ジチタイワークス

高知県日高村

スマホを“不要”と考える住民の意識を“必須”に変えてDXの土壌を整える。

スマホを地域生活のインフラ化して持続可能な行政へ

人口約4,800人の日高村で令和2年にスタートした「村まるごとデジタル化事業」が注目を浴びている。高齢化率約43%の村が実現した、スマホ普及率向上の舞台裏と今後の展望について、企画課の安岡さんに聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.28(2023年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

人口減少という来るべき未来に備え自助・共助・公助の再構築を目指す。

自治体においてもDXが求められる今、地方には大きな壁が立ちはだかっている。過疎化と高齢化が進む地域では、デジタル化に対応できない層が住民の多くを占めるといわれる。

「行政DXは不可避ですが、当村ではそれにより多くの住民が取り残される懸念が出てきました。高齢化率約43%という中で、いずれデジタルに置き換わる行政サービスを、住民が不安なく利用できる状況に整えることが、行政DXより先ではないか。住民がデジタルに不慣れなままでは、デジタル化しても効果は得られない。そう考えたことが、スマホ普及率100%を目指す、村まるごとデジタル化事業を企画したきっかけです」と安岡さん。

同村が積極的にDXを推進している背景には、今後の人口減少を見据えたコスト圧縮の必然性がある。「村の人口減少が進んでも、生活の質を維持するためには、財政支出を抑えなければ成立しません。例えば防災無線など、維持管理費がかさむ古いインフラは改めて持続可能か検討すべきです。戦後からこれまでは、充実した社会保障制度など、生活の様々な面を行政が支えてきました。しかし、避けられない人口減少の未来を考えれば、住民自らの手でできることを増やし、自助・共助・公助の再構築を目指すことが重要だと考えました」。

各地域へ自ら赴き、目的と重要性を地道に伝え、共感と信頼を獲得する。

そうして取り組みを始めた安岡さんが目の当たりにしたのは、本事業に多くの住民が無関心という現実だったそうだ。「デジタル化に関する事業にもかかわらず、実際には泥くさい活動が続きました」と打ち明ける。事業説明会の案内を出すも、参加者はたったの数人という日々が続いた。そこで、全82の自治会に直接、説明会の開催を申し出て、自ら足を運び説明してまわった。

「当事業について、スマホをすでに所持する住民から不公平だという声があったことも事実です。そこで、事業資金は全て企業版ふるさと納税で賄うことや、DXによって行政サービスが効率化すれば全体の利益につながること、そのためにスマホの普及が不可欠であることを丁寧に説明しました」。

地道な活動が功を奏し、スマホ普及率は短期間で急上昇した。しかし、開始から3カ月ほど経過した頃から横ばいに。そこで、各地域で影響力のある住民をキーパーソンに据え、デジタル地域通貨「とまぽ」が付与される紹介キャンペーンを展開した。「キーパーソンに紹介用のカードを配りました。村内各所に設置した『スマホよろず相談所』へその知人が持参した場合、1人当たり500ポイントを紹介者に付与する施策です。知らない誰かや行政よりも、身近な人から聞いた話の方が安心してもらえますから」。

さらには、スマホの活用拡大および共助力の向上のため、住民同士が顔を合わせて話し合いながら困り事を解決できる“デジタル共助ステーション”をスーパーや理容室などに設置。いわゆる“学習”ではなく、楽しみながら利用方法を学んでもらうために、相談会の講師をお笑い芸人に依頼し、各所で開催するなどの施策も展開したという。

よろず相談所は、気後れせずに何でも相談できると評判だ。

上げた成果を全国へ共有して日本の行政DXを加速させる。

事業開始以前の令和2年5月の時点で約65%だった同村のスマホ普及率は、令和4年6月に約80%にまで上昇し、劇的な向上を成し遂げた。

安岡さんは「スマホの普及は入口にすぎません。歩くことでポイントがたまる健康アプリの開発や、村からのお知らせが配信されるLINE公式アカウントの開設、県の防災アプリの導入など、スマホの活用機会の拡大を図る施策も積極的に展開しました。その結果、利用者数は健康アプリが800人以上、LINEは1,800人以上、防災アプリも1,200人を超えています。キャッシュレス決済は1,200人以上が利用し、1,000万円以上の地域内経済循環が、デジタル地域通貨を通じて実現しました」と胸を張る。

令和4年に内閣府が実施した「夏のDigi田甲子園」では、全国159の取り組みの中でベスト4に入賞。先進的な試みと成果は、多くのメディアが注目し、視察申し込みが毎週絶えないそう。

この9月より企業だけでなく、公募で選ばれた9自治体とも連携して、スマホ普及率向上の取り組みを開始した。「この事業を企画した当初から、他自治体のモデルになるべく、ファーストペンギンのつもりで取り組んでいます。ですので、チームに蓄積された知見をシェアすることが社会的責任だと考えています。再現性を高め、“担当者が代わっても継続できる仕組み”になるよう、9自治体と検討を重ねて、8月には一般社団法人を設立しました。小さな村から、全国を変えていきます」と語ってくれた。

 

日高村
企画課
安岡 周総(やすおか まさふさ)さん

 

予算情報

0円
「 企業版ふるさと納税」活用

※一般財源での自己負担額

スマホ普及率100%を目指した村まるごとデジタル化事業


 

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