議会と市民をつなげる情報発信と政策提言の取り組み
よりよい議会運営を目指すには、市民との積極的な関わりが大事だろう。奥州市議会事務局は、関心につながるように分かりやすく情報を発信。議員は市民と交流し、民意を反映させた政策立案を進めている。
※下記はジチタイワークスVol.30(2024年2月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
議会と事務局の二人三脚で計画や意識から改革を開始。
「議会改革の進み具合の差は、議員・事務局職員の意識の差です」と話すのは、同市議会事務局の千田さん。異動してきた平成30年度は改革が始まる前で、早稲田大学マニフェスト研究所が実施する、議会改革度調査のランキングも全国で396位だったという。また、議員に対して事務局の職員が少なく、常任委員会のときには担当者が足りないため、本庁の職員を併任で充てていた。「委員会の年間計画にも具体的な行動計画が盛り込まれておらず、そのときの話題性が高い事案に取り組みがちでした」。
転機となったのは、同年に議長が代わり、市民に開かれた議会にするための“改革”が掲げられたこと。委員会活動も長期的・短期的な視点で、年間計画を立て直した。令和元年にはかねての要望通り、事務局職員が1人増員されたことで、4つの常任委員会に1人ずつ専任を配置できるようになった。そこから議員と職員の連携やコミュニケーションが活発化したという。「改革意識が生まれ、議員をサポートできる体制も整ったことで、様々な取り組みが見直されていきました」。
市民に開かれた議会へと変わり独自の提言で施策の実現へ。
同市議会の特徴的な取り組みは、市民の意見を取り入れて提言する“奥州版政策サイクル”。まず委員会が、年間計画にもとづき現状調査を行い、地域課題を洗い出す。調査を経て、そのテーマに合った市民団体や、地元の人たちに声をかけ、意見や要望を聞く懇談会を委員会ごとに実施。参加者が少人数のグループに分かれ、自由に話し合いを発展させていく方法で、多様な考えを聞いて立案しているという。「市民の声が裏付けになり、市長に提言する際にも説得力が増します。各委員会としても、市民に役立つ提言ができるのはうれしいことです」。
このように市民の意見を集められる背景には、事務局の地道な情報発信がある。改革の中で力を入れているのが、市民に開かれた議会にすること。令和5年度は本会議や委員会のライブ配信に加え、リアルタイムで字幕も公開。耳の不自由な人や専門用語になじみがない人にも理解しやすいように工夫し、ホームページで議案や資料も公開している。「ライブ配信は多くの議会で実施されていますが、字幕や資料の共有は珍しいのではないでしょうか。きちんと理解できることが、関心につながります」。また、政策提言の際は、事務局職員が市の総合計画や各種計画を確認し、各委員会に共有してから案を固める。市の目指す方向性を踏まえたものであれば、市長からもより受け入れられやすくなるからだ。
このサイクルによる提言で、様々な施策が生まれた。公共交通空白地域への旅客運送の導入や、伝統工芸の南部鉄器産業を後継する地域おこし協力隊の採用などだ。平成30年に始めたこのサイクルは、令和2年のマニフェスト大賞で、最優秀マニフェスト推進賞に選ばれている。
▲各常任委員会と市民との懇談会は、少人数のグループで組み合わせを変えて話し合う“ワールドカフェ”形式で実施。
成功体験で組織の土台を固め新たに主権者教育を強化する。
ライブ字幕配信などの情報発信は、市民からの評判も良好だという。改革度調査のランキングは取り組みを始めて1年で68位まで上昇。令和2年度以降は常に10位以内を維持し、市外からの視察も増えている。「成功体験が積み重ねられると、積極的な働きかけが組織の文化として定着するはずです」。千田さんは事務局で積極的に発案する機会をつくっているといい、こうした考え方も徐々に浸透してきているそうだ。
市民参加が活発化し、政策の実現につながっているものの、令和4年3月の市議会議員選挙は無投票当選となった。これを受け、議員のなり手不足の解消を目指し、調査や研究を進めている。さらに、若い層が関心をもてるよう、市内の高校に、授業の一環として議会を傍聴してもらうなど、主権者教育にも力を入れているという。「事務局はあくまで裏方で、主役は議員と、その先にいる市民です。改革は義務付けられていない業務がほとんどですが、それにどれだけ積極的に取り組めるかどうかで組織の力が変わるでしょう」。少子高齢化などに伴い、今後も新たな課題が生じることは想定されるが、状況に合わせて適切な改革を進める土台は固まっているようだ。
▲50インチのモニターに、議論の内容を字幕で表示。
奥州市
議会事務局
千田 憲彰(ちだ のりあき)さん