ジチタイワークス

福島県会津若松市

職員の疑問に答えるQ&Aを作成し、オープンデータの知識を底上げする。

全国でもいち早くオープンデータの推進に乗り出した会津若松市。取り組み当初はまだ庁内の理解が乏しく、“まずは知ることが大切”と、情報統計課が中心となって職員向けのマニュアルを作成した。さらに、同課が主導して各課のデータを公開した結果、職員にもオープンデータのマインドが浸透。現在では、庁内外で活用が進んでいるという。

※下記はジチタイワークスVol.25(2023年4月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

親しみやすいマニュアルで職員の意識を変えていく。

東日本大震災後に掲げた“スマートシティ会津若松” では、産官学が連携してIT関連事業を推進。「そこで知り合った有識者に勧められて、オープンデータにも取り組むことになりました。しかし、当時はまだ取り組む自治体が少なく、庁内の理解を得にくい状況でした」と、阿久津さんは振り返る。

そこで、同課を中心に興味のある10人ほどが集まり、“オープンデータ推進検討チーム”を結成。自分たちで事例などを収集しながら学んでいったという。さらに、職員の理解を促すため、チームは各課から寄せられた質問などをもとにQ&A形式で構成したマニュアル「オープンデータQ&A」を作成。二次利用が認められている漫画「ブラックジャックによろしく」の画像素材を使用し、楽しく読めるよう工夫した。これは、第三者の二次利用を促すオープンデータの考え方にもフィットする。

「マニュアルには“一見意味のないデータも公開する”“公開したデータが誤っていたら謝罪し修正すればいい”など、公開をためらう職員の不安を和らげ、公開を後押しするような内容を盛り込みました」。

職員の理解を深める実践マニュアル

1.マニュアルに有名漫画の素材を二次利用

職員の興味を引くとともに、二次利用の例を端的にあらわす。

オープンデータとして公開されている“ブラックジャックによろしく無料画像素材集”を活用。迫力ある画像とキャッチーなセリフで目を引くだけでなく、著作権フリーで利用できることを実例で伝えている。

2.現場の職員の声をもとにQ&Aを作成

実際に業務を行う職員が疑問を抱きそうな点を説明する。

“このデータに公開する価値はある?” “公開したデータが誤っていたらどうしたらいい?”など、担当者がぶつかりそうな壁を想定した上で、その不安を解消できるよう丁寧に解説する。

各課をまわる地道な努力によりデータの活用が庁内外で進む。

市が運営するオープンデータ利活用基盤サイト「DATA for CITIZEN」には、現在350を超えるデータセットが公開されている。当初は同課の職員が各課をまわり、可能な範囲でデータを公開していたという。現在は公開後の更新作業がメインとなるため、各課の職員に作業を依頼している。「依頼のメールにQ&Aを添付して、迷ったらすぐ確認できるようにしています。今では各課からのデータ公開も増えてきて、取り組みが根付いていると感じます」。

同市には、理想的なオープンデータの活用事例がある。それが、地元IT企業・団体・行政・学生などによるグループ「CODE for AIZU」が作成した「会津若松市消火栓マップ」だ。デバイスの位置情報をもとに、地図上に周囲の消火栓や防火水槽の位置を表示する。

管轄外へ応援に駆け付ける消防団員から“消火栓の場所が分からない” “冬場に雪で消火栓が埋まり見つからない”といった悩みを聞いた職員が、市内にある消火栓などの位置情報をオープンデータとして公開。そのデータを同グループが活用し、アプリにしたという。現在は、全国版の代替アプリが登場したためサービスを終了しているが、利用した消防団員には好評だったのだとか。

また、市民向けのWEBサービスである“まち歩きアプリ”や“福祉まっぷ”などにイベント情報や施設情報、位置情報などを公開する際、その情報源としてオープンデータを活用しているという。このように庁内外で、データが積極的に利用されている。

地域課題の新たな解決法としてオープンデータを活用する。

便利な上に、業務量の削減にもつなげられると阿久津さんは話す。前述の例では、WEBサービスとデータをAPI機能で連携しているため、情報を新しくする際は元となるオープンデータを更新するだけで済む。

「また、住民基本台帳から人口を集計して公開するときには、オープンデータの仕組みを活用しています。以前は元データのCSVファイルを表計算ソフトで集計・加工し、それをPDFファイルにエクスポートしてから公開していました。現在は元データのCSVファイルをオープンデータとしてWEBサイトに公開するだけ。APIで連携したブラウザ上の閲覧ソフトで、自動でデータの加工・集計・表示を行います。これにより職員の作業時間を従来の4分の1以下まで短縮することができました」。

必要な範囲のデータを指定して表示できるのは、利用者にとっても利便性が高い。オープンデータは業務改善だけでなく、住民サービスの向上にもつながっているわけだ。

「ほかのデータと組み合わせて使われることもあるので、手元のデータに公開する価値があるかどうかを考える必要はありません。可能な範囲で公開していくことが大切です」。データが共有されれば、庁外からのサポートを得やすくなる。「行政に関心のある企業や団体との協働は、地域課題の解決や産業振興などにも役立つでしょう」。

自治体という信頼感があるからこそ収集できるデータは少なくない。これらを広く公開することが、魅力あるまちづくりに役立っていくのだろう。

会津若松市
企画政策部 情報統計課 阿久津 和也(あくつ かずや)さん

オープンデータの価値や意味は利用者が判断するもの。行政側は考え過ぎずにできるだけ多くのデータを速やかに公開することが大切です。マニュアルにもありますが“間違っていたら謝罪して修正する”という姿勢で、まずは取り組んでみてください。

課題解決のヒント&アイデア

1 ユニークなマニュアルで職員の意識を改革

興味がない人にも分かりやすく、楽しく読める工夫がちりばめられている。また、担当課にデータの更新作業を依頼する際のメールに毎回添付することで、職員の目に入る機会を増やした。

2 地域課題を解決するために既存のデータを活用

消火栓の位置情報というオープンデータから生まれた会津若松市消火栓マップ。すでにあるデータを加工したり、組み合わせたりすることで、地域課題の解決につなげていく。

3 まちづくりの新たな担い手を創出

行政に関心のある企業や団体と協働すれば、地域の課題解決や産業振興に役立つ新たなサービスが生まれることも。そのためにも行政は“可能なものから速やかに”データを公開していく必要がある。

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