ジチタイワークス

大阪府大阪市

「やさしい日本語」で人と人とがつながる、多文化共生のまちづくり。

やさしい日本語とは、日本語があまり得意でない人や子どもなどに向けて、分かりやすい言葉や表現に言い換えた日本語のこと。都市部における外国人住民比率※が最も高い大阪市生野区では、やさしい日本語をコミュニケーションツールとして活用してもらうことを目指し、平成30年8月から「やさしい日本語から、つながろう。」事業をスタート。多文化共生のまちを実現するために積極的な取り組みを行っている。

※総務省統計局「令和2年国勢調査」より

※下記はジチタイワークスVol.22(2022年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

日本語に不慣れな外国人住民にも分かりやすく情報を届けたい。

住民の5人に1人が外国籍であり、約60カ国から集まった人々が生活している同区。日頃から“伝えたい情報が伝わらない、届いていない”という課題があったが、全ての言語に対応することは困難だった。そこで、日本語を話す人なら、誰でも少しの工夫でできる“やさしい日本語”に注目し、職員向けに研修を実施。

「人権研修や技術的な研修だと思われがちですが、相手に寄り添いながらおもてなしする、接遇研修の中で行いました。国籍に関係なく相手を思いやり、言葉を置き換えようという“気持ち”の面からの学びです」と上林さん。

事業として取り組むことになったきっかけは、平成30年6月に起きた大阪北部地震だった。同区の公式SNSで公共交通機関の情報をやさしい日本語で投稿したところ、閲覧件数が通常の投稿に比べて14倍にもなったという。やさしい日本語の需要と関心の高さが改めて確認されたことから、同年8月、新たなコミュニティ事業として「やさしい日本語から、つながろう。」をスタート。早急な課題解決を目指し、スピード感のある立ち上げとなった。

4つのフェーズに分けることで、長く続けられる仕組みをつくる。

今回の取り組みは、“課題を知る” “発信する” “巻き込む” “続けていく”という4つのフェーズに分けて行われた。「まずは意見交換の場を設け、まちの課題を知ることから始めました。その後、SNSで情報を発信したり、コミュニティをつくったりすることで、住民に興味をもってもらい、継続しやすい仕組みをつくりました」。

Facebookを活用した日々の情報発信については、全てやさしい日本語で投稿。さらに広報紙などからピックアップした生活情報を10言語に翻訳して発信するほか、広報紙も多言語で読めるようアプリ上で翻訳して配信している。

また、“やさしいにほんご”のオリジナルロゴをつくり、取り組みに賛同・協力してくれる個人には缶バッジ、協力店にはステッカーを配布し、協力店がひと目で分かるマップも作成。さらに、多文化交流イベントとして「Tatami Talk」を開催。会場に畳とこたつを置き、様々な国籍の人が交流する場となった。やさしい日本語を使った参加型コミュニケーションゲームも実施され、600人以上が参加するなど、大盛況だったそうだ。そうした取り組みによって次第に賛同者や協力店が増加。やさしい日本語が地域に浸透していったという。

取り組みを継続するため住民が主役の事業へシフト。

自治体が主体となり進める事業は、予算がなくなると消滅してしまうことも多い。そんな懸念に対して上林さんは「あくまで主役は住民。“楽しくていいよね”と思ってもらえる仕組みがあれば事業が続くと思いました」と話す。

実際に本事業の開始から協力店は174店舗まで増え、飲食店だけでなく物販店や薬局、銭湯なども参加。さらに、令和4年10月には民間主催で2回目のイベントが開催されることが決定した。まさに、住民が主役という理想の形が実現しつつある。「こうした取り組みは区役所だけではできないことを、周囲の皆さんにも伝えていました。困っている人がいたら声をかけたいという大阪特有の“おせっかい気質”や、NPO法人など誰かを支援する人が多い土地柄だったというのも、この事業がマッチした理由かもしれません」。

今後も同区では協力店のアフターフォローと認知度向上を図るつもりだ。また、多様な住民同士が互いにつながりをもつことも目指し、やさしい日本語というツールを通して多文化共生への取り組みを継続していく。

大阪市 生野区役所
企画総務課
上林 政俊(かんばやし まさとし)さん

やさしい日本語は情報を知りたい人に届けることができ、色々な国の人とコミュニケーションを取ることができるツールです。難しく考えず、気軽に取り組んでほしいです!

課題解決のヒントとアイデア

1.取り組みを継続していくために4つのフェーズに分けて進める

下図のように第1と第2のフェーズで住民と接点をもち、その中で賛同してくれる人、思いのある人を中心に少しずつ取り組みを大きくしていく。最終的には住民が主体となるのが理想だ。

2.やさしい日本語に正解はないので相手を思いやる“マインド”を大切に

話す相手に伝わればそれが正解。日本語が得意でない人だけでなく、誰であっても優しい気持ちをもつこと。相手のことを考えながら、丁寧な対応と分かりやすく置き換えようとするマインドが大切。

3.やさしい日本語は万能ではなく、限界があることを理解する

やさしい日本語の適用範囲は広いが、限界があることは理解しておくべき。概要を伝える際は活用しやすいが、具体的な説明や詳細が必要になった場合にはより明確な通訳・翻訳が必要となる。

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