
各自治体の条例にもよるが 、多くの場合、地方公務員の勤務時間 は7時間45分(週38時間45分)と定められている。しかし、部署や担当業務によっては、残業が多く、定時で仕事が終わったことはほとんどないという人もいるのではないだろうか。
そこで今回は、働き方が適切なのかを確認するために、誰もが気になる地方公務員の勤務時間や平均残業時間について解説する。残業代が支払われないときの対処法についても触れていくので、ぜひ参考にしていただきたい。
【目次】
• 地方公務員の勤務時間は何時間?
• 地方公務員の残業時間、データと実態
• 残業時間、民間との比較
• 残業代の計算方法を確認しよう
• 地方公務員の残業削減は重要!残業代は忘れず受け取りを
※掲載情報は公開日時点のものです。
※2025年3月3日に最新情報を反映しました(初回公開:2023年6月6日)
地方公務員の勤務時間は何時間?
地方公務員の基本的な勤務時間帯についてご紹介する。
基本の勤務時間は1日7時間45分
地方公務員法第24条5により、地方公務員の勤務時間は各自治体の条例で定める、とされているが、多くの自治体では、国家公務員と同様の7時間45分(週38時間45分)を採用している。基本的な勤務時間帯について、いくつかの自治体の例を確認してみよう。
始業時間、終業時間は各自治体で異なるが、勤務時間には多い、少ないという違いはない。しかし、休憩時間については「45分」「1時間」と、自治体ごとに異なっている。
地方公務員の残業時間、データと実態
では、地方公務員の残業時間について見ていこう。サービス残業の実態、年次有給休暇についても確認していく。
地方公務員の残業時間は
総務省の「令和3年度地方公共団体の勤務条件等に関する調査」の結果によると、地方公務員の時間外勤務の時間数は以下の通りとなっている。
出典)総務省「地方公共団体における時間外勤務の上限規制および健康確保措置を実効的に運用するための取組の推進について」内『令和3年度地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果』より抜粋
参考までに、令和3年国家公務員給与等実態調査の結果から、令和2年の国家公務員の時間外勤務の時間も確認しておこう。
サービス残業の実態
令和元年4月、人事院規則により国家公務員の時間外労働時間について「原則として1カ月に45時間かつ1年について360時間の範囲内」と定められた。地方公務員もこの規定に準ずるよう総務省から要請が出ている。
しかし、「自分のところは残業が少なくなった実感がない」という人も多いのではないだろうか。上で紹介した「令和3年度地方公共団体の勤務条件等に関する調査」では、時間外勤務の時間数が月45時間を超える職員の状況についても調査している。その結果も見てみよう。
出典)総務省「地方公共団体における時間外勤務の上限規制および健康確保措置を実効的に運用するための取組の推進について」内『令和3年度地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果』より抜粋
どの団体でも10%程度の職員が月45時間以上の残業をしていることが分かる。しかし、「令和3年度地方公共団体の勤務条件等に関する調査」では、団体ごとの月々の時間外勤務時間は10時間超程度という結果となっているため、正しく回答していない職員がいることも想定される。そこで、考えられるのが、調査等で回答されていない「サービス残業」の存在だ。
少し古いデータになるが、平成26・27年度に調査した「地方公務員の時間外勤務に関する実態調査」では「出退勤時間の把握方法」についても調べられている。その結果は以下の通りだ。
出典)総務省「地方公務員の時間外勤務に関する実態調査結果(平成26・27年度)」
多くの団体が「職員からの申告」で出退勤時間を把握しているという。また、任命権者(上司)の現場確認頼りの団体もある。タイムカードやICカードなどの客観的記録で出退勤時間を把握している団体は非常に少ない。もちろん、残業時間をきちんと申告・確認している場合も多いだろうが、正しく申告していない、確認されていないという人も、ある程度存在するのではないだろうか。
ちなみに、地方公務員のサービス残業時間がどの程度なのか、という調査結果は存在しない。しかし、新聞・テレビ等のマスコミ報道で公務員の働き方やサービス残業の過酷さについての告発を目にすることも多いのではないだろうか。
年次有給休暇取得率は?
国を挙げての「働き方改革」の影響もあり、地方公務員の時間外労働時間についても総務省から要請が行われている。では、年次有給休暇の取得率についてはどうだろうか。「令和6年度国家公務員給与実態調査」を確認してみよう。
上記調査では取得率についての調査結果はなかったが、年次有給休暇の取得日数についての調査はされているので、そちらを紹介する。
国家公務員の年次有給休暇平均取得日数は令和5年では、全体平均で16.2日/年となっている。しかし、取得日数が年5日未満の職員は全体の13.4%(※1)と、全ての人が満足できる日数の年次有給休暇を取得できているとは限らない。なお、年次有給休暇取得率が部署の評価の一部になる場合も多いため、年次有給休暇を「夏季休暇」「年末年始休暇」につなげ、長期休暇にすることを推奨する団体も多い。
※1出典:令和元年度「地方公務員における働き方改革に係る状況」
残業時間、民間との比較
ここまで、公務員の残業時間について解説してきたが、民間企業の残業時間はどうなっているかも把握しておこう。厚生労働省の「毎月勤労統計調査(令和5年3月分結果確報)」によると、一般労働者の月間の所定外労働時間は14.4時間となっている。また、時間外労働が多い上位5つの産業は以下の通りである。
出典)厚生労働省「毎月勤労統計調査(令和5年3月分結果確報)」第2表「月間実労働時間および出勤日数」より抜粋
調査結果を見ると、地方公務員の残業時間とさほど変わらないように思われる。しかし、この調査の結果は、対象事業所からの回答により作成されている。 労働者本人からの回答ではないため、ある程度、事業者の意図が入っている可能性も高い。よって、民間企業の残業時間はそれほど長くない、という結果が全て正しいとは限らない。
残業代の計算方法を確認しよう
公務員の残業代は、「超過勤務手当」という名称で支給される。支給額の計算式を確認してみよう。
超過勤務手当を計算するためには、まず勤務1時間当たりの給与額を計算する必要がある。1時間当たりの給与額は、月給(俸給+地域手当など)をもとに算出する。
(月給額×12か月)÷(週当たりの勤務時間×52週間)
次に、残業時間や勤務条件に応じて支給割合を確認する。
■ 平日の22時前までの通常残業は1.25倍
■ 休日の22時前までの休日勤務は1.35倍
■ 深夜残業(22時~翌5時)は、それぞれ通常残業・休日勤務の割合に0.25倍を加算する
■ 月60時間を超える残業は1.5倍で深夜残業の場合は1.75倍
勤務1時間当たりの給与額と支給割合が分かれば、超過勤務手当を計算できる。
勤務1時間当たりの給与額×支給割合×超過勤務時間
超過勤務手当は、基本給に基づいて計算されるため、基本給が高いほど支給額も高くなる。なお、地方公務員の場合、時間外手当は各自治体の条例に基づくため、支給額が異なる場合もある。
例えば、三重県の場合は以下のように算出する。
(勤務1時間当たりの給与額)×(支給割合)×時間外の勤務時間(※2)
※2出典:三重県「時間外勤務手当」
例として、東京都、大阪府、愛知県の時間外勤務手当の平均金額をご紹介する。
出典)総務省「令和3年 地方公務員給与の実態」内『別冊 第3 都道府県別、市区町村別給与等の一覧表(PDF)』より抜粋
災害対応時には特別措置が適用
公務員が災害対策を行う際には、特別措置が適用されるケースがある。災害中に発生した事故や病気に対しては、特別な補償が適用される場合もある。
また、通常の勤務とは勤務条件が違う場合もあるため、勤務時間が延長されたり、特別手当が支給されたりする。
災害時には、さまざまな業務が次々と発生する可能性がある。特に小規模市町村を中心に技術職員が不足している現状から、都道府県が技術職員を増員し、市町村の支援や中長期派遣要員を確保する仕組みも作られている。
サービス残業は正式な時間外労働時間とカウントされていないため、残業代がもらえない可能性もある。しかし、地方公務員として働いており、残業代の未払いが発生した場合であっても、「労働基準法第36条(時間外・休日労働協定) 」や「労働基準法第37条(時間外、休日および深夜の割増賃金)」 にもとづき、残業代を請求することができる。なお、以下の場合は注意が必要なので押さえておこう。
一般職の国家公務員
還俗として労働基準法が適用されないため、労働基準監督署に相談することはできない。相談先は人事院の相談窓口か所属府省の人事担当部局となる。
公立学校の教育職員は例外
公立学校の教育職員(校長・教頭・教諭・講師・実習助手など)は、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法第3条第2項 」により、時間外勤務手当および休日勤務手当は支給されない旨が定められている。
区分によって相談先が変わる
民間企業の場合、残業代未払いの相談先は「労働基準監督署」であるが、地方公務員の場合は、区分によって相談先が異なるため注意しておきたい。
「部署全体に残業時間を申告しづらい雰囲気がある」「上司が残業自体を把握していない」など、さまざまな事情はあるかもしれないが、公務員にも残業代を請求する権利はある。サービス残業をなくし、残業代は正しく受け取ろう。
地方公務員の残業削減は重要!残業代は忘れず受け取りを
働き方改革の流れもあり、公務員の残業削減は課題となっている。統計上では地方公務員の残業時間は平均12.4時間となっている。国家公務員については、令和5年の平均年間超過勤務時間数は230時間となっており、月にすると約19時間となる(
※3)。それほど負担感のない時間になっているが、表に出ていない残業時間の存在も考えられる。
サービス残業を発生させないよう気を付けておきたい。また、「公務員は残業代の請求ができない」という説もあるが、それは間違いである。残業が発生したら、残業代が正しく支払われているか必ず確認しよう。そして、もし未払い分があったら、しっかりと算出し、その分の金額を請求するようにしたい。
※3出典:人事院「国家公務員の平均年間超過勤務時間数(直近5年分)」
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