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【解説】空き家対策の推進に関する特別措置法が改正、令和5年の法改正の背景とポイントは?

平成30年に総務省が行った調査によると、全国で約849万戸の家屋が空き家となっており、20年で約1.5倍に増加※1していることが明らかになった。空き家の増加は周辺地域に防災・防犯、衛生、景観など多くの弊害を及ぼすため、各自治体で対策が行われている。空き家の適切な管理を強化するため、令和5年に空き家対策特別措置法が改正された。

今回は、法改正の背景と現行法と、改正のポイントについて解説する。

※1:出典:総務省「住宅・土地統計調査」
 

【目次】
• 空き家対策特別措置法改正の背景と現行法
• 法改正の4つのポイント
• 今後も増え続ける空き家問題を加速度的に解決するための法改正

空き家対策特別措置法改正の背景と現行法

総務省が5年ごとに実施する「住宅・土地統計調査」によると、平成30年時点で空き家は全国に838万9千戸あり、前回調査が行われた平成25年から3.6%増加している。また、総住宅数に占める空き家の割合は13.6%と過去最高となった。空き家は社会問題ともなっており、平成27年に「空き家対策の推進に関する特別措置法」が施行されている。実情に沿った制度対応により、空き家対策を強化しようと令和5年に同法が改正された。まずは空き家問題の現状や、現行の「空き家対策の推進に関する特別措置法」から整理していこう。

空き家問題の現状

居住目的のない空き家は、1998年から2023年の20年間で1.9倍に増加している。2030年には470万戸になる見込みで、今後も全国で空き家が増えつづける見通しだ。空き家の所有者に活用の意向がない、あるいは意向はあっても活用に向けた活動が行われていない空き家が相当数存在している。そうした空き家は手つかずのまま放置されているため、日ごろの管理も十分ではないのが現状だ。


 

現行の特別措置法の概要

現行の「空き家対策の推進に関する特別措置法」は平成27年より施行され、空き家の定義や自治体の対応を定めた法令だ。空き家の情報収集のため立ち入り調査を行う権限を自治体に認め、倒壊のおそれがある「特定空き家」には撤去や修繕を所有者に命ずるほか、応じない場合は行政代執行を可能としている。
 

空き家問題への制度対応を求める自治体の声も

空き家問題に対応する自治体からは、より実情に沿った制度対応を求める声が上がっていた。


空き家の活用に関しては、空き家が集中する区域への重点的な対策と、NPOをはじめとする民間主体と連携したマンパワー不足の解消を求める声が自治体から寄せられている。

空き家の管理や除去に関しては多くの課題が挙げられている。空き家の管理に関して、まず所有者の管理責任をより強化すべきといった声や、倒壊の危険がある特定空き家になる前に対策を講じたいといった意見が寄せられた。特定空き家の除去も、現行法では法的手続きや費用の問題がハードルとなっているため、財産管理人の選任申立権の市区町村への付与を求める声や、急時の代執行を現状より円滑に行える制度の実現が望まれている。

空き家の中には所有者が明確ではない家屋もあるため、所有者探索のさらなる円滑化も求められている

 

法改正の4つのポイント

令和5年に行われた改正のポイントを見ていこう。空き家対策に取り組む自治体から寄せられた意見が反映され、より実情に沿った制度にアップデートされている。

①重点エリアと方針を定め、現行法では難しかった空き家の活用拡大へ

令和5年の改正で「空き家等活用促進区域」制度が創設された。中心市街地など、地域の拠点となるエリアに空き家が集積してくると、その地域本来の機能を低下させるおそれがある。また、建築基準法等の規制があるため、古い家屋の建て替えや改築を行う際の障壁になるケースもあり、空き家の活用を進める上での課題となっていた。

空き家等活用促進区域制度では、市区町村が区域と活動方針を定めることができる。区域内の空き家を対象に、建築基準法等で定められている接道や用途の規制を緩和できるようになった。この制度により、現行法では難しかった空き家の建て替えや用途変更を進めるねらいがある。


 

②官民連携により、空き家担当者の人手不足・知見不足の解消へ

改正により市区町村が、空き家の活用や管理に取り組むNPO法人や社団法人を「空き家等管理活用支援法人」に指定することが可能となった。空き家に関する問題は多岐にわたるため、専門知識やノウハウを持たない多くの自治体では業務負担の増加が課題となり、所有者への働きかけも十分できていないことも問題となっていた。国土交通省の資料によると、6割以上の自治体が担当部署のマンパワー不足、6割近くの自治体が専門知識の不足を課題※2として挙げている。

市区町村が空き家の活用や管理に精通した団体を空家等管理活用支援法人に指定することで、業務をアウトソースする体制が構築しやすくなった。この制度により第三者団体の協力を得て、空き家事業に関わる自治体職員のマンパワーや知識不足の解消が期待されている。

※2:出典 国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律(令和5年法律第50号)について」


 

③「管理不全空き家」の新設、早期介入により“特定空き家化”の未然防止へ

今回の改正では現行法上の「特定空き家」の前段階に相当する、「管理不全空き家」が新設された。行政が早期介入することで空き家所有者に管理を促し、周囲へ悪影響を及ぼす“特定空き家化”を未然に防ぐことが目的だ。

市区町村長は、放置すれば現行法上の「特定空き家」になるおそれのある「管理不全空き家」の所有者に対し、管理指針に即した措置を「指導」できる。指導してもなお状態が改善しない場合には「勧告」が可能となる仕組みだ。勧告を受けると、当該空き家の敷地に係る固定資産税等の住宅用地特例が解除され、所有者は空き家にかかる税金の軽減が受けられなくなる。


 

④特定空き家への措置を円滑化、緊急時の障壁除去へ

市区町村が特定空き家への措置を円滑化するための改正も行われた。現行法では特定空き家を行政が代執行により管理・処分する際には、手続きや費用の回収に時間的猶予が設けられるシステムだ。迅速な対応が必要な緊急時にも同様の手続きが必要で、倒壊の危険がある建物や災害時などの安全確保の障壁となっていた。空き家の増加に伴い今後は特定空き家も増加することが見込まれるため、法改正により所有者への勧告や命令といったプロセスの円滑化が進められている

改正前の空き家法では、市区町村長に特定空き家の所有者から報告徴収を行う権限が認められていなかった。自治体から所有者への強制力がないため、特定空き家の管理状況を把握することが困難なケースも存在している。

令和5年の改正では特定空き家への勧告・命令等を円滑に行うため、市区町村長に特定空き家の所有者に対する報告徴収権を付与した。これにより、緊急時に取り壊す必要がある特定空き家に対して、命令等の手続きを省略した代執行が可能となり、迅速に周辺地域の安全を確保できる仕組みとなっている。また、空き家の解体費用の徴収に関しても対策が講じられ、略式代執行時や緊急代執行時においても、国税滞納処分の例により、所有者の財産から強制的に費用を徴収することが可能となった。

今後も増え続ける空き家問題を加速度的に解決するための法改正

少子高齢化が進む中、今後も空き家の総数は全国的に増えていく見通しだ。平成27年より開始した制度に自治体の声が反映され、令和5年の改正でブラッシュアップした形になっている。「管理不全空き家」の新設により、倒壊の危険が高い「特定空き家」になる前段階で、早期介入が法令上可能となった。空き家になっているにも関わらず、制度上どうすることもできなかった空き家問題には、追い風となる新制度だ。

自治体が持つ権限も強化され、特定空き家の解体に向けてより迅速な手続きが可能となっている。また、空き家事業に関わる自治体職員の人手不足の問題も民間法人との官民連携で解消していく方針だ。新制度の活用で、空き家問題の早期解決を目指したい。

 

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