勤続数十年と、係長・課長補佐・課長級と順調に昇進していったものの、日頃の業務の中で、議会対応や部下とのコミュニケーションなど、悩みや不安を抱えている方も多いでしょう。
今回は、これまでに議会答弁の経験がなく、どう対応すればいいか不安……といったお悩みに対し、八尾市 こども若者部長の吉川 貴代さんに回答いただいた。
【連載】
case1:議会答弁の経験がなく不安です。何をどう準備したらいいでしょうか。←今回はココ
case2:管理職として具体的な調整が苦手です。どうしたらよいでしょうか。
case3:部下の昇任に対する反応にギャップや課題を感じています。
case4:課長から見た困った上司(副市町村長/部・局長編)への対処法について教えてください。
case5:課長から見た困った上司(首長)への対処法について教えてください。
お悩みcase1
4月に管理職に昇任しましたが、これまでに議会対応も答弁もしたことがないので、不安です……。何をどう準備すればいいでしょうか。
管理職、特に課長になると、“議会対応” “議会答弁”と呼ばれる場面があり、苦手だと思う人は少なくありません。心配しないでください。最初から完璧という人は、まれだと思います。
議会の仕組みや作法を学ぼう。
入庁してから課長になるまでの長い年月の中で、経験した部署にもよりますが、常に議会を意識しながら仕事をしてきたという人は案外少ないものです。例えば、“ギウン(議運)って?”という状況であるとすれば、今さら他人には聞けない!自力で議会の仕組みを学ぶ努力が必要です。
さて、どうやって学ぶか。地方自治法の議会の規定、行政学の参考書を読むのが王道ですが、イメージが湧かないかもしれません。手っ取り早く学びたいなら、議会のホームページがオススメです。
多くの議会では、議会改革の一環で住民向け情報を充実させる傾向にあり、議会の仕組みや用語を解説しているページがあります。年間のおおよその流れなどを掲載していることもありますし、議事録検索システムや動画も掲載されていることが多いので、これらも有効活用しましょう。
(出典:「八尾市ホームページ」https://www.city.yao.osaka.jp/category/4-2-0-0-0.html)
一方、これといった教材がないのが作法です。答弁調整の仕方、議会への出席や答弁する際のルールなどは作法にあたります。これは自治体差があり、議会答弁のノウハウ本には書きづらいといった事情があります。
作法は上司や先輩から学び、議員対応は礼節をわきまえて恐れずに!
議員は選挙で選ばれた住民の代表です。一方、課長は職員採用試験に合格して職員として任用された地方公務員です。首長あるいは、そのほかの執行機関長のもとで担当業務を担っています。
立場は違いますが、住民のために頑張ろうと思って、その職に就いたという点は共通しています。しかし、ベテラン議員は課長よりも年長で、地方自治に長く携わっておられる場合もありますから、対応に気後れするのは無理もないことです。礼節をわきまえて、恐れずに対応しましょう。
管理職になっていきなり、担当業務について問い合わせの電話が入った!これは焦ります。即答しかねると思ったら、話をよく聞いて、あとから返事をすれば良いでしょう。電話で無理だなと思ったら、「ご説明に伺います」と申し出て、上司か部下と一緒に出向くと良いでしょう。怖がらずに対面することで、話をしやすくなるチャンスです。
答弁調整は大事なプロセス、ただし、自治体差はある。
議会シーズン到来。定例会、通年会期制、いずれにしても5~6月頃には、課長になって最初の議会を迎えます。議会の主な出番は“本会議”と“委員会”ですが、出席範囲は自治体の組織機構による違い(局制や部制かどうか)があり、部制の場合は本会議=部長で、課長の出席は委員会というのが一般的でしょう。
答弁調整は、一見すると出来レースをしているように思えますが、そうではありません。まず、一般質問は多くの本議会で行われており、行政運営全般が対象で、議員は何らかの問題意識をもち、住民のために改善が必要だと思って質問します。委員会では、本会議で付託された条例改正や予算案などの審議が行われ、議員はその議案に賛成か反対かを判断するために内容の確認をします。
議員は限られた時間をやりくりして、執行部の答弁者(首長や職員)から答えを引き出さなければならない。そこで、執行部が、その場しのぎで、できないことをできると答弁したら日常業務が混乱します。
そのため、本会議や委員会に際して行う答弁調整では、議員の主張をよく聞き、執行部として、“できる・できない”、その理由などを含めて答弁を説明、調整します。なお、一言一句まですり合わせるかどうかは自治体差があり、多様です。
日頃からの仕事の積み重ねがあれば、答弁は怖くない。
答弁は、常にハラハラドキドキ!議事録に末永く記録、公開されます。自分の答弁を後から読み返したら、間違いではないものの、残念な答弁だったと思うことはよくあります。
また、答弁調整しても、本番で想定外の質問が出てくることもあり得ます。さて、どうするか。冷静に議員の主張を聞く。これが基本です。質問を取り違えると、かみ合わない、何を言っているのか分からないと残念な答弁になり、混乱や誤解を招きます。
日頃から、担当している事業は何のためにしているのか、何が課題になっていて、その原因、どう改善していくのかといったことを、課長を中心としたチームの中で、係長や担当者と話し合っていれば、とっさの質問でも何とか答弁できます。
4月に着任、5~6月に議会答弁の出番がある場合、短期間ですが、課内会議や日常業務の中で対話を重ね、課員とともに政策・施策のストーリーを共有できれば、仕事も順調、結果として答弁も安定します。
次回も、管理職ならではのお悩みに吉川さんがお答え。議会対応・議会答弁については、「自治体でいきなり課長になったら読む本」(学陽書房)にも掲載されています。ぜひご覧ください。
吉川 貴代(よしかわ きよ)さん
大阪府 八尾市 こども若者部長。1989年入庁。人権文化ふれあい部次長、政策企画部長などを経て現職。日本福祉大学社会福祉学部非常勤講師、大阪公立大学大学院都市経営研究科博士後期課程在学中。
著書:
「自治体でいきなり課長になったら読む本」(学陽書房) |
|
■合わせて読みたい
【相談室】自治体職員と議会との関わり方はどうあるべきだと思いますか?