糧も提供いただき非常にありがたかった。のと海洋ふれあいセンターではシャワーも使えるようになっており、自衛隊が毎日給水をしていたということでした。こちらにも感謝しています。

また、物資に関しては千葉県のトラック協会と連携して、飲料水、アルファ米、毛布などの輸送を行い、職員にもパソコン、衛星電話などを貸与。足りないものは現地付近で調達しました。簡易ベッド・電子レンジ・電気ポットは当市の管理職が寄贈。千葉市全体で被災地派遣への関心が高かったと感じています。

次に業務について。当市は罹災証明書交付業務に関して、受付、調査、交付、統括と大きく4つの業務に携わりました。この中で、非住家を含む全棟調査を実施したという点が特徴的だと思います。これにより、周辺自治体と比べて罹災証明書の交付が早くなったそうです。また、被災者支援制度は半壊以上が支援対象となるものが多いので、準半壊、一部損壊で再度申請する方も多くいました。実際、再申請で二次調査をすると、前の調査から判定が変わる場合もあり、各職員にこのあたりの説明はきちんと市民にするように、ということを共有しました。


自治体同士だからこそ痛みが分かる。派遣された職員たちの所感について。

今回派遣した職員には、事後アンケートを実施しています。回答者は220名で、以下のような内容です。

具体的な意見として、必要な物資としては寝袋など睡眠関係のものが目立ちました。また、市民からのクレームや反応について聞いたのですが、「感謝の言葉をいただいた」という回答が多数。現場で“千葉市”という名前を出してやっているので、クレームになりづらい状況だったとも推測されます。その他、断水のために飲み水、トイレ、入浴、洗濯などで非常に困ったため、「千葉市でも対策を」という意見がありました。総じて、被災地に行った職員にとっては非常に良い機会だったと言えます。

最後に、危機管理部署の所感を上記にまとめています。まず、珠洲市職員も被災者なので寄り添った対応が必要だということ。派遣職員の説明会でも、危機管理監から「珠洲市は自らやりたいこともできない状況だという点を忘れずに」という話を毎回しました。

次に具体的な提案ですが、受援者側は遠慮してしまうこともあるので、「何かありますか」ではなく「この仕事を千葉市がやってもいいですか」というコミュニケーションを心がけました。そして、決定権は被災地にあるということと、引き継ぎ後は限られた人員で業務を続けなくてはならないことを踏まえ、できるだけ効率的に、マニュアルなどもまとめて簡易的なものにしておく必要があると思います。

あとは派遣職員の管理。各職員ともモチベーションが高い状況なので、それを削がないような仕事の割り振りをしつつ、休憩や健康管理も行う必要があります。

最後は、後方支援です。派遣に行った職員がスポットライトを浴びがちですが、人数が減った分は残った職員が大変になります。その状況を支えてくれたからこそ派遣も成り立っているということを忘れてはいけません。

珠洲市では、我々を温かく迎えて入れていただき、大変感謝しています。復興はまだ続くので、今後も千葉市としてサポートしていきたいと考えています。

得られた教訓をこれからの防災にどのように生かしていくか[対談]

4カ月近くにわたって続けられた、千葉市の支援活動。その中では何が困難となり、どのような学びがあったのか。佐伯さんが再びファシリテーターとして登壇し、さらに掘り下げた内容を紹介する。

【ファシリテーター】

佐伯 欽三氏
山口県岩国市 周東総合支所 玖珂支所
地域振興班長

【登壇者】

中野 保氏
千葉県 千葉市 総務局 危機管理部 危機管理課 課長

3カ月以上経っても洗濯はできず…想定以上に過酷な被災地の状況。

佐伯:第2部に続き、ここからは中野さんとの対談パートに入ります。まずは参加者から寄せられた質問です。「インフラの被害について、ガス管の被害はあったのでしょうか。あるいは都市ガスは未整備だったのでしょうか」。これについてはいかがでしょう。

中野:珠洲市だけでなく、他の街もまわったのですが、都市ガスはかなり少ないようでした。ガス被害はあまりなかったと思います。

佐伯:次に、「派遣の間、困ったことはありませんでしたか」という質問です。

中野:洗濯はできません。4月になってからもできないということでした。上水道は一部通水したのですが、下水が通っていないので水は使わないでくださいという状況だったのです。我々は1週間の我慢で済むのでそれを前提としていましたが、市民の方は今でも苦労されているのではと思っています。

佐伯:私からも質問です。千葉市では、毎年派遣の意向について調査されているということでしたが、これは以前からやっているのか、それとも何かのきっかけで始めたのでしょうか。

中野:かなり前から実施しています。派遣の意向だけを聞くものではなく、人事異動に関する意向調査です。秋口に全職員を対象として様々なことを聞く中で、「被災地への派遣を希望しますか」、「国への派遣を希望しますか」、といったことを毎年確認しています。そのデータを人事課が持っているので、そこから「行きたい」という職員へ個別にあたってもらった、ということです。

ベストでなくても、限られたリソースでできる限りの支援を。

佐伯:応援で感じたことの中で、具体的な提案や、珠洲市職員も被災者であるという視点は大事だと感じました。一方で、現場で具体的な提案をするのが難しいことも被災地ではあるのではないかと思います。被災地にきちんと寄り添うためには、何に気を付けたら良いのでしょうか。

中野:おそらく、「やってほしい」というところはあって、でもやはり「負担をかけたくない」という部分もあると思います。私は第3団だったのですが、それより前に、第1団・第2団で行った管理者の職員から、珠洲市役所の職員はこういった方々で、こういった形で進めた方がいいのではないかと、情報の蓄積・共有ができていたので、積極的に行こうということになりました。こうした情報は役に立つと思います。もちろん現場でのバランスも必要ですし、あくまでも相談するというイメージですが、「これは千葉市でやらせてもらってもいいですか」と積極的な感じで提案しました。被災自治体の職員に、できるだけ休んでいただくことを念頭に置いてサポートしました。

佐伯:職員の中でも意識の高い人材は、今後千葉市でも防災や災害対応で活かしていくということもあると思いますが、それについて何か考えるところはありますか。

中野:個人的な考えですが、被災地に行くと「災害に対して何かしなければ」という意識は高まると思います。私は3回行きましたが、そうした意識の高い職員が多いというのが私の気づきにもなりました。それまではどちらかというと、防災部署とそれ以外の職員で防災意識の格差があるのではないか、という前提で職員の啓発や訓練などを考えていたのですが、職員も私もイメージが少し変わってきたのかなと思います。今後、職員一体となってやれることがあるのでは、ということを感じました。

佐伯:最後に、参加者から「被害認定調査を派遣職員のみで行ったということですが、地理の不安とか、困ったことなどはありませんでしたか。地元の人がチームに1人いた方がいいのでは」という質問です。

中野:おっしゃるとおり、私も地元の人がいた方がいいと思っていましたし、今でもそう思っています。ただ現地では、職員が少ないという状況の中でやらなければならず、初めての職員2人でまわりました。そうした中、細かい部分で多少支障はありましたし、ベストではないかもしれませんが、それでも対応ができた。これは私も、今回の経験で気づいたことでした。

マイナンバーカードで安否確認・避難所受付を効率化する「ポケットサイン防災」

被災者の支援においては、その年齢や性別、家族構成など具体的な状況に合わせたサポートが必要になる。そこでポケットサインが提案するのがマイナンバーカードを活用したシステム。同社代表がその仕組みと有用性を解説する。

【登壇者】梅本 滉嗣氏
ポケットサイン株式会社 Co-Founder、代表取締役 CEO/COO

プロフィール

日本学術振興会特別研究員DC1(京都大学 基礎物理学研究所)、ダルマ・キャピタル株式会社取締役。Head of Researchを経て、2022年8月ポケットサイン株式会社を共同創業。2023年4月代表取締役に就任。理学博士(京都大学)/東京大学法学部卒。


災害時の混乱した状況では、避難者の属性を知ることが困難に。

当社では、マイナンバーカードを専門に取り扱い、防災に関するサービスを開発しています。マイナンバーカードを民間事業者が扱うための大臣認定ライセンスも保有しており、自治体においては宮城県をはじめ、熊本市、長井市、境町、能美市などにサービスを提供。ここではそうした企業の視点で、災害対策について伝えます。

まず、能登半島地震について。内閣府の資料によると、避難所運営では状況把握の部分に課題感が見られたとあります。自主避難所や孤立集落はもちろん、指定避難所でも情報が集約されていなかった。自治体でも避難者の属性やニーズを把握するのが大変でした。さらに在宅避難や域外避難など様々な方がいて、情報把握が難しくなります。これを、被災者の人流という観点で見てみましょう。

上のグラフでは、オレンジの線が一次避難者の数で、ピーク時の約4万人から次第に下がっています。グレーの線が二次避難者の数で、時間が経ってから増えてくる。青色のバーは避難所の数で、災害直後は4万人が400程度の避難所にいた。大ざっぱに避難所に平均100人いるイメージですが、こうした状況で誰がどこにいるのか把握するのは困難です。

また、時間が経つにつれて避難者は自宅に帰ったり、二次避難所に移転したりと、人の動きが発生します。そのため、状況把握はもっと大変になる。さらに二次避難所を案内するときには高齢者を優先するなど、個人の属性が必要になる。仮設住宅ができればその申し込みに関する話も出てくる。そして、その間にも人は移動する。災害時に被災者と行政が関わる上での難しさだといえます。

災害時には、継続的に個人の情報管理をしなくてはならず、デジタル化を行う余地が大きい。通信インフラを整えることも含めて、もっとレジリエンスを上げていけるはず。そのカギになるのがマイナンバーカードです。

暮らしの中で使えるアプリを、非常時の命綱として活用する。

当社が提供する仕組みでは、マイナンバーカードについているICチップを活用します。このICチップの中には色々な機能が入っており、特に有名なのが公的個人認証AP。これは、私は誰で、どこに住んでいて年齢はいくつといった情報と、マイナポータルから取得できる世帯の状況などを確認できる装置です。こうしたものを、災害時に活用できるサービスを提供しています。

現在、マイナンバーカードの保有率は8割以上。ただし、デジ庁によると、マイナンバーカードを持ち歩いている人は45%程度です。また、情報の吸い上げは可能でも、行政から住民に連絡することはできないという課題があります。

そこで我々が採用した形式がスマホアプリです。名称は社名と同じ「ポケットサイン」で、最大の特徴はマイナンバーカードを使って登録するということ。公的個人認証を使って、住所や性別、生年月日など正確な情報を登録することができます。さらに最新のトピックとして、引っ越しで住所が変わったとか、名前が変わったといった場合にアプリを自動更新できる制度も始まっています。これが継続管理に向いているのです。

ベースになるアプリが上図で、画面下に“ミニアプリ”というアイコンが並んでおり、ここに防災の機能を入れています。この構成はフェーズフリーを見越しているから。様々な機能がある中に防災機能が入っており、アプリを日常的に使う中で防災機能も自然に使える仕組みになっています。

防災機能の使用例として分かりやすいのが避難所の受付です。避難所に二次元コードを設置してスマホで読み取るとチェックインでき、自治体では避難者の情報が把握できます。宮城県で行った実証実験では、100人の被験者で紙とポケットサインでの受付業務を比較したところ、ポケットサインでは紙の14倍の受付スピードがあることが分かりました。

もちろん受付だけでなく、例えば災害発生時のプッシュ通知、アレルギー情報や要配慮者の登録もできます。さらに安否確認をGPS情報付きで送信する、不足物資をヒアリングする、仮設住宅への入居アンケートをとるといったことも可能。これらを本人確認が済んだ状態で実現できます。

導入事例として、宮城県では防災を起点として、その他のサービスも導入されています。例えばアンケートやインフラ通報、地域ポイント、健康ウォークの取り組みなどで、フェーズフリー性が出ています。また、熊本市では“くまもとアプリ”というものが登場したのですが、バックグラウンドでは当社の仕組みが動いています。能美市や境町は防災に特化した導入になっており、そうした単体での導入も可能です。

大切なのは住民と行政とが円滑につながることで、こうしたツールによって職員は職員にしかできないことに集中できる。そのお手伝いをしたいと当社では考えています。

GPS人流データを用いた帰宅困難者対策支援

災害が起きるたびに発生する、多くの帰宅困難者。社会問題化しているこの課題に対し、ビッグデータを活用して発生数を予測するシステムがあるという。サービスを提供しているゼンリンデータコムの担当者がその仕組みと活用法を解説する。

【登壇者】横山 雄大氏
株式会社ゼンリンデータコム IoT第二事業部 リーダー

プロフィール

株式会社ゼンリンデータコム入社後、防災アプリ向けマップ提供のPMを務めた後、人流データ等のビッグデータを扱う法人営業に異動。年間100社以上への提案活動を行う。現在も自治体防災システムへのデータ提供に携わっており、防災活用提案を得意とする。


人流データで帰宅困難者数を推定する“4つのメリット”とは。

当社はゼンリンのグループ会社で、地図データを基盤に、位置情報ソリューションを展開しています。このパートでは、GPS人流データを用いた帰宅困難者支援と、ビッグデータ解析サービスの混雑統計®について話します。

まず、帰宅困難者対策の重要性について。能登半島地震では、年始の帰省や旅行で訪れていて帰宅できなくなった人が多くいました。このような帰宅困難者の発生に備えるため、各自治体で取り組みが進められています。

例えば、東京都では帰宅困難者対策ハンドブックを作成するなどの対策に取り組んでおり、多くの自治体でもEBPMの取り組みが実施されています。EBPMではPDCAサイクルをまわしていくことが求められ、“プラン”の段階で発災時の帰宅困難者数を想定しておくことで、避難所の整備や備蓄の管理などが進み、より有効な防災対策になり得ます。

次に、帰宅困難者の数を把握する手法について。これまで、帰宅困難者数を事前に想定する手法は確立されていませんでした。そこで、人流データを用いて想定帰宅困難者数を把握する方法を提案します。

当社の人流データでは、居住地や勤務地の推定が可能です。その上で、居住地からも勤務地からも遠い人は身を寄せる場所がないことが想定され、帰宅困難者としてカウントできると考えています。また、遠距離徒歩帰宅者は年齢によって帰宅困難になる可能性もあるため、年代属性も合わせて取得することで、より実態に近い帰宅困難者支援につながります。

こうして人流データで帰宅困難者数を推定するメリットは4つあります。

1つ目は、居住地と勤務地属性を利用して想定帰宅困難者数を把握できる点です。これは避難所の整備などに寄与できるデータだと考えています。
2つ目は、年代属性が利用可能なこと。長距離を歩いて帰るのが難しい高齢者などの分布を確認することで、より実態に近い帰宅困難者数を捉えることができます。
3つ目は、季節性や大型連休を考慮できる点です。能登半島地震のような元日の発災や、通常と人の動きが違うときに災害が起きる可能性もあり、こうしたことに備えられます。
4つ目は、最新のデータを任意の時点で調査可能という点です。例えば最近では、北陸で新幹線の延伸がありましたが、こうしたイベントに合わせて人の動きが変わることが考えられるので、任意の時点で調査できることが強みになります。

デジタルの力で人流を先読みし、帰宅困難者の対策を進める。

次に、人流データの活用案です。具体的にどのようなデータを取得してどう活用すればいいのか、実際に取得したデータをもとに例示します。

紹介するのは、帰宅困難者の発生予想データです。想定発災時刻ごとに、自宅からの距離のレンジに分けて、近距離徒歩帰宅者、遠距離徒歩帰宅者、帰宅困難者と、それぞれの数を集計します。また、勤務地が近くにある人は職場への避難も可能なので、周辺勤務地の有無についても判定します。ここで補足ですが、居住地と勤務地については、ユーザーの測位頻度と滞在時間から推定しています。高頻度で滞在しているエリアのうち、最も滞在時間が長い場所を居住地、2番目を勤務地として判定しているのです。

ここからは、当社の人流データである混雑統計®を紹介します。

混雑統計®は、GPSの位置情報データから作成するサービスです。居住地や勤務地のほか、宿泊地なども推定できるので、どこから来たのかといった出発地の分析も可能。ほかにも、どのようなルートを通ったのかという経路の分析、どのような交通手段で訪れたのかという手段の分析、旅行での立ち寄り場所の分析もできます。

この混雑統計®について、主な強みを紹介します。

1つ目はサンプル数が多いという点。日本人口の4%以上をカバーしています。そしてもう1つが、サンプルの質が良いという点です。30日間中、20日間以上データを上げているユーザーの割合が約94%と、分析上のノイズが少なくなっています。※2024年5月時点

具体的な活用シーンを挙げると、まず防災に関連する事例があります。混雑統計®では路線別の通勤者数を把握でき、これを調査することで、どの路線が運休するとどの程度の通勤者数に影響するか推定できます。あるいは、エリア別のテレワークの普及率を調査することも可能です。これを確認することで、勤務地での被災数を推定することができます。このようにして得た情報と帰宅困難者数のデータを併用することで、より高い解像度で帰宅困難者対策ができるようになると考えています。

本サービスは、防災以外にも、まちづくり、交通、観光などの分野で多くの自治体から相談を受けています。また、プライバシー保護について、混雑統計®では適切に統計化してデータを提供しています。RESASでの採用をはじめ、官公庁や自治体での実績も多いので、安心してご活用ください。

※「混雑統計®」データは、NTTドコモが提供するアプリケーションの利用者より、許諾を得た上で送信される携帯電話の位置情報を、NTTドコモが総体的かつ統計的に加工を行ったデータ。位置情報は最短5分毎に測位されるGPSデータ(緯度経度情報)であり、個人を特定する情報は含まれない。

 

風水害から市民の命を守る避難確保計画システムで「逃げ遅れゼロ 被災者ゼロ」を目指して

セミナーの最後は、横浜市地域防災課の職員が登壇。施設の避難確保計画に関するシステムをともに開発したネオジャパンの担当者と共に、取り組みを振り返りつつ、災害対策の一環としてのIT活用について情報を共有した。

【登壇者】原田 修太氏
株式会社ネオジャパン 執行役員 管理部 社長付特命部長

プロフィール

2008年株式会社三井住友銀行に入行。主に中堅・中小企業の法人営業に従事。2020年ネオジャパンに入社。総務、経理財務、人事等の管理業務と並行し新規事業開拓にも従事。今回の「Y- Hack!」参画のきっかけをつくる。


【登壇者】山本 雄輝氏
株式会社ネオジャパン プロダクト事業本部 プロセス改革部

プロフィール

2021年入社。ノーコードアプリ作成ツール「AppSuite」アプリ作成チームで数々のアプリ作成支援に携わる。本件では、課題洗い出し、原因分析、評価方法策定支援、要件定義、アプリ作成までほぼ全ての工程を担当。


【登壇者】

横倉 光氏
神奈川県 横浜市 総務局 危機管理室 地域防災課

プロフィール

2018年4月入庁。総務局危機管理室地域防災課職員として従事。2022年より「Y-Hack!」Gate1「避難確保計画」作成プロジェクトチーム参画。


自治体・施設双方のUI向上で計画提出率の向上を図る。

原田:ネオジャパンは1992年に創業したソフトウェアメーカーで、グループウェア「デスクネッツネオ」、ノーコード業務アプリ作成ツール「アップスイート」、ビジネスチャットの「チャットラック」などのビジネスコミュニケーションツールを提供しています。デスクネッツネオは自治体・政府機関でも1,100以上の団体が導入。都道府県庁では1/3以上で利用いただいています。

ここでは、アップスイートとデスクネッツネオを活用し、横浜市と一緒に開発した「避難確保計画システム」について、同市の横倉さんと、当社のアプリ開発担当・山本から話を聞きたいと思います。まずは横倉さんへ。避難確保計画作成において、どのような課題があったのでしょうか。

横倉:要配慮者利用施設と呼ばれる施設では、法律で避難確保計画の策定が義務付けられています。利用者の安全を守るために、実効性の高い計画策定と、計画の作成作業の負担軽減、そして提出率・策定率の向上が課題でした。具体的には、計画をつくる施設の管理者の防災知識が浅く、計画自体も実効性が乏しいものだったことがあり、作業の負担も多かったため職員と施設側の手間がかかっていた。また、対象の2,600施設中、約330施設が何度依頼しても提出されない状況でした。

原田:こうした課題に向けて、当社が構築したのが避難確保計画システムです。上図が実証実験を行った際のシステムの概要で、地域防災課、区役所、施設管理者など複数の組織・職員が同じシステムを共有することで、入力や確認の手間を最小限にできる仕組みを構築しました。詳細を山本から説明します。

山本:当システムの入力画面では、計画を作成するのに必要な項目が用意されており、管理項目は「災害種別」、「避難経路」、「防災体制・役割」、「備蓄品の管理」、「防災教育および訓練の実施計画」の5つです。

システム上で、必須入力箇所が未入力もしくは正しい値でない場合、エラーが表示されます。これにより、実効性の高い計画書の作成につながると考えます。

避難経路図に関しても、市が提供するハザードマップと連動させ、計画作成時の実効性や作業負担の軽減につなげています。また、避難確保計画が未提出でデータの更新が数日間行われていない場合、対象者に催促メールを自動送信。その他、施設管理者と自治体がコメントでやり取りすることも可能です。コミュニケーションを向上させ、時間の削減に貢献したと考えています。以下がシステムのデータ一覧画面です。

自治体の管理者がログインした際には全施設の情報を表示しますが、施設の管理者がログインした際には、該当施設のデータのみを表示。キーワード検索や絞り込み条件が指定でき、画面上で提出数と提出率も算出可能です。管理者の使いやすさを重視しました。

2つのシステムを活用し、逃げ遅れゼロ・被災者ゼロを目指す。

原田:このシステムで実証実験を行った結果、どのような効果があったのでしょうか。

横倉:従来は紙のマニュアルを都度参照しなければならなかったのですが、ガイドの表示だけで参照でき、横浜市のハザードマップもすぐに見られるようになりました。さらに、メールや電話、郵送などで対応していた計画のやりとりがシステム内で完結できます。その結果、未提出だった施設の約3割が計画を策定。我々の方でもシステム上で計画内容を確認し、実効性も向上していることを実感しています。施設へのアンケートでは、「防災の知識がなかったが、ガイド表示で学びの効果があった」という意見が約8割。システム全体の満足度も約8割となっています。こうした結果を受け、令和6年5月からシステムを本稼働しています。

原田:本稼働に向けて、さらにもう1つのシステムを構築しています。避難確保計画の作成と合わせて、避難訓練の実績の記録も毎年報告が必要なので、新たに「避難訓練実績システム」をつくりました。山本から報告します。

山本:避難訓練実績システムは、避難訓練を実施した実績を記録・管理するシステムです。入力画面には避難確保計画のリンクがあり、提出した計画を参照しつつ、避難訓練の実績報告ができます。この実績報告内容は、自治体独自の形式に変更することが可能です。

横倉:これらのシステムをフル活用することで、提出率100%、計画の実効性の向上、作業負担軽減を引き続き目指します。新たに課題が発生した際は、さらにシステムの修正・向上をしていく考えです。

原田:当社としても2つのシステムを通じ、横浜市が掲げる「逃げ遅れゼロ 被災者ゼロ」に貢献していきたいと思っています。さらに他自治体でも活用いただき、全国の要配慮施設に対する避難確保計画の実効性を高め、災害に対する備えを拡充していくことを望んでいます。課題解決の糸口を一緒に見つけていきましょう。

お問い合わせ

ジチタイワークス セミナー運営事務局
TEL:092-716-1480
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  2. 【Day1 セミナーレポート】能登半島地震の現状と教訓~被災自治体・被災地応援職員からの共有~