企業を巻き込む複合的施策で閑散期の観光業もサポート
地域が抱える課題を、企業とともに解決するワーケーションプログラムを独自で開発している鹿追町。民間との協働で事業の持続性を模索しつつ、閑散期の観光業にもメリットをもたらす取り組みについて、話を聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.27(2023年8月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
脱炭素化を目指す中で生まれた“課題解決型”の観光施策。
観光と畑作・酪農を主産業とする同町は、家畜のふん尿の適正処理と臭気対策を目的に、平成19年と27年にバイオガスプラントを2基建設。観光環境の改善を図るとともに、脱炭素化への道を歩みはじめた。また、令和元年からは、北海道庁が推進するワーケーションの導入に向けた実証実験に参画。「始めてすぐにコロナ禍となり、観光客が激減。少しでも人を呼び込む一手になればと考えました。しかし、ただ仕事場と宿泊先を提供するだけでは、コロナ禍における一過性の施策になるのではないかと、懐疑的な思いをもつようになったのです」と迫田さん。
その頃同町には、いくつかの地域課題が存在していた。国立公園でジオパークにも認定されている然別湖の、特定外来生物による環境破壊の懸念。冬季に湖の氷で建物をつくる人気イベント「しかりべつ湖コタン」の担い手不足などだ。そこで、「当町を訪れた人が、地域の魅力に触れながら、ともに課題解決を目指すワーケーションができないかと考えました。
近年は環境やSDGsへの関心が高まり、企業にも何らかのSDGsアクションが求められる時代。当町の脱炭素化の取り組みや環境活動を知る、“企業研修型のワーケーション”とすることで、企業側にもメリットになるのではないか。そう考え、プログラムの作成を始めました」。
こうして令和3年、地域課題解決型ワーケーションとして観光庁のトライアルプログラムに応募。これが採択され、実証実験を開始した。
持続可能な事業を目指して、民間にコンシェルジュを委託。
実証実験では、時期を変えて3回のワーケーションを協力企業の社員が体験。「参加者からプログラムについてフィードバックを受けつつ、課題を洗い出しました。同時に、企業のニーズは千差万別であることも見えてきたのです。受け入れごとにプログラムを調整するには、役場職員のリソースだけでは難しい。そのため、このコンシェルジュ機能を地域の民間企業に委託することに。何より民間であれば、公務員にはできない“収益化”に挑戦できます」。
手を挙げたのは、地域おこし協力隊への参加をきっかけに同町に移住した正保さんだ。「鹿追のグリーンツーリズムに携わってきたので、この取り組みにも参画したいと思っていました。私のような民間なら、役場のしがらみにとらわれずにトライ&エラーができます」。
一方で、別の課題も浮上。もともと観光施策として出発したワーケーションだが、同町の宿泊施設の多くは、ファミリーや団体客向け。ワーケーションではシングルユースが主流で、観光繁忙期と重なると部屋単価が下がってしまい、宿泊施設に不利益をもたらすことが判明したのだ。「そこで、事業を閑散期の支援施策にシフトすることにしました」と迫田さん。令和4年からはこのワーケーションプログラムを「シカソン」と命名。プロモーションでも認知されやすくなったという。
補助金に頼らない取り組みで、共感し合える企業と出会う。
令和3~4年の受け入れ実績は数件と、決して多くはない。正保さんは、「重視しているのは短期的な成果ではなく、当町に興味をもってくれる企業と出会うことと、持続可能な事業へ育てていくこと。そのため受け入れ数はあえて絞り、質の高いプログラムの提供を意識しています。また、シカソンでは企業側への交通・宿泊費の補助は行っていません。補助金頼みではなく、“自費でも参加したい” “思いを共有したい”と考えてくれる企業とこそ、つながっていけたら」と力を込める。
シカソンでの出会いが縁となり、参加した企業と同町との協働で、DXに関する連携事業なども進み始めているという。令和5年11月の観光閑散期には、シカソンに興味をもつ企業が一堂に集まる、「ワーケーションサミット in しかおい(仮称)」も開催予定だ。新たな旅のスタイルといわれるワーケーションを、さらに独自のアイデアで再定義した同町。地域課題の解決や企業誘致、関係人口づくりなど、複合的な側面をもつ新様式の観光スタイルに、今後も注目したい。
左:鹿追町 企画課 係長
迫田 明巳(はくた ひろみ)さん
右:一般社団法人En 代表理事
ワーケーションコンシェルジュ
正保 縁(しょうほ ゆかり)さん