ジチタイワークス

東京都町田市,福岡県北九州市

輻射パネルを併用し、省エネで効率が良い体育館空調をつくる。

災害時に避難所となる体育館においては、熱中症や寒さ対策に空調整備は欠かせない。町田市では全ての小・中学校62校にエアコンと輻射パネルを併用した空調設備を導入し、快適な環境を整えたという。経緯や効果について話を聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.23(2022年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]株式会社エコファクトリー

熱中症リスクのある体育館の空調整備は、喫緊の課題に。

近年、真夏日や猛暑日が増加する中、熱中症対策として学校施設の空調整備が求められている。同市では普通教室や特別教室などで対応が完了していた一方で、「体育館空調の導入は費用負担が大きく、国の補助制度による支援を受けることが前提になります。ただ当時は、全国的に教室空調の導入が優先され、体育館空調の補助は採択されにくく、具体的な導入計画はありませんでした」と平川さんは振り返る。

その流れが変わったのは平成30年の記録的な猛暑による熱中症の被害で、教育活動が制限されるなど大きな影響があったことだったという。また、全国で地震や豪雨などによる災害が相次ぎ、発災時に避難施設となる体育館への空調導入のニーズが高まったのだ。熱中症が懸念され、体育授業や部活動、学校行事ができないだけでなく、夏場に市民が避難できないという事態を避けるためにも、導入に向けた情報収集を進めていたそうだ。

そんな中、東京都が公立学校体育館の空調導入に対し補助制度を新設。「これをきっかけに、令和3年度までの2年間で、市内全ての公立小・中学校62校への空調導入を決定しました。教育現場と避難施設という両方の観点から施設の機能向上を図る取り組みでした」。

輻射熱の効果による空調で、快適な空間を生み出す。

同市が導入したのは「エコファクトリー」が提供する、エアコンに輻射(ふくしゃ)パネルを接続したハイブリッド型の空調システム。熱源機にエアコンを用いて、輻射熱の原理※1を活用したパネルで空間をやわらかく冷暖房できる。

例えば冷房の場合、エアコンの配管を通じ、冷媒ガスが輻射パネルに流れ、冷やされたパネル自体が室内の熱を吸収し温度を下げる仕組み。そのため、風の影響をほぼ受けずに空間を十分に冷やすことができる。通常20台のエアコンが必要な空間でも12~14台程度の設置で同等の空調効果が得られ、省エネルギーやコスト削減にもつながるという。

「体育館という大空間の空調なので、導入費用だけでなくランニングコストも重視しながら情報収集を行い、様々な空調システムを検討しました。同じシステムを導入している学校で行われた体感会に参加し、実際に輻射の効果を感じられたのも大きかったですね。結果的にエアコン単体での設置と比較し、ライフサイクルコストが有利なことが決め手になりました」と来住野さん。

※1.物質を介さず温度の高い方から低い方へ熱が伝わる現象

教育環境と避難所環境の改善が省エネ対策にも。

全62校の設置工事を2年間で終えた同市。学校行事の兼ね合いもあり実施には綿密なスケジュール管理が欠かせなかった。「体育館の構造も様々で、設置する方法やパネルとエアコンの台数や位置を1校ずつ確認したり、体育館閉鎖期間や時期を学校と調整したりと苦労はありました。ただ、導入に向けて関係者全員が前向きに連携できたため、全校の設置を実現できました」。

学校からは“授業で熱中症リスクが大きく軽減した” “温度のムラがなく暖房が行き渡り、底冷えしない” “音も静かで風の影響が小さく快適に過ごせる”など喜びの声が寄せられているそう。また、これまで夏や冬に実施が難しかった行事も快適に行えるようになり、教育環境の改善にも役立っているという。

「これらのメリットは同時に避難所の機能向上にもつながります。安全に避難できる環境があることで、市民に安心してもらえます。また、当市では令和4年1月に『町田市ゼロカーボンシティ宣言』を行い、市全体のゼロカーボンを目指す中で公共施設のZEB※2化を進めています。省エネルギー化を実現するこの空調システムが、ZEB化にも大きく貢献することを期待しています」と平川さんは語ってくれた。

※2.ZEB=Net Zero Energy Building(快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の1次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物)

町田市 教育委員会 学校教育部 施設課
左:平川 浩二(ひらかわ こうじ)さん
右:来住野 彰(きすの あきら)さん

町田市の導入経緯

東京都の補助制度新設をきっかけに、工事期間約2年間で市内全小・中学校へ導入。

平成30年12月

●東京都が体育館空調整備に対して補助制度を新設
●他自治体を視察し情報収集

平成31年3月

●輻射式冷暖房システムの導入を決定

令和2年度

●小学校7校、中学校18校で設置工事完了

部活動などで使用頻度の高い中学校から先に着手。また、震災時医療拠点に指定されている小学校への設置を優先的に行った。

令和3年度

●小学校35校、中学校2校で設置工事完了

公立小・中学校全校への設置が完了。

エアコンと輻射パネルを併用した空調システム

輻射式冷暖房パネルと対流式のエアコンを組み合わせた“良いとこ取り”の空調システム。大きな空間も効率的に冷やしたり暖めたりすることができる。

 

スポーツ施設としても避難所としても、快適に過ごせるように整備する。

大規模なスポーツ大会にも対応し、災害時には避難拠点になる北九州市立総合体育館。その機能を強化するために、サブアリーナに空調設備を設置した経緯について聞いた。

北九州市 市民文化スポーツ局
スポーツ部 スポーツ振興課 施設整備担当係
冷牟田 貴之(ひやむた たかゆき)さん

競技環境の改善だけでなく、避難所の機能向上も考慮。

北九州市は平成28年に「北九州市公共施設マネジメント実行計画」を策定。公共施設の多くが昭和40年代後半から50年代にかけて建設されており、今後数十年かけて、一斉に更新時期を迎える。そのため、施設の老朽化対策や集約など、公共施設の再構築が求められていた。市内最大規模のスポーツ施設である総合体育館も同様、大規模な改修計画が進められていたという。メインとなる第1競技場には空調設備がある一方で、第2競技場にはこれまで設置されていなかった。利用者から“空調を導入してほしい”という声が届いていたこともあり、設置工事を実施した。

「総合体育館は予定避難所としての位置付けもあり、この工事は競技環境を整えるだけでなく避難所の機能向上にもつながります。第2競技場も整備することで、市民が安心して避難できる点に期待しています」と冷牟田さん。導入の検討にあたり、近隣自治体の事例を収集する中で、輻射式空調という新たな選択肢を得たという。

ほかの空調設備と比較し、総合的な判断で導入を決定。

導入前には複数の設備と比較を行い、最終的に同システムに決定。「決め手の一つになったのはイニシャル・ランニングともにコスト面で優れていた点です。エアコン単体の空調に比べて、設置台数を減らすことができ、エアコンの運転を弱めても輻射パネルの効果で室温を維持できるのもメリットです」。また競技面にも良い影響があるという。対流式の空調と違い風の影響が少ないため、バドミントンや卓球といった風の影響を受ける競技に支障が出にくい。また、ほかの大空間用の空調方式と比べて保守メンテナンスが容易で、普段はエアコンのメンテナンスのみで済むのも決め手になったという。

「同じシステムを導入している久留米市を訪問し、実際の施設を見学させてもらったことが大変役に立ちました。導入時に我々が直面したコスト面や競技面での課題などは、ほかの自治体も同様だと思います。当市でも問い合わせを受け付けていますので、いつでも気軽に相談していただければと思います」。

輻射パネルには複数の種類がある中、同市ではSCREENタイプ(自立型)を、床置形のエアコンと接続して設置している。施設の規模や、使用状況に合わせて設置タイプを選べる。

自治体担当者が答える “導入してどうだった?”

良さそうだけれど、“輻射熱”がイメージできない、一般的な空調設備とどう違うのか?導入コストを抑えるには?そんな気になる質問に、実際に導入した両市の担当者が回答します。

Q.“輻射パネル”を併用するとどのようなメリットが得られますか?

町田市:体育館は天井が高く空間が広いため、一般的な設備は冷やしたり暖めたりするのに時間がかかります。一方、同システムでは人がいる体育館下部を効率的に、温度のムラがなく冷やしたり暖めたりすることができます。

北九州市:エアコンのように空気を対流させないので、風や音の影響が少ない点です。バドミントンなどの競技を実施する場合、適していると思います。

町田市で行った体育館空調試運転(冷房)の様子。10~15分ほどで効果があらわれ、30分を経過すると室温が安定したそう。

Q.導入コストを抑えるためにどのような工夫をしましたか?

町田市:東京都独自の補助制度「東京都公立学校屋内体育施設空調設置支援事業補助金」と国の「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」を活用しました。

北九州市:自治体により様々だと思いますが、当市では「緊急防災・減災事業債」を活用しました。

Q.実際に利用した生徒や住民からはどのような感想が聞かれますか?

町田市:夏は熱中症リスクが減ったという声が多いです。冬は人がいる体育館下部をムラなく暖められ、エアコンだけでは暖まりにくい足元まで快適と好評です。

北九州市:床や壁が温まっているので、窓を開けても急激に部屋の温度が下がらず換気がしやすいなどの声が寄せられています。

Q.体育館空調を設置するのに工期はどれくらいかかりましたか?

町田市:契約から設置完了まで、1校当たり6カ月程度。空調設置工事で体育館を閉鎖した期間は鉄筋コンクリート造りで50日間、鉄骨造りで80日間でした。

北九州市:空調設備だけでなくトイレの改修や照明のLED化などの改修も同時に行ったため、約半年間体育館を閉鎖し、集中的に工事を実施しました。

Q.検討段階なのですが、導入自治体の施設を見学した方がいいですか?

町田市:“輻射熱による冷暖房”の効果を体感できることはもちろん、エアコンや輻射パネル、室外機の設置状況が確認できたので、導入する際の設置イメージができ、大変参考になりました。

北九州市:メンテナンス面や実際の利用状況など、導入している担当者の生の声を直接聞くことができるので参考になりましたね。

全国各地で多数の導入事例があります

ハイブリッド型輻射式冷暖房システム「ecowin HYBRID(エコウィンハイブリッド)」は全国の施設や体育館で導入実績があり、こちらからご覧いただけます。空調でお困りのことがあれば、小さなことでもぜひ気軽にご相談ください。

お問い合わせ

サービス提供元企業:株式会社エコファクトリー

TEL:0120-539-666(平日9:00~18:00)
住所:〒862-0950 熊本県熊本市中央区水前寺2-17-7

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