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【セミナーレポート】包括管理×データ分析~データから見る費用対効果 職員が感じる包括管理効果~

包括管理を導入する自治体の中でも、先進的な明石市。スタートから5年が経過し、第2期に入ろうとする同市の取り組みを担当者に振り返ってもらった。

また、共同研究という形で伴走を続けている前橋工科大学准教授の堤さんも登壇し、包括管理の今後あるべき姿についてアイデアを共有した。

概要

□タイトル:包括管理×データ分析 ~データから見る費用対効果 職員が感じる包括管理効果~
□実施日:2023年1月30日(月)
□参加者数:75自治体91人
□プログラム:
 第1部:施設管理の品質 あなたならどう評価しますか?
 第2部:包括管理の費用分析から見た「情報」の活用と「体制」の構築
 第3部:トークセッション・質疑応答


施設管理の品質 あなたならどう評価しますか?

まずは明石市の担当職員が登壇。包括管理を先駆的に取り入れた同市の取り組みでは、どのような成果が得られ、それをどう評価しているのか。施設管理の品質を評価する難しさも含めて語ってもらった。

<講師>

明石市 総務局 財務室 室長
松永 聡平(まつなが そうへい)さん

当市が平成30年に施設包括管理を導入してから5年が経過。今年の4月から第2期が始まります。その経過を振り返りつつ、施設管理の品質評価をテーマにお伝えします。ポイントは以下の4つです。

これまでにお伝えしてきた効果

包括管理の第2期では、事業規模を1期目開始時の2倍に拡大する予定です。第2期でも、業務品質の維持向上と高い満足度の維持が基本的な課題。同時に施設の管理水準・投資水準を定量化し、自治体間で比較ができないかと考えています。

こちらは現在の実施体制です。施設からの不具合連絡は事務所の電話に直通。連絡を受ける件数は年間約2,400件で、受託者である日本管財のスタッフがフットワーク良く走りまわっているので、成果を上げられています。主な効果は、以下の7つです。

(1)的確な判断でスピーディに修繕
(2)内製化で安価かつ柔軟に修繕
(3)施設の満足度が向上
(4)関係者とのコラボによる修繕が実現
(5)修繕を含むからこそ実人数を削減
(6)施設関連情報を効率的に集約
(7)付加サービスを享受

受託者は、連絡を受けた翌日までに現場確認を行い、すぐに適切な対応ができています。さらに効果的なのが、修繕担当者自身が行う“内製化”で、通常の修繕の半額以下で実施可能。この内製化を積極的に行っていますが、市内事業者の受注率は包括管理の導入前と変わっていません。

また、コストについては7人の職員が他課へ異動し、新たに必要となるマネジメント費を計上しても4,800万円の削減になりました。

さらに、包括管理の業務を通じて、施設の点検結果や修繕実績といった公共FMに必要なデータが自然に集約されます。効率的な情報の集約という面でも、包括管理は公共FMの土台になる取り組みだといえます。

施設管理の費用対効果を考える

包括管理では、同じ金額でも、より適切で効率的な修繕を目指しています。つまり施設管理の費用対効果を上げていくことが重要。これをどのように数字で評価できるか、押さえておきたいポイントについて説明します。

まず、費用対効果を評価する目的は、FMの成果に結びつけること。成果は“施設管理の品質を上げる”、“施設にかかる支出・収入を見直す”、“施設の保有量を減らす”という3点のいずれかです。そのために必要なのは、

①測定・分析が難しければ定着しない
②判断に資する測定・分析でなければ意味がない
③測定・分析は実施可能な改善策とセットで考える

ということです。“評価のためにする評価”にならないよう、押さえておく必要があります。

次に、施設管理の費用対効果を評価するためには、コストと品質の測定・分析が必要です。コストは評価しやすく、昨年度から堤先生との共同研究を実施していますが、当市の修繕費は少なくともお金をかけすぎではないということが分かって、ひとまず安心しています。

これに対し、品質の評価は簡単ではありません。どうすれば施設管理の品質評価ができるのかという共通認識は、学術界にもないのです。まずは、品質を定量的に示す指標を共有する必要があります。

また、多くの自治体で比較できるような、リーズナブルな評価システムを開発する必要があります。

包括管理自体の品質評価

包括管理に求められる品質とは何かを探るため、満足度調査でいただいた施設からの意見を見返すと、評価につながっている要素が4つありました。①実施できた修繕の量②修繕の迅速さ③修繕の的確さ④対応の丁寧さです。

まず、修繕の量。上図は包括管理を導入している自治体間で比較したものです。当市の修繕量は他市の2~3倍で、効率的に実施できています。また、包括導入後は以前と同じ金額枠で3割ほど多くの修繕を実施しています。

次に、修繕の迅速さです。不具合の連絡から修繕完了までの日数を見ると、6~7割は30日以内、8割以上は60日以内に完了。1割程度は連絡を受けた日に修繕が終わっています。包括管理導入以前は、週1回の課内会議で実施する修繕を決めるというタイムラグがあったことなどを考えると、日数が短縮されたのは間違いありません。

そして、修繕の的確さ。これは単一の指標ではあらわせませんが、ひとまず緊急修繕の件数を集計しました。各案件がきちんとできていれば、緊急修繕が減ってくると考えられるからです。その結果、導入後3年目、4年目と減少していることが分かりました。ほかに考えられる指標として、実施した修繕のうち、手直しや再修繕が必要になったものがありますが、年間数件程度です。これらから、良い変化が生まれていることが読み取れると思います。

最後に、対応の丁寧さについては、施設への満足度調査で、市と受託者それぞれに対する満足度を聞くと、9割に達しています。

これら以外にも評価指標のアイデアはあるはず。様々な指標が検討され、その中からより有用なものが共通認識になっていくことでしょう。

施設管理の品質評価

最後に、施設管理全体の品質評価について考えます。包括管理は経常修繕の見直しの取り組みなので、それだけで施設管理全体が改善するわけではありません。そのほかの様々な取り組みを含めた結果、施設が良好な状態で維持されているかをどのように測定すればいいか、どの自治体でも行える手法としては、“12条点検”の活用が基本になるでしょう。

当市では、包括管理受託者と12条点検の結果を確認。比較的状態が悪い施設に絞って巡回点検し、劣化度をA~Eの5段階で評価しています。状態の悪いところから順に、Eはすぐに修繕、Dは翌年度に修繕、Cは2~3年後……と、短中期修繕計画をまとめる。ここまでを包括管理の業務範囲で行っています。

つまり包括管理対象施設については、3年のサイクルで劣化度を評価するということです。これを総合管理計画と個別施設計画の劣化度や施設部位ごとの更新、計画修繕時期の記載に順次反映しています。このようにすれば、大きな手間をかけずに施設管理の品質評価ができますし、総合管理計画の更新の際も毎度コンサルに委託する必要はなくなります。

一方で課題もあります。例えば、目視点検がベースなので、建物の物理的な健全性を測定するものではないという点や、自治体間で比較できるような全体像が見えづらいという点です。これらについては、耐震診断や耐力度調査、最近開発された耐用年数評価など、工学的な測定を伴う物理的健全度の評価で補完。また、日本PFI・PPP協会のデータ仕様共通化検討ワーキンググループへの参加などを検討しています。

今後、長寿命化を推進するにあたって、建物が物理的にいつまで使えるのか分からないということは大きな課題です。みんなで少しでも可能性がある取り組みにチャレンジし、標準的な品質評価の手法を確立していきましょう。

包括管理の費用分析から見た「情報」の活用と「体制」の構築

続いての登壇は、公共FMサロンでもおなじみの堤先生。明石市と共同研究を進める中でどのようなゴールが見えてきたのか、全国の公共FMを見てきた建築関係の専門家としての視点から意見をもらった。

<講師>

前橋工科大学 工学部建築学科 准教授
堤 洋樹(つつみ ひろき)さん

FMの基本“修繕費の基準”がない状況からの脱却を

私からは、松永さんの話に補足して、修繕費を別の視点からお話しします。まず、施設マネジメントの基本は、財務・品質・供給のバランス。この視点から“修繕”を整理したのが下図です。

この図における“財務と品質のバランス”が費用対効果であり、この2つが整理されていないと評価もできません。“品質”については松永さんが説明されたので、私からは“財務”についてお話しします。

財務は修繕にかかった費用に該当しますが、まずは維持管理がきちんとできているかどうかを把握する必要があります。なぜなら、既存施設が“我慢・危険な状態”にあれば、たとえ新築してもすぐに既存施設として同じ状態になってしまい、結果として根本的な解決にはならないからです。だからこそ、維持管理をいかにきちんとできるか、という点から財務を考える必要があり、このお金を確保する工夫こそがマネジメントのポイントです。

ただ、修繕費の基準は誰も分かっていないという現状があります。先進的な施設管理をしている自治体の担当者も知らないし、研究者も分かっていません。なぜなら、建築物は50年ほど、長いと100年以上も存続しますが、この期間を追いかけて分析することは、なかなかできないからです。そもそも追いかけること自体が難しいですし、実データさえあれば今後のことが分かるのかといえばそれも微妙です。例えば今と昔では、設備の性能や値段は全然違うものなので、仮に数施設のデータが取れたとしても参考になるかどうかは別だからです。

そうした中で何を基準にスタートすればいいかというと、やはり今やっていることの整理から始めるしかないと私は思っています。FMの基本である修繕費の基準がない状態というのは好ましくないので、きちんと分析をするために明石市との取り組みを始めたのです。

明石市での取り組みを経て分かったこと

私たちが行ったのは、包括委託の導入における情報分析の実現です。明石市で包括管理を導入したことで、施設の情報分類が統一されたため、費用分析が可能になりました。もちろんそれまでも費用は把握されているのですが、様式が紙ベースなどバラバラの状態でした。これが一元化されたのです。さらに、長期間の修繕費を経年推移データとして分析できるようにもなりました。これをもとに同市では、修繕費を2つに分けて分析しています。130万円以下の経常修繕と、130万円を超過した計画修繕です。

経常修繕の実績を分析した結果が上のグラフです。データ上、包括管理の期間は3年くらいですが、建物の築年数に区分して集計し、築何年の建物でどのくらい経常修繕費がかかったかを統計的に整理しています。このグラフを見て分かったことは、築25年くらいをピークに経常修繕費は上がり、その後下がっていきそうだということです。築年数が長いほど増えそうだと私は想像していたのですが、データで見るとそうでもないということが少なくとも現段階では確認できました。

また、計画修繕費の方でも同じような分析をしました。経常修繕費に比べて数が少ないので、包括導入前からのデータも集めて分析したのですが、全体的な傾向を見ると少しずつ上がっています。経年が長くなればなるほど、計画修繕費がかかっているのではないかという傾向が見えました。

さらに、経常修繕と計画修繕の費用を合計したグラフも出しています。バラつきはありますが、おおむね3,000円/㎡が基準になりそうです。1年から15~20年くらいまでは費用がかかっておらず、後半になると少しずつ上がっていく傾向が見られる。そして65年くらいになると下がっていくのですが、これは建て替えが決まったら修繕しないという傾向があらわれていると思われます。これを見る限り、3,000円/㎡をめどに毎年確保できれば基本的にどのような修繕にも対応できるし、経常修繕費が高いときは計画修繕費が低い傾向が明らかになったので、平準化という意味でも定額の修繕積み立てが使えるのではないかと思われます。

ただし、いうまでもなく経常修繕と計画修繕の費用は施設の運用や環境によって性格が異なるので、このグラフだけを見て適切か判断することは難しい。だからこそ、今後は様々な自治体のデータも回収して相対的な比較が可能になり、それを基準に色々な作戦が立てられる状態にもっていけたらと考えています。現在、包括管理の導入が多くの自治体で進んでいるので、同じ基準・方法で分析するとより多くのことが分かりますし、比較ができれば評価もしやすくなるはずです。

PDCAからCAPDサイクルへの転換を

品質管理といえばPDCAサイクルが代表的な手法ですが、私は最近、“CAPD”サイクルという言葉で説明しています。PDCAというと、どうしても計画からスタートしようと考えてしまう。しかし公共施設に限らず、自治体の経営は過去があって将来に向けて運用していくものなので、ゼロから計画を考えましょうとはならないはずです。だから現状把握からしっかりやる。現状把握はCheckにあたるため、CAPDの順でサイクルをまわしましょう、という話をしています。

包括管理でも、データ分析から着手するということにつながりますし、データが集まれば次の分析もしやすくなる。そして、現状を把握した上での改善へのアクション、CAPDでは“A”が包括管理の導入です。もちろん導入して終わりではなく、実際にどう品質を上げていくか、もしくは費用を下げていくかという計画をしっかり練り、進めていくことが重要だと考えています。

最後に、1つの建物だけでどうにかしようというのは、もう無理だろうと思います。まわりと一緒に管理・運営する意識が大切です。包括管理も複数の施設で管理を進めていくことで、様々な効果や品質向上が目指せる。包括管理はそんな手段だと捉えると、実はエリアマネジメントの考え方と全く一緒なのです。そこに民間が入れば、公民連携になる。つまり公民連携やエリアマネジメントというと“まちづくり”のような話になりがちですが、建物の修繕も、官民連携やエリアマネジメントの視点が重要です。包括管理は今後うまく公共施設を運用していくために、当然の手法になるかもしれません。

トークセッション・質疑応答

セミナーの最後は登壇者によるトークセッション。参加者からの質問に答えながら、この日の内容をさらに掘り下げた。

続きは日本管財(株)が運営する「公共FMサロン」にて。加入ご希望の方は下記問い合わせ先よりご登録ください。Facebookページでも公共施設マネジメントの「今」を発信中です。

参加者募集中|全国各地の職員が集まる「公共FMサロン」

日本管財(株)では、2021年2月より自治体職員限定のオンラインサロン「公共FMサロン」を開設しています。会員数は122自治体、延べ150人(令和5年2月2日時点)。公共FMに関わる人が、自らのまちの活動や問題、熱意などを共有し、実践知を学び合うことで、FMの実践へとつなげていくサロンです。複数のパートナー専門家やサロン会員の他自治体職員と気軽に意見交換ができる場となっています。参加は無料です。皆さまのご参加をお待ちしています!

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