自治体の扱う債権は、種類も所管部署も多岐にわたり、複数債権があれば職員にも市民にも手間がかかる。また、やみくもに強制徴収していては生活困窮者の負担を増やすばかりだ。
豊田市では“役所は一つ”という考えで、全債権の徴収業務を一元化し、福祉部門と連携して困窮者支援にも力を入れている。目の前の問題を改善し、将来的な回収の安定を目指す、債権管理業務の改革内容とは。
※下記はジチタイワークスVol.24(2023年2月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
“取り合い”解消のため徴収の一元化を開始。
同市では、税以外を滞納している人の約6割が税も滞納しており、担当部署間で債権の“取り合い”が起きるような構造だったという。債務者からは、“役所は市民にとって一つではないのか” “ほかの課とも情報を共有してほしい”などの意見が寄せられていたそうだ。
そこで平成26年度当時、債権管理課に在籍していた橋本さんが、庁内の徴収業務を一元化することを提案。市長に直接プレゼンテーションする「とよたチャレンジプロジェクト」で必要性を訴えたところ評価され、翌年にはプロジェクトチームが発足した。
平成28年度より、まずは強制徴収公債権を順次一元化。令和元年度に残りの非強制徴収公債権と私債権も一元化した。段階的に実施したのは、全てを一元化して回収するためには高い専門性と人員が必要だからだ。
同市では、債権回収を“職員自ら実施すべきもの”と“民間委託が可能なもの”に整理し、前者は債権管理課で担当。後者は、債権回収や困窮者支援について、同市と同じ考えをもった外部の弁護士チームへ委託することになった。「日頃から庁外の動きを情報収集していく中で存在を知り、気になったため思い切って連絡しました」と橋本さん。
徴収一元化
1.窓口の統一により市民・職員ともに負担や手間が軽減。情報も1カ所に集約できるため、管理や連絡も効率的。
2.強制徴収や民間委託の可・不可など、債権の特性を整理。できるところから計画的・段階的に進めていく。
3.同様の考え・目的をもった外部団体との出会いを活かす。情報収集と積極的なアプローチでスムーズな協力体制に。
複数機関・部署と連携して困窮者支援の精度が向上。
全徴収業務を一元化した令和元年度からは、弁護士・社会福祉協議会・福祉総合相談課と連携した困窮者支援も始めた。「福祉的な支援が必要な人は、一方で債務者でもあることが多いです。単に回収すればいいのではなく、債務者の個別の事情に配慮することが必要だと考えました」と橋本さん。
しかし、債権管理課の使命は“市の歳入を増やすこと”、福祉総合相談課の使命は“市民の生活を守ること”という、相反する立場にあることが課題だった。そこで、まずは債務者が困窮状態から脱して、支払いができるようになることが、将来的な歳入確保につながるという段階的なビジョンを掲げ、プロジェクトを進行した。これにより、以前は債権回収と困窮者支援のジレンマに陥っていた現場の担当者が、それぞれの仕事に注力できるように。互いの役割を理解した上での分担がメリットにつながったようだ。
また、弁護士・社協と合同の納付相談会を定期的に開催している。来場者全員に対し、同一会場にある福祉相談の窓口を同日中に案内することで、漏れなく支援につなげる目的だ。「困窮者が自立できれば、将来的な福祉コストも滞納も減らせます。全庁的に同じ目標に向かって動けることで、連携が強まりました」と白岩さん。
債権回収も困窮者支援も明確な成果が見られた。
同市では徴収一元化を開始してから6年間で、歳入効果が約3億円増加。そのほとんどは一元化するまで他部署と取り合いになりがちだった、介護保険料・後期高齢者医療保険料だという。現在も同分類の収納率については、全国の中核市でトップクラスを誇っているそうだ。
また、直近3年間で納付相談会に参加した88人のうち26人が、自立支援事業への相談、申し込みにつながっている。そこから社協が年金の支給申請を伝って納付できた例などがあるという。この取り組みは、独自のアイデアで地域課題を改善している自治体や企業を表彰する「プラチナ大賞」で、令和4年の行政イノベーション賞に選ばれた。
橋本さんは、「自治体の基本について改めて考えたところ、“住民福祉の増進を図ること”にたどり着きました。ある課の職員という前に市の職員として、どうすれば市民に貢献できるかを考えるようにしています」。白岩さんは、今後の展望について「より支払いやすい環境を整えるため、キャッシュレス化の推進も検討中。できることから一歩ずつ取り組んでいきます」と語ってくれた。
生活困窮者支援
1.生活困窮者の自立が将来的な歳入確保につながるという共通のビジョンをもつことで、連携がスムーズに。
2.生活困窮者を福祉部門につなぐのはその日その場で確実に。漏れなく相談や申し込みができるための仕組みをつくる。
3.それぞれの課は担当業務に専念。互いの仕事を把握しつつ役割分担すれば、相対しがちな回収と支援が両立できる。
豊田市
左:福祉部 福祉総合相談課 副課長
橋本 一磨(はしもと かずま)さん
右:市民部 債権管理課 担当長
白岩 あゆみ(しらいわ あゆみ)さん
チャレンジすれば、必ず成果につながる取り組みです。大事なのは、職員同士が互いの業務に興味をもつこと。小さいことからでもいいので、壁を取り払ってみてください。