治安が悪い、公害のまちというネガティブな印象が根強かった尼崎市。人口流出を食い止めるべく平成25年からスタートした独自のシティプロモーションが、成果を上げつつあるという。マイナスイメージをプラスに転換するという難しい課題を打破できたのはなぜなのか。その背景と取り組みについて、担当者を取材した。
※下記はジチタイワークスVol.21(2022年8月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
庁内から“あまらぶな人”を増やす、内発的プロモーション。
高度経済成長期に工業都市として急速な発展を遂げた同市。しかし、一方で大気汚染などの公害問題を過去に経験したことや、治安が悪いなどのネガティブなイメージが根強く残っていたという。
「本市は交通の利便性が高く、下町の魅力あふれる住みやすいまちです。ただ、過去のマイナスな印象が先行し、その影響で特に子育て世帯を中心とした転出超過が続いていたことが課題でした」と伊達さん。
そうした背景で、平成25年から本格的なシティプロモーションの取り組み、通称・あまらぶ大作戦を開始。取り組みの目的は“まちを好きな人(あまらぶな人)を増やすこと”というシンプルなもので、人を介してまちの魅力を波及させることが基本の指針となっている。
「外に向けて魅力を発信するよりも先に、シビックプライドの醸成が不可欠でした。そこで、庁内に向けたプロモーションから着手したのです」。まずは職員一人ひとりがまちのプロモーターとなり、市民と接する日常の中で魅力発信を行えるよう、全庁的に研修を実施。研修内容を役職別にすることで、各自の実務につながるようにアプローチを工夫した。
そうした地道な取り組みがあり、自発的にシティプロモーションに取り組む庁内文化の醸成に成功したという。「一過性のプロモーションになるのは避けたかったのです。職員の意識の底上げから取り組んだことが、今年で10年目を迎える息の長いプロジェクトとして根づいた要因だと考えています」と長田さん。
成果を測る独自の指数を設け、戦略的に取り組みを遂行する。
さらに取り組みを進めるにあたり、独自の成果指標「あまらぶ指数」を設けたこともポイントだ。この指数は、市民の“まちをオススメしようとする意欲”などの3つの意欲に加え、市外からの“尼崎をオススメしようとする意欲”の度合いを数値化し、まちへの愛着や誇りを定量的に示したもの。年に1回、市民意識調査やネットアンケートから算出し、市の公式ホームページで公開している。
「成果指標を設けることで、プロモーションの進捗を定量的に確認しています。数値を公開することで市民と目標を共有できるのもメリットですね。まちづくりは職員だけで行うものではないので、関わる全ての人が同じ目標を目指すためにも、数字として可視化することが役立っています」と長田さん。毎年、どの項目で数値的な変化が起きているのかを確認し、成果と課題を明確にしながら取り組みを戦略的に行っているという。
その中でも反響を集めたのが、尼崎らしさの象徴である“市民”を今までにない視点で表現しようと、先入観のない海外の写真家に撮影を依頼したブランドブックの発行。ありのままのまちと人の魅力が伝わると、好評だったという。また、市の定住・転入促進サイト「尼ノ國」には、まちで暮らす市民のインタビュー記事を掲載し、等身大の姿を発信している。そうして、市民を通じて魅力が伝わる流れができ、“人”が最大の魅力であるという共通認識が、尼崎らしさを発信する柱となっていったそうだ。
独自の成果指標「あまらぶ指数」とは
東海大学教授の河井さんが推奨する成果指標「mGAP」を参考にしながら、同市独自の指標を設定。まちに対する4つの意欲の度合いを数値化し、平均したものをあまらぶ指数とする。
目標値の達成に向けて指数の推移を定点観測しながら、戦略的な情報発信を行っている。
等身大のプロモーションでプラスイメージが大幅に増加。
実際に、取り組みの成果は数字にもあらわれており、市民意識調査の中で市へのイメージが良くなったという回答は平成25年度の32%から令和元年度には59%まで向上したほか、市民がまちをオススメしようとする意欲の数値も平成29年度の24.5から令和元年度は37.5に向上。また、取り組みの独創性や戦略性の高さが評価され、令和3年度には3つのアワード※を受賞し、外部からの評価も集めている。
内側から始まったシティプロモーションが、今では全国にその名が知られるまでになった。「今後もカギとなる“人”をコンテンツとした取り組みを計画しており、ブランドブックは第3弾を発行して、サイト『尼ノ國』もリニューアル予定です」と伊達さん。これまで以上の成果につながることを期待したい。
※「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSブロンズ賞」、「PRアワードグランプリブロンズ賞」、「シティプロモーションアワード金賞」
尼崎市 総合政策局
政策部 広報課
左:係長 長田 太一(ながた たいち)さん
右:主事 伊達 元子(だて もとこ)さん
シティプロモーションは成果が見えにくいため、課題解決と並行してまちの魅力を伸ばすことが重要。これからも尼崎らしさを活かし、あまらぶ大作戦を継続していきます。
課題解決のヒント&アイデア
1.全庁を巻き込んだ内部広報の徹底で、意識を底上げ
庁内約3,000人の職員に行き渡るよう、シティプロモーション研修や勉強会を地道に実施。職員自らプロモーターであるという意識の醸成を行い、内部からあまらぶ大作戦を定着させていった。
2.成果を独自で見える化。進捗確認と目標共有を容易に
市内外の“尼崎市をオススメする意欲”を独自のあまらぶ指数として算出し、効果測定を定番化。成果を公表し、確認できる仕組みにしたことで、目標が共有しやすくなった。
3.尼崎市が誇る、面白いこと好きの“市民”が主役
人こそが最大のコンテンツとして尼崎らしさを発信。面白いことが好きな市民を巻き込みながら、プロモーションを進め、まちに対する愛着をもった“あまらぶな人”を増やした。