【セミナーレポート】子育て伴走型支援/デジタル化・業務効率化事例紹介セミナー
妊娠・出産・子育てに関する不安や悩みを解消し、少子化対策や子どもの健やかな成長を促すために進められている「出産・子育て伴走型支援」。すべての妊婦と子育て家庭が安心して出産・子育てできるように、各自治体が様々な経済的支援と相談支援を実施しています。
そこで今回のセミナーでは、「子育て伴走型支援」におけるデジタル化や、業務効率化の事例を、自治体での取組みを交えて紹介します。また、出産・子育て応援交付金業務の効率化に繋がる官民連携サービスも紹介します。
概要
■子育て伴走型支援/デジタル化・業務効率化事例紹介セミナー
■実施日:2023年6月27日(火)
■参加対象:自治体職員
■参加者数:124人
■プログラム ※レポート公開はProgram1・Program5のみとなります。
Program1
子育て支援が必要な住民にきちんと向き合うためにおこなったデジタルツールの活用
Program2
保健師負担を1/2~1/3に!R5年度下期からの子育て応援交付金活用:郵送&架電デジタル化事例紹介
Program3
伴走型相談支援充実のためのサポート施策 SNS相談窓口「産婦人科・小児科オンライン」のご紹介
Program4
わかりやすく伝わる情報発信で効果的な子育て支援を子育てガイドブックの無料協働発行
Program5
すべての子どもが輝き、未来を創るまち昭島 こども支援の強化を図るためにおこなったデータ連携
子育て支援が必要な住民にきちんと向き合うためにおこなったデジタルツールの活用
<講師>
岐阜県笠松町 住民福祉部健康介護課
課長 田島 明さん
子育て伴走型支援における子育て家庭や、お母さん方との連絡手段としてSMSを導入した笠松町。人口2.2万人の同町が、敢えてSMSを導入したきっかけや背景、活用後の変化や住民の反応について、同町健康介護課の田島さんが紹介する。
きっかけは情報発信のスピードと業務量の削減
――SMS導入のきっかけについて教えてください。
笠松町は人口22,000人弱・15歳以下人口は2,800人程度の自治体です。本町では保健師などの専門職が健康介護課に配属されているため、1つの課で子育てから介護まで非常に幅広い分野の事務を担っています。子育て関連や、がん検診含めた各種検診、最近は新型コロナに関わるワクチン接種など幅広い事務を行なっています。
そのため、郵便物を発送することが非常に多く、時間と手間がかかっていました。また、最近は郵便物を発送してから町民の皆さんに届くまでに時間がかかるようになってきており、今後考えるべき課題として問題意識を持っていました。
今回のテーマの子育て関連以外の業務における課題になりますが、新型コロナのワクチン接種では郵便物が非常に多くありました。接種券やチラシを封入して数を数え、郵送する作業を何度も繰り返し、時間と労力を費やしていました。
そんな中で、自治体向けSMSサービスの記事をジチタイワークス誌で発見し、SMSが業務に活用できるのではないかと感じたのが、導入のきっかけです。子育て担当者に確認したところ、同様にアナログな作業が繰り返しており、月に20人ぐらいの対象者に3種類ほど検診や教室の案内を、郵送で12カ月間繰り返す状況でした。
これを改善できないかと、まず自治体向けSMSサービスの無料トライアルを利用することから検討しました。また、子育て世代の対象が若い方ですので、きっとSMSにも馴染んでいただけるというような思いもありました。
状況にあわせた情報伝達
――SMSサービス導入の決め手について教えてください。
メッセージを受け取る方が、とにかく携帯さえ持っていれば受信できるというSMSの利点と、導入コストが安価である点が、導入の決め手になりました。
LINEは多数の方に情報発信を行うために使っていますが、特定の方に配信するシステムは費用がかかります。そういったことを考えていくと、SMSというのは非常にコストパフォーマンスが良いと感じています。もちろん、配信する内容によってLINEやSMS、また郵便を使い分ける必要があると思っていますが、特定の方に案内を送るものに関して、やはり文字のメッセージを残すことができるSMSは有効です。
内容によって発信手段を使い分けていくことが重要で、1つの発信手段が全て良いというわけではありません。その中でもSMSは、新しいツールとして有効だと思っています。
デジタル化への第一歩
――導入後の職員負担の軽減についてはいかがだったでしょうか。
まだ多くの業務をSMSに切り替え入れたわけではないので、劇的な変化があったということではありません。ただ、今まで郵便で送っていたものをSMSに切り替えた案件に関して言えば、体感的に3分の1くらいになっていると思います。
郵便であれば印刷、紙折り、封入の作業を行なわなければいけないのが、SMSであればそのままメッセージを送信するだけです。これに関しては、大幅に手間が減ったと感じています。
また、これは小さな自治体でデジタル化が進まない理由の1つかもしれませんが、「少数の対象者なら郵送で十分」という認識が職員にあります。ただ、先述のように3種類を12カ月郵送するとなると、36回分の手間と時間がかかるわけです。それでも、郵送する人数が少ない分、何とかやれてしまっている…という現状が、デジタル化を遅らせている原因なのかと感じています。SMS導入は、良いタイミングで業務改善に向けて、第一歩を踏み出せたと思っています。
SMSを活用することで、メッセージ以外にも電子アンケートやURLも添付しています。SMS以前に導入していたLoGoフォームに誘導するURLを添付し、回答を得る形も実施しています。メッセージと組み合わせることによって、使いやすいものになっていくと思っています。しかも、電子アンケートを使うとデータを抽出することができるので紙ベースより集計等の作業効率が良く手間も減りました。
SMSの送信対象者が若い子育て世代なので、電子アンケートの方が答えやすいとか、手元のスマートフォンを見れば日程が確認できるなど、良い反応も得られています。
一方、お子さんの出生時には、その地区を担当している母子保健推進員さんが自宅を訪問して健診や教室のスケジュールを案内しています。また、子育ての悩みごとについては、対面や電話でしたいという声もありますので、相談者に寄り添った対応ができるように顔が見える関係を大事にしていきたいと思っています。効率化できる部分のデジタル化を進めることで、子育て世代にきちんと向き合うことができる体制をつくっていきたいと思っています。
[参加者とのQ&A] ※一部抜粋
Q:導入にあたり、庁内で反対や懸念の声などはありませんでしたか。
A:LINE等を導入した経緯があるので、それほど高い障壁があったわけではありません。SMSのシステムがLGWAN環境下で使えるということ、小さな自治体でも使いやすいシステムであったこと、出産・子育て応援交付金を確保する際にSMS導入経費を補正できたことなどで、スムーズに導入できました。
Q:電子アンケートに関して。個人情報が含まれる場合があると思いますが、利用者からの同意についてはどう対応されていますか。
A:個人情報を含むアンケートの場合、紙ベースの場合は当日に同意のサインを頂く対応を取っていましたが、電子アンケートの場合は、個人情報を含まないアンケートに限るよう配慮しています。
すべての子どもが輝き、未来を創るまち昭島 こども支援の強化を図るためにおこなったデータ連携
<講師>
東京都昭島市 子ども家庭部子ども育成課
係長 杉本 和巳さん
デジタル庁が進める「こどもに関する各種データの連携による支援実証事業」に採択された昭島市。本当に支援を必要としている家庭を見つけ出すため、福祉や教育など各担当課が保有するデータを連携させたほか、ヤングケアラーなど問題を抱えている可能性のある子どもの早期発見・プッシュ型支援に繋げている取り組み事例を、子ども育成課の杉本さんが紹介する。
デジタル庁「各種データの連携による支援実証事業」に参加した経緯
昨年度まで本市には、こどものことに関する相談を受け付けるシステムがなく、例えば虐待や養育困難などの相談は、全てエクセルで管理していました。私が着任した当初の平成27年は、年間相談件数が7,000件弱で推移していましたが、それ以降は8,000件、9,000件と年々増加し、令和4年度は1万件を超えました。そんな中、東京都内の自治体はほぼシステム導入されていますが、昭島市には入っていない状況でした。そこで、デジタル庁こどもに関する各種データの連携による支援実証事業に手を挙げて、採択されました。
下記の表が導入までの主なスケジュールですが、導入は、タイトなスケジュールで進めました。12月後半にシステム稼働の予定でしたが、担当者がコロナに感染して作業がストップし、実際のシステム稼働は1月に入ってからになりました。
また、1月前半に分析の評価・プッシュ型支援の実現可能性の評価とありますが、時間の関係上、多くの件数を調査アセスメントすることが難しく、少ない件数の中でどれくらい適切なものがあるかというところで進めました。システムの検証作業については、1ヶ月程度しか時間が取れなかったというのが実際のところで、今年度については多くの件数を検証していく考えです。
マイナンバー系ネットワーク内でセキュリティを確保
本市は、こども子育て支援事業計画を立て、「すべてのこどもが輝き、未来を創るまち昭島」という基本理念のもと、困っている子どもたちを早く見つけようと、今回のこども相談総合システムを導入しました。実証事業で連携するデータ項目の一覧は下記の表の通りですが、本市は最下段の「こども相談総合システム」を導入しました。
マイナンバー系ネットワーク内での管理とすることでセキュリティを確保しています。導入したシステムを既存のシステムと連携させて、困っているこどもを抽出することができるシステムになっています。
様々なデータを取り扱うため、個人情報の目的外利用の点が課題になりました。システム導入と並行して課題解決を進め、令和4年度については審議会で了解を得て、市民にホームページに周知、個人情報の目的外利用の了解を得るという形で事業を行ったところです。令和5年度については、新たに個人情報保護の法律ができたので、今後こども家庭庁とも調整をしながら、進めていくのが課題だと考えています。
実証事業でデータ連携する関係機関と役割について
以下の図は、実証事業でデータ連携する関係機関と役割を表しています。システム運用事業者は主に2社で、基幹系システムは(株)アイネス、校務支援システムはウィンバード(株)が担当し、連携体制を取っています。図には載っていませんが、データ分析と抽出を行う会社も1社参加し、導入したシステムを既存の他のシステムと連携させて仮説を立てながら、データ分析・洗い出しを行っています。
校務支援システムは、こども総合相談システムと別枠となっていますが、連携することにより、校務支援システムの情報から出席状況や成績情報を提供してもらう中で、困難を抱えている子どもの発見につなげています。
また、今までなかなか発見できなかったヤングケアラーの抽出を目的として、家族の高齢者が要介護認定者であるのかを調べ、その情報をもとにヤングケアラーの抽出ができるのか…という試みも行っています。システム導入前は、児童福祉法第10条の関係で各機関に1件ずつ問い合わせていましたが、システムを導入したことで、我々が関わっているかどうかが一目瞭然となりました。
また、システムを導入した上で、課題となる問題の洗い出しも実証事業の大事なところだと思っています。例えば、実証に必要なデータが特定されているか、個人情報の取り扱いや論理面の対応の在り方が適切に整理されているか、転居等の整理がされているかなどを検証することです。小さな自治体ですし、システム導入で全てうまくいくわけではないので、問題の洗い出しにも力を入れています。
[参加者とのQ&A] ※一部抜粋
Q:学校の成績情報の提供とありましたが、具体的にどのような情報提供を受けていますか。
A:実際のところ、まだ十分に活用できていない状況です。校務支援システムの入力状況に大きな差があり、出席情報のみの入力で成績情報の入力が無い場合や、そもそも出席情報も入力が無いなど、学校によって校務支援システムを活用できていない現状を、昨年度把握したところです。そこで今年度、教育委員会の方から統一的な対応を学校側へ図る形で進めています。
Q:個人情報保護法の改正を踏まえ、学校の児童生徒や保護者に個人情報の利用目的をどのように周知されましたか。
A:周知については本年度からになります。昨年度の実証事業を継続する団体が5団体と、新たな団体が9団体あります。全14団体で今年度のこども家庭庁の実証事業を行いますが、まずは各種のデータを利用するにあたっての個人情報の取り扱いはどうするのかが最初の課題と思っています。例えば、各自治体で要綱・要領を定めてホームページ等で周知していくなど、各団体が足並みを揃えて実証事業に臨んでいくことになると思います。