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【セミナーレポート】藤沢市が考えるデジタル市役所「シン・シヤクショプラットフォーム」と、その第一弾としてのコンタクトセンター開設について

住民サービス向上と業務効率化の両立は、自治体にとって悩ましい問題の1つ。多様化するニーズに限られたリソースで応えるためには、思い切った改革が必要になります。

今回のセミナーでは“住民からの問い合わせ対応”に着目し改革を進めている藤沢市の事例を中心に、取り組みに協力した企業も登壇。大胆な挑戦の内容を公開しました。

概要

□タイトル:藤沢市が考えるデジタル市役所「シン・シヤクショプラットフォーム」と、その第一弾としてのコンタクトセンター開設について
□実施日:2023年11月8日(水)
□参加対象:自治体職員
□開催形式:オンライン(Zoom)
□申込者数:108人
□プログラム:
第1部
デジタル市役所「シン・シヤクショプラットフォーム」に向けた一歩目の取組
第2部
「疑問解決プラットフォーム構築」成功の秘訣と「シン・シヤクショプラットフォームへの昇華」に向けて
第3部
デジタル市役所を実現するServiceNowのプラットフォームとは


デジタル市役所「シン・シヤクショプラットフォーム」に向けた一歩目の取組

第1部では、藤沢市で取り組みをリードしたDX担当者が登壇。改革のきっかけや現状、今後の展望などを中心に、自治体職員が持っておきたい“改革マインド”にも触れながらDXの知見を共有してくれた。


<講師>

宇田川 晟氏
藤沢市 企画政策部 デジタル推進室 主任

プロフィール

平成27年度入庁。市民課部門にてマイナンバー制度創設に伴うカード申請交付事務の立ち上げに従事したのち、平成31年度より総務省に出向し、地方税制度のデジタル化に従事。帰任後は、情報システム部門に1年間従事し、令和3年4月より現職。


問い合わせ対応業務の煩雑さをプラットフォーム活用で解消する。

まず、当市でプラットフォームという考え方が生まれたきっかけからお伝えします。

私が所属しているデジタル推進室は、2年半前に庁内のDXマインドを醸成するための研修を行いました。そのテーマの1つが“問い合わせ業務のDX”だったのです。当時は、住民からの問い合わせ手段が電話やWebなどバラバラで複雑化し、回答に必要なナレッジも一元化されておらず、業務の管理が困難な状況でした。これらの課題を全てコンタクトセンターのプラットフォームで解決しようとしたのです。

プロジェクトは一旦停滞したのですが、コールセンターのリプレースが近くなってきたので、このチャンスに変えようと決意しました。まず原課の担当者を巻き込み、課題解決のワークショップを実施。そして、問い合わせのDXを進めるためにプラットフォームをつくって業務改善をするというビジョンを描き、幹部や関係部署に必要性を訴えました。その上で役割分担を決め、デジタル部門は原課の良きパートナーとして位置付けました。

こうした下準備が、本プロジェクトの成功につながったと考えています。

上記は、実際に出来上がったプラットフォームの略図です。市民からの問い合わせは、全てデータベースに蓄積され、ナレッジとして活用できる状態になります。回答に必要なFAQも全てデータベース化。これにより、コンタクトセンターのオペレーターで完結できるものが増え、職員の負荷は削減される。

そして同時に、住民がWeb上で疑問解決できる仕組みもつくりました。こうした中で意識したのは、問い合わせ関連業務の全てを1システムで完結させるという点です。

内製可能なツールを活用して、まちの未来を支えるプラットフォームを目指す。

ここからは、今後の展望について話します。まず、当市が掲げたビジョンを図式化したものが上図です。

目指すところとして「郷土愛あふれる藤沢」を掲げ、それには市民が暮らしやすいと感じられるまちづくりが必要であり、それを持続可能にするには職員が働きやすい環境もつくらなくてはならない。そのためにはムダをなくし、働きがいを向上していく。そして最終的にはまちが発展しスマートシティの実現や人口増などにも結び付く、といった流れを考えています。

これを実現するために、デジタル活用で「どこでも・ぴったり・簡単」な行政サービスを提供していく。その手法が「シン・シヤクショプラットフォーム」です。

当市では、令和5年10月にポータルサイト「ふじまど」が立ち上がり、問い合わせ業務をプラットフォーム化しましたが、今後はほかの市民向けサービスにも展開していきたいと考えています。取り急ぎ着手したいと考えているのが「子育て」と「イベント」のプラットフォームです。

この両者は、様々なステークホルダーが介在し、それぞれが問題意識を持っています。例えば子育てなら、保護者、保育所、医療機関、ファミサポなどです。同時に、役所にも関連部署が複数あり、システムも個別に持っているので、住民はどこに相談すればいいのか分かりづらく、市の職員からすれば問題点などが共有できていないという悩みがある。これらを一度に解決してしまおうというのが各プラットフォームです。

住民が必要としている情報、例えば予約や申請を行ったり、どんなサービスが使えるのか調べたり、申請のステータスをチェックしたりといったことをプラットフォーム上に集約して可能にします。ここにアクセスすれば自分がやるべきことが全て可視化され、完結する。そのような、当事者・関係者・自治体で“三方よし”というシステムをつくっていきたいと考えています。

ほかにも改革できるサービスはたくさんあるので、そういったところにシン・シヤクショプラットフォームで新たな価値を提供するのが目標です。

この取り組みで、当市はプラットフォームを構築するテクノロジーに、ServiceNowが提供している「Now Platform」というノーコード・ローコードツールを採用しました。これを採用した理由は下記のようなものです。

また、こうした構想を実現していくためには、単にツールを入れるだけでなく、職員のマインドや、役所の核心的な部分に切り込む必要があります。まずは内製化の体制を確立しなくてはなりません。そのためにはスキルを蓄積し、人材を育てていくことが必須なので、“異動”という役所の慣習にも切り込んでいきたいと考えています。

また、こうしたツールは横展開で共有すると開発の時間もコストも削減できるので、自治体同士のつながりも重視しながら進めていくことが大切です。

私たち自治体職員にとって重要なのは、変革を恐れることなく、常に業務をアップデートすること。まずは挑戦し、だめなら修正するというアジャイルのマインド。そして、プロジェクトに対する熱意です。これからの行政プラットフォームを一緒につくっていくために、積極的な意見交換もしたいと思っているので、いつでも気軽にご連絡ください。

「疑問解決プラットフォーム構築」成功の秘訣と「シン・シヤクショプラットフォームへの昇華」に向けて

デジタルプラットフォームは業務効率化に大きな効果を生むが、自治体の力だけで構築するのは難しい。セミナー第2部では、藤沢市の取り組みでパートナーを務めたBlueshipの担当者から、官民連携に必要なマインドの部分を中心に語ってもらった。

<講師>

寺澤 萌氏
株式会社Blueship Consultant

プロフィール

平成28年にBlueshipへ入社。HQプリセールスチームにて、地方公共団体市民向け給付金システム導入プロジェクトではPMOとして参画。その他、中央省庁等DX導入プロジェクト ・金融機関社内ワークフロー刷新プロジェクトなど多数経験。


自治体業務の効率化においてプラットフォームが果たす役割とは。

私は藤沢市のコンタクトセンターの導入に携わったので、その経験も含めてお話ししたいと思います。まず、疑問解決プラットフォームの可能性について説明します。

自治体におけるDXの課題は、部署ごとに使っているツールが異なり横連携がしづらいとか、DXの知見の不足、人材育成の難しさ、サービス導入の費用などがあります。

中でも、システムの個別化・分断化というのは大きな問題です。システムが分散していると、一部をデジタル化しても業務全体のデジタル化は進められなかったり、部署をまたいでのデータ連携が困難だったりします。その結果、職員の力に頼ってしまうといったことになる。住民側の目線で見ると、申請ごとに別々の窓口を渡り歩かなければならない状況になります。これは双方にとってマイナスです。

今回構築したコンタクトセンターの、今後の目指すべき姿としては、共通的な基盤としてServiceNowのツールを導入した上で、課ごとの業務を全てこの基盤の上で完結させ、さらにデータ連携もこの基盤の上で可能にしていこうというものです。こうすることで前述のような課題を解消しようと考えています。

ここからは藤沢市の事例を元に説明します。我々が実施したことは大きく以下の4つです。

●様々な問い合わせ方法の実現
●問い合わせのデータをプラットフォーム上で一元管理
●ナレッジ蓄積、レポートによる分析
●FAQポータルの構築

これら全てを1つの基盤上に構築するのが今回のコンタクトセンターの支援内容です。図にすると以下のようになります。

「オムニチャネル」と書かれた部分で、住民からの問い合わせ手段を拡張し、対応するオペレーターは電話やチャットなどチャネルを問わず同一のナレッジ(FAQ)を見て回答する仕組みを提供します。特徴としては、問い合わせへスピーディに対応できるようになり、住民もWebを見たら回答が得られるという状況を構築できるという点があります。現状はコンタクトセンターだけですが、今後は来庁せずに行政サービスを提供できるという仕組みを目指していきたいと考えています。

ちなみに、「FAQを蓄積する際に職員の負担が増えるのでは」という質問を受けることがありますが、FAQをきちんとつくれば問い合わせが減るということが数字にあらわれており、結果として職員はラクになります。その効果を体感すれば「FAQをもっとつくろう」というマインドも醸成されるのです。

官民連携で欠かせないのは互いに一歩踏み込んでいく協業の姿勢。

こうした仕組みが今後、「シン・シヤクショプラットフォーム」へと進化していきます。市民にとってはパソコン、モバイル、電話といった好きな方法で自分のやりたいことを実現できるようになり、データは内部に取り込み必要に応じて他システムと連携していく。これら全てを同一基盤上に構築し、申請受け付けから処理完了までを一気通貫でできるようにしていくというところまで進めたいと考えているのです。

具体的には、市民向けサービスだと給付金事業や出産・子育ての面談の予約、定期健診の情報配信など。事業者向けであれば補助金の申請業務、イベント情報の管理、施設の図面管理やプロジェクト登録などです。また、庁内向けの業務では公用車の貸し出し申請とか、履歴の保管などへの活用をイメージしています。

ここからは、なぜこのプロジェクトが無事にカットオーバーできたのかといった点について説明します。

事業者選定の段階では、我々として単純に要件通りのものをつくるのではなく、市で行っている業務の中身や、どのようなシステムなら市民・職員にとってより良いものになるのか、最終的に何を目指しているのか、といったことを常に考えました。こうしたことがシステム会社に求められるのではないかと考えています。

加えて、自治体とシステム会社の「一緒にいいものをつくっていこう」というマインドの部分も大きいと思います。同市担当者が、我々から投げかける細かい質問の1つひとつに向き合い、原課の職員も含めて回答してくれたということも成功の要因です。さらに今回のシステムは、現場の声などを聞きながらアジャイル開発で進めました。短期間での構築ができたのはこの手法によるものが大きいです。

また、コミュニケーションについても、定例会議やメールだけでなく、今回はSlackを利用して、何かあればすぐに連絡し、レスポンスよく回答いただけました。当社と藤沢市のコミュニケーションスピードは、プロジェクトのスピードにも影響していると思います。

今後は、同市で構築したコンタクトセンターや、ここで紹介したような複数の業務をテンプレート化し、ほかにも展開していきたいと考えています。プラットフォーム導入で悩みがあれば、気軽にご相談ください。住民ファーストのDXをお手伝いしたいと考えています。

デジタル市役所を実現するServiceNowのプラットフォームとは

第3部は、自治体のプラットフォーム構築を可能にするサービスを提供しているServiceNowの講演。住民・職員共にメリットのある仕組みをつくる上でのポイントを、導入事例を交えて紹介してくれた。

<講師>

小幡 和也氏
ServiceNow Japan合同会社 アカウントエクゼクティブ

プロフィール

平成15年より大手SIerにて自治体システムの営業職に従事し、市町村、都道府県の基幹システム、内部情報システムの再構築を多数経験。令和5年1月、ServiceNow Japan合同会社に入社、現職。


目指すべきはシステムの“全体最適化”。それを実現するための条件とは?

このパートでは、ServiceNowの自治体における活用事例などを紹介します。

まず、行政におけるデジタルサービスのあるべき姿について。これまでの公共向けサービスは、個々の制度や業務に対応していった結果、“個別最適”な仕組みになりがちでした。その結果、ユーザーにとってはサービスごとのログインや繰り返しの申請が発生してしまい、職員にとっては手動での集計やデータの連携が必要になるなど、サービスの分断が生じています。エンドユーザーと職員のエクスペリエンスや生産性の低下につながっているのです。

一方、これからは“全体最適”の視点が求められます。今までつながっていなかった個別の既存サービスをつなげ、全体として大きなサービスを目指すことで、組織と組織、業務と業務の“サイロ”を打破していくことが必要です。これにより、住民・職員双方のエクスペリエンスが向上し、新規サービスの早期導入や、住民一人ひとりにマッチしたサービスを届ける多様性などにつながるのではないでしょうか。

この全体最適を実現するために必要な基盤が共通プラットフォームであると、我々は考えています。

公共サービスの共通プラットフォームに求められるものとして、3つのポイントがあります。1点目は「ユーザー体験ファースト」です。ユーザーのアクションをベースとしたサービスの設計が重要だという考え方で、ここには市民や事業者だけでなく、職員のエクスペリエンスも上げていくという視点も含まれています。

2つ目に、業務プロセスとデータの統合、すなわち横串の連携です。組織・システムの分断が進むと、埋め合わせを人力に頼るようなことも起きますが、共通プラットフォーム上に業務データやプロセスを統合していけば、部門や組織をまたぎつつ必要なデータが形成されます。そして自ずとプロセスがまわっていくのです。

3つ目がSaaS型の職員開発です。激しく環境が変化するこの時代では利用者に対して迅速・柔軟な対応が求められます。これが実現すれば、自治体にとってもベンダーに依存しない環境がつくられ、メリットは大きいです。

当社はこれらの条件を満たす、行政で活用可能なプラットフォームを提供しています。これにより、住民、事業者、職員をワークフローでつなぎ、各種の既存システムとも連携しながら、DXを実現していくことができます。

地域住民と職員の満足度を向上した3自治体における導入事例の紹介。

ここで、ServiceNowのデジタルワークフローによる事例を紹介します。まず横浜市です。同市では、地域子育て支援拠点事業での共通基盤として保護者、支援者、拠点の運営法人、市役所の職員といったプレーヤーをつなぐ役割を果たします。子育て拠点の利用申請をServiceNowのポータルで行い、必要な情報を複数のプレーヤーが同じ基盤で見られる仕組みです。

保護者や支援者からすると、ナレッジを参照しながら自己解決が可能になり、スマホでも簡単に申請ができる。拠点の運営法人や職員は、ナレッジから問い合わせの内容を蓄積し、それを行政経営に活かすといったことが可能です。こちらは令和6年4月の稼動に向けて現在構築中です。

東広島市では市民ポータルを立ち上げ、この中で双方向コミュニケーションを実現しています。例えば学校への遅刻・欠席連絡などが可能で、これにより保護者の登録率は98%という数字を誇っています。

渋谷区では、職員向けのポータルサイトとして採用されました。ここに業務システムや周知用掲示板などを集約し、各主管課からの連絡や作業依頼を職員の属性に応じて配信できるものです。チャットボットや内部からのワークフローなどもポータル上に実現しており、住民サービスにより注力できる環境をつくっています。

ここで紹介したもの以外にも、多数の事例が生まれつつあります。コンタクトセンター以外にも、多様な観点でデジタルワークフローの活用が可能です。興味があれば個別に紹介いたしますので、ぜひご相談ください。

お問い合わせ

ジチタイワークス セミナー運営事務局

TEL:092-716-1480
E-mail:seminar@jichitai.works

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