昭和53年に「国民健康づくり対策」として始まった「健康日本21」は、令和6年度から第三次健康日本21として展開する。国民一人ひとりの健康寿命を延伸し、健康格差を縮小することを目指した施策だが、制定から45年余り経過した今、どのように変遷してきたのか。歴史背景を振り返りながら地方自治体の課題を紹介する。
【目次】
• 健康日本21とは
• 第三次健康日本21の特徴
• 地方自治体における健康増進計画策定について
• 地域の特性を活かし、住民の健やかな生活を支える
この記事を要約すると(約30秒で読めます)
「健康日本21」は、国民の健康寿命延伸と健康格差縮小を目指す施策で、令和6年度から第五次国民健康づくり対策「健康日本21(第三次)」として展開予定だ。地方自治体は地域特性に応じた健康増進計画を策定し、住民の健康支援に取り組むことが期待されている。多様な健康ニーズに応じた、持続可能な社会の実現が目指されている。
健康日本21とは
「健康日本21」とは、日本国民の健康増進を目的とした、厚生労働省が推進する国民健康づくり運動である。
国民が自らの健康づくりに主体的に取り組むことを基本に、行政はこれを支援するため昭和53年に第一次国民健康づくり対策として開始。平成12年には健康日本21の通称で展開し、生活習慣病の予防や健康寿命の延伸など、時代に合わせた健康課題に対応してきた。
第二次までの活動では「目標値に達した」項目は15.1%、「現時点で目標値に達していないが、改善傾向にある」とした項目は37.7%であった。「変わらない」「悪化している」「評価困難」の合計は47.1%※1となり、データの見える化や活用が不十分であると評価されている。
悪化した項目には「メタボリック症候群の該当者および予備群の減少」「適正体重の子どもの増加」「睡眠による休養を十分とれていない者の割合の減少」「生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者(1日当たりの純アルコール摂取量が男性40g以上、女性20g以上の者)の割合の減少」※2などがある。特に地域格差や男女差がある項目で改善が必要である。
令和6年度から始まる第五次国民健康づくり対策「健康日本21(第三次)」では、これまでの取り組みの変遷や課題を踏まえ、新たな健康課題や社会背景、多様な健康ニーズに応えるための施策が展開される。その特徴を詳しくみていこう。
※1 出典:厚生労働省「健康日本21(第二次)最終評価報告書を公表します」
※2 出典:厚生労働省「健康日本21(第二次)最終評価報告書 概要」
第三次健康日本21の特徴
健康日本21(第三次)では、第二次までの課題を改善するために4つの基本的な方向が設定された。
1. 健康寿命の延伸・健康格差の縮小
2. 個人の行動と健康状態の改善
3. 社会環境の質の向上
4. ライフコースアプローチを踏まえた健康づくり
少子高齢化や独居世帯の増加、女性の社会進出など、人々の生活の在り方は多様化している。多様化する社会において「誰一人取り残さない健康づくりの展開」と「実効性をもつ取り組みの推進」を行うと設定し、ビジョンとして「全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現」を掲げているのが特徴だ。
ちなみに、ライフコースアプローチとは「胎児期から高齢期に至るまでの人の生涯を経時的に捉えた健康づくりのこと」を指す。1〜3で掲げた健康寿命の延伸や個人の行動、社会環境の質の向上などを目指すためには、乳幼児期から高齢期までの各ライフステージに特有の取り組みが必要だとしている。
基本的な方向をもとに、都道府県はアクションプランとして計画を策定することになる。次に、地方自治体における健康増進計画の策定について具体的にみていこう。
地方自治体における健康増進計画策定について
地方自治体には、健康日本21の目標達成に向けて、地域特性を踏まえた健康増進計画の策定と実施が求められる。ここでは、都道府県および市町村での健康増進計画策定における具体的な取り組みについて紹介する。
◆都道府県健康増進計画
都道府県健康増進計画は、健康増進法第8条の規定にもとづき、都道府県単位での住民の健康推進について基本的な計画として定めることとしている。
『都道府県は、庁内の関連する部局が連携して都道府県健康増進計画を策定することとし、当該計画において、国が設定した目標を勘案しつつ、具体的な目標を設定する。』
引用:「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」
一例として、山形県では「やまがた健康マイレージ事業」を展開している。健康診断やウォーキング、健康教室などに参加するとポイントが貯まる仕組みだ。貯まったポイントは地域協力店の買い物等で利用できる。令和6年1月現在で533店舗が協力店として参加※3している。
※3 出典:山形県「やまがた健康マイレージ事業について」
奈良県では「やさしおベジ増しプロジェクト」としてスーパーと連携し、中食(そう菜や弁当等)の減塩および野菜増量の取り組みを行っている。住民からは好評で、惣菜販売数も増えているという。
都道府県が取り組むべき課題は、地域の特性によって異なるが、地域の様々な関係者との連携により、住民の生活の質の向上と地域の持続可能な発展を目指して取り組んでいくことが大切である。
◆市町村健康増進計画
市町村における健康増進計画は、都道府県が設定した目標にもとづき、地域に合わせた目標を設定するよう努めるものとされている。法定計画ではないので義務ではないのだが、市町村単位で事業を策定して活動をしていくことで、地域間の健康格差を是正できるのではないだろうか。
例えば食育なら、保育園や学校での食育推進、ライフステージに応じた栄養教室、高齢者等の配食サービスによる栄養バランスの良い食事の提供など、都道府県と市町村で連携して取り組むことで効果を発揮する事業もあるだろう。
飲酒や喫煙、歯・口腔の健康など、ぜひ市町村には積極的に健康増進活動を行なってほしい。
都道府県は市町村に対し「区域内の市町村ごとの健康状態や生活習慣の状況の差の把握を行い、地域間の健康格差の是正に向けた取り組みを位置付けるよう努めるものとする」(引用:「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」)と、支援を行うように求められている。
しかし、市町村の健康増進計画策定状況は、令和3年時点で74%※4にとどまっている。行政や関係団体、地域医療機関、学校、企業、家庭などが一体となって、健康増進活動を多角的に展開することが望まれる。
※4 出典:厚生労働省「自治体等の取組状況の評価のための調査」
地域の特性を活かし、住民の健やかな生活を支える
健康日本21が開始されたときは、健康管理は基本的に国民が自ら主体的に取り組むものであった。しかし健康意識には格差があるため、全ての国民が健やかで心豊かな暮らしを送るためには、やはり地方自治体の働きかけが必要だ。
市町村には地域の課題や社会背景、人々の生活習慣を把握し、地域の特性を活かした取り組みを期待する。