ジチタイワークス

大阪府泉大津市

“四方よし”の官民連携で慣例を打破し、自治体主導で米の流通を改革。

栄養豊富な米を軸とした“四方よし”の官民連携

自治体としては異例ともいえる米の流通に関する実証実験を行い、市民の健康寿命延伸に取り組む泉大津市。数々の健康増進プロジェクトを独自にしかけてきた背景について、一連の指揮をとる市長の南出さんに聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.30(2024年2月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]東洋ライス株式会社

市民の健康増進と食糧問題の危機感で米のサプライチェーンを大胆に改革。

「令和4年度の国の医療費は46兆円。昭和50年と比べて約7倍と危機的状況です」と南出さんが話すように、市民の健康づくりが必要不可欠な状況だ。さらに健康の土台となる“食”においても、不安定な世界情勢により食糧価格が高騰。市民の食を脅かす食糧問題に危機感を抱いているという。

そんな中、同市は医食同源の考えのもと、令和4年度末に「食糧確保構想」を策定。全国の自治体と農業連携をスタートさせるなど、食のサプライチェーン改革に着手した。さらに、未病予防対策先進都市を目指し健康づくり推進条例」を施行。オーガニック給食の導入など、食育にも力を注いでいる。これらの取り組みを加速させるべく、「金芽米(きんめまい)」を扱う「東洋ライス」と包括連携協定を締結した。

金芽米とは、同社独自の技術で精米した無洗米のこと。通常の精米では削り取られる部分を残すことで、白米よりもビタミン類や食物繊維などの栄養素や、うま味成分が多い。同市では同社と連携し、この米を学校給食や妊婦、子育て世帯に配布するプロジェクトを開始。市が産地と直接契約するなど、既存のサプライチェーンの枠を超えた改革につながっているという。

“誰のためのプロジェクトか”を考え、現場の意識と知識を擦り合わせる。

この一連の食育プロジェクトは、市長が中心となり推進中だ。「心身の健康のため、安心・安全な食は欠かせません。私たちには未来を担う子どもや、これから生まれてくる命を健やかに育む責務があります。その思いを実現するため、サプライチェーンの改革は必須でした」。

農地が少ない同市は、オーガニック食材や有機米など、質の高い食糧の安定確保が難しい。そこで、市が直接全国の農村地域を訪ね、米の確保のため自治体や生産者と交渉を重ねるという地道な活動を続けてきたそうだ。既存のサプライチェーンでは流通が複雑化し、価格にも影響が出るため、市が産地から直接米を買い取る新たな流通経路を構築。供給量と農家の収入の両方を安定させる仕組みにした。

市長の旗振りがあったとはいえ、長年にわたる慣例や付き合いがある中で、障壁はなかったのだろうか。「各方面に調整を行った担当は大変だったと思います。自分たちで市の思いに賛同してくれる地域を探し、交渉するのは想像以上に苦労しました。しかし“子どもにとってよりよいものを提供する”という共通認識があることで、その壁を乗り越えられました。また、理解を深め、知識を身に付けてもらうための講演会や勉強会を繰り返し実施した成果もあると思います」。

市民に選ばれる“四方よし”を全国にも広めていきたい。

地道に苦労を重ねて築いてきたこの新しい取り組みは、農家や自治体だけでなく、市民にも好評だという。「金芽米を受け取った市民からは“おいしい”“食への意識が変わった”という声を聞きます。この取り組みが移住のきっかけになったという話もあり、賛同の声は大きいと感じます」。

このように、官民がうまく連携し、まずは三方よしの構図が完成。無農薬・減農薬栽培の推進や無洗米による水環境への配慮も加味すると、“四方よし”ともいえる仕組みに昇華している。「生産地からではなく、食のサプライチェーンの出口である都市型自治体から働きかけることに大きな意味があります」。

最後に南出さんは「サプライチェーンの改革と聞くと困難を伴う大変なものと思われるでしょう。しかし、大切なのは、誰のため、何のための行動なのかを明確にした上で、共通認識をもって行動し、関わる人同士が志を擦り合わせることです。複雑に見える官民連携も、できることから始めるのが大切。日本全体の農業問題にも貢献できるこの仕組みを、当市が先駆者となり広めていきたいです」と語ってくれた。

大阪府泉大津市
市長 南出 賢一(みなみで けんいち)さん

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