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ソーシャルインパクトボンドの事例5選!注目されるSIBのメリットと活用分野

ソーシャルインパクトボンド(SIB)とは、自治体や民間事業者、資金提供者などが連携して社会問題の解決を目指す行政手法である。従来型の公共事業とは異なり、成果報酬型の仕組みを持つため、パフォーマンス向上やコスト削減が期待できる。

今回は、ソーシャルインパクトボンドの特徴やメリットを解説しながら、国内事例を紹介する。

ソーシャルインパクトボンドとは ?

ソーシャルインパクトボンド(SIB: Social Impact Bond)とは、社会課題の解決のために用いられる行政から民間へ事業を委託するスキームの1つである。生活困窮支援を例に、ソーシャルインパクトボンドの仕組みを見ていこう。

まず行政は、生活困窮者支援のサービスを提供する事業者に業務を委託する。その際、同時に銀行や投資信託、クラウドファンディングなど民間資金提供者から資金調達を行う。そして、サービス提供事業者はその資金をもとに委託された事業を行い、一定期間経過後に行政がサービスの効果測定を実施する。最後にその成果に応じて、行政から資金提供者へと報酬が支払われる。

従来の民間業務委託は委託費用が固定であることが多く、事業の成果を評価して可視化するという点がソーシャルインパクトボンドの特徴の1つだ。

ソーシャルインパクトボンドのメリットと対象分野 

ソーシャルインパクトボンドは成果報酬を基本とするため、事業者に対しては成果創出のインセンティブが働きやすくなる。また、自治体にとっては高い成果が期待できると同時に、コスト削減にもつながる。

成果報酬という特徴から、ソーシャルインパクトボンドに適している分野とそうでないものがある。適しているのは、「将来発生することが予想されるが、予防によって回避しやすい分野」である。具体的には、教育、生活困窮者支援、認知症、依存症支援などが挙げられ、これらは課題解決のために長い時間がかかるが、適切な対策を行えれば定量的な成果を得やすい。

また、こういった社会課題は一般的に、資金的余裕の少ない社会的企業やNPOが担うことが多い。単なる成果連動型の委託契約だと資金繰りが厳しくなるが、ソーシャルインパクトボンドなら資金提供者による資金調達が可能となるのだ。

ソーシャルインパクトボンドの事例5選

続いて、分野別にソーシャルインパクトボンドの事例を5つ厳選してご紹介する。

医療・健康|広島県:新たながん検診の個別受診勧奨業務

委託者:広島県と県内6市
サービス提供事業者:キャンサースキャン
資金提供者:みずほ銀行、広島銀行、クラウドファンディングなど

 

広島県ではがん予防に力を入れており、2018~2020年にがん検診受診率向上の取り組みとしてSIB事業を行った。サービス提供者であるキャンサースキャンは、保有する独自のノウハウを活かして、対象となる市民に対して大腸がんや精密検査の受診奨励の取り組みを実施。

その結果、大腸がん検診受診者数および精密検査受診率ともに参加各市において前年度を上回る水準を達成した。また、複数の行政団体が共同で行ったことで、スケールメリットが出たことも本事業の特筆すべき点である。
 

参考|ソーシャルインパクトボンドの手法を用いた新たながん検診の個別受診勧奨業務(経済産業省)

 

介護|美馬市:美馬市版SIBヴォルティスコンディショニングプログラム

委託者:徳島県美馬市
受託者:徳島ヴォルティス株式会社
資金提供者:株式会社阿波銀行、徳島県信用保証協会

 

市民の健康増進と、将来的な医療・介護給付費の適正化を目的として行われたソーシャルインパクトボンドの事例。徳島県美馬市では「美と健康」をまちづくり施策として掲げ、その一環として健康増進プログラムを市民に対して提供した。受託者である徳島ヴォルティス株式会社は、四国初の J リーグチームであり、スポーツ教室なども展開している。

本事業では徳島ヴォルティスが受託者となり、スポンサーである大塚製薬をはじめとした複数の事業者が連携してサービスを提供している。具体的には「ヴォルティスコンディショニングプログラム」という、身体機能チェックや集団トレーニング、ICTデバイスによる活動量分析などの健康増進プログラムが提供される。期間は2019年から2024年の5年間にかけて実施され、市民の運動習慣の改善度や厚生労働省が定める健康チェックリストの改善度が成果指標に定められている。
 

参考|美馬市版SIBヴォルティスコンディショニングプログラム(内閣府)

 

再犯防止|法務省:非行少年への学習支援事業

委託者:法務省
受託者:株式会社公文教育研究会、株式会社キズキ、一般社団法人もふもふネット
資金提供者:株式会社日本政策投資銀行、株式会社三井住友銀行、株式会社CAMPFIRE

 

日本全体の高等学校進学率は9割を超える一方、少年院入院者は6割以上が高校に進学しない、もしくは中退している。また、少年院出院者の中には進学希望者もいるが、学習を持続できなかったり、再犯してしまったりするケースが少なくない。本事業は出院者に対して最長1年間、継続的な学習支援を行う事業である。

サービス提供は教育関連企業が担い、少年院在院中から学習支援計画の策定を行い、出院後も面談や健康状態のチェック、少年の抱える課題解決に取り組む。事業期間は2021年からおよそ3年間にわたって実施され、成果指標としてプロセス指標(学習支援計画の策定数、支援継続率など)とアウトカム指標(学習支援計画の目標達成率、再処分・再犯率など)が定められている。
 

参考|法務省ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)による非行少年への学習支援事業(内閣府)

 

コミュニティビジネス支援|東近江市:東近江市版SIB事業

委託者:滋賀県東近江市
サービス提供者:公益財団法人東近江三方よし基金事務局
資金提供者:地元企業、地元金融機関、地域住民 

 

行政の補助金に成果連動型支払いの仕組みを導入し、民間企業や市民から資金調達を行う事業。東近江市ではコミュニティビジネス支援に力を入れており、そのための補助金を用意している。

それを成果連動型にして、効果の最大化や事業自体の効果検証を行うことが目的。補助金申請者は自身で成果目標を設定し、採択され事業終了後に達成度が審査される。なお、採択事業者の選定や達成度の審査は、サービス提供者である東近江三方よし基金事務局が行っている。

【採択事業一例】
・地元産木材を活用したおもちゃの商品化
・空き店舗を改修した地域拠点整備
・地域の困り事をサポートする仕組みづくり
・市の花ムラサキを活用した化粧品開発
・まき割り作業を通じた引きこもり支援
 

参考|東近江市版SIB事業(内閣府)

 

海外事例|米国マサチューセッツ州の教育・就労支援プログラム

委託者:米国マサチューセッツ州
受託者:Social Finance US
資金提供者:投資ファンドをはじめとする計40の機関からなる

 

英語能力が低い地域の賃金格差是正のために行われたソーシャルインパクトボンド。就職希望者に対する英語教育や職業紹介、就労プログラムを用意。さらに医療分野の職業訓練や資格取得支援など支援の幅は多岐にわたる。期間は2017~2022年の6年間。成果指標には所得増加額や高等教育への進学成功人数などが定められた。
 

参考|国外におけるPFS(成果連動型民間委託契約方式)事業の事例調査(内閣府) 

 

そのほか「ソーシャルインパクトボンド(SIB)」の事例記事

■愛知県豊田市|官民連携で社会課題を解決!SIBに挑んだ豊田市の介護予防事業。

■愛媛県西条市|西条市版SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)の実施

まとめ

ソーシャルインパクトボンドは、自治体・サービス提供者・市民のそれぞれにメリットがある「三方よし」の仕組みである。成果報酬型なので従来の業務委託よりも高い成果が期待でき、費用も事前に決められた範囲内でほとんどの場合収まるため行政コスト削減にもつながる。

医療、教育、生活支援など、改善に長い時間がかかる社会課題はソーシャルインパクトボンドとの相性がよい。今後もまちづくりの分野でソーシャルインパクトボンドの事例が増えていくことを期待したい。

 

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