地域課題の解決を目指すアドベンチャーツーリズム
滞在地域の自然や歴史を体感する「アドベンチャーツーリズム(以下、AT)」が、世界の富裕層に人気だ。観光だけではなく、地域課題の解決手段としても注目されているという。広島市湯来町(ゆきちょう)でATに取り組む佐藤さんに話を聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.28(2023年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]株式会社JTB
湯来の魅力は世界に通じると確信し、ATをまちづくりの起爆剤にする。
古くから温泉地として親しまれてきた同町。豊かな水と森に恵まれ、大自然を満喫できるロケーションを誇る。しかし、広島市中心部から車で約1時間という好アクセスがかえってあだとなり、日帰りの通過型観光地となっていることが課題だった。
平成26年、同町に移住してきた佐藤さんは、「長期間滞在する外国人旅行者に、私が経営するカフェを手伝ってもらっていました。そこで印象的だったのが、4カ月間滞在したドイツ人青年の“湯来で人生が変わった”という言葉です。エンジニア志望だった彼は帰国後、森林経営の大学に進みました。“湯来の夕方の香りと空気は最高だ”と言ったオランダ人もいました。ここの素晴らしさが世界にも通じることを実感し、“まちを観光で盛り上げたい”と思うようになったのです」と話す。
平成30年、佐藤さんは「NPO法人湯来観光地域づくり公社」の理事長に就任。そして出合ったのが、ATだったという。「ATでは、旅を通じて自己の内面を“変容”させ、環境に負荷をかけない“持続可能な旅”であることが求められます。私の理想と完全に一致していたので、湯来のまちづくりに取り入れようと決意しました」。
住民や環境に負荷をかけずに地域が潤う仕組みがある。
ATとは“アクティビティ・自然・文化体験”のうち、2つ以上の要素で構成される旅行のこと。数日間滞在して、その地域の自然や文化、歴史などを体感し、人々と交流する旅行形態だ。高付加価値の体験を求める欧米の富裕層に支持され、客単価も高い傾向にあるという。国としても、インバウンド誘致に向けたAT推進の動きがあり、関心が高まっている。
佐藤さんも「ATでは、価値のある体験にはそれに見合った価格を設定するので、地域が潤います。また、対象が少人数グループなのでオーバーツーリズムの心配がなく、外国人旅行者なら土日に集中することもない。住民の生活や、豊かな自然を守りながら、まちの活性化を図れるのが魅力です」と話す。
日本のATには、「交流創造事業※」を展開する「JTB」がグループを挙げて、初期段階から積極的に関わってきた。佐藤さんが同社と出会ったのは、自身で開いたATの勉強会だったという。そこで、地域課題の解決手段としてATを推進する同社の考えに共感し、令和3年、まずは一緒に中国運輸局の事業に申請した。それが無事に採択されて、広島におけるATの取り組みが始まったというわけだ。
※「交流創造事業」は株式会社JTBの登録商標です
オンリーワンのコンテンツを整え、地域一丸となって世界へ発信。
現在、佐藤さんは広島市周辺エリアでのツアー造成に取り組んでいる。「広島市だけではなく、江田島市(えたじまし)などまでエリアを拡大して、プログラムを考案しています」。旅行者に自己変容を促すためには、ツアーのコンセプトがカギを握る。まちに息づく先人の物語を伝えたり、アクティビティを通して生態系への理解を深めたり、コンセプトに沿ったプログラムづくりを徹底しているという。
例えば、広島を知る上で、戦争についての歴史は無視できない。「原爆投下の3日後に動きはじめた市電には、“復興に向けて人々が歩みだせるように”と奮闘した会社員たちの思いがあります。それらの史跡やストーリーを巡ることで、広島のまちを知ってほしいと考えています」。こうして造成したツアーには、同社のサポートで招いた国内外の専門家がモニターとして参加。アドバイスや意見をもらい、コンテンツの磨き上げにも力を入れている。
「広島を伝えたいと願う仲間が集まっています。もちろん、JTBさんもチームの一員。今も毎日のようにチャットでやりとりして、様々な準備や手配を進めています」。広島のツアーはすでに、同社を通じて海外で販売されている。10月からは同社の国内キャンペーンでも、プロモーションを本格化させるという。ATが旅の選択肢として定着する日も近そうだ。
NPO法人湯来観光地域づくり公社
理事長 佐藤 亮太(さとう りょうた)さん
担当者の声
まちづくりの一環としてATに取り組んでいます。住民の生活と自然環境を保護しながら、地域の活性化を図れる点が魅力です。
地域の課題にATで向き合う
少子高齢化による課題
・人口流出
・一次産業の衰退
・経済活動の低迷
▼
一次産業も魅力あるコンテンツになる
コンテンツを開発・提供することで、新しい仕事や雇用が創出され、若い世代の流出を防止。また、地元農家との交流も重要なコンテンツになる。
観光に関する課題
・地域資源を活かせていない
・観光人材不足
・オーバーツーリズム
▼
地域の人の日常がかけがえのない体験に
戦後復興の活力となった“お好み焼き”。ストーリーを伝えることで、付加価値の高い体験に。ガイドが少人数グループに密度の濃い体験を提供する。
主役は地域の事業者
様々なコンテンツを開発したり、提供したりするのは地域の事業者たち。自治体とJTBには、その取りまとめやサポートが求められる。
自治体の役割
●ATの普及・啓発
●補助金の申請
●広報など
JTBの役割
●コンサルティング
●コンテンツの発掘・磨き上げ
●専門家の派遣
●人材育成
●流通チャネルの確保など
地域の日常が、旅行者にはかけがえのない体験になることも。資料のダウンロードはこちらから。