毎年、全国3万人を対象に実施される「地域ブランド調査」。平成21(2009)年の調査で「魅力度」最下位となった茨城県では、その結果を受けて県議会でも「ブランド力向上」が議題となった。
その結果、戦略的に広報PRに力を入れるため「広報戦略室」を新設し、旗振り役となる「広報監」のポジションを設置。新体制を整え、県のイメージアップに乗り出した。
県が運営する動画サイト「いばキラTV」を主軸とする三つの秘策とは?
※下記はジチタイワークスVol.2(2018年7月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供] 茨城県
パブリシティに力を入れて広報PR力の底上げを
平成22(2010)年から本格始動した茨城県の広報戦略は大きく分けて三つ。まずは「パブリシティ事業」。広報監と広報戦略室が最初にテコ入れしたのは自治体からメディアに発信される「プレスリリース」だった。
県庁内の記者クラブにニュースを発信すれば、地域版や地元のテレビ番組といった地場メディアに取り上げてもらうことができる。ただ、県外、特に首都圏に茨城県の魅力を発信するにはそれだけでは不十分だった。
そこで、年間50本のリリースを全国800~1000のメディアに送付。東京のPR会社と委託契約を結び、「茨城県広報事務局」として専任者を設置。ここで、重要なポイントは「専任」という点だ。決まった担当者が継続して「茨城県広報事務局」の肩書きを持つことで、メディアとの関係性を築き「何かあるときには思い出してもらえる」相手となる。
担当者は「効率化が求められる現代で、時代に逆行しているように感じるかもしれませんが、まずは足を運んで関係を築く。パブリシティ枠を足で稼ぐ」と語る。
広報戦略室ではパブリシティ力向上のために平成27(2015)年度から農林水産部のPRを手伝い、「常陸牛」の「種牛キャンペーン」で実績をあげたが、オール県庁として「パブリシティ表彰制度」を導入。これまで実施されていた「イノベーションチャレンジ賞の施策の部」「事務改善の部」「県民サービス改善の部」の三つの表彰制度に加えて、「パブリシティの部」を追加し、全庁的な取り組みとなった。
イメージアップ事業で「魅力度最下位」からの脱出
平成25(2013)年から4年間、「よしもとクリエイティブエージェンシー」とタッグを組みキャンペーンを展開。旬の芸人が茨城県の魅力を語る動画コンテンツが誕生した。動画制作、専用サイトの立ち上げ、ポスター制作等で年間3000万円の予算を投じ、動画再生総数は72万回となった
「茨城県がおもしろいことをしている」という話題づくりに繋がったが、一方で「出演している芸人が話題になっている」要素が強く、「茨城県が注目されたが、魅力が伝わらなかった」という反省点も残っている。
ネット動画で爆発的ヒット自治体動画、国内トップの「いばキラTV」
47都道府県で唯一、民放の県域テレビ局を持たない茨城県は、平成24(2012)年10月にインターネット動画「いばキラTV」をスタート。「Ustream」でトーク番組やバラエティ番組を発信するが、視聴者が増えなかった。
配信サイトを「Youtube」に移行し、翌年4月にインテルから派遣された広報ICTディレクター・取出新吾氏が「SNSの利活用」「広報誌のデジタル化」「いばキラTVのテコ入れ」に着手。データ解析の結果、離脱の割合やそのタイミング、尺と視聴の長さの分析を重ねることで「観られる動画」の制作に力を入れた。
5年半の間に制作・公開した動画は約1万本、動画再生回数は約4,700万回、「動画掲載本数・総再生回数・チャンネル登録者数」の3冠を達成し、都道府県運営の動画サイトとして国内トップとなった。平成30(2018)年3月に策定された「県PR戦略指針」では2020年に達成する数値目標として「年間入り込み客8200万人」「年間外国人観光客72万人」「年間観光消費額3700億円」を掲げ、企業誘致や県産品の認知度を上げる計画が進んでいる。
そして、平成30(2018)年4月から茨城県は新たに営業戦略部プロモーション戦略チームを設置し、更なる魅力度アップを目指している。
How To
1、先輩がつくった資料を二度と使わない
イベント告知やプレスリリースなど、先輩から引き継いだ資料を日付だけ更新して使い回していても進歩がない。発信する側の情熱を込めて最新情報を追加することでメディアの「人を動かす」資料ができる。
2、「平等」の意味を真剣に考える
公の立場で情報を発信するとき、どこか一つの店舗や団体を取り上げるのが「不公平だ」と非難されることもある。ただ、結果的には一つをフォーカスすることが全体のイメージアップにつながる。「平等」を真剣に考えてみれば批判を恐れることはない。
行政の努力を可視化する
行政の発信は「結果だけ」になることが多い。人が感動したり共感したりするのはプロセスであり、結果だけではファンが生まれない。自治体職員が熱く語ることで地域全体の評価が高まり、結果的には市民のメリットにつながる。
県民と恋するつもりで情報発信をする
ラブレターを書くときには、相手に自分を好きになってもらうように書く。行政からの情報発信も同じように、魅力をしっかり受け取ってもらえるように伝えるのが大事。
Results
〇年間50本のリリースを 全国800~1000のメディアに送付
〇5年半で制作・公開した動画は約1万本
〇「いばキラTV」再生回数は約4,700万回
これからは横のネットワークをつくることが肝心です。同じ県でも隣の市がどんな取り組みをしているかを知らないことが多い。県職員と市職員をつなげることで「人と人とのつながり」をつくることに力を入れていきたいですね。
左から茨城県営業戦略部プロモーション戦略チームリーダー松崎達人さん、元茨城県広報監 取出新吾さん