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【セミナーレポート】来年度に備える、河川の水害対策~今必要とされる「河川モニタリングシステム」とは?~

近年、各地で頻発する豪雨災害。河川の急激な増水に伴う浸水被害は、もはやいつ、どの自治体で起きても不思議ではない状況になりつつあります。こうした災害に備えるには、河川や内水路の水位と現場の状況を監視し、そのデータを防災情報として活用する体制が不可欠。国土交通省も改正水防法にもとづき、全国の約1万7,000河川を「洪水浸水想定区域」の指定対象河川として選定することを、令和7年度までの目標に掲げています。

ただ、現在は指定対象河川が2,137河川に留まっていることから、自治体が住民の安全を守るために監視しなければならない河川が、今後大幅に増えるのは間違いないでしょう。

そこで今回のセミナーでは、新たに指定対象となる約1万4,863河川に「今、必要なこととは?」をテーマに、「河川モニタリングシステム」をご紹介します。2日間の開催ですが、それぞれ違った内容でスペシャルゲストにご登壇いただきます。

概要

■来年度に備える、河川の水害対策~今必要とされる「河川モニタリングシステム」とは?~
■実施日:10月12日(水)、13日(木)
■参加対象:自治体職員
■申込者数:122人
■プログラム
Program1
これからの河川モニタリングとは
Program2
令和2年7月豪雨災害の概要と教訓(Day1)
Program3
水害の理解と河川モニタリングのあり方(Day2)


これからの河川モニタリングとは

<講師>

太陽誘電株式会社
青木 千春 氏

プロフィール

新事業推進室 新事業推進部所属。同社防災ソリューショングループのメンバー。


太陽誘電が提供する「河川モニタリングシステム」の概要と3つのポイント、機器および監視画面などを同社の青木氏が解説する。また、実際に導入している使用いただいた自治体からの声もご紹介。

「河川モニタリングシステム」の概要について

「河川モニタリングシステム」は、従来では把握できなかった中小河川や内水路の水位データやモニタ画像から、内水氾濫を“面”でモニタリングできるシステムです。特徴としては、

●水位センサ、モニタリングカメラの複合システムで、小型、軽量のため設置が容易
●ソーラーで発電しバッテリーに充電する、独立電源方式で無線機能付き、配線不要
●セルラー通信網にてリアルタイムにデータをクラウド上にアップするため、現地に行かずにPCやスマホで、氾濫危険箇所の水位と状況を把握することが可能
●水位センサは、本体下面からミリ波を出し、跳ね返ってきた時間で水面の高さを正確に計測(最大50mまで測距可能)

…などが挙げられます。

令和2年7月豪雨災害の概要と教訓

<講師>

熊本県 人吉市
市長 松岡 隼人 氏

プロフィール

熊本県人吉市出身。平成13年に熊本大学教育学部を卒業。卒業後は平成19年に人吉市議会議員に当選。平成19年から平成27年の8年間市議会議員としての活動を経て、平成27年に人吉市長に就任。人吉市長として現在2期目を務めている。


令和2年7月3日~4日にかけ、人吉球磨盆地を中心に線状降水帯による雨が降り続き、球磨川流域並びにその周辺地区が甚大な被害を受けた。今回のセミナーでは、当時の気象概況と被害状況、人吉市の対応と住民の思いや行動を受け、二度とこのような災害をおこさないための心構えや備えなどについて、同市長の松岡氏が語る。

「令和2年7月豪雨」の概要について

7月3日から4日にかけ、球磨川流域に線状降水帯が形成され、8時間にわたって雨が降り続いた結果、24時間雨量において観測史上最多雨量を記録しました。人吉地点では6.9mから7.6mまで水位が上昇したと、災害後の検証で明らかになりました。球磨川の堤防の計画高水位が4.07mですので、仮に1m~1.5mプラスされたとしても、2m〜2.5mも水が溢れたことが分かります。中心市街地も含め、かなりの広範囲にわたって浸水被害に遭いました。

下の航空図は人吉市の市街地を下流側から撮影したものですが、青で塗っているのが浸水したエリアです。

マップ自動的に生成された説明

下の写真は、発災時に本市の職員が避難誘導や橋の通行止めを行う際に撮影したものです。水が上昇している途中で、ここからさらに水位が2mぐらい上昇しました。

屋外, 建物, ストリート, バス が含まれている画像自動的に生成された説明

こちらはある程度水が引いた写真です。一時はこの橋の上まで水が越えました。写真では橋の上を車が通っていますが、中心市街地ではまだ水が引いていません。下流側住宅街はヘリコプター等で人命救助を行っていただきました。

船, 道路 が含まれている画像自動的に生成された説明

水位が上がったときの状況が右側、水が引いた後の状況が左側です。「一番館」の看板の下のところまで水が来ました。人の身長から見て、4mほど浸水したことが分かると思います。

建物, 屋外, ストリート, 市 が含まれている画像自動的に生成された説明

この豪雨災害により、本市では20名が亡くなり1名が災害関連死しました。本市世帯数は1万5,000強でしたが、そのうち3,000世帯ほどが罹災証明を受けています。物や仕事、人々の心など、あらゆるものが奪われました。私が一番印象的だったのは、普段穏やかな方が、職員に対して大声を上げて罵っておられる姿でした。2度とこのような大災害を繰り返してはならないと、私も心に強く誓いました。

以下図は、被害額の一部です。本市の年間予算は150〜160億円ほどですが、災害廃棄物の処理に関して50億円ほど、その他、数10億円規模でさまざまな費用がかかっています。この中には、道路や河川・橋梁、鉄道の災害復旧は入っていません。個人住宅の復旧費用も入っていませんので、何もかも合わせると、極めて大きなダメージを受けています。

文字と写真のスクリーンショット自動的に生成された説明

発災時の本市の対応

このような大規模災害において、本市がどのような対応を行ったかをまとめました。本市では「球磨川水害タイムライン」を作成しており、「誰が、いつ、どういう状況のとき、何をするか」を具体的に定めています。今回も気象庁をはじめ県や国が発する情報と球磨川の水位を見ながら、随時、決められた対応を行っていました。

テーブル自動的に生成された説明

文字の書かれた紙自動的に生成された説明

本市は中山間地域ですので、ゆっくり雨が降れば川に水を流すことができるのですが、短時間にまとまった雨が降ると、どうしても地形的に溢れてしまいます。

「今後のための教訓」について

こちらの写真をご覧ください。左上は、消防が避難・救助に向かっていますが、この時点で積載車が水没しました。さらに水位が上がり、右上では積載車の上だけしか見えておらず、下はボートに乗った常備消防の職員です。これは、布団につかまって流されている人を救助に向かっている様子で、こういう状況下では消防署員といえ命がけです。

ボートに乗っている人たち低い精度で自動的に生成された説明

本市は以前から水害の多い地域で、昭和40年、57年にも大規模な水害に遭っています。その経験が逆に、あれほどの水害はもう無いだろう、あってほしくないという希望から、多くの住民が“無意識のリミッター”をかけてしまったのではないかと思います。「まさかあそこまで水が上がるとは思っていなかった」と、避難した住民は一様に口にしています。まず、住民の判断基準を変える必要があると思います。

また、平時からしっかりと準備することも大事です。行政や消防だけでは限界がありますから、まずは自分自身で自分の命を守り、そして地域の方が地域の方々の命を守る。そういったことを準備しておく必要があると思います。

避難行動要支援者および個別避難計画を、しっかりつくっておく必要があると思います。本市もつくりましたが、現在、改善に向けて見直しを行っているところです。と言うのも、地域の方が「危ないから早く逃げましょう」と声をかけ、声をかけられた方も「分かりました。すぐ逃げますから先に行っておいてください」と返事をしながらも逃げられず、亡くなられたケースがあったからです。

テキスト自動的に生成された説明

ダイアグラム, テーブル自動的に生成された説明

行政としては、正しい情報を的確に、迅速に伝えることが大事です。その1つの手段として、橋の照明を赤色に変えることにより、避難の呼びかけを視覚的に気づくように「ライティング防災アラートシステム」を導入しました。また、下記図のような防災ポータルサイトをつくりました。

グラフィカル ユーザー インターフェイス, テキスト, アプリケーション, チャットまたはテキスト メッセージ自動的に生成された説明

最後になりますが、災害時は住民に早く避難してもらうことが重要だと考えています。私は、避難指示の「空振り」という言葉が嫌いです。空振りかどうか分かるのは、災害が起こった後です。行動を起こした先に、何事も無かったことが最高の結果です。

現在は、住民に対してこういう声かけを行い、周知に努めているところです。

[参加者とのQ&A] ※一部抜粋

Q:被災時、避難所運営に大変苦労されたと報道されていましたが、どう対応されたのか聞かせてください。
A:当時は、新型コロナウイルス感染症の影響が強い時期でした。最大で1,260名が避難したので、避難所でいかにコロナ陽性者を出さないかという点に非常に苦慮しました。

国からもパーテーションや段ボールベッドを届けていただきましたが、陽性者を出さないため人と会うことを制限したほか、3密を避けるなど、基本的な対策と制限を実行しました。また報道関係者等も避難所の中には入らないようお願いしました。結果、避難所を閉じるまで陽性者がゼロだったのは、良かったと思います。


Q:被災者支援システムについて、独自導入されたり仕組みをつくっていたりしておられますか。
A:熊本地震の発生時、人吉市に本社があるIT企業が、他自治体においてクラウドシステムを構築したことを知っていましたので、災害に遭ったときにすぐに依頼をして、バージョンアップをしながらクラウドシステムを利用しました。

行政はどうしても縦割りで、重複することや情報共有が苦手な部分があります。クラウドシステムを使うことにより、例えば被災した世帯や被災者に、どういうサービスや手続きを行い、どういう困り事があるのか、各課が積み上げることで共有し、重複せず漏れも無く支援ができました。住民に対するサービスが充実・迅速に行えたと自負しています。

水害の理解と河川モニタリングのあり方

<講師>

九州大学工学研究院アジア防災研究センター
教授 三谷 泰浩 氏

プロフィール

平成3年九州大学工学研究科修士課程修了後,民間会社(建設会社)に勤務。平成9年より九州大学工学研究院助手,平成11年より同大学助教授を経て,平成25年より附属アジア防災研究センター教授。


災害対策としての河川のモニタリングは、「どこで」モニタリングを行うかが重要となる。そこで、三谷氏が河川の洪水(外水氾濫)や内水氾濫の仕組みを解説し、その理解を深めるとともに、氾濫予測を防災に役立てるための洪水ハザードマップ、洪水キキクルの特徴やその活用法について説明する。同時に、これらの理解を通して適切な「河川モニタリングシステム」のあり方について考える。

どうして最近は、水害による被害が多いのか?

近年、水害が増えている理由について、私の見解をお話しします。全国平均の年間平均降水量は、通常1,700mmですが、これが近年徐々に増えており、特に九州では2,300mm近くの雨が降っています。最近の大雨は、1回で300~400mmが降りますので、平均値よりも大幅に増えています。ただ、年間平均の降水量は劇的には変わっていません。短時間の大雨が増えているのです。

タイムライン自動的に生成された説明

洪水以外にも、土石流、砂防ダムの決壊、ため池の決壊など「連鎖災害」も発生します。管理されてない山からの流木によって起こる橋梁の閉塞、ダムの異常放流や「バックウォーター」現象です。これは令和2年7月豪雨でも同じような状況が発生しました。

また、水害の「出方」が変わっています。従来は川が増水して水位が上がり、堤防の弱いところが決壊し、市街地に流れ込む「破堤氾濫」による浸水が発生していました。ところが地球温暖化の影響から大量の雨が降るようになると、川が急激に増水し、堤防が壊れる前に水面上昇が続き、氾濫水が堤防を乗り越えて市街地に流入するようになりました。

地球温暖化だけでなく都市開発も原因だと考えられます。例えば、以下の図をご覧ください。福岡市の土地利用の変遷を分析したもので、グレーが都市化の領域です。

マップ自動的に生成された説明

雨の水は地中に染みて「涵養(かんよう)」と呼ばれる現象が起こります。ところが福岡市のように都市領域が膨らんでくると、雨が地面に染み込む量が減ってきて、地表面に流れた雨は雨水管や下水管を通して河川に流れ込みます。そして短時間の大雨に対して地表面で水を溜めることができなくなると、越流災害が起こりやすくなります。

洪水はどうして起こるのか?

氾濫には、堤防を壊して水が流れたり、溢水や越水という現象で住宅地が沈んだりする「外水氾濫」と、雨が溜まって排水が追いつかなくなる「内水氾濫」があります。水位が高まった河川が堤防の外(平野側)溢れ出すと、洪水の氾濫という現象になります。氾濫には「破堤」といって堤防が完全に突き破られた場合と、水が堤防を越える「越流」や「溢水」の場合とがあります。

日本人は昔から氾濫の対策として、堤防を低くする越流堤や、洪水を穏やかに氾濫させる霞堤という方法を使ってきました。つまり、流域全体を使って川から堤防を守ろうということです。

破堤の原因は①越流、②洗掘・崩壊、③漏水に大別されます。破堤が生じやすい箇所を図にまとめました。

ダイアグラム中程度の精度で自動的に生成された説明

●曲流部…川が曲がっていると、外カーブ側の堤防に流れが突き当たって洗掘が生じる。また、遠心力の作用によって外カーブ側の水位が高くなる。
●合流箇所…本流の水が支流へ逆流して溢れるバックウォーター現象が生じることがある。支流の堤防は弱いことが多いので、逆流水が支流の堤防を破堤させることはしばしば生じる。
●狭さく部…河幅が急に狭くなっていると、流れが妨げられて上流部で水位が高くなり、越流の危険が生じる。
●河川締切箇所…所橋や堰の上流では、流れが文字どおり堰上げられて、水位が高くなる。農業用の水門など、河川水を取水する施設があるところでは、漏水がよく起こっている。旧河川を締め切って堤防がつくられているところも漏水が生じやすい。

洪水を事前に察知するためにはどうすべきか?

洪水を事前に察知するためのポイントの1つは、破堤が生じやすい箇所に監視カメラなどを設けていくことです。水位が高くなる地点はだいたい決まっており、カメラを設置する場合も、そういった位置を選んで的確に設置することが大切です。実は平常時にこそ、漏水箇所がないか確認しておかねばなりません。出水時に注意しなければならない場所を、事前に見つけておくこともポイントの1つなのです。

また、いくら高性能のカメラがあっても草刈りをしておかないと、いざという時に堤防の異常の状況が見えませんので、定期的にメンテナンスを行うことが大切です。

さらに、近くの川の水位の値を知っておくことも大事です。県や市町村が管理する中小河川は、幅は分かるものの深さが分からない場合が多いようです。川の中に土や葦などが溜まっていて水を流せないところもあります。同時に、洪水が起こるとどのエリアが危険になるかといったことを、きちんと把握しておくことも必要です。

また、洪水は「流速」も関係します。いくら水深が浅くても流速が速い場合には、避難に困難が生じます。川を越えて流れてきた水は道を走り、狭い道路では流速が速くなります。気象庁が、大雨・洪水警報の危険度分布「キキクル」を出しています。キキクルには土砂キキクル、浸水キキクル、洪水キキクルの3種があります。

タイムライン が含まれている画像自動的に生成された説明

ただ、メッシュのサイズが1kmと非常に大きく、かなり粗い計算になっています。1km×1kmの大きさで同じ値を示すということは、住民の避難を判断するには厳しいというのが私の感想で、やはり地域独特の考え方が必要だと思います。
いずれにせよ、洪水によるハザードは必ず発生するので、自身のリスクをきちんと評価することが必要です。


[参加者とのQ&A] ※一部抜粋

Q:気象庁の「洪水キキクル」は、どの程度まで有用でしょうか。
A:以前と比較すると、有用な情報が増えています。ただ、その情報が全て正しいかと言うと、必ずしもそうではないのが事実です。

「RRIモデル」というモデルを使って計算されるのですが、中小河川の情報は内部の下水の状況や水門など、人工構造物の影響はほとんど考えられていません。細かいところまで手が届いた中小河川の解析にはなってないはずです。そういったことで、特に都市部の中小河川に対しては、非常に難しいと思います。
 

Q:キキクルは予想ですか、実況ですか。
A:基本的に「予想」です。6時間先のレーダー予測をベースに雨量を解析し、その結果から予測した結果です。したがって、実際の現象に対して、数時間先の情報をあらわしているものだと思ってもらえば良いです。


Q:突然の集中豪雨は予想できないと思いますが、キキクルで予想可能ですか。
A:できないと思います。ニュースの気象情報で雷雲などを見ることがあると思いますが、「気象庁の情報だけ」という信じ方はしない方が良いと思います。近年、各地の自治体も、ウェザーニュースさんなど色々な民間企業と契約をしながら気象情報を得ているようですので、気象庁の情報だけで全てを予測するのは、今の時代には合わないと思います。

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