台風や地震など、災害大国である日本。コロナ禍以降、避難所運営の新たな課題となったのが、感染症対策だ。徳島県では令和2年に、避難所運営に関する動画「過去に例を見ない複合災害への備え」を制作し、YouTube「徳島県チャンネル」で公開した。動画内容を項目別にまとめた冊子も合わせて作成。同取り組みについて担当者に取材した。
※下記はジチタイワークスVol.23(2022年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
感染症対策について考えられた避難所運営モデルが必要に。
令和2年4月、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、全国に緊急事態宣言が発出された。「当時は、全国的に感染者が急増している状況でした。このような中で、大規模な災害が発生し、避難所に多くの人が集まると、クラスターの発生による感染拡大が起こるおそれもあります。これまでの避難所運営に加えて、“過去に例を見ない複合災害”に対応するためには、感染症対策に万全を期すことが重要であると考えました」と荒木さんは話す。
避難所の運営は、各市町村が主体となる。そのため、県として何らかのモデルをつくり、シミュレーションをした方がいいと考えたという。「マニュアルを作成することも考えましたが、文章や図での説明だけでは、動線や距離感など、どうしても分かりづらい部分があります。そこで、動画を制作し、YouTubeで配信するアイデアが出ました。実体験に近い雰囲気を伝えることができるのではと考えたのです」と尾崎さん。
委託業者や専門家の力を借り細部までこだわって制作した。
動画制作にあたって必要なシナリオの作成、撮影は、プロポーザル型の入札により業者を選定、委託する形で行われた。委託業者と契約を締結したのは同年7月。シナリオの骨子づくりは、とくしまゼロ作戦課が担当した。「何の前例もありませんでしたから、手探りで進めていくしかなく、苦労しました」と尾崎さん。専門家にも内容を確認してもらい、必要に応じて調整。業者とも話をしながら、細部を詰めていったという。
出演者は、主に県内の自治体職員が務めた。コロナ禍ということもあり、大々的に県民から出演希望者を募るわけにはいかなかったという。「動画制作で最も重視したのは分かりやすさです。撮影にはドローンを活用し、避難所の様子を俯瞰的な映像としても見られるよう工夫しています。加えて音声ナレーションだけではなく、テロップも付けることで、視聴者の理解がより進むように考えました」。
また、動画だけでなく、同じ内容をビジュアルと文章に落とし込んだ冊子も作成し、県内の市町村に配布。冊子内の各項目には二次元コードが掲載されており、そこから動画の該当シーンに飛べるよう連携させた。動画内容を誌面で再確認できるほか、動画を見ることができない環境下でも情報が得られるようになっている。「冊子は動画の目次的な役割も担っています。例えば“段ボールベッドのつくり方を知りたい”と思ったときに、動画だけでは何分頃からその内容が見られるか分かりづらいですが、項目別に掲載している冊子ならばすぐに調べられる。そこから動画に飛べることで、スムーズに設営できるようにしました」。
実際にシミュレーションを行い発災時に運用できるかを確認。
動画制作にかかった期間は約3カ月。完成前の段階ではあったが、徳島県立防災センターにて1泊2日で避難所運営訓練を実施し、動画内容のシミュレーションも行ったという。「段ボールベッドを組み立てて実際に就寝してみたほか、非常食を受け取る際の列形成や実食など、動画内容の一部を実践。スムーズに進められた印象を受けました」。
動画公開後は、県内の市町村、他府県から“参考になった”“動画を活用させてほしい”といった声が寄せられている。地域の防災に関わる自主防災組織からも“動画を見た”と報告を受けているそうだ。
目で見て分かりやすい動画の強みは、言語に依存しない点にもある。県が制作した動画は、今後、日本語があまり得意でない人などにもいざというときに理解してもらいやすいツールになり得るだろう。「災害はいつどこで起きるか分かりません。県内の各市町村には、ぜひ本動画を参考にし、クラスターを出さない避難所運営をしていただけたらと思っています」。新しい避難所運営の指針として、これからの活用に期待したい。
受付業務の様子。動画にすることで俯瞰して把握することができ、避難所運営の様子が具体的にイメージしやすい。
実際の動画はこちら
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徳島県 危機管理環境部 とくしまゼロ作戦課
右:尾崎 朱子(おざき あやこ)さん
左:荒木 宣雄(あらき のぶお)さん
今後、新型コロナウイルス感染症の流行が落ち着いたとしても、いずれまた別の感染症が流行する可能性があります。コロナ禍に限らず、これからの避難所運営には、ぜひ本動画を活用していただきたいと思っています。
課題解決のヒント&アイデア
1.動画だけでなく冊子も制作し、災害時の利便性を高める
動画の内容をまとめた冊子も制作。動画が見られない環境下でも対応できるようにと考えた。冊子の各項目には二次元コードを付け、該当する動画に飛べるよう連携している。
2.動画では避難所の様子がイメージしやすいことを重視
ドローンを活用し、俯瞰的に撮影することで、避難所の様子をより分かりやすく伝えられるよう工夫。音声だけではなくテロップも活用し、音なしでも理解できるように仕上げた。
3.避難所運営訓練で動画内容の一部を運用可能か確認
避難所運営訓練にて、現場で動画を見ながらやってみることで、実際に運用可能かを確認した。十分理解できる内容か、使える動画になっているかを体感することは重要。