自治体法務検定とは?必要性や評価基準について解説!
地方分権が進み、自治体の役割がより一層重要となる中、自治体職員は様々な法的課題に対応するための高度な法務知識が求められている。そのような状況で近年注目されているのが「自治体法務検定」だ。
スキルアップの手段として、職員への研修として、自治体法務検定は法務能力の向上に最適なツールである。本記事では自治体法務検定の概要から、実際に検定を取り入れた自治体の声まで幅広く紹介する。
【目次】
• 自治体法務検定の概要
• こんな人にオススメ
• 実際の自治体の声(静岡県沼津市)
• 業務の質や職員のモチベーション向上に
自治体法務検定の概要
自治体法務検定は、文部科学省認定・一般財団法人日本通信教育学園が設置する「自治体法務検定委員会」が運営する検定である。自治体職員の法務能力を向上させることを目的としたこの検定は、基本法務と政策法務の二つの科目から構成されている。
基本法務は、憲法・行政法・地方自治法・民法・刑法など、自治体職員が共通に備えるべき必要最低限の法律知識を問うものとなっている。
政策法務は、法令や制度を解釈・運用するために必要な知識の基礎を問う。
この2科目は同時に受検する必要はなく、1科目のみでも受検可能だ。業務内容や経験に合わせて選択できる。
さらに詳しく、試験日程や出題範囲について紹介する。
自治体法務検定の詳細
◆日程
自治体検定を受検するには、年に2回(9月・2月)の全国一斉受検(オンライン受検方式)または20名以上の団体で実施できる団体受検(会場受検方式)のいずれかを選択する。
団体受検の日程は別途調整となる。
◆試験時間
令和6年2月のオンライン受検は、以下のような時間で実施された。
基本法務 10:30~12:30
検定政策法務 14:00~16:00
※引用:自治体法務検定委員会「2023年度 第2回 自治体法務検定(オンライン受検)受検概要」
◆出題範囲
基本法務と政策法務の二つの科目に分けられている。
基本法務は、憲法・行政法・地方自治法、民法・刑法の知識が問われる。
政策法務では地方自治体の行政実務を推進していく上で必要となる知識が問われる。立法法務、解釈運用法務、評価・争訟法務、自治体運営、住民自治、情報公開と個人情報保護、公共政策と自治体法務が出題範囲だ。
◆受検料
受検料は基本法務5,500円(税込)、政策法務5,500円(税込)となる。
◆受験資格
受験資格は特になく、自治体職員のみならず一般の人々も受検可能だ。
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合格基準について
試験は選択問題で全70問、1,000点満点の点数に応じて「プラチナ」「ゴールド」「シルバー」「認定なし」のクラスに認定される。クラスの合格基準は以下のとおり。
◆プラチナクラス(900点〜1,000点)
プラチナクラスに認定される職員はかなり希少な存在だ。令和5年度は基本法務で0名、政策法務で1名がプラチナクラスに認定※1された。
このレベルの職員は、政策形成や地域の課題解決に必要な条例の立案や、争訟処理などの事務処理を自立して行える高度な知識を持っているといえる。リーダーシップを取るための法務知識を有し、複雑な法的課題に対しても独力で解決策を提案し実行に移すことが可能だろう。
※1 出典:自治体法務検定委員会「2023年度第1回 自治体法務検定 一般受検 結果報告」
◆ゴールドクラス(700点〜899点)
令和5年度の基本法務のゴールドクラスは総受検者の17.7%※2だった。政策形成に関連する基本的な事務処理を遂行できる知識を有しているレベルで、条例制定や争訟実務など、自治体での法務業務に活かす能力が備わっていることを示す。
※2 出典:自治体法務検定委員会「2023年度第1回全体講評(基本法務)」
◆シルバークラス(500点〜699点)
政策を推進する上での基礎的な法律知識が一通り備わっているレベルだが、条例の立案や争訟処理などの事務処理を一人で行うには、さらなるスキルアップが必要となる。自身のスキル向上に励むことで、上位クラスへと進む潜在能力を有している。
ちなみに令和5年度の総受検者の平均点は1,000点満点中564点だ。シルバークラス以上であれば、十分に法務業務における専門性と実務能力を備えていると判断できるのではないだろうか。まずはシルバークラスを目指し、さらなるスキルアップに挑戦してみてはいかがだろう。
こんな人にオススメ
自治体法務検定は、以下のような職員や自治体にオススメをしたい。
法務セクションで働いている職員
法務部門の職員は日々の業務で法的課題に直面し、対応が求められる。自治体法務検定は法的知識の幅を広げ、より効果的な法務サポートを提供する能力が身につけられるだろう。
条例立案に携わる人や、政策立案・推進に携わる人、対住民サービスを行っている人にも、法の理解を深めるために受検をオススメをしたい。
職員への法的知識の研修を考えている自治体
業務内容によって、職員の法務知識の習得レベルにはバラツキが生じるのが現状だ。自治体法務検定を研修の教材として採用すれば、職員の法務知識レベルの向上が期待できる。すでに人材育成事業として内部研修を実施している自治体もあるので、このあと紹介する。
実際の自治体の声(静岡県 沼津市)
自治体法務検定を導入している自治体の事例を紹介する。
沼津市:昇任判断の参考資料として検定を導入
沼津市では、自治体法務検定の政策法務を昇任判断の参考資料として導入している。同市では、職員間の法務知識の差が人材育成における課題であったため、検定を通じて知識の統一と向上を図るものとした。
主事級7年目の職員に一律で実施し、日々の業務が法令や条例などにのっとっていることを意識づけるねらいがある。
年功序列による昇任ではなく、積極的にスキルアップに努める職員を育てたいとの期待もある。そのためにも内部の研修だけでなく、自治体法務検定のような外部検定を取り入れることで研修の質を保っている。
今後の課題は受検のサポートであるという。主事級7年目といえば育児中の職員も多く、平日の業務終了後や週末に勉強時間を確保するのがむずかしい。それでも、確かな法務知識がつけば職員だけでなく市民に対するサービスも向上すると見込まれるため、前向きな取り組みを検討している。
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業務の質や職員のモチベーション向上に
自治体法務検定を受検した職員は、法律知識を深めることで、日常業務に法を意識した行動を取ることができ、組織全体の品質向上につながっている。自治体法務検定で確かな知識をインプットし、日々の業務でアウトプットしていくことで、業務の質の向上も期待できるだろう。
一般的な資格試験のように合格・不合格の判定が出るものではないから、職員のモチベーション向上にも最適だ。繰り返し受検してさらに上のランクを目指すのもよいだろう。今後より多くの自治体で導入されることを期待したい。