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【セミナーレポート】身近な”河川”から地域を守る。「今」できる水害対策のノウハウ

頻発化する豪雨災害。いつ、どこで起きても不思議ではない豪雨災害に備え、河川等の水位変化や現場の状況を監視する必要性が、全国的に高まっています。

国土交通省も令和7年度までに、約1万7,000河川を「洪水浸水想定区域指定対象」として選定する目標を掲げています。ただ、現時点で指定対象となっているのは二千数百河川にとどまっており、各自治体が地域の安全を守るために監視しなければならない河川は、今後確実に増加していくことになります。

そこで本セミナーでは、新たに追加された指定河川だけではなく、準用河川や普通河川、さらにため池まで含めて「今、必要な水害対策は何か?」をテーマに、スペシャルゲストに2日間にわたって講演頂き、太陽誘電(株)からは、初期の導入コストなど自治体が抱える諸問題が軽減できる「河川モニタリングシステム」をご紹介頂きました。

概要

■身近な”河川”から地域を守る。「今」できる水害対策のノウハウ
■実施日:5月15日(月)・16日(火)
■参加対象:自治体職員
■申込者数:96人(Day1 84人/Day2 66人)
■プログラム
Program1
農業用ため池の防災・減災対策
Program2
今すぐできる河川モニタリング
Program3
基礎自治体による豪雨災害対策をUnlearn


農業用ため池の防災・減災対策

<講師>

農林水産省農村振興局 防災課 防災・減災対策室
防災企画係長 菅 彩音氏

プロフィール

平成30年農林水産省入省、31年~令和3年まで北海道開発局札幌南農業事務所第1工事課。令和4年から農林水産省農村振興局防災課、現在に至る。


頻発・激甚化する自然災害への備えとして、ため池の防災・減災対策が喫緊の課題となっている。農林水産省は現在、「ため池管理保全法」に基づき所有者等による都道府県への届出や管理義務を明確にするとともに、「ため池工事特措法」に基づき、防災工事等の集中的かつ計画的な実施を推進しているところ。また、緊急時の迅速な避難行動につなげる観点から、ハザードマップの作成等も進めている。これらの施策の動向について、同省の菅氏が紹介する。

ため池の現状と平成30年7月豪雨を踏まえた対応

全国には約15万カ所の農業用ため池があり、降水量が少ない西日本エリアに多く存在しています。築造年が江戸時代以前及び不明なものが約7割で、先人が試行錯誤を繰り返して得られた経験的な技術をもとに造られたものが多いことが特徴です。ため池の所有者は、世代交代によって権利関係が不明確で複雑化する傾向があり、離農や高齢化によって管理組織が弱体化し日常の維持管理が適正に行われないおそれがある等の課題を抱えています。

直近10年間の被災原因の96%は豪雨です。平成30年7月豪雨では32カ所のため池が決壊しました。この災害をきっかけに、農林水産省に「ため池対策検討チーム」を設置しました。浮き彫りになった主な課題を取り上げると、

(1)決壊したため池32カ所のうち防災重点ため池に選定されていたものは、3カ所であった。人的被害が発生したため池も、防災重点ため池に選定されていなかった。
(2)都道府県や市町村においても、規模の小さなため池の所有者や管理者、利用実態等を正確に把握しきれていない。
(3)ため池に至る管理用道路に草木が繁茂するなど、現地に迅速に到達できないため池がある。

などでした。
 

農林水産省は、ため池対策検討チームにおける検討結果を踏まえ、防災重点ため池の選定の考え方の見直しを行うとともに、今後のため池対策の進め方についてとりまとめました。「防災重点ため池」については、「決壊した場合の浸水区域に家屋や公共施設等が存在し、人的被害を与えるおそれのあるため池」と定義し、これに基づき、都道府県が再選定を行いました。

また、「緊急時の迅速な避難行動につなげる対策」、「施設機能の適切な維持、補強に向けた対策」など、今後のため池対策の進め方も取りまとめました。詳細は次の図のとおりです。

※防災重点ため池という名称は現在、「防災重点農業用ため池」に統一されています。

「ため池管理保全法」及び「ため池工事特別措置法」について

令和元年以降、「ため池管理保全法」及び「ため池工事特別措置法」が施行されました。

●「ため池管理保全法」

正式な名称は、「農業用ため池の管理及び保全に関する法律」で、令和元年7月1日に施行されました。

ため池の権利関係者が不明確かつ複雑化し、管理組織が弱体化していることにより、日常の維持管理に支障をきたすおそれがあることから、ため池の所有者や管理者、行政機関の役割分担を明らかにし、ため池の適切な管理保全が行われる体制を整備するとともに、所有者による都道府県への届出や管理義務を明確化するために制定されたものです。

●「ため池工事特措法」

正式な名称は、「防災重点農業ため池に係る防災工事等の推進に関する特別措置法」で、令和2年10月に施行されました。防災重点農業用ため池の決壊による被害を防止するため、防災工事等を集中的かつ計画的に推進することを目的に制定されたものです。

農業用ため池の防災・減災対策の取組事例と国の支援

豪雨災害の頻発化・激甚化に伴い、各地の農業用ため池で防災・減災対策が実施されています。取組事例をいくつか紹介します。

事例①:ハザードマップを活用した迅速な避難行動

島根県出雲市では令和元年、行政と住民が協働してハザードマップを作成しました。これにより、令和3年7月の大雨の際、ため池管理者が堤体の損傷を発見し、消防団に通報。住民はその情報を聞き、自主避難しました。また、県や市の職員、消防団などが応急対応を行い、2次被害を防止することができました。

事例②:ICTを活用した観測機器の設置による管理・監視体制の強化

長野県ではため池の水位や映像を遠方監視するために国の支援事業を活用。令和3年度までに大規模なため池149カ所に観測機器を設置しました。

水位情報や映像をPCやスマートフォンで確認することができ、平時はため池の適正な管理に役立てられています。非常時には、危険水位に達した情報が管理者等へ通知され、市町村の危機管理部局と連携し、迅速な避難行動につなげることが可能となっています。

事例③:豪雨に備えた低水位管理による流域治水の取組

佐賀県の六角川流域は令和元年8月の豪雨により、大規模な浸水被害が発生しました。これを受けて佐賀県と関係市町、土地改良区が連携し、豪雨に備えた低水位管理の取組を実施しています。

六角川流域では、令和4年7月の大雨時に貯水量が10万トン以上のため池13カ所で低水位管理を実施し、約170万トンの貯水容量を確保しました。これに加え、ため池の貯水状況を遠隔でリアルタイムに確認できるカメラや水位計の設置を進めています。また、大雨後、早期に貯水容量を回復するため、下流域の状況を見ながら放流量を調節できる緊急放流ゲートの整備を、国の事業を活用して進めているところです。

国は、補助事業等によりため池の防災・減災対策を支援しています。防災工事やハザードマップの作成、流域治水のために必要な取組、観測機器の設置なども支援しています。また、農水省ではため池の防災・減災対策を推進するため、各種マニュアルや事例集を作成し、ホームページで公表しているので参考にしてください。
 

今すぐできる河川モニタリング

<講師>

太陽誘電株式会社 新事業推進室
新事業推進部 青木 千春氏

太陽誘電が提供する「河川モニタリングシステム」の概要について、青木氏が説明する。また、これまでの導入実績も交え、実際のWebモニタリング画面を共有しながら機器について紹介する。

河川モニタリングシステムの概要とポイント

ポイント1
面倒な保守業務が低減できます。弊社では24時間・365日、システムによる機器の自動監視と、オペレーターによる日常監視を行っており、万が一のトラブル発生時には遠隔保守や現地作業員が迅速に対応します。システム障害を検出した際には、弊社から連絡をして原因の特定、必要に応じて機器の修理、交換等の全てに迅速対応します。

ポイント2
災害時には回線が集中し、接続しづらい状況になりがちですが、弊社では途切れない安定したネットワークをコンセプトにシステム構成しています。弊社のクラウドシステムは、万が一のサーバー故障、データセンターの停止、接続集中による過負荷を考慮し、冗長性を高めたインフラ設計を採用しています。一般的なセンター集中型やオンプレミス型のシステムと比較して、安心して利用いただけます。

基礎自治体による豪雨災害対策をUnlearn

<講師>

群馬大学 大学院理工学府
教授 金井 昌信氏

プロフィール

平成16年3月、群馬大学大学院工学研究科博士後期課程を修了し博士(工学)を取得、同年に同大学工学部助手。平成24年7月、同大学大学院工学研究科准教授。平成31年4月、同大学院理工学府教授に就任、現在に至る。


基礎自治体が行うべき防災対策は多種多様で、少ない担当職員で大量かつ多様な業務をこなしているケースが少なくない。そうした状況を踏まえて群馬大学の金井氏が、「基礎自治体が行うべき河川の豪雨災害対策とは何か」について、その対策による成果(目的)から再考することを通じて、『全国の約1700の自治体全てで必要なこと』ではなく、『うちの自治体で最も必要なこと』を重視した施策について提案する。

わが国における近年の風水害と、その被害の特徴

風水害にはいくつかの種類があります。例えば、夏~秋にかけて到来する「巨大台風」。特徴としては、「広範囲が被災する」、「地域内の大小河川が氾濫する可能性がある」ことが挙げられます。

一方、規模が小さく範囲が狭いのが「線状降水帯」です。発達した積乱雲が一定地域にとどまり、その流域だけで大雨が降る災害です。今年の5月下旬からは、線状降水帯の予報をこれまでよりもう少し早めに出すという報道がありました。「線状降水帯」の特徴としては、「強い雨が降り出すと、一部の流域が被災する」、「比較的大きな河川も氾濫する」ことです。夕立のような「ゲリラ豪雨」は、「局所的かつ短時間で被災する」、「大きな河川の氾濫はないが、小~中河川の内水氾濫が起こる」のが特徴です。

国交省は今後、約1万7,000河川を「洪水浸水想定区域指定対象」に選定する予定で、防災担当者が注視しなければいけない河川の数が、爆発的に増える可能性があります。そうした背景の中で、河川の状況をモニタリングする意義は大きいと思われます。

モニタリングのデメリットは、「使いこなせるのか?」という点

防災対策には、「ハード対策」と「ソフト対策」があります。前者は、構造物等の建設によって物理的に被害を防ぐ・減らすことで、存在するだけでも被害軽減効果があります。しかし後者のソフト対策は、整備しても使いこなせないと全く意味がありません。モニタリングシステムも、ソフト対策の1つです。

新しくモニタリングのシステムを入れると、災害発生時に担当職員が処理(注視)すべき情報が増えます。現状でも、多くの情報を処理しなければならない状況で、特に人員が限られている場合、新たにモニタリング情報が入っても、現状以上に精査することは可能でしょうか。さらに、担当職員は情報を受け取り、それにもとづいて行動する必要がありますが、周辺住民はモニタリング結果を見聞きして、ちゃんと行動できるでしょうか。そもそも、住民にこの情報を伝えることはできるのでしょうか。

現在、ほとんどの自治体が、避難もしくは避難指示に該当する警戒レベルになれば、緊急エリアメールを飛ばすことができると思います。しかし、小・中河川や用水路の氾濫は、避難情報にひもづけることができません。その場合、登録型メールや屋外のスピーカー、防災行政無線を使うと思いますが、大雨が降っているときに外のスピーカーは聞こえませんし、いち早く危険を知ってほしい高齢者は、メール登録をしてないことが多いです。

せっかくモニタリングシステムを入れても、行動してもらいたい人に迅速に伝えられないのなら、何のために入れるのか…ということになりかねません。「使いこなす」という視点から、自治体の処理能力や防災行動ができる住民の状況まで考えてみてください。

全ての防災対策の目的は「災害による被害の軽減」

防災対策の目的は、災害による被害を軽減することです。モニタリングによって「経済被害の軽減」を目指す場合、水防活動等が必要になります。状況をリアルタイムで把握するだけでは被害軽減できません。

では、情報にもとづき水防活動をすることによって、被害軽減はできるのでしょうか。これは地域の浸水特性により、効果は大きく異なるはずです。浸水想定で50cm未満であれば、土のうで防げるかもしれません。しかし浸水が深くなれば、情報を得ても各個人では水防活動にも限界があります。また、必要な対応要員を確保できなければ、情報を把握したところで行動に移せません。

次に、「人的被害の軽減」を目指す場合、周辺地域の住民が、情報にもとづき身を守る行動ができるかどうかという問題、中・小の河川もしくは内水路の周辺で、そもそも避難する必要があるのかという問題があります。自宅でやり過ごせるレベルであれば、特別な情報は不要な場合もあるのではないでしょうか。どの程度の効果があるのかをチェックすることが必要だと思います。

最後に、私が今の日本の防災で、1番の課題だと思う点についてお話しします。

これだけ毎年のように大災害が発生している状況の中で、「防災は重要な社会課題の1つである」と、本気で考えている人がどれだけいるのか…という点です。大きな災害が起こっても避難者が少なかったり、個人の備蓄が少なかったりという問題が、常に起こっています。

もう1つ、防災担当の方に考えていただきたいことがあります。それは、防災に関して100点満点を目指しすぎていないかということです。地域によって、できることには限界があります。中・小の自治体が、大規模自治体と同じレベルのことができるはずがありません。自治体の対応能力に応じて、さらにそれぞれの地域の災害特性に応じて、やるべきことの優先順位があると思います。対応すべきことを明確にし、諦めることも必要かもしれません。本当に大事なのは何なのか考えた上で、新しいシステムとの付き合い方を考えてもらいたいと思います。

お問い合わせ

ジチタイワークス セミナー運営事務局

TEL:092-716-1480
E-mail:seminar@jichitai.works

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