ジチタイワークス

三重県桑名市

官民連携窓口“コラボ・ラボ桑名”を通じてまちに有益なアイデアを引き寄せ実現へ。

民間事業者からの提案を積極的に受け入れる一括窓口

地域課題の解決に民間の力を活かす施策は全国で増えている。しかし、思うような成果が得られず悩む自治体も多いようだ。そんな中、桑名市では官民連携に特化した窓口を設け、続々と事例を生み出しているという。

※下記はジチタイワークスVol.30(2024年2月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

まずは官民連携を庁内外に浸透させ、官民で動く土壌づくりから始める。

ベッドタウンとして人気の同市だが、少子高齢化や社会保障関係費の増大、公共施設の老朽化など、様々な課題が積み重なっていた。取り組みの発端となったのは、平成26年度の経常収支比率が99.7%に達し、危機的な財政状況に陥ったこと。行政のリソースだけでは立ち行かない状況に対し、財政基盤を固めて持続可能なまちづくりをしていこうと、市として官民連携を積極的に取り入れることを決定したという。

平成27年には専門部署をつくり、職員が官民連携を専門的に研究する東洋大学大学院へ入学。さらに連携提案の専用窓口を設けようとしたが、途中で頓挫してしまったと日紫喜さん。「当時は庁内にも、官民連携という言葉が浸透していませんでした。市民や事業者が何でも要望できる窓口と誤解して、意見が殺到するのではという懸念があり、窓口の設置は時期尚早だと判断したのです」。

そこで同市は、取り組みのファーストステップとして民間からアイデアを募る「広告事業提案制度」、「ネーミングライツ・パートナーシップ提案制度」を開始。市の財政負担がなくとも市民サービスや利便性の向上、歳入の確保につながる事例を重ね、民間事業者と連携するメリットを共有していった。「成果を目に見える形で示せたと同時に、市民の地域に対する様々な思いや、“問い合わせ先が分からない”という民間事業者の不満、そして“思うような提案が得られない”といった職員の戸惑いも理解できました」。こうした経験から平成28年10月、「コラボ・ラボ桑名」を創設した。

原課と民間事業者の“橋渡し役”を務め、まちづくりの新しい挑戦を生む。

コラボ・ラボ桑名は、提案をもち込む事業者のワンストップ対話窓口で、現在は職員3人で運営。テーマ型やフリー型など4タイプで提案を受け付け、原課とのマッチングを進めている。「他自治体の手法も研究しましたが、規模も職員数も違うので、最終的には独自の方法で進めました」。

窓口を設置して間もなく、徐々に提案が入りはじめた。中には商材を売り込むだけの営業もあったが、話を聞くことが原則。その中で可能性を感じた提案は次々と原課につなぎ、実現に向け伴走する。代表的な事例として日紫喜さんは、健康増進施設「神馬(しんめ)の湯」を挙げる。「財政的な理由などで事業がストップしていたのですが、窓口を通して官民連携が実現。施設の建設運営費は事業者が負担するという民設民営で事業が実現した上、市には年間約500万円の地代収入が入るようになりました」。庁内でも連携の意識が浸透しはじめ、複数の福祉施設を統合した「桑名福祉ヴィレッジ(次ページ参照)」のような画期的な事例も生まれたという。もちろん成功ばかりではない。「当初は職員も経験不足で、仕様書を固めすぎて事業者の自由度を妨げたことも。失敗から得た教訓は“官民連携の心構え”として庁内に共有しています」。

さらに、同市では民間との連携で歳出削減・歳入確保を実現した取り組みについて、その成果額の一部を原課の予算に付与する制度を採用。こうした工夫の積み重ねで庁内の気運も高まっていったそうだ。

民間に負けないスピード感で提案内容の約3分の1を実現へ。

開設から7年が経過し、提案件数も年々増加。令和4年度までの総数は218件で、うち70件が実現している。こうした積み重ねの効果は数字にもあらわれ、かつては危機的だった経常収支比率が13.9ポイント改善したという。

提案の仕組みもアップデートしており、令和元年には“新フリー型”を追加。市民サービスの向上につながることや市の財政負担がないことなどを条件とするこのタイプは、実施が決まれば随契へと進むため、提案件数も多いという。「事業者がもつ独自技術やノウハウの保護、実現までが速いといった点が事業者のメリットになるようです」。

また、取り組みの中で副次的な効果も生まれており、蒔田さんは「情報を得る場としても役立っています」と話す。「役所での情報収集には限界がありますが、提案を通して事業者の話を聞くことで最新事情に触れることができるのです」。コラボ・ラボ桑名を運営していく上で大切なのはスピード感だと、暮石さんも強調する。「行政の課題に沿ういい提案なら実現させたい。ならばこちらも民間のスピード感に合わせ、自治体の本気を見せることが大事です」。こうした努力や工夫が実を結び、今では庁内で課題があれば“民間と連携して解決できないだろうか”と考える習慣が広まっているという。

民間へ広く門戸を開き、まちを変革しつづけている同市。「できない理由を考えるのではなくどうすれば実現できるかを考え、まちのためになるなら条例を変えるくらいの気概が大切です」という日紫喜さんの言葉に、官民連携にかける思いが垣間見える。

 

 

市長公室 政策創造課
左:係長 日紫喜 智洋さん
中央:主査 蒔田 浩子さん
右:主事 暮石 成臣さん

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