ジチタイワークス

東京都荒川区

部活動で自律的な行動力を養い災害対策を“自分事化”する。

災害時に、自らの努力で身を守る“自助”、連携して助け合う“共助”。それらに実行力をもたせるべく、荒川区は区内の公立中に防災部を創設。“未来志向”の防災教育が、全国の自治体から注目されているという。

※下記はジチタイワークスVol.26(2023年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

知力・体力に優れ、地域に明るい地元の中学生に白羽の矢が立つ。

区内の約6割が、古い木造家屋の密集地域で構成されている同区。首都直下地震が発生した場合の被害想定シミュレーションでは、多くの建物が焼失する危険性が高いと予測結果が出たという。震度5強の揺れを観測した東日本大震災では、「幸い特筆する規模の人的・物的被害はなかったものの、一部区域では計画停電を数回経験しました」と大西さんは振り返る。

また令和元年に襲来した台風19号は、関東各地で大規模な河川の氾濫を起こし、住民の不安の声は一層高まったという。「区の世論調査でも、近年は“地震・水害などの防災対策に力を入れてほしい”という要望が、必ず上位に挙がっています」。

区内には現在、防災区民組織など4種計250弱の自主防災組織が存在しているが、「既存メンバーの高齢化や、平日の昼間人口が少ないなどの課題を抱えています。もし災害が平日の日中に起こると、多くの在外区民が帰宅困難となる可能性が高いため、そうした際に行政はどのような災害対策をとるべきか、という議論が続いていました」と大嶋さんは話す。

そんな中、平成24年に区立南千住第二中学校が、防災を通じて地域とのつながりをもつことを目的とした“レスキュー部”を創設。その活動をモデルとし、平成27年度に区内のそのほかの区立中学全9校に“防災部”を創設した。そこから、“自分たちのまちは自分たちで守る”という自覚をもった防災ジュニアリーダーの育成が始まったという。

被災地の生徒から対策を学び防災情報を高齢者に共有する。

防災部は、ほかの部活動とも兼部が可能で、区内約3,000人の全生徒のうち1割となる300人ほどが在籍しているという。地域の防災訓練はもちろん、「D級消防ポンプ※1」の操作訓練や「ジュニア防災検定」の受験、交流都市である岩手県釡石市(かまいしし)への被災地訪問など、様々な活動を行っている。

釡石市へは、毎年各校から選ばれた2人、計20人が訪問。被災経験をもつ同世代の生徒と交流し、災害に対する備えの大切さを聞いたり、荒川区での日頃の活動を発表したりしている。「同じ世代で話すことで、参加した生徒の間には確実に、“自分たちならどうするか”という意識が芽生えたように感じました」と話すのは、過去に帯同した大西さん。

また、南千住二中のレスキュー部では「絆ネットワーク※2」という、地域に住む高齢者へ“学校だより”などを届ける活動も行っている。生徒と高齢者のコミュニケーションは、住民からも好意的に受け止められているようだ。大嶋さんは、「交流を重ねるうちに信頼関係が築かれ、“いざ避難”という際、一緒に避難行動を取れるような関係性になることを期待しています」と話す。

※1 非常時に一般市民が扱える消火資機材の一つ
※2 コロナ禍で一時休止

10年後、20年後を見据えて今、防災への取り組みを進める。

防災教育の先進自治体として注目されるようになった同区には、ほかの自治体からの問い合わせも増えているという。「令和4年度には、“若者が積極的に地域との関係性を深める事例を、地域活性化の参考にしたい”と、他市の自治会役員がこちらへ訪れました」と大西さん。今年度も他県の自治体が、教育委員会の取り組みについて視察に訪れる予定があるという。

また、大嶋さんは今後の課題を次のように語る。「コロナの影響で、地域とのリアルな交流が3年間も途絶えてしまいました。中学生と高齢者の関係構築に関しては、振り出しに戻ったつもりで取り組みたいですね。また、幸いにも大きな災害があまりない中で、いかに緊迫感をもって継続的に、無理なく活動を続けていけるかも考えていかねばならないと思います」。さらに、「私は今年から防災部担当となりましたが、中学生を主軸に据えたこの取り組みがとても斬新に映っています。今後も様々な工夫を凝らしながら、続けていきたいですね」と村田さん。

防災部創設当時の中学生は、すでに成人となった。そして現在の中学生が10年後、20年後、地域のリーダーとなっている頃、どのような役割を果たしてくれるのだろうか。“平穏な日常”を祈りつつ、いざというときの活躍に期待したい。

荒川区 教育委員会 事務局
左:学務課 教育事業係
村田 優衣(むらた ゆい)さん
中央:学務課 教育事業係 係長
大嶋 豊(おおしま ゆたか)さん
右:指導室 指導主事
大西 寛和(おおにし ひろかず)さん

荒川区が次世代育成を始めた背景

課題

・災害に対する住民の不安の声
・自主防災組織の担い手不足

平成24年 南千住第二中学校がレスキュー部を創設

平成27年 全ての区立中学校に“防災部”の設置が完了

防災部の主な活動内容

消火資機材の操作訓練
ジュニア防災検定」の受験
釡石市への被災地訪問
防災訓練などへの参加
荒川区中学生防災対策会議」への参加 など

▲東日本大震災で被災した釜石市へ訪問する生徒たち。語り部の話に熱心に耳を傾ける。

▲絆ネットワークの活動で地域の高齢者宅を訪問する南千住二中レスキュー部の生徒たち。

 

予算情報
約216万円
全額区財源
節:需用費、役務費、委託料、使用料及び賃借料、負担金・補助及び交付金

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