持続可能な自治体の発展や、住民生活の質の向上を推進するため、各地の自治体がSDGs関連の取り組みを進めている。その動きを支援するために、内閣府では複数の補助金交付事業を実施してきたが、特に小規模自治体の場合、職員数の少なさなどから新しい取り組みに着手しにくいのが現状という。そこで同機関は先ごろ、小規模自治体を対象とする新施策「地方創生SDGs課題解決モデル都市」を立ち上げている。新たな補助金交付事業について、地方創生推進事務局の小西さんに尋ねた。
解説するのはこの方
内閣府 地方創生推進事務局
参事官補佐
小西 晋一(こにし しんいち)さん
2001年大阪ガス株式会社へ入社。ネットワークインフラ技術の開発やガス工事に関連する設計、保守、プロジェクト管理などの業務に従事。2023年4月より現職(出向)し「地方創生SDGs」「SDGs未来都市」に関する業務を行う。
小規模自治体のSDGs推進を、専門人材の活用で支援。
Q.「地方創生SDGs課題解決モデル都市」が施行されることになった経緯と、目的を教えてください。
内閣府は平成30年度から、各自治体によるSDGsに向けた取り組み計画のうち、先進的な取り組みや他自治体の参考になるようなものを「SDGs未来都市」、その中でも特に優れたものを「自治体SDGsモデル事業」として選定し、全体マネジメント・普及啓発等経費は定額、さらに事業実施経費の2分の1(上限1,000万円)を交付する事業を実施していました。
“他自治体の参考になる”という点においては、財政的な余力がある大規模自治体の取り組みよりも、小規模自治体からの提案の方が、少子高齢化による人口減少など、同様の課題を抱える自治体が応用しやすい要素を数多く含んでいます。そのため、事業初年度は北海道や東北エリアをはじめ、中・小自治体の提案が数多く選定されました。
ただ、かなり詳細なKPIの設定と、具体的な計画書の提出が必要であるため、SDGs専門部署を設置できるような自治体以外は、計画書作成のための時間や労力の確保が難しく、初年度以降は小規模自治体からの提案件数そのものが減少しているのが実情です。
そこで令和4年からは、複数自治体が広域連携し、スケールメリットや相互補完によって実行性を高める「広域連携SDGsモデル事業」を開始。大規模自治体と連携することで小規模自治体の弱点が補えると期待されていたのですが、複数自治体間で共通合意を得る作業は予想以上に難しかったようで、こちらも提案数が伸びませんでした。
そうした経緯を経て今年の1月19日から、「地方創生SDGs課題解決モデル都市」の公募を開始(※)することが決定しました。本施策では、人材や専門性が限られている小規模な自治体などに、地方創生の経験や知見のある人材活用を支援します。
小規模自治体に共通する、喫緊かつ深刻な地域課題に対する先進的・試行的な解決策を講じ、その計画から結果まで公表することによって、SDGsの理念に沿った地域活性化や持続可能なまちづくりを促進することと、成功事例の普及を目的に「地方創生SDGs課題解決モデル都市」を選定し支援します。
※募集期間は、令和6年3月11日(月)~3月19日(火)12:00まで
提案書の簡略化などで、どの自治体でも申請が容易に。
Q.従来の支援事業との違いと、申請手順について教えてください。
私たちは全国の自治体を対象に、SDGsの認知度や関心度、推進にあたっての課題・障壁についてアンケート調査を行っています。その結果、自治体の規模が小さくなるほど「(SDGs)推進を検討する予定だが現時点では未着手」「推進しておらず、今後の予定もない」という回答が増え、下図のとおり4割近くの自治体が「専門家の支援が不足している」と回答していることが明らかになりました。
SDGsに関する全国アンケート調査(SDGs推進に際しての課題や障壁)
有効回答1,464団体のうち590団体の約4割の自治体が、SDGsを推進する専門家の支援不足と回答。
※参照:内閣府提供資料「地方創生SDGs課題解決モデル都市」より
新施策は、それらの結果と「デジタル田園都市国家構想総合戦略」「SDGsアクションプラン2023」のコンセプトを踏まえ、小規模自治体が専門人材を活用する際の経費などを補助することで、地域活性化や持続可能なまちづくりを促進します。
専門人材のリストは内閣府が準備しており、例えば「大崎耕土(おおさきこうど)」(宮城県)が、世界農業遺産として認定されるための研究・調査を行った同志社大学の大和田 順子教授など、自治体と連携して地方創生への取り組み実績のある様々な分野の専門家を登録しています。
申請手順も従来の支援事業より簡略化しており、
(1)地域の概要説明と、独居高齢者の増加や放置林面積の拡大など、解決すべき課題の抽出・整理
(2)経済・社会・環境の3側面に留意して、深刻度、喫緊度、共通性・モデル性のある課題を、所定様式に沿って提案書へ記載
(3)内閣府の専門家リストあるいは希望する専門家と交渉し、人件費および旅費等を算出・記載
という3ステップで完了します。自治体自ら専門家を指定する場合のみ、当該専門家の経歴および実績の記載が必要です。
なお、補助金額は対象経費の2分の1、上限1,000万円で、令和5年度補正予算として3,000万円の事業予算を確保しています。
Q.新事業を通じて、自治体にはどのようなメリットがありますか。
SDGs未来都市の募集では、推進計画の立案および詳細な計画書作成という、小規模自治体にとってはかなり高い“ハードル”がありました。
その点、新規施策は早い段階で専門家との連携を確立することで、その分野における最新の知見や実務的な経験を取り入れることができます。これにより、単なる計画書作成に囚われず、課題の本質的な要因を抽出し効果的なアプローチを展開できるでしょう。
また、リアルタイムでの専門家フィードバックを取り入れながら、柔軟かつ計画性をもって課題解決が進行するため、過去には難しかったアイデアの創出や課題解決の柔軟性が向上します。申請のための提案書も、前述のように3ステップで記載が完了するので、職員数が少ない自治体でも過大な業務負荷となることはないでしょう。
さらに、内閣府が事前に専門家リストを準備するので、これまでつながりがなかった専門家とも交渉しやすいはずです。事業実施後は、各自治体の計画・取り組み結果を公表する予定で、これにより他自治体に良い影響がおよび、全国の地方創生が促進されることが期待できるため、他自治体も間接的にメリットを享受することとなります。
審査基準と採択されやすくなるポイントについて。
Q.提案書は、どのような基準で審査されますか。
「地方創生SDGs課題解決モデル都市選定基準」に沿って、まず「評価・採点に必要な事項が記載されているか」、「過度に冗長な表現となっていないか」、「経済・社会・環境の3側面について記載されているか」、「専門家とのマッチングが成されているか」を確認します。
次いで、提案書に記載された自治体の課題について、以下5項目をそれぞれ1~10点・合計50点で採点します。
Q.どのような点に気をつければ採択されやすくなるでしょうか。
地方創生に資する、持続可能な開発目標(SDGs)と提案内容が整合していることが条件になります。提案された課題は有識者による検討会において、選定基準に則った点数および参考意見によって総合的に判断されるため、選定基準に合致した課題を選定することがポイントになります。
とはいうものの、提案前に専門家とマッチングすることが条件になりますので、専門家の知見やサポートを効果的に得るためにも、自治体の課題を深く理解し、明確な課題を整理・抽出しましょう。
例えば、「地域の生活環境や都市機能を維持し、地域経済を創生するため、古民家や空き店舗を再生・活用」「放置林を防止するため、民有林の管理などの取り組みの実施や仕組みの形成」、「地域資源の活用・魅力向上による関係・交流人口の創出」など、各自治体のニーズに合わせた課題を提案することが良いでしょう。
自治体ニーズにあった課題は、自治体職員の意欲につながり、提案の信頼性や実現可能性を高めることができると考えます。
他自治体の“モデル的存在”になってもらいたい。
Q.新事業の、今後の展望についてお聞かせください。
先ほども述べましたが、SDGs推進にあたっての課題・障壁を問う内閣府のアンケートに対し、4割近くの自治体が「専門家による支援の不足」と回答しています。
新施策に申請・採択された自治体は、地方創生SDGsの経験・知見をもつ研究者などと協働で課題解決に取り組むことにより、不足していた経験や知識、専門性などを補いながら地方創生の足掛かりをつくることができるでしょう。
また、専門家とともに共通性がある課題に取り組むことによって、同様の課題を抱える他自治体にとって、モデル的な存在になってもらいたいと期待しています。
SDGsの推進に熱意をもつ自治体や職員の皆さんに、ぜひ新施策の詳細を知ってもらい、専門家とともに地域の課題解決に取り組んでいただきたいと思います。私たち内閣府にとっても初の試みですから、課題解決に取り組みたい自治体からの積極的な応募をお待ちしています。
提案書作成を効率化するヒント
SDGs未来都市等選定自治体における各取り組み概要は、コチラからご確認いただけます。また、これまでの提案書類や、プレゼンテーション資料等もありますので、ぜひご活用ください。
参考:内閣官房・内閣府総合サイト 地方創生「2023年度SDGs未来都市及び自治体SDGsモデル事業の選定について」「2023年度自治体SDGsモデル事業/広域連携SDGsモデル事業 事例集」