インストールもツール利用も無料で、“第一歩”が踏み出しやすい。

RPA導入によって、単純作業の省力化を図る自治体が増えている。政令市や中核市はもちろん、近年は小規模自治体でも、AIやRPAの活用を検討する動きが盛んになってきた。ただ、財政的な余力が十分ではない自治体の場合、費用対効果などの懸念を導入前の検証で解消しなければ、予算取りもままならないのが実情のようだ。

その検証のため、ほとんどのRPAツールベンダーがサービス導入前の無料トライアル期間を準備しているが、「多くの場合１カ月程度ですから、十分な検証は困難。そのわずかな期間のためだけに、RPAシナリオを作成するのも非効率です」と西田さん。しかも、クラウド型などのインターネット接続が必要なサービスの場合は、さらにもうひと手間が必要。庁内ネットワーク（LGWAN接続系）から通信できるよう、特別な設定を要するのだという。

そうした中で同市は令和４年12月、「コクー」とともに、「RPA推進共同プロジェクト」に着手。同社が提供する無料RPAツール「マクロマン」を、一部業務に導入した。「インストールするだけで使えるデスクトップ型なので、ネットワーク変更などの前準備が不要で、利用も無料。そのため、“年度越え”の予算要求を行う必要がないのです。さらに同社の社員による現場でのサポートが受けられることから、スムーズに導入が決まりました」。

専門知識をもつ社員のサポートで、導入初期の“壁”を越えやすい。

マクロマンは、ツールのインストールと利用が無料で、同社の正社員である「RPA女子」による開発～運用サポートを有料で提供するという、ユニークなビジネスモデル。

同市の場合、RPAを適用できそうな業務を庁内全課に照会したところ、20～30種類が挙げられたという。同社との打ち合わせで対象を４業務に絞り、さらに、RPA女子が現場の業務環境などを確認。その上で、まずは健康課の“支出命令書作成業務”から自動化することが決まった。

RPA女子が初期スクリプトを構築した後、シナリオとトラブルシューティング資料を納品。それを参照し、動作の微修正は同課の坂本さん自身が行ったという。「初めてのツールでゼロから自力で組み立てるのは、ややハードルが高いものです。しかし最初の“取っかかり”をサポートしてもらえたので、仕組みを理解できた。その後の運用・展開は自分たちでもやれるという自信が湧きました」。

導入に向けて業務を見直すことが、BPR意識の高まりにつながる。

今回の導入経験について坂本さんは、「自身の業務の要素と順序を理解できていれば、あとはそれをツールに伝えるために、少しだけ仕組みを勉強すれば大丈夫でした」と振り返る。「当課だけだと処理件数はそれほど多くありませんが、ほぼ全課に同様の業務があります。全庁展開すればかなりの効率化につながるでしょう」。

また、仕事のモチベーションという面で、「多くの業務を抱えつつ、単純作業を何時間もやりつづけるのは、実はかなりの苦痛」だと、西田さんは強調する。「そんな仕事のやり方を変えるとき、一時的には業務が増えるでしょう。しかしすでに、私たち自治体職員は変わるしかない時期に来ているのではないでしょうか。今回、当市でスピーディに導入できたこのRPAツールとサポートは、アジャイルに進めるべきDXの本質を突いたサービスだと感じています」。

業務効率化の側面ばかりが注目されがちなRPAだが、「業務フローを見直す中で、不要な作業の発見や、より効率的なやり方の検討ができました。そうした機会が生まれることも、BPRの観点から重要ではないかと感じています」。自治体業務の抜本的改革が求められている現在、同市のRPA導入は、将来の改革に向けた確かな一歩になりそうだ。

大川市
左：企画課
係長 西田 直光さん
右：健康課
坂本 大輔さん

RPAに向く業務

● ルール化が可能な業務
● 繰り返しが多い業務
● 単純で例外が少ない業務
● 処理件数の多い業務 など

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