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公務員のキャリア形成、大事なのは「何をしたいか」ではなく「どうありたいか」。

「公務員は人事も評価もブラックボックスだ」と思う人は少なくないのでは。人事異動が頻繁にあり、自分が思い描くキャリア形成が難しいと感じることも。その結果として、人事異動や転職の際の自己PRがうまくできずに尻込みしてしまうという悩みも多い。

本特集では、そんな地方公務員の「人事・評価」について、「あるべき姿」や「実際のところ」を伝えつつ、個人ができることを考えていく。今回は現在の状況下で個人がキャリア形成のために何ができるのか、民間企業から地方公務員経験を経てキャリアコンサルタントとして活躍する柴田朋子さんに話を聞いた。

【「人事と評価」再考】

【前編】地方公務員の「人事と評価」 仕組みを学び、キャリア戦略に活かす!

【後編】地方公務員の「人事と評価」 昇給・異動と「評価」の関連は?

自治体職員のキャリア形成について

一般的なキャリア研修と公務員のキャリア形成とのギャップ

ーー いきなり本題で恐縮ですが、自治体職員にとっての「キャリア形成」とはどういったものなのか、そして自分のキャリアを形成するために若手職員はどのように行動していけいけばいいかをお聞かせください。

柴田朋子さん(以下、敬称略) 自治体職員のキャリアデザインは、民間企業と若干異なる面があります。それは職場環境や社会情勢の変化に起因しています。

例えば民間のキャリアデザイン研修のように「10年後の自分の姿や、高めたいスキルを定めて、そこからキャリアプランを考える」といったワークを自治体職員向けにすると、みなさん「異動の計画」みたいに考えてしまうのです。「この部署に異動して、ここで係長になって、ここで地域経済の活性化を担当して最終的には産業労働局の管理職を目指す」とか言った具合です。業務と部署をイメージしてキャリアを考えるのです。

ただ、このようなキャリアプランを考えても、人事異動に反映されるわけではないですよね。かなえられないプランを書かせて、それを研修の成果として上司に提示しても、「それはそれ、これはこれ」で終わってしまうのです。こんな状況なので、キャリアデザインなんて自治体職員にとっては無意味と考える人がいてもおかしくありません。

けれども一方で、とても高いモチベーションで仕事をしている自治体職員の方もいます。自分のキャリアを組織に委ねず自分らしく生き生きと業務を遂行しているのです。人事異動で部署が変わるたびに自分らしさを発揮して働き、「ここの部署が天職かも」と毎回言っているような人もいます。

ーー 非常に興味深いお話ですが、その理由は何だと思われますか?

こうした人たちに共通しているのは、「自分が何をしたいか=want to do」ではなくて、「自分がどうありたいか=want to be」で考えている点です。彼らは人事異動に振り回されることなく、また自分のやりたい仕事や、やりたい何か分野とは関係なく自分らしいキャリアを築きながら働いています。

want to doではなくてwant to be で考える

ーー その話、もう少し具体的にお伺いしてもよいでしょうか?

私の知り合いの話ですが、その人は、例えば教育を担当する部署でも、環境部門でゴミ問題を担当していても、地域政策の立案をやっていても、いつでも楽しんで仕事をしているんです。「どうあれば自分は喜べるか」を絶えず考え、業務との関わり方においても探究心を常に発揮し、自分を楽しくする方法を身につけている

その人は面白いことが好きで、例えば地域でユニークな活動をしている人とか、仕事で関わった民間企業が持つ斬新な発想とかを、自分の今いる組織で活用できないかと常に考えています。

そうすると、担当している仕事の境目ギリギリを攻めるケースもあります。頭の固い役所の中で、新しい何かわけの分からないことを実現するためには、様々に理由付けをしたり多くの人を巻き込んだりしたりせざるを得ません。

そうしていくうちに、まわりには様々な人たちが集まり、情報のハブみたいになって、新たな面白い話がどんどん入ってくるといういい循環が生まれることになります。

ーー 受け身で仕事を与えられるだけでなく、自分と仕事の関わり方を主体的に考えるということですね

多くの自治体職員の方は真面目なので、与えられた仕事をしっかりとやり遂げようとする責任感は強く持っています。逆に言えば、「言われたことを全うする」ことをゴールにしてしまっているのです。
好きなことを仕事にしたいとかではなく、自分で仕事との付き合い方を決めることがキャリア自律の第一歩だと思います。

自分にとって何が大事かを言語化すること

ーー 自分で仕事との付き合い方を決めるには何を意識すればよいのでしょうか?

前提として、何をしたら自分が喜ぶとか、仕事において何を大事にしているかをきちんと言語化し、自己理解を進めることが必要です。そのためには、「仕事が楽しい」と感じていた時期の振り返りをしっかりと行ってください。

例えば、「上司や同僚と気があって仲良く仕事できたから楽しかった」で終わるのではなく、「大事な仕事をみんなで協力して一つの成果を追い求めることに意義を感じた」という風に、自分が仕事を進める上で大事だと思うポイントを言語化するのです。
そうすれば、どのような部署に配属されても、「おのおのが力を発揮し、協働できるチームビルディングをする」ことにモチベーションを見出すことができ、ひいてはそれが、自分のキャリアの核になっていくのです。

公務員のキャリア形成における試行錯誤の重要性

まずは目の前の仕事を大切にすることが重要

ーー 例えば若手の自治体職員が、将来的に民間への転職を視野に入れようと考えた場合、日々何を意識すればよいですか?

先ほどの通り自分の自己理解を進めることも大事ですが、まずは目の前の仕事をしっかりと進めることを優先してください。民間でも公務員でも、目の前の仕事がきちんとできない人に転職は無理です。どこかに自分の「天職」があるから今の仕事は手を抜こうなんて考えは捨ててください。

また、自治体職員の転職が難しい理由の一つに、民間企業からすると「何ができる人か分からない」という点が挙げられます。「公務員は融通が利かない」というネガティブなイメージもあるので、転職活動は苦戦するのが一般的です。

まずは職場内で小さくまとまらず、外に出て色々な人に会ってください。まずは祭りとか民間のワークショップとかで十分なので、ちょっとだけ踏み出してみることです。

関連する人や組織との接触を図る

ーー 小さくまとまらず、外の世界を見てみるということですね

機会は色々なところにあります。公務員を中心とした交流会とか、大学の同期の集まりとか、何でもいいです。色々なところに顔を出していれば、どんどん新しい機会がまわってくるようになるので、「何かあったらあいつに声をかけようか」と思ってもらえ、何かしらのプロジェクトに呼ばれるような好循環が生まれてきます。

試行錯誤を恐れず、失敗やムダな経験も成長につながる

ーー キャリア形成というと、大きな行動や深い考えが必要なのかなとか思うんですけど、そうじゃなくて、自分のまわりにある機会に手を挙げていくという意識が大事ですね

そうですね。気を付けたいのは、最初から正解を知ろうとすること。損をしたくないとか、ハズレを引きたくないなど、特に若手職員の方はコストパフォーマンスを気にしすぎる傾向があります。

キャリア形成は基本的に試行錯誤の連続です。失敗したりムダだったりしたことも必ず何かの形で生きてきます。正解ばかりを追い求めていると回り道をしなくなり、そこで得られるせっかくの機会を逃してしまうのです。

公務員の働き方は、組織に合わせるのではなく主体的に取り組むこと

自分の生き方に職場をアレンジすることを考えてみる

ーー 自治体職員の場合、キャリア形成よりも仕事や組織に自分を合わせて働くといった意識の方が尊重されるように思えますが?

民間企業でも、組織が個人に求めるものは当然あり、その対価として給料をもらうという点は共通です。「Will-Can-Must」という有名なフレームワークの通り、Mustに答えずして組織や会社にいられるわけがないというのが大前提です。つまり、与えられているMustに対してどれだけ自分のWillを入れていくかのさじ加減が大事です。

自分と組織がどのようにすればWin-Winになるかを考えた上で、「今の部署のDXを推進する」、「業務をマニュアル化する」といった工夫や提案を行うのは公務員も民間も同じです。

従って、主体が組織、職場にあって自分はそれに合わせるだけという考え方ではなく、自分の生き方に業務や職場をどうアレンジしていくかという視点で考えてほしいというのが私の意見です。

頻繁な人事異動もデメリットばかりじゃない

ーー 一方で、頻繁で広範囲な人事異動が自治体職員のキャリア形成の阻害になっているという意見もありますがいかがですか?

その意見も一理あると思います。とはいえ、頻繁な人事異動によるメリットもあるんです。それはリベンジがきくということ。つまり、失敗をリセットしやすいということです。異動で自分のスキルが全く通用しない部署で何かとんでもない失敗をやらかしても、別の部署に異動して普通に業務をこなしていけばリベンジできます。異動のたびに何回でもチャンスがあるという意味ですね。自治体には部署がたくさんあるので、民間企業と違って「もうあなたの働く場所はないので辞めてください」っていうことはほぼありません。

また、自分自身のことを客観的に見られない段階では、視野が狭くなって「この仕事しかできない」って思い込むことがあります。そんな人が人事異動でこれまでと全く異なる部署へ異動となった際、「新しい自分」を見つけることができるのです。このように、人事異動によって新たな自己理解が進むケースもあるのです。

キャリアコンサルタント有資格者に相談するのもあり

ーー 自分自身だけでは自己理解が進まない場合、外部のキャリアコンサルタントの方に相談するのもありですか?

もちろんそれもありだと思います。また、最近では自治体職員の中にもキャリアコンサルタントの資格を取得している人は結構増えています。例えば上司とか同僚とか、自分のまわりの人たちに有資格者がいる場合があるので、こういった現役公務員でありながらかつキャリアコンサルタントのような方がいたら、積極的に相談してもらいたいと思います。

あわせて、私自身も公務員人材開発研究会という勉強会を月に1回ハイブリッド形式で実施しています。この勉強会で行われるグループワークの中でも、様々な相談が無料でできますので、機会があればぜひ参加してほしいなと思います。

 

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柴田 朋子(しばた ともこ)さん

JUNO(ユーノー) 代表/キャリアコンサルタント

株式会社リクルートにて16年間、主に求人情報誌編集企画に携わった後、瀬戸市役所に入庁。広報、国際交流、生涯学習、税務、産業振興、雇用、教育分野に携わる。現在はキャリアコンサルタントとして独立し、公務員、法人のキャリア研修から、主婦の「生き方探し」まで、幅広く手助けしている。

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