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GX(グリーントランスフォーメーション)とは?自治体に求められる脱炭素を解説

2015年パリ協定以降、環境問題と経済成長を両立する動きが世界的に高まっている。日本では2020年に「2050年カーボンニュートラルの実現」が政府から公表され、企業における脱炭素への取り組みが加速している。自治体においてもGX(グリーントランスフォーメーション)への取り組みが求められており、2022年からは「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」がスタートしたことを受けて各自治体の取り組みが本格化する見込みだ。

しかし、ほとんどの自治体にはGXの知見を持つ人材がおらず、脱炭素化へのハードルは依然として高い。そこで本記事では、GXの基本事項を改めて理解したい地方公務員のために、GXの基本について改めて分かりやすく解説していく。

INDEX

GXとは?地球全体の課題解決を目指して

地方自治体にGXが求められている背景

GXに取り組む地方自治体への支援内容を解説

地方自治体の取り組み事例

新たな取り組み「GXリーグ」がスタート

地方自治体にはGX人材の力が必要
 

GXとは?地球全体の課題解決を目指して

GXとは、2050年カーボンニュートラルや、2030年の国としての温室効果ガス排出削減目標に向けた取り組みを進めながら、経済成長も実現させるための経済社会システム全体の変革を目指すことを意味する言葉だ。

近年の気候変動、異常気象は世界的な現象である。2015年のパリ協定により、世界共通の長期目標として「世界的な平均気温上昇を工業化以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること」が掲げられた。

そこで注目されるようになったのが、太陽光発電などの再生可能エネルギーの利用だ。

しかし、ここにも課題は山積している。再生可能エネルギーによる発電は、自然環境によって電力量が変わるため、安定供給が難しい。また、発電電力量当たりの建設費が高く、火力発電からの切り替えは容易ではない。

これらの課題を解決し、経済成長を実現しながら化石燃料依存から脱しようと、国内では2020年に政府が「2050年カーボンニュートラルの実現」を公表した。

それ以降、大企業を中心にカーボンニュートラルの実現に向けた事業活動の見直しや、サプライチェーン内の活動の見直しが行われ、脱炭素への取り組みが進められている。

金融機関においては、気候変動などの社会的問題の解決に資する活動を行う企業に対して融資を行うESGファイナンスを用意し、カーボンニュートラルへの取り組みを推進している。

世界各国の投資家はESG投資に注力し、クリーン化を後押しするなど、環境問題解決に向けた取り組みが様々な方向から行われているのだ。

 

GXとカーボンニュートラルの違い

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること。つまり、温室効果ガスの排出量から、植林・森林管理などによる吸収量を差し引き、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにすることを指す。

カーボンニュートラルが温室効果ガス削減・吸収のみを意味するのに対し、GXにはカーボンニュートラルを含む環境問題の解決と経済成長を実現するための社会変革まで含まれている。

 

 

地方自治体にGXが求められている背景

自治体にGXが求められている背景には、地域経済を支える中小企業にもGXが求められていることが挙げられる。

大手企業を中心にGXへの取り組みが加速することにより、地域経済を支える中小企業にも大きな変化が求められている。前述したサプライチェーン内の活動の見直しは最たるもので、すでにサプライヤーにCO2の具体的な削減目標を求める企業もある。

自治体は、地域経済の成長のために、このような変化を求められている地域企業をサポートする必要があるだろう。政府も、自治体や地域支援機関に対し、地域の脱炭素化に加え、カーボンニュートラル産業の創出や地域企業の脱炭素化の支援を求めている。

地域や地域企業の脱炭素化の実現によって、社会経済に変革が起こり、企業の生産性が向上し、投資も増加していくだろう。GXへの取り組みが地域経済の好循環を生むのだ。

 

地域経済を担う中小企業を後押しするために

自治体には、中小企業のGXをサポートするために各種支援を実施することが求められている。

前述したように、サプライチェーン内にある企業では、取引条件として大手企業から脱炭素への取り組みを求められる動きがある。中小企業は地域経済を担う存在であり、地域におけるGXのけん引役となる。

しかし、設備投資などによるコストの増加や国際的なルール変更によるリスクなども考えられるため、GXについて及び腰になる企業もあるだろう。地域の中小企業がGXに取り組む上では、生産性の向上や成長の機会であることなど、具体的なメリットを明示し、理解してもらうことが不可欠だ。

加えて、新たな取り組みには資金が必要だ。自治体は、地域企業が新たな領域に挑戦できるよう、各企業の経営力の強化を目指し、GXについてよく把握して助成制度の創立を含めて各種支援体制を構築する必要がある。

 

地域企業への支援としては、次のようなものが考えられる。

・知見向上のためのセミナーや勉強会の開催
・助成制度、専門家派遣、人材育成のための支援・助成制度の創立
・産学連携・官民連携によるプロジェクトの組成
・脱炭素に対応するための経営支援
・クリーンなエネルギーの安定供給
 など

 

持続可能な地域のために自治体ができること

持続可能な地域づくりのために自治体が大きなインパクトを出せる施策として、自治体新電力の設立が考えられる。自治体新電力の設立により、「エネルギーの地産地消」を目指し、再生可能エネルギーを生み出して利用する仕組みづくりを進められる。

エネルギーの地産地消は環境課題だけでなく災害時のライフライン確保にもつながることから、すでに各地で自治体新電力が設立されている。

地域で使うエネルギーをクリーンエネルギーで供給できれば、企業はそのエネルギーを事業活動に利用できる。そうすれば、事業活動で排出する温室効果ガスを大きく削減することが可能になる。

不安定な世界情勢や原油の高騰などを踏まえても、再生可能エネルギーの利用拡大、ひいては地産地消によるエネルギーの「自立」が必要なのだ。

 

 

GXに取り組む地方自治体への支援内容を解説

GXに取り組む自治体に対して、国は「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」を用意している。新設された「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」の交付対象となる事業を進めることで、数年にわたって交付金を受け取れる可能性がある。

 

地域脱炭素移行・再エネ推進交付金について

地域脱炭素移行・再エネ推進交付金とは、脱炭素に積極的に取り組む地方自治体を支援するために設立された交付金だ。令和4年度は、実に200億円の予算が立てられた。

この交付金には、「脱炭素先行地域づくり事業」と「重点対策加速化事業」の2つがあり、それぞれに対象事業と交付率が定められている。詳細は以下の通りだ。

※参考:環境省「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」

用語解説

※1 ZEB(ゼブ:ネット・ゼロ・エネルギービル):快適な室内環境を実現しながら、建物で消費するエネルギーをゼロにすることを目指した建物のこと

※2 ZEH(ゼッチ:ネット・ゼロ・エネルギーハウス):高断熱・高気密化、高効率設備によって、使用するエネルギーを削減しながら再生可能エネルギーをつくり出すことで、使用する一次エネルギーの年間消費量がおおむねゼロ以下になる住宅のこと

※3 ZEH+:ZEHの定義を満たし、かつ25%以上の一次エネルギー消費量削減、太陽光発電の自家消費拡大を実現する住宅のこと

 

「脱炭素先行地域づくり事業」の交付においては、脱炭素先行地域に選定されることが前提条件となる。脱炭素先行地域とは、2050年カーボンニュートラルに向けて、民生部門の電力消費に伴うCO2排出の実質ゼロを実現し、かつ運輸部門や熱利用など、そのほかの温室効果ガス排出削減についても、国が定めた2030年度目標と整合する地域のこと。

脱炭素先行地域になるためには、「脱炭素先行地域募集」に応募し、選定される必要がある。

 

 

地方自治体の取り組み事例

このように、GXへの取り組みが国を挙げて推進されている中、地方自治体における取り組みも活発化してきている。ここからは、地方自治体におけるGXへの取り組みの事例を紹介する。

 

超小型モビリティのリースで地域社会の持続性を向上(愛知県豊田市)

愛知県豊田市は、名古屋大学、東京大学と共同で、平成28年度より中山間地域でのモデルコミュニティづくりを進めていた。その1つとして、地域住民の日常の足として使える超小型電気自動車を導入し、活用を進めてきた。

高齢化が進む中山間地域では、公共交通サービスの維持が困難だけでなく、高齢者自身が自動車を運転して安全に移動することにも課題があった。さらには、自宅から最寄りのガソリンスタンドまで十数キロもあり、ガソリン自動車の利用を継続するのは困難な状況だった。そこで着目されたのが超小型電気自動車だ。

山里、移動(モビリティ)、地域(コミュニティ)を掛け合わせた造語「里モビニティ」と名づけられたこの取り組みは、自動車が欠かせない中山間地域において、高齢化により安全な移動が困難になりつつある住民を支援するため、令和2年からは「一般社団法人里モビニティ」が実施している。

利用を希望する住民は、月額6600円で超小型モビリティをリースして利用できる。ガソリンを使わずに移動できる上、地域住民の安全性と利便性を高める取り組みは、高齢化・過疎化が進む地方におけるGXの先進事例といえる。

※引用:「一般社団法人里モビニティ」ホームページ

 

企業と手を取り合い農山村の脱炭素を推進(滋賀県米原市)

滋賀県米原市は、農山村の脱炭素化と地域活性化を目指して打ち出した「ECO VILLAGE構想」において、農山村地域の大きな課題である耕作放棄地に太陽光発電設備を設置し、地域課題を解決しながら脱炭素を図る取り組みを進めている。

太陽光発電設備は、滋賀県、米原市、ヤンマーホールディングス株式会社の施設にも導入されている。耕作放棄地に設置する太陽光発電設備はソーラーシェアリングであり、下方で農業、上方で発電といったように土地を立体的に活用し、食糧問題と環境問題の両方の解決に寄与できるのも特徴だ。さらには、AI・IoTなどを実装した環境配慮型園芸施設により、農福連携や女性・若者が働く場の創出を実現している。

これら耕作放棄地における取り組みを通じて、耕作放棄地の活用モデルを市民に示すことで、市域内で営農型太陽光発電の普及促進効果を期待しているという。

地方においては主幹産業であることも多い農業だが、後継者不足や農業者の高齢化を受けて耕作放棄地が増えている現状がある。先進技術を組み合わせた対策を講じることで、カーボンニュートラルが実現した未来では活気にあふれた農村へと変化できるのではないだろうか。

 

 

新たな取り組み「GXリーグ」がスタート

カーボンニュートラル実現への取り組みを成長の機会として、GXをさらに推進すべく、経済産業省は令和4年に「GXリーグ基本構想」を打ち出した。これには、脱炭素のリーダー企業を育成する目的がある。また、GXリーグとは、GXに挑戦する企業(GX企業)が、同様の取り組みを行う企業群や官・学と協力し、GXに向けた挑戦に取り組む場のことだ。

 

GXリーグが目指すもの

GXリーグでは、GX企業とGX推進金融機関、イノベーション創出企業が手を取り合い、目標を定めて脱炭素に向けた活動を積極的に行う。活動の中では、官・額も協力しながら、環境問題を解決する新規事業の創出にも取り組んでいく。参画企業はインセンティブなど国からの手厚い支援を受けつつ、さらなる成長や経営力の強化を目指す仕組みだ。

 

GXリーグは、以下3つの実現を目指している。

・企業が世界に貢献するためのリーダーシップのあり方を示すこと
・GXとイノベーションを両立し、いち早く移行の挑戦・実践をした者が、生活者に選ばれ、適切に「設ける」構造をつくること
・企業のGX投資が、金融市場、労働市場、市民社会から、応援される仕組みをつくること

 

GXの実践・推進においては、生活者の理解が欠かせない。また、国内企業の多くがGXに取り組む意義を見いだし、挑戦しやすい環境をつくることも重要だ。GXリーグでは、先進事例となる企業が「GXに取り組むメリット」を体現するためにも、新たなルールづくりを進めていくという。

※引用:GXリーグ設立準備公式サイト

 

地方自治体にはGX人材の力が必要

カーボンニュートラルへの取り組みは長期にわたって続いていく。世界が環境問題の解決に向けて進みはじめた今、全ての人が自分事として脱炭素に継続して取り組むことが重要だ。自治体は、市民や企業の脱炭素への取り組みをハード面・ソフト面から支援し、地域の持続可能性を高めていく役割も担っている。

GXに関する知見は、自治体においてもすでに必要不可欠なものになっている。日々の業務や新規事業に活用できるよう、GXに関する情報を集め、理解を進めておきたい。

 

 

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