ジチタイワークス

公民連携にイノベーションを起こす 「ソーシャルインパクトボンド(SIB)」とは?

民間事業者のリソースを活用し、社会的課題を解決する「ソーシャルインパクトボンド(成果連動型民間委託契約)」。
平成29(2017)年5月に八王子市で導入され、平成30(2018)年には広島県と県内6市が連携し、導入しました。
そこで今回は、今後ますます拡大が予想されるこの取り組みについて識者6名(※)に話を伺います。

※(左から)株式会社キャンサースキャン・福吉潤、経済産業省・岡崎慎一郎、一般財団法人社会的投資推進財団・工藤七子、ケイスリー株式会社・幸地正樹、株式会社三井住友銀行・上遠野宏、みずほ銀行・末吉幸太郎(敬称略)

※下記はジチタイワークスジチタイワークスVol.4(2019年1月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。

―― 今、国が力を入れているという「ソーシャルインパクトボンド(SIB・成果連動型民間委託契約)」について詳しく教えてください。

岡崎(経産省):平成22(2010)年にイギリスで始まった仕組みで、「SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)」とも呼ばれています。民間事業者の資金・ノウハウ・人材といったリソースを行政が活用し、社会的課題解決に役立てる新しい手法です。事業の成果が行政コストの削減をもたらし、その削減されたコストの中から成果に応じて
民間事業者に報酬が払われます。そのため行政は予算をあらかじめ用意しなくても、新たな取り組みを実施・検証できるのがメリットです。

工藤(社会的投資推進財団):イギリスに視察へ行ったとき、議論されていたのはSIBによって行政のコストが削減できるというメリットです。これは日本でも求められている仕組みだと思いました。

福吉(キャンサースキャン):私たちがSIB事業に関わったのは平成29年5月に八王子市で導入された成果連動型の大腸がん検診受診率向上事業がきっかけでした。受診率向上事業を私たち事業者が請け負い、事業費は受診率向上効果・早期がん発見者数に応じて事業後に支払われるというものです。そういう仕組みが成立するぐらいに大腸がんというのは早期で見つけると医療費が抑制されるということが分かっていたわけです。平成29年度、12,162人を対象にAI を活用した受診勧奨をした結果、平成27(2015)年度の受診率9%を大きく上回り26.8%となりました。その結果、大腸がん検診受診率に応じた支払額について、八王子市より満額の報酬が支払われたことがメディアでも
広く取り上げられました。

末吉(みずほ銀行):八王子市や広島県のSIB事業において私たちは「資金提供者」として参加しています。社会的課題の解決にどう資金提供するかというのは私たち銀行にとっても大きなテーマでした。新しい産業をつくりたい、という思いもあって出資したのです。


 

―― 確かに、SIBというキーワードをメディアで耳にする機会は増えました。日本全国で取り組みは広がっているのでしょうか。

福吉:はい。問い合わせは非常に増えていますね。先日も、今日ここにいらっしゃる方々と東北地方でSIBシンポジウムを一緒に開いたときには、100人を超える行政の方々がいらっしゃって、とても熱心に聞いてくださりご質問もたくさんいただきました。

岡崎:これからは私たち経産省の他にも、厚労省など各省庁が社会的投資としてSIBを活用したプロジェクトを動かしていくでしょう。既に厚労省などでもSIBの検討が進んでおり、これからは各省庁が社会的投資としてSIBを活用したプロジェクトを検討していくのではないでしょうか。

幸地(中間支援組織・ケイスリー):今までは国がモデル事業として資金提供し、自治体と一緒に動かしていく流れだったのが、平成30年からは自治体が主軸となりSIBで事業を動かすことが増えてきました。いよいよ本格的に動き始めたなという印象を感じますね。

(左から)みずほ銀行・末吉幸太郎、株式会社キャンサースキャン・福吉潤、一般財団法人社会的投資推進財団・工藤七子
 

―― しかし、なぜ「今がやるべき」タイミングなのでしょう。

岡崎:今、国の成長戦略を議論する「未来投資会議」のなかでも成果連動型民間委託契約については特に言及されています。日本ではこれからますますこの取り組みが加速していくことが予想されているのです。国の財務状況を考えてみれば今まで以上に、公的機関が効率的・効果的にお金を使っていかなくてはいけません。そのためには既存のやり方ではうまくいかない。つまり、新しいものを取り入れる必要がある。そこで効率良く事業を進めるのに効果的なのがSIBです。自治体の資源が逼迫し、一人あたりの業務量が増えているなかで成果を出そうと思うと外部の力をいかに使っていくかが重要になります。

上遠野(三井住友銀行):産業界でいうと、一つのキーワードは平成27年9月の国連サミットで採択された「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」です。SDGsの流れにそって社会にインパクトを与えるような出資をしたい、という企業が増えている状況を考えるとSIBを活用するなら今のタイミングが間違いないと言えるでしょう。

岡崎:そうですね。まずは何の課題を解決し、何が成果なのかを話し合うことがスタートです。今後、ますますこの取り組みは拡大し、住民にとっても自分たちの住む街がこの先進的な手法を導入しているかどうかは気になる部分でしょう。すでに導入している自治体とまだ試していない自治体とでは大きく差が開きます。

(左から)経済産業省・岡崎慎一郎、株式会社三井住友銀行・上遠野宏、ケイスリー株式会社・幸地正樹
 

―― 今後、全国で拡大していくなかで障壁になることはありますか。

幸地:現実的にはSIBを活用した事業を動かしたいと思っても、何から手を付ければ良いかが分からないというのが自治体職員のみなさんに共通する悩みだと思います。

岡崎:そうですね。SIB事業を計画していくうえで、まずどこから考え始め、庁内の議論をどのように進めていけばよいか、現実的なノウハウを集約し行政の皆様に広く活
用していただくということは今後まさしく必要になることだと思います。

 

このページをシェアする
  1. TOP
  2. 公民連携にイノベーションを起こす 「ソーシャルインパクトボンド(SIB)」とは?