ジチタイワークス

鳥取県智頭町

地方の自治体職員と都市の企業人が知恵を出しあう「越境リーダーズキャンプ」の効果。

前回紹介した、大分県竹田市における「越境リーダーズキャンプ」の取り組み。今回は鳥取県智頭町で実施されたケースを取り上げ、2年にわたって進められたプロジェクトの詳細を追う。
同キャンプは地域にどのような働きかけを行ったのか、そして職員にはどんな変化が起きたのか。この取り組みの全体に関わってきた同町企画課の酒本さんに語ってもらった。

※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです
[提供]みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社

酒本 和昌さん


interviewee
鳥取県智頭町
企画課 課長
酒本 和昌(さけもと かずまさ)さん
 

 

企業研修を受け入れることで、
“林業のまち”が抱える課題の克服を目指す。

「課題は山積しています」。酒本さんは、まちの現状についてこう語る。
「何より大きな問題は急激な人口減少です。それが福祉や交通、教育、町民の経済活動など様々な課題に直結しているのです」。
同町の人口は昭和30年の14,643人をピークに減少へと転じ、令和6年1月現在では6,257人となっている。また、町域の約93%を山林が占めており、主要産業は林業とそれに伴う木工業だが、木材需要の低下によって林業そのものが衰退し、従事者が減り、山が荒廃していく、という悪循環に陥っている。

智頭町

この状態に歯止めをかけるため、まちの総合戦略で“人口は2040年に5,000人を維持”という目標を設定。雇用の創出や移住・定住の促進などに向けて様々な取り組みを進めてきた。「そうした施策の一環として進めていたのが、企業研修の受け入れです。外部から人がやってくることで地域の活性化や関係人口の増加が期待できます」。

企業研修であれば基本的に柔軟に対応する姿勢で様々な研修を受け入れてきた同町に、鳥取県にある地方創生の総合商社「株式会社あきんど太郎」代表の松井 太郎さんから「越境リーダーズキャンプ」の導入提案があった。詳細を聞く中で“これまでの企業研修とは違う”と感じたという。

「従来の研修は、まちのリソースを使って企業側の人材を育成するという意味合いが強かったのですが、越境リーダーズキャンプの実施主体はまちの事業者。それを前提に智頭町の課題を解決していくアイデアを考える、という点が魅力でした」。
もとより研修受け入れには積極的な同町。まずはやってみようということになり、第1回目の取り組みを実施することになった。

[越境リーダーズキャンプの詳細は、下記を参照]
大企業人材のアイデアで地域課題の解決に挑む!竹田市が取り入れた「越境リーダーズキャンプ」とは。

 

職員と企業人が互いに刺激を与え合う中で、民間の経営感覚を学ぶ。


同町での越境リーダーズキャンプは、令和4年に始まった。テーマには「智頭町において、林業家や移住者が天候に左右されずに働くことができる実現可能性のある事業の提案」というものが掲げられ、具体的な要件も設定。職員とサポーター、企業からの参加者、総勢16名を3グループに分けた。「職員は20代後半から30代で、企業の方々と同世代です。目的がスキルアップなので、人選は様々な部署から行いました」。

プログラムの様子プログラムでは、まず3日間にわたる現地研修を実施。「最初は職員たちもプレッシャーを感じていた様子でしたが、徐々に勘所をつかんでいきました。地域のことは自分たちがリードしなければならない部分も多く、互いに補完しあう関係性が良かったようです」。その後、グループ別ワークやオンラインでの中間発表を経て、令和5年1月13日に最終発表と振り返りを実施。各グループからは以下のようなアイデアが出そろった。

 

令和4年越境リーダーズキャンプから生まれたアイデア

Aグループ:「智頭町→ちる町」
まちの将来像として個性的なリノベーション古民家・蔵が点在し、古き良き日本の風景を求めて人が往来し、町民とも交流する「ちる町」を構想。その第一歩として林業家の手による「蔵サウナ」を提案。

Bグループ:「天然氷事業」
豊かな自然や風土を活かした「天然氷事業」を提案。林業家が副業として取り組むことで雇用を創出し、天然氷を新たな特産品として発信し、飲食事業者などの関係人口化を図る。

Cグループ:「飲んべえと鍋と灯りのまち智頭町」
おいしいお酒を期間限定で楽しむことができる宿場町として地域をPR。ランプを活かしたエリアリノベーションや、ジビエなどを活用した「智頭鍋」などに林業家が携わりつつ域外からの誘客を図る。

 

これらのアイデアはもちろんだが、酒本さんは職員が得られる学びにも着目したという。「公務員研修とは全く性格が異なるため、マネタイズにもとづいた考え方や、ロジカルな思考方法など、学びは多かったと思います。ひと言でいうと“経営感覚”です。企業からの参加者も優秀な人たちばかりだったので、とてもいい刺激になったと考えています」。
こうした経緯を経て、同町は翌年も取り組みを継続して実施することに決めた。

まちの資源をどう活かす?
ワークを繰り返す中から生まれた2つのアイデア。


令和5年度の同キャンプは、「“智頭ファン”を獲得するため町民と移住者がともに参加できる森林サービス(※)と連携した新規事業の提案」をテーマに設定。取り組みの対象となったのは、同町で活動している団体「智頭の森 こそだち舎」(以下、こそだち舎)だ。
プログラムの様子

こそだち舎は、住民がまちの課題を話し合い、解決策を行政に提案していく組織「百人委員会」から生まれたNPO法人。町内で保育施設「森のようちえん」や、フリースクール、シェアハウスなどを運営している。森のようちえんは、園舎を持たずに1日のほとんどを森で過ごす保育スタイルをとるなどユニークな活動を展開しており、入園を目的に同町へ移住する人もいるという。「まちの資源の1つともいえるこの施設を、住民と移住者の交流を深める拠点としてもっと活用できないか、という点に照準を定めました」。

この取り組みに参加したのは、職員と企業からの参加者、サポーターの総勢13名。2つのグループをつくり、前年と同様に3日間の現地研修から開始。フィールドワークなどを経て、最終日には両グループから以下のような提案内容でプレゼンが行われた。

(※)森林サービス:森林をフィールドとした新たな付加価値を創出するサービス(「智頭町過疎地域持続的発展計画」を参考に定義)

令和5年越境リーダーズキャンプから生まれたアイデア

Aグループ:「キャリア拡張支援プラットフォーム ~リモートワーク・副業兼業促進企業向け~」
智頭町の全国における認知不足と、人材不足を課題に特定。これに対し、情報メディア&プログラム予約アプリを構築し、魅力発信→体験プログラム提供→移住・副業支援の3ステップを通して段階的に智頭ファン獲得を図る。

Bグループ:「リゾベーション型ファミリー森林留学 ~『智頭ファン』獲得に向けた新規事業の提案~」
「リゾベーション」に着目し、宿泊・食事・ビジネススペースの提供に加え、こそだち舎の施設を子どもたちの受け入れ用に活用。地場企業と連携した「ヘルスツーリズム体験」も提供するなど既存リソースを最大限活用し智頭ファン獲得を図る。

 

こうした提案内容について“いずれもおもしろいと感じた”と酒本さん。「もちろん実際にやるとなったら、まちを巻き込んだ取り組みになるのでさらに踏み込んだ議論が必要ですし、資金調達やマネタイズのことも考えなくてはなりません。実施主体はこそだち舎ですが、相談があればできることは支援したいと考えています」。

得た学びをもとに、地域の良さを改めて見直しつつ次のステップへ!


2回の研修で、同町から参加した職員は合計5名。それぞれが持ち場に戻り、学びの結果を業務にどう落とし込むか、現在模索している段階だ。
研修後に行ったアンケートには、各職員から以下のような声が寄せられている。

■自分自身の変化について
「今回の研修の中で、智頭町の魅力について再認識することができた。今までは日常風景だった自然や歴史ある街並みといったものが、観光資源として武器になることに気づかされた」

「外部との交流、仕事においての自分の強みや役割について自覚できました。また、今後のキャリアについて、自分が考えている以上に選択肢があることが分かりました」

 

■研修を通して得られた学びや気づきについて
「事業を一から考えるという経験がなかったため、メンバーから学ぶことは多かった。事業立案、ターゲット、プレゼンテーション、資金計画等、業務で活かせそうな知識が習得できたと思う。特に公務員は投資回収という考え方が希薄なため、重要な視点を獲得できた」

「仕事を進めるプロセスや、あらゆる強みをもった他者の考え方の享受、チームとしてプロジェクトを進める重要性などを学んだ」

 

酒本さんは2年間を振り返り、「私が若い頃にこんな研修があったら、希少な機会でありぜひ参加してみたかった」と目を細める。「効果については長い目で見ていく必要がありますが、智頭町にいながら都市部の企業と交流できる機会は少ないので、ここからスキルアップにつながることに期待しています。職員は課の業務に集中していてまち全体を俯瞰で見る機会が少ないので、そうした面でもいい経験になったはずです」。また、今後についても“企業研修の要望があれば、どんどん受け入れたい”と積極的だ。「実績もあるので、“企業研修ができるまち”としてPRしていくという手法もあるかもしれません。もちろん越境リーダーズキャンプにも、できる限り協力していきたいと考えています」。

お問い合わせ

サービス提供元企業:みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社 

社会政策コンサルティング部 ヒューマンキャピタル創生チーム
TEL:03-5281-5276
住所:〒101-8443 東京都千代田区神田錦町2-3 竹橋スクエアビル2F

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