国が掲げる重要施策の1つ「デジタル田園都市国家構想」。この中で設けられている交付金の1つである「デジタル実装タイプ」は、IT・デジタル技術の活用によって地域課題を解決する取り組みを支援する仕組みだ。
さらに、そのうちのTYPE1は、ほかの地域での優良モデル・サービスを活用した取り組みを支援するもので、行政のデジタル化をこれから始めるという自治体にも使いやすいものになっている。
第2回では、デジタル実装タイプTYPE1の申請時のポイントや注意点について、内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局の小野康佑さんに解説いただく。
【デジタル田園都市国家構想交付金 デジタル実装タイプTYPE1 まるごと解説!】
(1)デジタル実装タイプ「TYPE1」を分かりやすく解説
(2)デジタル実装タイプ「TYPE1」申請のポイントとは? ←今回はココ
(3)デジタル田園都市国家構想を通じて国が実現したいこととは?
Interview
小野 康佑さん
デジタル田園都市国家構想実現会議事務局 参事官補佐
プロフィール
新卒でNTT東日本に入社。新規事業開発室や戦略子会社(株式会社NTTe-Sports)の立ち上げに関わったのち、神奈川県横須賀市への在籍出向を経て、2022年7月より現職(出向)。
デジタル実装タイプTYPE1の申請ポイント
デジタル実装タイプTYPE1の要件は、まず以下の2点を抑えておくことが重要だ。
・デジタル技術を活用して地域課題を解決する取り組みであること
・他地域の優良モデル・サービスを活用した実装の取り組みであること
「すでにあるモデルを活用するというところがTYPE1の特徴です。横展開なら自治体の規模や体制に関わらず取り組みやすいのではないかと思います」と小野さんはいう。
上記を抑え、次に紹介する申請時のポイントを意識すると良い。
始点は地域に存在する「課題」
デジタル実装タイプの考え方として、「地域課題を始点にする」ということも大切だ。例えば、RPAのサービスを導入して職員の事務処理の業務負担軽減をする取り組みは、地域に直接裨益しないためデジタル実装タイプ交付金の趣旨とは異なる。
「例えば、デジタル技術を導入して業務効率が上がるだけに止まらず、申請書の作成時間が短くなり来庁した市民の待ち時間が減るような取り組みであれば、デジタル実装タイプに適合すると考えています」
まずは、地域内にどのような課題があるのか、市民はどんなことを望んでいるのかを把握することから始めよう。
優良モデル・サービスとは?
解決したい課題を見据えた上で、優良モデル・サービスを活用するのがTYPE1だ。優良モデル・サービスとは「地方公共団体ですでに導入されているモデルやサービス」ないし「民間企業サービスで地域に実装済みで一定の効果が出ているもの」を指す。
他地域の情報を集めるためには日ごろからの情報収集が欠かせない。周辺の自治体や姉妹都市など、自治体同士の連携をとり情報交換をするというのもいいだろう。また、メディアや書籍などをはじめ、様々なところから情報を集められるようアンテナを高くもつことも大切だ。
なお、デジタル田園都市国家構想の事務局ホームページでも数多くの事例が紹介されている。下記を参考にすると、色々な発見を得られるかもしれない。
デジタル田園都市国家構想HP|デジタル田園都市国家構想交付金(デジタル実装タイプ)参考事例集(令和4年12月12日)
デジタル実装タイプTYPE1の申請における注意点
続いて、TYPE1申請時の注意点を見ていこう。
市民目線を忘れない
取り組みがいかに市民の役に立つか、この点がデジタル実装タイプの肝となる部分だ。小野さんも「地域の方は何に困っているんだろう、というところを真摯に突き詰めた上で、参考にするモデルや導入するサービスの選定をしていただきたい。とにもかくにも課題の設定に魂を込めていただきたい」と力強く語る。
よく陥りがちなのは、自治体目線に終始してしまうケースだ。例えば、庁内コストや委託費が上がっているから、それをデジタル技術で代替してコスト削減を行う。もちろん庁内の業務改革をするという意味では有効な考え方だが、地域に直接裨益するサービスの実装という要件を満たさなくなってしまう。
KPIの設定と継続体制の構築
デジタル実装タイプの申請では、事業のKPI設定と事業運営を継続的に行っていくための体制構築を記す必要がある。この2つは車の両輪のようなもので、どちらが欠けてもよくない。
「片手落ちではダメで、どちらにもこだわって考えていただきたいところです」
KPIについては、事業の成果が地域の課題解決や魅力向上に資するものであることを複数年にわたって計測するためのKPIとして、適切なアウトプット指標(活動指標)、アウトカム指標(成果指標)を設定することが必要だ。職員の時間外削減や効率化は副次的な効果として認められるが、地域へ活動量や効果としては対象となり得ない。
事業体制については、自治体とデジタルサービスの事業者だけにとどまらず、地域の団体や外部人材や学校等にも参画してもらい、地域内外の関係者と連携をとれるようなコンソーシアム(共同事業体)を構築していくのが望ましい。
PDCAをまわす
地域課題、KPI、体制構築ができて初めてPDCAを適切にまわすことができる。取り組みは「実装しておしまい」というわけではなく、複数年にわたって運営・改善をしていく必要がある。次年度以降につなげていくためにも、PDCAをまわしていくことが欠かせない。その場合、客観性担保の観点から外部有識者等外部の視点が入る評価体制の構築や、市民の声をPDCAに反映させることで効果を高めていきたい。
参考になる優良事例を紹介
デジタル田園都市国家構想の事務局では定期的に「Digi田甲子園」を開催している。これは、日本各地で行われているデジタル活用の優良事例を表彰する制度で、デジタル実装タイプの申請を考えている自治体担当者にはきっと参考になるはずだ。ここでは2022年「夏のDigi田甲子園」の受賞事例を2つご紹介しよう。
受賞事例1:書かない窓口(神奈川県横須賀市)
◆神奈川県横須賀市(人口:約38万人)
手続きや待ち時間の短縮を目的とした取り組み。同市では、転出・転入の多い3~4月、住民異動窓口では最大100分の待ち時間が発生していた。それを解決すべく、HP上で簡単な質問に答え、必要な手続きを電子で一括作成できる「手続きナビ」と「申請サポートプラス」というシステムを導入。これにより繁忙期の来庁者の待ち時間が38分に短縮された。
受賞事例2:電子母子手帳アプリとオンライン医療相談(宮城県丸森町)
◆宮城県丸森町(人口:約1.2万人)
同市では、2021年10月より母子手帳アプリとオンライン医療相談を導入。妊娠や子育てをする家庭に対して、情報発信やLINEによるチャット相談、まちのイベント等の情報発信を実施している。もともと産科・小児科がないという課題があり、その中でも住民が安心して出産や育児ができるような環境を整えることが本事業の目的。
また、2023年1月24日からは「冬のDigi田甲子園」が開催されている。
地域課題を始点に事業計画を立ててTYPE1に申請しよう
デジタル実装タイプTYPE1申請の最重要ポイントは、「地域課題を始点にして実施計画を策定する」ことである。その上で、デジタル技術の導入が直接的に市民に裨益するかどうかが重要になる。
そして、解決する地域の個別課題を設定したうえで、KPIの設定や事業体制の構築を進める。この2点も同じように重要である。これらのポイントを押さえておけば、既存のモデルを活用し、スピーディに計画から申請まで行えるはずだ。
TYPE1の申請締め切り2023年2月16日※。ぜひこれをきっかけに行政・地域のデジタル化に取り組んでほしい。
※事前相談は2023年1月27日までとなっておりますのでご注意ください。
お問い合わせ
内閣府地方創生推進室/内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局
E-mail:digitaldenen-kofukin.f7k@cao.go.jp
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