官民の強みを集結した観光地域づくり法人を自治体が設立
建物の老朽化により、歴史的資源を失う危機に直面していた大洲市。DMO※を設立し、歴史的建造物の改修・活用に奔走した結果、“世界の持続可能な観光地TOP100選 2022”の一員となった、その経緯を聞いた。
※DMO=Destination Management Organization(地域の“稼ぐ力”を引き出しながら、地域への誇りと愛着を醸成する“観光地経営”の視点に立った、観光地域づくりの舵取り役)
※下記はジチタイワークスVol.27(2023年8月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
アイデンティティーを守るため観光まちづくりの研究を開始。
かつては大洲城の城下町として栄えていた同市。古いまち並みを楽しめる観光地として多くの人に親しまれてきた。「しかし平成28年頃より、まち並みを構成する建物が、所有者の高齢化や相続などといった問題から維持できず、解体、新築、改修へと向かいはじめました。まちの景観が損なわれ、城下町としての歴史的風情も減少。地域のアイデンティティーさえも失いかねない状況だったのです」と押田さんは語る。
そこで、平成29年6月に地方創生に力を注ぐ地元の金融機関と勉強会を実施。歴史的資源を活用した観光まちづくりの研究を開始した。全国の事例を調査していく中で目に留まったのは、古民家の再生・活用により、まちに活気を生む成果を収めた兵庫県丹波篠山市(たんばささやまし)の事例。そこで、事例をけん引した法人にもアドバイスを求め、まちづくりの仕組みを構築した。「官民連携により歴史的建造物の改修・活用を進め、インバウンド客を増やすこと。観光スタイルをこれまでの日帰り型から宿泊型へシフトさせること。そして、まちの魅力を深く届けられるよう工夫することなど、方向性を明確にしていきました」。
また同年12月には、地域未来投資促進法にもとづく基本計画を同市と愛媛県とで策定。民間事業者が補助制度などの公的サポートを受けることで、事業進出しやすい状況をつくり出したという。
官民4者で連携協定を締結し中間的立場のDMO設立へ。
平成30年4月、同市は資金提供を行う金融機関、古民家を活用した宿泊事業を行う事業者、歴史的資源の改修・活用などの計画を策定する事業者といった、それぞれに強みをもつ民間3社と連携協定を締結。歴史的資源を活用したまちづくりに向け、一歩を踏み出した。
また、同市の100%出資で、地域DMO「一般社団法人キタ・マネジメント」を設立。「個人の所有物である古民家を自治体が税金を投入しつづけて保存するのは難しいですが、民間だけに任せると、地域が残していきたい歴史的な景観を守れるとは限りません。そのため、中間的な位置付けの組織が必要だったのです」と宇高さん。各組織とともにまち並みを守るだけでなく、それらを活用した事業を展開し、自ら利益を生み出すことで、地域の文化を未来につないでいく体制を整えたという。
現在もスムーズに運営できているそうだが、その理由については、「自治体が軸を決め、方向性を定めたこと。互いの得意分野を認識し、リスペクトしながら進めたこと。そして官民が、それぞれリスクを負う覚悟をもって臨んだこと。それにより持続可能な運営が可能になったのが要因だと思います」と語る。さらに、DMOの不動産管理部門として「株式会社KITA」も設立。町家や古民家などを改修し、賃貸、管理を実施。その収益の一部を、DMOに還元するという仕組みをつくり上げたという。
官民連携協定締結式の様子。
年間1億6,000万円を売り上げ持続可能な観光のまちに。
プロジェクトがスタートして約5年。令和4年度末までに市内で再生した歴史的建造物は31棟にのぼる。再生した建物にはホテルなどの宿泊施設をはじめ、カフェや雑貨店、オーガニックタオル専門店など約20業者が出店。令和3年の決算ベースで約1億6,000万円(13事業者が対象)を売り上げたという。
「古民家再生の取り組みと並び、日本初の木造天守での城泊事業『大洲城キャッスルステイ』もDMOが企画・実施中です。城に泊まるだけでなく、城主の入城体験や神楽などの観覧、地元食材を使った料理など、大洲を感じられる仕組みが海外からも注目を集めています。これらは宣伝効果だけでなく、まちの価値を見出すことにもつながりました」。
また、こうした取り組みが認められ、令和4年には、オランダの国際認証機関「グリーン・デスティネーションズ」による“世界の持続可能な観光地TOP100選2022”に選出されるなど、観光地としても大きく飛躍した。各地に存在する歴史的建造物。その活用法をいま一度考えてみてはいかがだろうか。
大洲市
環境商工部 観光まちづくり課
左:課長補佐
押田 清(おしだ きよし)さん
右:専門員
宇高 将志(うたか まさし)さん