資産形成に対する考え方は人それぞれであり、夫婦・パートナーであっても異なるだろう。そのため、特にこれから一緒に資産形成を始めようとする場合、うまくいかずに悩むこともあるかもしれない。そこで後編では、共同で資産形成を始める際の、困り事や疑問などについて、「Money&You」取締役でファイナンシャルプランナーの高山 一恵さんに回答いただいた。
※本記事は、資産形成を推奨するものではありません。資金の備えに対する考え方の一つとしてご参考になれば幸いです。
解説するのはこの方
高山 一恵(たかやま かずえ)さん
株式会社Money&You取締役/ファイナンシャルプランナー
一般社団法人不動産投資コンサルティング協会理事。慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、株式会社エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演活動、多くのメディアで執筆活動、相談業務を行い、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく親しみやすい性格を活かした解説や講演には定評がある。
月400万PV超の女性向けWebメディア「Mocha(モカ)」や、チャンネル登録者1万人超のYouTube「Money&YouTV」を運営。著書は『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『11歳から親子で考えるお金の教科書』(日経BP)、『マンガと図解 定年前後のお金の教科書』(宝島社)など著書累計150万部超。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級FP技能士。
リスクとリターンを知り、許容度に合わせた投資先を選ぶこと。
Q.配偶者・パートナーと同じ銘柄・商品に投資し続けてもいいのでしょうか。
A.夫婦(パートナー同士)全体でのリスク許容度を考えた上でならOK!
前編でもご紹介したとおり、新NISAやiDeCoは夫婦で取り組んだ方がお得です。夫婦・パートナー同士で投資をする場合には、まず全体のリスク許容度を考えましょう。
リスク許容度とは、損失にどのくらい耐えられるか示した度合いのこと。客観的には「年齢が低い」「収入や資産が多い」「投資歴が長い」「扶養家族が少ない」といった場合にリスク許容度が高いとされますが、当の本人がリスクを取りたくないと思っているならば、リスク許容度は低くなります。
なお、リスク許容度は高いから良い、低いからダメということはありません。自分たちのリスク許容度を考えることが大切です。
リスク許容度が把握できたら、それに適した資産で投資を行います。リスクとリターンにはトレードオフ(比例)の関係があり、何に投資するかによって異なります。投資先の商品でいうと「債券<不動産<株式」、投資先でいうと「国内<先進国<新興国」の順にリスクとリターンが高くなります。その中から、自分のリスク許容度に合わせて投資先を選びます。
新NISAやiDeCoのメイン投資先候補となる投資信託(投資家から集めたお金をプロが運用してくれる商品)は、何に投資しているかでリスクとリターンが異なります。
ですから、例えば、リスク許容度が低い場合は国内外の株と債券の4資産に投資する投資信託(バランスファンド)、積極的にリスクが取れるのであれば、全世界の株に投資する投資信託(全世界株インデックス・ファンド)という具合に投資先を選ぶことで、リスク許容度に合わせた投資ができます。
リスク許容度を踏まえたうえで、お互いに同じ銘柄・商品に投資するのであれば問題ありません。しかし、なんとなく同じ商品にしてしまうと、知らずのうちにリスクを取りすぎてしまうことになりかねませんので注意しましょう。
投資について、配偶者・パートナーと意見が割れた時の対処法。
Q.資産形成を一緒にしようにも、リスクに対する意識や金銭感覚の違いに困っています。
A.どちらかに合わせるのではなく、全体でバランスを取ればOK!
例えば、夫はリスクを大きくとって積極的に増やしたいのに、妻は保守的でなるべくリスクを抑えたいということもあるでしょう。そうした夫婦が資産形成するからと、2人の感覚を合わせようといっても、難しいものがありますよね。
しかし、前述した通りリスク許容度の話に照らせば、このままでOKです。資産形成の手段が違っても、何のためにお金をためるのかという目的がしっかり共有できていればいいというわけです。実際、この夫婦の場合も、市場が右肩上がりのときには夫の資産がより増え、下落するときには妻の資産がキープできるという具合に、うまくバランスが取れるでしょう。
Q.片方が投資に関して消極的です。どうしたらいいでしょうか。
A.投資の必要性をお互いに認識することが大事です。
日本では長い間、‟貯蓄は良いこと”、‟投資は悪いこと”のように思われてきました。しかし今は、貯蓄だけではお金が減ってしまう可能性があります。
大手銀行の普通預金の利息で増える金額はわずか年0.02%なのに対し、令和5年の物価上昇率は変動の大きな生鮮食品を除く総合指数で前年比3.1%。インフレによって物価上昇のスピードに普通預金の利息が全く追いついていないので、普通預金は目減りしてしまいます。
せめて給料が上がってくれればいいのですが、それが望めない人も多い時代ですし、社会保険料の負担が上がる一方で手取りも増えません。その上、支出の削減にも限界があります。
こんな時代には、働いている間や寝ている間などにもお金を稼いでくれる資産、つまり投資が必要というわけです。
確かに投資には、お金が必ず増えるという保証はありません。しかし、長期・積立・分散投資を実践することで、インフレによる物価上昇よりもお金を増やすことができれば、資産は目減りしませんし、堅実に増えていく期待ができます。
このような投資の必要性をお互いに認識し、お金を増やす方法、目減りさせない方法を取り入れていくことが大事です。
目的別の分担で、資産形成を“自分ごと化”する。
Q.個人で投資するのと共同で投資をするのは、どちらがいいでしょうか。
A.それぞれで投資をするほうがベターです。
お金を増やすには、お金を少しでも有利なところに置くことが大切です。その意味では、夫婦それぞれが投資したほうが資産形成のスピードが増すでしょう。すでにご紹介した通り、新NISAの場合、生涯投資枠は1人あたり1,800万円ですが、2人で取り組めば3,600万円まで非課税の投資ができます。
もっとも、1,800万円の非課税投資枠を上限まで使いきれない人は多いと考えられます。旧NISAのつみたてNISAでは、年間40万円まで投資することができました。しかし、買付金額が20万円以下の口座数は、約734万口座中423万口座(買付金額0円を含む)※でした。
全体のおよそ58%の人は年40万円の非課税投資枠の半分も使っていないからです。それなら、共同で投資をすることにメリットがないと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。共同で投資をすれば資産形成を相手任せにせず、“自分ごと化”できる点はメリットです。
また、例えば夫は「教育資金+余暇資金担当」、妻は「老後資金担当」などと、目的別にお金をためるときにも口座が分けられるので役立ちます。
また、もしも離婚することになった場合、夫婦の共有財産は分割します。このとき、夫(妻)のNISA口座から妻(夫)のNISA口座や課税口座などに、商品をそのまま移す(移管する)ことはできません。もし離婚リスクまで考えるのであれば、夫婦それぞれが投資していたほうがいいでしょう。
そうはいっても、“投資はどうしても苦手、やりたくない”という方もいるかもしれません。この場合は「片方は投資担当、もう片方は家計管理担当」などと、いっそのこと分担してしまったほうが、かえってうまくいくケースもあります。このあたりは、夫婦の性格にもよる部分ですので、最適な形を模索してみてください。
※金融庁「NISA口座の利用状況調査」(令和4年12月末時点)
将来の楽しい話からお金の話につなげよう。
これまで長い間、夫婦・パートナー同士でお金について話をしてこなかったという人は、多数いるでしょう。そうした人が、“今さらお金の話をするのは大変”と思われるかもしれません。しかし、これからの人生を豊かなものにするために、お金の話は避けて通れません。
これからお金の話をするのであれば、ぜひ将来の夢や目標、かなえたいライフプランなど、楽しい話を共有することから始めてみましょう。
そうして将来かなえたいことがはっきりしてきたら、そこからお金がいくらかかるのか、どうやってためるのがいいかなどの話につなげていけばいいのです。より満足できる人生にするためにも、まずは、夫婦・パートナー同士で将来の楽しい話をしてみてくださいね。