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【明日からできる!調整力の高め方#4】組織における内部調整の進め方とは。

ようやく動き出した企画が、各所との調整が難航した結果、実行できなかった……。こうした経験をもつ人はいるのではないだろうか。こうした場面を乗りこえるためには、効果的な“調整力”が必要だが、具体的にどう身に付けていけばいいか、悩む人も多いだろう。

今回も、元足立区教育長の定野司さんに、組織における内部調整の進め方について教えてもらった。

【連載】『合意を生み出す!公務員の調整術』(学陽書房)からご紹介

第1回 上司から学んだ交渉術とは
第2回 調整の目的はヒトを動かすこと 
第3回 合意を生み出すための作法(調整の原則)  
第4回 組織における内部調整の進め方  ←今回はココ
第5回 町会・自治会との調整(前編)
第6回 町会・自治会との調整(後編)

解説するのはこの方
文教大学(経営学部)客員教授
定野 司 /(さだの つかさ)さん


1979年、東京都足立区に入区。2002年の財政課長時代に導入した「包括予算制度」が、経済財政諮問会議の視察を受け注目を浴びる。以来、一貫して予算制度改革やコスト分析による行政改革を実践。2008年から自治体の事業仕分けに参加。2012年、多くの自治体と共同して新しい外部化の手法を検討する「日本公共サービス研究会」の発足・運営に携わる。

2015年から2期6年間、足立区教育長を務め、学力向上、特別支援教育、不登校対策に力を注いだ。2021年より現職。2022年、持続可能な自治体運営と、幸せな合意形成の実現をめざす「新しい自治体財政を考える研究会」の代表理事を務める。
著書に『合意を生み出す!公務員の調整術』『マンガでわかる自治体予算のリアル』(学陽書房)などがある。

 

私の拙書『合意を生み出す!公務員の調整術』では、組織における内部調整として、7つの場面ごとにヒントを挙げています。

・上司との調整では、立場を入れ替えてみる
・部下との調整では、部下と自分を重ねない
・同僚との調整では、上下関係を捨てて考える
・部下の間の調整では、人と問題を分離させる
・他課との調整では、上司をうまく使う
・会議での調整では、ゴールとルールを決める
・首長との調整では、仕事を私事に変える


今回は、このうち、トラブルになりがちな、上司と部下の2つの場面について、ご説明します。

上司との調整(立場を入れ替えてみる)

会議で散々議論した挙げ句、「俺は課長だ!」の一言で結論をひっくり返した上司がいました。部下たちは渋々、課長の手足となって働き、仕事は無事終わりました。
しかし、残ったのは満足感でも達成感でもなく、上司に対する不満だけでした。
このように、上司と部下の差は決定権の違いです。あなたが「白」だと主張しても、上司が「黒」と言ったら黒です。
ただし、上司もやみくもに「黒」とか「白」とか言っているわけではありません。上司という“立場”が言わせているのです。
ここでは、立場を入れ替えてみましょう。

あなたが上司だとしたら「黒」という結論を出しませんか?
もしそうなら、「俺は課長だ!」と上司が言う前に、納得できるはずです。納得すれば気持ちよく仕事することができ、上司に対する不満も発生しません。むしろ、「俺は課長だ!」と上司に言わせてはいけません。ムダな時間を使うことになるばかりか、人間関係を悪くするからです。
問題なのは、立場を入れ替えても、あなたの結論が「白」のときです。

このとき、あなたは「白」と宣言してはいけません。優位な決定権をもつ上司に宣戦布告しても勝ち目がないからです。
上司が「俺は課長だ!」と言い放った会議の例で、私はこの禁を犯し、宣戦布告してしまいました。結果が散々だったのは前述のとおりです。

まずは、冷静になりましょう。上司も「俺は課長だ!」と発言した段階で冷静さを欠いています。そうなってしまっては議論になりません。そのときは黙って上司に従うのがルールです。仕事ですから。

冷静になった後で重要なのは、あなたの結論である「白」から出発するのではなく、上司の結論である「黒」から出発することです。
「黒に○○を少し足したら、もっと成果が上がります」、「△△にすれば、もっとよくなります」といった建設的な提案に上司が乗らない理由がありません。仕事の成果は上司のものになるからです。

「私の手柄にならないの?」
 はい、仕事とはそういうものです。成果は上司と部下で分かち合えばいいのですが、中には「手柄」を独り占めしたがる上司もいます。でも、それで仕事が前に進むなら、それはそれでいいではありませんか。

私たちの仕事の成果は住民が享受すればいいのであって、上司の手柄でも、部下の手柄でもありません。天はいつも、あなたを見ています。
「ああいう上司には、ならないぞ」そう思っていればいいのです。
早く調整できる方法があります。それは、あなたの許容範囲を広げることです。「黒」から出発し「白」に近い「黒」にたどり着くことができます。
白、黒どちらでもいいような問題のときは、上司の結論に従ってください。仕事に“こだわり”は禁物です。

部下との調整(部下と自分を重ねない)

(仕事を始めたのに、部下が動かない。人も金も足りない、時間も情報も足りないと口ばかり。考えてくれと頼んでいるのではない。ええい、早く仕事せよ!これは、お願いではなく命令だ!)
上司であるあなたは心の中で、こう叫んでいませんか?

「これは命令だ!」と言えば、部下は渋々、あなたの手足となって働くでしょう。しかし、問題が発生するたびに、「これはどうするんですか?」と、部下はあなたに指示を仰ぐようになります。部下は手足になるだけで、あなたの命令がなければ動きません。

こういう状況下では、何とか仕事を終えることができても、部下に残るのは満足感でも達成感でもなく、上司に対する不満だけです。次の仕事でも同じことが起きるでしょう。あなたはこんなことを続けるつもりですか?

重要なのは、自分が部下だったときのことを考えてはいけないということです。優秀なあなたなら、きっとこう考えるでしょう。
(自分が部下だったときは上司に言われなくたって、率先してやった)
それができたのは、当時のあなたの上司があなたの力を信じて、あなたに仕事を任せてくれたからです。その上司のことを思い出してください。上司はあなたのことを上手に見守っていてくれていたはずです。

“やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ”。
これは「山本 五十六(やまもと いそろく)」の有名な言葉です。続きがあります。
“話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず”。

部下が自ら進んで仕事をするようになるには、“納得”が必要です。そのためには、まず、現状を確認します。客観的に見ることができれば、さほど差はないはずです。次に目標を確認します。これも上司と部下の間で、大きな差があるとは考えられません。

差があるのは、現状と目標のギャップを埋める方法です。上司と部下では動かせるものが違うので、これを明らかにする必要があります。

いい所は、ほめる。そして、部下の足りない部分を、あなたの持っている人、金、時間、情報のほか、知恵やコネなどで埋めます。部下と一緒に考えることによって、あなたと部下は共感することができるのです。

多くの場合、部下に不足しているのは時間です。
“せいては事をし損ずる”
待ちましょう。待つのは上司にしかできない仕事です。結果は後からついてきます。
 


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